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2023年04月04日20:55

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小説を作成しました!「今、ここに居る」第一話

※ 一人称小説ですが、良かったら是非、朗読の台本としてもお使いください。
金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※

※1 今作自体は小説という体裁で作られていますが、
声劇台本である「二方美人(にほうびじん)。」の第二世代シリーズです。
「二方美人。」やそのシリーズを知らなくとも当小説単独でもお楽しみいただけますが、 同シリーズ作や派生作品も読んでいただければとても幸いです。

(以下リンク)

「二方美人。」(1:4)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653

「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみのまとめ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653

※2 当作品及び今後制作予定の第二世代シリーズの、世界観や登場人物の説明まとめ。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088366&owner_id=24167653

当作品の他の話へのリンク
第一話
―――
第二話
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第三話
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第四話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984783625&owner_id=24167653
第五話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984790862&owner_id=24167653
第六話
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第七話(最終回)
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「今、ここに居る」



 第一話


 二度寝三度寝、四度寝くらいしただろうか。すっかり太陽も上り切って、もうお昼過ぎ。明らかに寝すぎた。なのにまだ眠い。ぼーっとして、動く気になれない。熱は下がった以上、明日からは学校に行かないとなのに。ああ、だる……いけない。えっと、気持ちが入らない。

 そもそも、昨日だけでなく今日も高校を休んでしまった時点で不本意極まりない。明日……明日は絶対行かないと。せっかく二年生に上がったのに、始業式の日に熱出すなんて。私の皆勤が……。それだけじゃない。ただでさえ新しいクラスに馴染めるか心配だったのに、いきなり出遅れたじゃないか。ふざけやが……いけない。とんだ不幸だ。鈴美(すずみ)から悠乃(ゆの)が同じクラスだって教えてもらってるのが唯一の救いか。

 いや、唯一じゃない。そうだ、救いなら別のところにもあった。昨夜は特に高熱に浮かされてて、それで久々に夢に出てきてくれたんだ。あの架空の王子様が。二年前の夏から私が本当にしんどい時、たまに夢に出てきてはその度ひたすら頭を優しく撫でてくれている、あの架空の王子様。姿はぼやけていてよく分からないけど、いつも一目で「あの王子様だ」って分かるし、どんな時でも私はあの王子様を前にすると安心してぐっすり眠れる。

 例えば去年の十二月、悠乃(ゆの)からもらったクリスマスプレゼントのアクセサリーをもらったその日の帰りに転んで雪の中に落としてしまい、雪の降る中やっと見つけるまで三時間近くもずっと一人で探し続けたせいで熱を出してからの数日間。あれは今までの人生で一番体調がゴミ……いけない。体調が悪かった時だと断言できる。今回の風邪ですらあの時と比べたら大した事ないと思える。あの時は何度も本当にこのまま私は死ぬんじゃないかって思ったけど、その度に夢の中にあの架空の王子様が出てきてくれて、私はそれでどうにかこうにか生き延びる事ができた。

 そうだ、あれを乗り越えた私にこの程度。たかが四十度の熱が出て、熱が落ち着いてもどうにも力が入らない程度。私は乗り越えられる。春休みの宿題は鈴美(すずみ)に私の分も一緒に出してもらってある。なんでもないような涼しい顔して学校に行けば、それで良いんだ。


―――


 今日が来てしまった。朝が来てしまった。あああ、学校行きたくなあああああ…………。頑張れ。頑張るしかないんだ。架空の王子様だってきっと見守ってくれて、頑張る私を見て微笑んでくれている。それに実(みのる)お姉さんだって今頃きっと愛知の高校で頑張ってるし、私の事を遠くから応援してくれている。でもやっぱり、どんなに自らを鼓舞しようと、行きたくないものは行きたくない。始業式から二日間いきなり学校を休んでしまったせいで教室で変に目立ってしまうんじゃないかとか、あとやっぱり皆勤。小学校、中学校と皆勤で来て高校でも皆勤を達成したかったのに、その目標があっさりと破れた事だとか。まあ中学の皆勤はなんていうか、違うんだけど。皆勤じゃないのに学校側が厚意で皆勤賞くれたっていうか。だからこそ高校では本当にちゃんとした皆勤を果たしたかったのに。

