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2023年04月06日20:58

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小説を作成しました!「今、ここに居る」第三話

※ 一人称小説ですが、良かったら是非、朗読の台本としてもお使いください。
金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※

※1 今作自体は小説という体裁で作られていますが、
声劇台本である「二方美人(にほうびじん)。」の第二世代シリーズです。
「二方美人。」やそのシリーズを知らなくとも当小説単独でもお楽しみいただけますが、 同シリーズ作や派生作品も読んでいただければとても幸いです。

(以下リンク)

「二方美人。」(1:4)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653

「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみのまとめ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653

※2 当作品及び今後制作予定の第二世代シリーズの、世界観や登場人物の説明まとめ。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088366&owner_id=24167653

当作品の他の話へのリンク
第一話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984762689&owner_id=24167653
第二話
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第三話
―――
第四話
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第五話
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第六話
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第七話(最終回)
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「今、ここに居る」



 第三話


 七月十二日。今日は特別な日。泡陽君のお誕生日であり、今日は彼に昨日作ったドーナツを渡すと決めている。

 別に特別な理由などない。そもそも泡陽君が二年前、私が目を覚ます前に居なくなってしまったために私はちゃんとしたお礼ができていない。勿論再会した時に「あの時は本当にありがとう」と言いはしたけど、言葉とは別に、ちゃんとお礼の品を渡す。それは大事な儀式。義理道徳。

 お母さんにも四月、彼と再会できた事を伝えた時に一万円札を渡され、お礼に何かお菓子でも買って渡すようにと言われた。その時を思い出すと腹が立……いけない。頭に来る。お母さん、そのお金を受け取りたくないとする私に対して、どうしてとかちゃんとお礼しないとだめだとか言って中々そのお金を引っ込めてくれないもんだから、ついに怒った私が「私が自分のお金で買いたいの」と言うと「そうか、そうか。悪かった、それは野暮な事を言ってしまった」と、にんまりとした顔で言ってきた。あの口元のにまにました感じがもう、なんだ、なんだって言うんだ。ああもう、当たり前でしょ。私がお礼したいのに私のお金で買いたいのなんて。何をそんな、口元をゆるめる必要があると言うのか。

 お母さんに対してのいけすかない気持ち、反抗心から、お母さんの前で口に出した「自分のお金で買う」というのをそのまま実行するのもなんだか嫌になってしまったので、買った物をそのまま渡すのではなく、材料を買ってきて自分で手作りする事に決めた。決めたのは良いけど元々お菓子作りなんて全然した事無いもんだから、この三か月ずっと週末の度に「悠乃にあげたいから」と嘘を吐いて何度も何度もドーナツを作っては没、作っては没。形が変だったり、部分的に生っぽかったり。あと単純に味が気に入らなかったり。

 失敗作の中でも特にだめなのは自分で食べて、まだ比較的マシな物はお母さんやお父さん、それに鈴美にあげた。喜んではいたけど、多分途中からまたドーナツかとかどうせならそろそろ別の物が良いとか思わせてしまっていたと思う。でも私はドーナツを作り続けるしかなかった。そもそも私は泡陽君と、登校してすぐとか休憩時間とか、あと帰り際とかに挨拶したり、たまにそのまま少し話したりする事はあっても、別にいつも一緒に居るわけじゃない。むしろ挨拶以外の会話が一切無いまま一日が終わる事もよくある。

 だから彼が好きな食べ物も、そんなに沢山知ってるわけじゃない。私が知ってるのは、おくら、山芋、そしてドーナツ。この三つくらい。だからどうにかこうにか、好きだという事が分かっているドーナツを贈りたくてずっと練習を続けてきた。ただ、再会してから日にちが経てば経つほど「あの時のお礼」だなんて言って渡そうにも今更感が強くなってしまう。だけどこんな出来じゃ贈れない。もっと上達してからじゃないと。その板挟みに悩んでいた時、男子たちの会話の中で偶然、泡陽君のお誕生日が近いという事を知った。お誕生日、それはプレゼントを贈るにはうってつけの日。

