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2023年04月07日20:49

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小説を作成しました!「今、ここに居る」第四話

※ 一人称小説ですが、良かったら是非、朗読の台本としてもお使いください。
金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※

※1 今作自体は小説という体裁で作られていますが、
声劇台本である「二方美人(にほうびじん)。」の第二世代シリーズです。
「二方美人。」やそのシリーズを知らなくとも当小説単独でもお楽しみいただけますが、 同シリーズ作や派生作品も読んでいただければとても幸いです。

(以下リンク)

「二方美人。」(1:4)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653

「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみのまとめ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653

※2 当作品及び今後制作予定の第二世代シリーズの、世界観や登場人物の説明まとめ。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088366&owner_id=24167653

当作品の他の話へのリンク
第一話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984762689&owner_id=24167653
第二話
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第三話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984776631&owner_id=24167653
第四話
―――
第五話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984790862&owner_id=24167653
第六話
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第七話(最終回)
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「今、ここに居る」



 第四話


 暑い……暇。んん、暇。宿題はまだまだ残っているけど、まあ夏休みはまだ半分以上あって宿題は半分以上終わってるんだから、今はこれで十分でしょ。だから暇。

 ふあぁ。たまには散歩でもしないと色んな意味でだめになるかなあ。そういやここ二週間くらいろくに外出てない気がする。でもなあ、出かけようって思うと準備があれこれあれこれ……。だめだだめだ、私はお姉さんみたいになりたいんだ。自分を手入れする事を面倒がってたらどんどんお姉さんは遠くなっていく。

 朝の、と言うかお昼の十一時十二分。いつまでもお布団にくるまってミノムシのようになっていたい気持ちを抑えて、リビングで朝ご飯とお昼ご飯を兼ねたパンとお母さんが朝作ってくれたおかずをつまんでから洗面台へと向かう。

 お気に入りの音楽を聴きながら歯を磨き、肩までの長さしかないくせしてくるくると自己主張の激しい髪をどうにか整え、あまり見たくない自分の顔面と向き合ってお化粧をしていく。どうせ私の見た目なんて素体がこれなのだから、お化粧した後の姿だって別に決して美人と言ってもらえるようなものになるわけがない。ああ、早く終えたい。早く終えたい。見たくない。

 五分おきくらいにやってくる「あ、でもこれちょっと良くない?」と「はいはい勘違いでした、だめですね」の繰り返し。お化粧の度にこの希望と絶望に振り回される流れを味わわなければならないのがいつもつらい。はい、はい。とりあえずこれで良し、まだマシになったね。これでもさっきまでの私よりかは幾分か良いんじゃないの。

 自室に戻って日焼け止めを塗ったらそれから三十分、爪のお手入れをして時間を潰した。これでようやくお散歩に行ける。長い下準備を終えてやっと家を出て、十五分くらい歩いて気づいた。日傘持ってくるの忘れてた。これだから付け焼刃は。私が日傘持ってるのなんてお姉さんの真似事でしかないんだから。だからこうやってよく忘れるし、忘れた事にもすぐには気付かない。ああ、もう。私はなんでこんなのなんだろう。しかも今、日傘を持ってくるの忘れた事に気付いた時舌打ちしそうになったし、もう本当に。なんて下品な女だろう。

 まあ良いさ、今日は曇ってるし、ここ最近の中では比較的暑さも酷くない方だし。今からわざわざ戻るのも面倒くさい。別に目的地があるわけでもないし急いでいるわけでもないのだから、どう考えても一旦日傘を取りに家に帰る方が良いだろうに。私は自堕落で、度々こうやって面倒くさいという気持ちを優先してしまう。そんな自分に自己嫌悪を抱きながらも、結局変わらないままの自分がここに居る。お姉さんみたいになりたいっていうのは本当のはずなんだけどな。

 鬱屈とした気持ちを抱えながら見慣れた町の中を適当にふらふらと歩いていると、そういやこの先をずっと歩いていくと大きな川があったなとふと思った。昔はあの川の近くでよく遊んだけど、ここ最近はあまりあのあたりには行っていなかった気がする。そう思うとただの川に、久々に会う友達に対するような思い入れを感じた。

 途中何度か汗を拭きながら、そしてその度に若干の後悔を抱えながら、その川に辿り着いた。河川敷を降りて、そのせせらぎを聴きながら川の流れに沿って小石の上を歩いていると、歩く先からぽちゃん、ぽちゃんと音がした。魚が跳ねる音とかではない。その音の方に目をやると石が飛んでいるのが見えた。橋の柱の陰で見えないけど、誰かが水切りをしている。

 私も小さい頃はよくやってたけど、今でもそんな昔ながらの遊びをする子が居るんだなあ、と思いながらその人の後ろを無言で通り過ぎようとしたが、その姿が見覚えのあるものだったので、思いがけず声が漏れてしまった。

「泡陽君?」

 彼は振り返り「あ、架帆さん」と、言うとにこやかな表情でさっきまで石を持っていたであろう右手を大きく振った。あ、架帆さん。じゃないのよ。なんでこんなところで水切りなんてしているんだこの子は。水切りなんて高校生がする遊びってイメージでもでないでしょうに、相っ変わらず不思議なんだから。

「水切りしてたの?私、昔結構得意だったのよ」

 手頃そうな石を探しながらそう言う私に彼は「僕もこの前初めて一回だけ向こう岸まで届いたんだよ」と言い、少し自慢げな顔をした。

「ふぅん、凄いわね。よし、これで良いかな。見てなよ?」

 私が放った石は四回ほど跳ねた後、向こう岸へと辿り着いた。ふふん、私は小学生時代、ちゃんと石を選んで投げれば三回に二回は向こう岸まで届くくらいには水切りが得意だったんだから。