「おはよ、架帆(かほ)。もう体大丈夫?」

 道の途中で悠乃(ゆの)が声をかけてくれた。一年の頃の友達で、二年でも同じクラスなのは悠乃くらいのもの。悠乃が居て本当に良かった。

「おはよう。まあ大丈夫だよ。まだちょっとふらふらしてしんどいけどね。」

 ほんとかったる……いけない。本当に、まだ本調子とは言えない状態ではあるけど。その弱音をこうして吐けるのがまだマシだって話だ。

 一昨日がどれだけ大変だったかとか、春休み中は鈴美(すずみ)がまたお父さんと二人だけでお出掛けしてて羨ましかっただとか、他愛のない話をしながら教室までたどり着くと、やっぱりと言うか、同級生達に少し注目されてしまってこれもまた予想通りではあるのだけど、その予想通りがなんともきつい。悪い予想を先にしておく事はそれが現実になった時のダメージを軽減してくれるなんて話、私はあれは嘘だと確信してる。

 悠乃とは席が離れているため、一人で席に座ってぼんやりと漢文の教科書を開きながら、その実、教科書の内容とは関係のない適当な空想に身をやつして先生が来るのを待つ事にした。この時間がまた長く感じる。目は自分の意思で閉じる事ができるのに、耳は自分の意思で閉じる事ができない。聞きたくもないクラスでの会話が聞こえてくる。別に何か嫌な事を言っているわけじゃない。ただ、私にとってはこの、自分の意思で遮断できない声・音という情報がとめどなく脳に流れてくる事それ自体が大きな負荷。

 頼むから静かにしてほしい。そう思っていると、聞こえてくる多くの声の中に一つ、何か懐かしいものを感じた。

 耳を澄ませてみる。沢山の男子生徒の声達の中に一つ、心地の良い声がある。艶と透明感のあるその声は、聞き慣れないもののはずなのに、なぜかどこかで聞いた事があるように思える。

 その声のする方は教室の右奥、出席番号の最後の方の人達。その中に声の主を見つけた。するとその声の主もこちらに気付いたようで、何やら目を丸くしてこちらを見ている。やっぱり彼も彼で私に何か覚えがあるのだろうか。

 彼はゆっくりと歩いて近づいてきた。そして

「あの、もしかして、バス停の近くで倒れてたお嬢さん?……中学三年生の時に。」

 彼はおずおずと口を開き、私に問いを投げかけた。私はその言葉を聞いて、あまりの驚きに一瞬、何も考える事ができなくなってしまった。

 そして私は勢いよく彼の右手を取り、その手の甲を見て確かめた。この人が私の知るあの人だとしたら。あった。右手の甲に大きな傷痕。

 私の夢に何度も出てきてくれた架空の王子様。その存在はあくまで架空。その王子様は実在しない。だけど、その王子様が私の夢に出てきてくれるようになった事には、明確なきっかけがある。

 二年前の夏、中学三年生の頃。その日は夏休みの登校日だというのに寝坊しかけてしまい、ぎりぎりで家を出た。それでも常に走り続ける必要はなく、早歩きをしながら時々少し走って行けば普通にバスに間に合って、普通に遅刻せずに学校に辿り着ける筈だった。なのにそんな日に限って道の途中で小学三〜四年生くらいの男の子が目の前でお財布から小銭をばらまいたのを目撃してしまって。そんなの無視して先を急ぎたかったのに、私は実(みのる)お姉さんみたいになりたいから。実(みのる)お姉さんは絶対にこれを見て見ぬふりなんてしないから、仕方なく拾うのを手伝ってあげざるを得なかった。

 時間が無いのにそんな事をするもんだから、走っても間に合うか危ういくらいの時間になって。頑張って走ったけど、あと少しというところでバスは無情にも私を置いて行った。挙句走り去るバスに気を取られて、きちんと嵌っていないで斜めになっていた排水溝の蓋に靴を引っかけて転んでしまった。