 そして昨日の夜頑張って作ったこのドーナツはどうにか、まあまあ。一応、私が作ったにしては成功と言えそうな出来。はっきり言って満足はできていないけど、もう今日が泡陽君のお誕生日当日なのだから今日渡すしかない。正直、こんな程度の物しか作れないのならあの時お母さんから一万円を受け取って、それで何か良い物買って渡した方が絶対良かったとか、ああもう、だめだ。考えるな、考えたら負けだ。

 お昼休み、お弁当を食べ終わり他の男子生徒と一緒に話している泡陽君を捕まえて「大事なお話があるから鞄を持って一緒に来てほしい」と言い、人気のないところまで連れ出した。普通、鞄を持って一緒に来てなんて言ったらその時点で何かプレゼントがあるんだろうなというのは察しがついていそうなものだけど、彼はよく分かっていない様子で不思議そうにしながら付いてきた。知れば知るほど思うのが、泡陽君は結構ぽやぽやした感じ。そんな印象。この前、三好(みよし)さんに遠回しに嫌味っぽい事を言われていた時も怒るでも悲しむでもなく、ただよく分からないといった様子で、ぽかんとしていたのも記憶に新しい。

「はい、これあげる。お誕生日おめでとう」

 そう言って鞄の中からドーナツの入った紙袋を取り出し彼の胸に押しやると、泡陽君は「え、知ってたの?ありがとう!」と言いながら紙袋の中身を見て「これもしかしてドーナツ?ドーナツ大好きなんだ、わぁ、嬉しい!そうだ、架帆さんのお誕生日はいつ?」と、言われなくても分かるくらい本当に心の底から嬉しそうな表情を浮かべ私の誕生日を尋ねてきた。七月一日だと伝えると彼は「ええ、教えてよ。遅れちゃったけど明日か明後日何か買ってくるね」と残念そうにした。

「良いの。だってそれ、ほら。今更だけど、倒れてた時助けてくれたのにちゃんとしたお礼の品、贈ってなかったでしょ?そういう事だから、お返しなんて考えなくて良いのよ」

 のよ、だって。相変わらずわざとらしい。でも周りに人も居ないし、うん。いや、ああ、もう。分かってる、分かってる。別にそんな口調で喋ったからってお姉さんみたいな、お嬢さん呼びが似合うような女の子になれるわけじゃない。大体、何度も言うように泡陽君が「お嬢さん」って呼んでくれたのにそんな深い意味なんて、ああ、ああ、ああ……もう、独り相撲が過ぎる。

「それこそそんな、もうお礼なんてとっくに言ってくれてたし気にしなくって良かったのに。でも嬉しい。七月一日だよね。遅れちゃったけど、この前はお誕生日おめでとう。来年は僕も架帆さんの事ちゃんと当日にお祝いするね」

 見ていて気持ちが良くなるほどの笑顔で彼は、その紙袋を大事そうに両手を抱きかかえて口元をうずめている。

「分かったから、早く鞄に仕舞った方が良いよ。誰かに見つかる前に」

 私がそう言うと彼は 「あ、ごめん。そうだよね」と慌てて鞄を開き、その奥に紙袋を丁寧に仕舞った。もう、なんだかなあ、顔が熱い。でもよし。一区切り。私の義理はこれで終わり。お礼は何度も言った。お礼の品も渡した。喜んでもらえた。よし、これで良し。とりあえずやるべき事はやった。この儀式は無事に完了した。あの時のあれこれはこれで完全に一区切り。

 私の中の架空の王子様は何度も夢の中で助けてくれた、理想の王子様。それはそれとして、それとは一切関係なく、藤白 泡陽君はぽやぽやした雰囲気の同級生の一人の普通の男の子。手作りドーナツとっても嬉しそうにしてくれた男の子。変に意識するのはもう終わり。もう終わり。勝手に比較して勝手にがっかりするだなんて最悪に失礼な気持ちはもう抱かない、抱く理由が無い。

 実(みのる)お姉さんだったら絶対そんな失礼な事考えないし、そんな失礼な事考える奴はお嬢さんだなんて呼ばれ方にふさわしくない。


―――
第二話→https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984769677&owner_id=24167653
第四話→https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984783625&owner_id=24167653
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