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2024年05月30日03:24

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『初夏の花冠』

 2024年の双子誕作品です。『聖闘士星矢』の二次創作でロスサガ風味。
 時系列としては、サガが13歳に誕生日の時の話です。昨年のロス誕『初めてのプレゼント』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21114529の続編みたいな感じ。カノンが同時期にアテネ市で何をしてるかはこちらを参照。『その頃、双子座の片割れは』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21595695
 昨年はこちら。『海龍様の隠し子疑惑』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19967073

『初夏の花冠』

 五月三十日の朝、十三歳の誕生日を迎えたサガは、私邸を出て朝の訓練に向かおうとした。
 双子の弟であるカノンは相変わらずアテネ市をふらついているようで、二人の誕生日であるこの日にも昨夜から不在のままだった。
『聖域に来て初めての誕生日…二人で祝いたかったのになぁ…』
 弟の不在に一抹の寂しさを感じ、サガは軽いため息をついた。
 訓練所に向かおうと道を歩き出したサガだが、間もなく道の向こう側から駆けてくる二人の人影を見つけた。
「お〜い、サガ!」
 そう声が掛けられる。走ってきたのはサガの同輩である射手座のアイオロスと、その弟のアイオリアだった。アイオリアはまだ四歳の幼児だが、既に獅子座の称号を授けらることが内定している。だが当然だがまだまだ一人前にはほど遠く、兄やサガとともに修行に勉強にと明け暮れる毎日を過ごしていた。
 駆けてきたアイオロスとアイオリアは、サガの前で立ち止まって膝に手を置き、荒くなっていた呼吸を整え始めた。
「ど、どうしたの、二人とも?」
 大急ぎで駆けてきたらしい射手座と獅子座の兄弟に、サガは驚いたように声を掛けた。
「サガ、これをあげる!」
 アイオリアが小さな両手である物を掲げて、自分の頭上に見上げるサガに差し出した。幼い獅子座は、一年前に知り合った兄の友人で、優しくて綺麗なサガのことが大好きだった。
 アイオリアが差し出したのは、新鮮な花冠だった。初夏の花であるオレンジ、銀梅花、そしてオールドローズの三種の花々を冠に編み上げている。三種ともが芳香を放つ花々で、白いオレンジと銀梅花の花々に艶やかな緑色の葉が連なる花冠の中で、薔薇の赤い色がアクセントになっていた。
「これ…」
 戸惑いながらもアイオリアから花冠を受け取ったサガに、呼吸を整えたアイオロスが説明した。
「ほら、サガ。今日が誕生日だって言ってただろう?」
「あ、ああ…」
「だから、誕生日プレゼント!アイオリアと二人で作ったんだ。受け取ってよ!」
 アイオロスは明るく言い、それから少し照れたように言葉を濁した。
「サガ…この前のおれの誕生日に香り袋をくれただろ?だから、こういうものが好きなのかなって…」
 口ごもりながら話すアイオロスに、サガはぱあっと華やかな笑顔を向けた。
「ありがとう、アイオロス。嬉しいよ!」
 お礼を言って花冠の花々の芳香を嗅ぐサガの笑顔に、アイオロスは少し頬を染めてうなずいた。サガが笑うと、ダイヤモンドに陽光が差し込んでキラキラと乱反射する輝きがサガの周囲に現れるように、アイオロスなどには見える。
「う、うん!どういたしまして!」
 兄の隣にいたアイオリアが腕を精一杯に伸ばしてサガに言う。
「サガ、花冠を頭に乗せてあげる!」
「ありがとう、アイオリア」
 幼い獅子座の要望に、サガは膝を折ってしゃがみこんだ。アイオリアの小さな手が花冠を掲げ、サガのきらめく銀の頭髪に乗せる。長い銀色の髪を花冠で飾ったサガの姿は、まるで白いベールをつけた花嫁のようだった。
「サガ、花冠の作り方はね、おれが兄さんに教えてあげたんだよ!」
 アイオリアが元気よく、自慢げにサガに話しかけた。
「この前、アルテミシアお姉ちゃんの結婚式の時に、花嫁さんの花冠を作るのを手伝ったんだ。アルテミシアお姉ちゃん、すっごく綺麗だった!」
 花冠を頭に乗せてもらい再び立ち上がったサガに、アイオリアは背を伸ばして一生懸命に話りかけた。
 「アルテミシアお姉ちゃん」とは、アイオロスとアイオリアの自宅近くに住んでいる一家の娘のことだった。アイオロスたちの父母が生きていたころから家族ぐるみで兄弟とは親しくしており、アイオロスの不在時には小さなアイオリアを彼らが家で預かって、アルテミシアがアイオリアの面倒をよく見てくれていた。そんな彼女は五月の初めに聖域内に住む男性と結婚式を上げて、相手の家に転居したばかりだった。
「こ、こら、アイオリア…」
 花冠の製作秘話を弟に告げられたアイオロスが慌てる。サガへの贈り物である花冠をほとんど幼い弟に作ってもらったと知られては、兄の面目が丸つぶれである。だがサガはそんなことは気にもせず、腕を伸ばすと抱っこをせがむアイオリアを抱き上げた。
「そうなのか。ありがとう、アイオリア」
「へへへ…」
 間近でサガに美しく透き通るような笑みを向けられ、アイオリアが照れ笑いをする。そして無邪気な幼児は、サガにこう告げたのだった。
「サガ、おれが大きくなったらね、おれがサガをお嫁さんにしてあげるね!」
 弟の衝撃の宣言に、慌てたのは兄のアイオロスだった。
「こ、こら、アイオリア!それは兄ちゃんが…!」
 「サガをお嫁さんにするのはおれだ!」的なことを言いかけて、慌ててアイオロスが口を閉ざした。いくら美しくてもサガは男なのだから、嫁に出来るわけがない。ぶんぶん、とアイオロスは首を横に振り、自分の妄想を脳裏から振り払った。
 アイオリアに求婚されたサガはというと、完全に子供の冗談と受け止めて明るく笑っていた。
「あはは…アイオリア、私は男だから、お嫁さんにはなれないよ」
「ええ〜…」
 サガの答えに、アイオリアがいかにも残念そうに落ち込んだ。
「そ、そうだぞ、アイオリア。サガは男だから、お嫁さんには出来ないんだぞ」
 兄にも重ねて注意され、アイオリアは首をかしげてしばらく考えた。そして、今度はこう言った。
「じゃあ、アイオリアがサガのお嫁さんになってあげるね!」
 その宣言にも、サガは明るく笑ったのだった。アイオロスが弟の発言に頭を掻いて、困った顔になる。
「ご、ごめん、サガ。こいつ、まだ何も分かってなくて…」
「あはは…いいよ。アイオリアにはまだ早い話だったかな」
 申し訳なさそうに謝罪するアイオロスに、サガはどこまでも明るく受け流していた。
 サガは腕に抱き上げていたアイオリアを地面に下ろした。
「アイオロス、アイオリア、本当にありがとう!この花冠、家に置いてくるね」
「あ、ああ」
「じゃあ、少し待ってて。その後で一緒に訓練場に行こう」
「うん」
 そうして花冠を私邸に置きに来た道を戻るサガの後姿を、アイオロスとアイオリアは手を繋いで二人で眺めていた。