「凄い凄い!架帆さん水切りまでこんなに上手だなんて」

「やり方っていうのがあるのよ。教えてあげようか?」

 あんまりはしゃがれるもんだから、どうにも調子に乗って教えるだなんて言ってしまった。小学生時代は私が鈴美にどんなに水切りを自慢してやっても、鈴美は「はあ、凄いね」くらいの反応しかしてくれなくてつまらなかったな。水切りやらなくなっていったのもそれが理由の一つだった気がする。それに水切りって女の子っぽくないし、お姉さんもやってなかったし。でも彼はびっくりするほど素直に私に教えを乞うてきて、私は得意な気持ちになって石の選び方やら投げ方やらを教えてあげた。鈴美もこんなだったらもっと可愛かったのに。

「あ、もうちょっとだったのに!」

「上達してる上達してる!次かその次には行けるって!今のはまだちょっと投げ入れる角度が悪かった。もっと腰を落としてなるべく真横から。肘を使うの。お手本見せるから、ちゃんと見ててよ?」

 不器用でいくらお手本を見せてあげても中々向こう岸まで届けられない彼を熱心に指導していると、気付いたらもう十六時を回っていた。という事はつまり、ここで彼と水切りを始めてからもう三時間以上経っている計算になる。はあ、高校生にもなって。私の中にもこんな無邪気なところがあったもんだねえ、この子に当てられたって言うのかな。

 その後も何度か投げさせてみて、惜しいところまでは行ってもやっぱり向こう岸にはすんでのところで届かない。もうそろそろやめて帰る?と尋ねてみるも、彼は一回くらいは向こう岸まで届けたいと言ってやめたがらなかった。どの道私だって暇してて、今日彼に会わなかったとしてもそれはそれで無為に一日を惰性で過ごしただけだったのだろうから、まあ別に構わない。それにあんまり一所懸命に頑張るもんだから、すっかり私の方も彼が向こう岸まで水切りを成功させる姿を見たくなっていた。

「あのね、なんだか投げ方に変な癖がついてきてる。手首だけで投げようとしないの。あとあの、ちょっと力篭りすぎ。一回軽くジャンプ。そう、ジャンプ。はい、はい。肩の力抜いて―。……よし、それじゃあもっかい投げようか」

 もう何回投げてきたか分からない。毎回石を探して投げるのもおっくうなので、少し前にその辺りにある小石の中から水切りに使えそうなのを二十五個くらい集めて近くに置いておいたけど、それももうすぐ底を突く。

「いきます」

 そう言って彼の放った石は、三回、四回、そして五回と水の上を跳ね、ついに向こう岸まで辿り着いた。不意に訪れたその瞬間に、私は一瞬きょとんとして、彼の「やったよ!」の声を聞いてから少し遅れて「ああ、うん!うん!届いた!届いたね!見てたよ!やったね!」と、歓声を上げた。

 その後しばらく二人で喜びを分かち合ってから、橋の下の日陰に座り、それぞれの夏休みの事について話し始めた。

「ええ、それじゃあ最近毎日ここで水切りしてたの?」

「何回やっても向こう岸まで届かないのが悔しくて、あと一回成功したらやめようって思ってからが長くって」

 彼にもそういう、悔しいだなんて感情があったなんて意外だな。いつもぽやぽやしてるんだから。でも、そっかそっか。

 そのまま二人で色んな話をした。学校では人目もあるし、彼とあんまりちゃんとは話せていなかったから、こうして時間を取って胸を割ってゆっくりと二人で話すのは今日が初めてと言えるのかもしれない。

 気になっていたけど訊けていなかった事もやっと訊く事ができた。好きな食べ物は私が知ってたのの他に、サツマイモ、からあげ、ピーマンの肉詰め、ホウレンソウのお浸し等々。兄弟は居ない。昔空手を習っていた事がある。私も彼の質問に答えた。私が好きなのはドーナツとチョコレートケーキ、チーズケーキ、ショートケーキ、モンブラン、マカロン、たい焼き、白玉ぜんざい。兄弟は双子の兄が一人。習い事は英会話教室と水泳と書道。全部昔はって話だけど。

 そして彼が元々この川の近くに住んでいたという事も初めて知った。中学の卒業とともにお父さんが転勤で三年間大阪で暮らす事になった際、一緒に付いていって一年生の頃は大阪の高校に通っていたものの、お父さんのお仕事の都合が変わって一年で帰ってくる事になったから頼川(よりかわ)高校に転校してきたのだそう。

 自覚はしていたつもりだったけど、今日の私はちょっと調子に乗っていた。彼と一緒に遊べた事、彼が水切りに成功するのを見守れた事、そしてこうして色んな話ができている事、その全部が嬉しくって、ついつい「お父さんに付いて大阪まで行ったって、ここから離れたかったとか?」と、軽はずみな事を言ってしまった。

 彼は少し憂いた表情を浮かべて「ちょっとね」と言い目を逸らした後「あんまり楽しい話じゃないけど、良かったら聞いてくれる……?」と呟き私の目を見つめ直した。とても綺麗な目。それが今、すごく寂しそうに見える。

「ええ、お願い。聴かせて?」

 私は体を彼の方に向け直し、まっすぐ彼を見つめ返した。すると彼は少しずつ、話し始めた。確かに、とてもじゃないけど全然楽しくはない話を。


―――
第三話→https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984776631&owner_id=24167653
第五話→https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984790862&owner_id=24167653
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