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2023年04月05日20:52

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小説を作成しました!「今、ここに居る」第二話

※ 一人称小説ですが、良かったら是非、朗読の台本としてもお使いください。
金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※

※1 今作自体は小説という体裁で作られていますが、
声劇台本である「二方美人(にほうびじん)。」の第二世代シリーズです。
「二方美人。」やそのシリーズを知らなくとも当小説単独でもお楽しみいただけますが、 同シリーズ作や派生作品も読んでいただければとても幸いです。

(以下リンク)

「二方美人。」(1:4)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653

「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみのまとめ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653

※2 当作品及び今後制作予定の第二世代シリーズの、世界観や登場人物の説明まとめ。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088366&owner_id=24167653

当作品の他の話へのリンク
第一話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984762689&owner_id=24167653
第二話
―――
第三話
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第四話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984783625&owner_id=24167653
第五話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984790862&owner_id=24167653
第六話
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第七話(最終回)
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「今、ここに居る」



 第二話


 六月。彼と再会してから二か月が経った。

 この二か月で色々な事を見て、色々な事が分かった。まず、彼の名前は藤白 泡陽(ふじしろ あわひ)。私の光画 架帆(こうが かほ)という名前に光という文字が入っていて、彼の名前には陽(ひ)という文字が入っている。だから何だって話だけど、そんな事だけでもちょっと嬉しかったりして。その泡陽君は転校生で、高校二年生に上がる際に他の学校からやってきたらしい。だから私が一年生の時に彼を一切見た覚えが無かったのも当たり前の話だった。その時彼はまだ居なかったのだから。

 そして泡陽君は……なんというか。うん、なんていうか、そう。それはそうなんだけど、普通の生きた人間。私の中に架空の王子様が生まれるきっかけになった人ではあるけど、当たり前の話、彼自身はごくごく普通の人間。あの日色んな事が嫌になって立ち上がれなかった私に、立ち上がるきっかけをくれた素敵な人。それと同時に、漢文と英語が苦手な人で、体育での姿を見るに運動は基本的に得意っぽいのになぜか日常生活の中ではよく色んな場所に手や足、頭をぶつけたり転んだりするドジな人。調理実習で味噌汁……お味噌汁、おみおつけ。おみおつけを作る際もかなり見ていて心配になる手つきで、お料理も苦手そう。

 ふ。自分で自分が嫌になる。それらの泡陽君の欠点というのは全て、泡陽君の人格を疑うようなものではない。単なる得意不得意の話。それなのにどうしても、私の中で架空の王子様と泡陽君とを比較して……がっかりしてしまう、なんて、失礼極まりない精神活動を何度も何度も繰り返してしまっている。そもそも、架空の王子様はあくまで架空の存在。だから私は律儀に架空の架空のってわざわざ頭につけてるわけで。その架空の王子様と彼とは全く別の存在。何度でも言う。全く別の存在。だから、ああもう。なんなのク……いけない。なんなの、いい加減にしなさいっての馬鹿女。自分がどれだけ失礼な事思ってるか自覚しろっての。がっかりだなんて、よりにもよってがっかりだなんて、そんな気持ちを抱いて良いわけがない。

「架帆さん、これ見て!漢文の小テスト、今回追試免れたんだよ。架帆さんのお陰!」

 出席番号順に並んでいた四月と比べたら、この前の席替えによって多少は近づいた。それでもまだまだ席は離れているのに、泡陽君はわざわざ教卓の真ん前の私の席にまでやってきて、さっきの授業で返却された二十点満点中十二点の答案用紙を見せてきた。泡陽君は再会したその時は昔のように私を「お嬢さん」と呼んだものだけど、私は気恥ずかしくて遠回しに「私の名前、光画 架帆って言うの」と伝えると「じゃあ、架帆お嬢さん…?」だなんて言うから今度ははっきりと「嬉しいけどね?恥ずかしいからその、架帆さんくらいで良いから」と、突き放すような事を言ってしまった。だから今では「架帆さん」と呼ばれている。

 いや、絶対的に嬉しいよ。お嬢さんって、嬉しいに決まってる。それは確か。だけどなんだか……周りの目が気になるのも一つだし、もう一つ。どうしてもその呼び名に私がふさわしくないって言うか……。お嬢さん、だなんて。そういうのはそれこそお姉さんみたいな人じゃないと。そういう意味でも恥ずかしくなってしまう。

「頑張ったわね、でもあと一個落としてたら追試でしょ。次はもっと余裕持てるようにしましょうね。」

 普段悠乃や他のクラスの友達と話す時は「しましょうね」も、まして「わね」だなんて絶対使わない。見栄と言うか何と言うか。これについてはお姉さんの真似というわけでもない。実(みのる)お姉さんはお淑やかな人だけど、別に積極的にそういう感じの喋り方をするわけではない。

 私は私がお嬢さんだなんて呼ばれ方されるような人間じゃない事くらい知ってるけど、泡陽君はもしかしたらそう思ってないかもしれない。もしかしたら私の事、今でも心の中ではお嬢さんって呼んでくれてるのかもしれないし、その呼び名にふさわしいような人だと誤解……思ってくれているのかもしれない。だったらその、それこそがっかりされたくないのよ。

 この二か月、彼を横目で見たりたまに話したりして知った事の一つ。泡陽君は相手が女子でも男子でも、名前か苗字かに君やさんをつけて呼ぶ。それに再会したあの日、周りに居た女子がからかって「えー、なになに、それじゃあ私の事もお嬢さんって呼んでよ」なんて言った際には「ええ、いやそれはちょっと」だなんて言ってはぐらかしていた。だからそれはつまりその、お嬢さんっていうのは別に誰にでも言うわけじゃなくて、でも私には言ってくれてたわけで。

 いや分かってる。分かってる。私が倒れてた時は私に名前訊いてる場合じゃなかったから、とにかく何か呼びかけようとした結果出てきた言葉が「お嬢さん」だったんだろう。それで再会した時も、昔そう呼んでいたのだからとそれに引きずられて同じように呼んだだけ。別に私が特別、何かいかにも「お嬢さん」って感じの雰囲気を纏っていたとか、そういうわけじゃない。ただの成り行き。分かってる。分かってるけど、それでもひょっとしたらなんて、ほんの少し夢を見るくらい良いじゃない。


―――
第一話→https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984762689&owner_id=24167653
第三話→https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984776631&owner_id=24167653
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