 もう遅刻は確定。皆勤が絶たれた。こんな事なら、バスで通わないといけない遠くの中学になんて入らなければ良かった。歩いていける近所の中学にしておけば良かった。でも、この中学は実(みのる)お姉さんが通っていた中学だから。実(みのる)お姉さん。中学卒業まで隣町に住んでた、綺麗なお姉さん。親同士が仲が良いから、小さい頃から何度も一緒に遊んで、ずっと面倒見てくれてたお姉さん。私とは一個しか違わないけど、私とは全然違ってて、小さい頃からずっと私の憧れ。とても気品のある、動きや言葉の一つ一つが綺麗な、お姫様みたいな人。

 お姉さんみたいになりたくて髪を伸ばしてもすぐ痛んでしまうしくるくるになってしまうし、お姉さんみたいに綺麗な言葉を使いたくても私が自然に思い浮かべてしまうのは汚いものばかり。お姉さんみたいに本を沢山読んでみても、私には本は退屈に感じてしまって何も良さが分からない。お姉さんみたいにかわいい服をかわいく着こなしたくても、私には全然似合わない。

 だからせめて、お姉さんと同じ中学を、お姉さんと一緒に皆勤で卒業したかった。そんな事で同じになっても私はちっとも……少しもお姉さんに近付けなんてしない事は分かってる。だけどそんな些末なところででも、ほんの少しだけでもお姉さんと同じものが欲しかった。なのに、それももう無理。全身を焼く夏の強い日差し。そして腕や足、頬を焦がすアスファルト。人の体には害でしかない筈のそれらが、なぜか少し心地よく感じて、私は立ち上がれなかった。


―――


「お嬢さん、お嬢さん。大丈夫ですからね、救急車呼んでありますからね。」

 見知らぬ男……いけない。見知らぬ男性の声。気づくと私はコンビニのイートインコーナーに突っ伏していた。

「あ、目が覚めました?大丈夫ですからね。これ飲みますか?」

 ぼんやりとした意識の中で、綺麗な顔立ちをした男性のペットボトルを持つその右手の、見た目に似合わぬ大きな傷痕だけが妙に印象に残った。そのペットボトルの水か何かを少しずつ飲ませてもらっていると、段々と意識がはっきりとしてきて、状況が飲み込めてきた。まずい、これは誤解されてる。

 私は学校に遅刻してしまう現実が嫌で、立ち上がる気力が無くてアスファルトの上で寝ていただけなのに、きっと熱中症で倒れたものだと勘違いされてる。しかもさっき救急車呼んでるって言った!私のせいで大事(おおごと)になってる、まずいまずいまずいまずい。

 そんな事したら余計迷惑だろうに、パニックになった私は逃げようとした。「ごめんなさい、違うんです!」そう言いテーブルに置いてあった鞄を取って立ち上がろうとするも、ろくに体に力が入らず、目眩がしてまた意識が遠のいた。間抜けな話で、アスファルトの上で寝ている間に本当に熱中症になってしまっていたようだ。その男性が椅子から落ちそうになった私の体を支えて、再び上体をテーブルの上に寝かせてくれたのを感じ取りながら、私は再び完全に意識を失った。

 次に目を覚ますと、私は病院のベッドの上に居た。お母さんとお父さんが隣に居て、私を見て安心してくれていた。鈴美(すずみ)は居なかった。その日鈴美の学校の方も登校日だったんだから仕方ないんだけど、双子の妹である私が倒れてるんだから、心配してかけつけてくれても良かったろうに。そしてあの男性もまた、居なくなっていた。お母さんが言うには、病院に搬送された後しばらくしてお母さんがかけつけたのを見て、状況の説明を終えると名乗りもせずに帰ってしまったらしい。ちゃんとお礼がしたかったのにとお母さんは残念そうにしていた。お父さんはその後で到着したので、あの男性を見てもいないとの事だった。私も私であの時の記憶は曖昧で、あの男性の事は顔も声もぼんやりとしか思い出せず、ともすれば夢だったんじゃないかと思ってしまうような。でも確実にあの人は存在していて、私を助けてくれた。不思議な人。

 そう、あの出来事があってから。私が体調を崩すと夢の中に架空の王子様が出てきて見守ってくれるようになったのは。

 この右手の甲の大きな傷痕。それに何より、私の事を「お嬢さん」なんて呼んだ人はこの世でただ一人だけ。勝手に年上みたいに思っていたけど、まさか同い年だったなんて。それも、同じ高校に進学していただなんて。


―――
第二話→https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984769677&owner_id=24167653
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