 その日の夜になってサガの私邸に帰ってきたカノンは、居間の壁にかけられているリースの存在に気付いた。
「なんだ、これ?」
 尋ねたカノンに、サガが楽しそうに答えた。
「今朝、アイオロスとアイオリアが、私にくれた花冠だよ。私の誕生日プレゼントだって!」
「…へ〜」
 無関心そうに答えた弟に、サガは明るく声を弾ませて上機嫌で説明した。
「オレンジと銀梅花と薔薇を編みこんでいてね、すごく良い香りがするんだ!枯れるまで、ここに飾っておこうと思って」
「ふ〜ん…」
 にこにこと笑ってはしゃぐように話す兄に対し、カノンはどこまでも無関心な風に流した。
「あ、カノン、夕食は?」
 その日、アイオロスと過ごした様々な出来事をはしゃぎながらカノンに話していたサガだったが、一通り語り終わるとようやく弟のことに気が回ったようで、カノンに食事の必要性を尋ねた。
「いいよ、街で食べてきた。今日はここで寝かせてもらうけど、いいよな?」
「もちろん!ここはお前の家でもあるのだからね」
 とはいっても、聖域ではカノンの存在は認知されておらず、この家にはサガ一人しかいないことになっているので、寝台は一つしかない。カノンがこの家で寝る時は、一つの寝台に兄弟が二人で枕を並べて寝るのが常だった。はっきり言って狭いのだが、サガもカノンも、二人でぴたりとくっついて寝るその狭さは、嫌いではなかった。 
 そしてその夜、双子たちは一緒に寝ることで誕生日の夜を過ごしたのだった。

 深夜、カノンは隣で寝るサガを起こさぬようにと、気を付けて寝台から忍び出した。そしてサガが居間の壁に飾っていた花冠を外し、それを手にして裏の空き地に出た。花冠を地面に投げ出し、懐から美しい空色の包装紙に包まれた箱を出して、それも地面に投げ出した。そしてカノンは夜間の明かりを灯すための油をその二つの上にかけて、ランプの明かりから火をつけた。
 包装した箱の中身は、カノンが兄への誕生日プレゼントとしてアテネ市で購入してきた高級タオルだった。サガの誕生祝いには何をいいだろうかと散々に思案した末に選んだそのプレゼントを、カノンはアイオロスから兄へのプレゼントである花冠と一緒に燃やした。
「サガの馬鹿野郎…」
 炎に包まれて灰になっていく二人分の誕生日プレゼントを見ながら、カノンはぼそっと呟いたのだった。

<FIN>

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