ちょっと遅れましたが、ハロウィン・ネタです。
この話を思いついたのが11月1日になってからだったという…。
ポセイドンにイタズラされるカノンの小話です。
次は多分ロス誕になると思います。話を一つ思い付いたけど短編なので、もう一つくらい何とかしたい…。
ジュリアン(ポセイドン)とカノンの話は『倫敦三重奏』
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3351082『鮫人の涙 土中の碧』
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3390376『ボスポラスの夕べ』
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3390443『森の奥で死者たちは泣く』
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4114832『二つの宝玉』
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5328347『海皇の悪戯』
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6802338『海皇様の海龍愛玩大作戦』
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7503210『女神と海皇の諍い』
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8189423『アレトゥーサの銀貨』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8433426を参照。
『Trick or trick!』
十月三十一日の午後のことである。海界の最高権力者である海将軍筆頭・海龍のカノンは、海底都市ポセイドニアの自分の執務室で一人、書類と格闘していた。
その時。
「Trick or trick!」
大きな掛け声とともに、執務室の扉が勢いよく開かれた。
カノンは顔を上げ、目をぱちくりと開いた。
そこにはジュリアン・ソロが笑顔で立っていた。時代がかった漆黒のフロックコートを着て、襟を立てたやはり漆黒のマントに身を包んでいる。
「…ポセイドン様…」
カノンは素早く状況を察知して、主君(仮)の名を呼んだ。ジュリアン・ソロの体に降臨した海皇ポセイドンが地上からカノンを訪ねてきたのである。
「前触れもなしに、どうなさいました。そのお姿は…」
ポセイドンはつかつかと執務室の中に入り、カノンの前で偉そうに胸を張った。
「うむ、シードラゴン。本日は地上ではハロウィンという祭りだそうだな」
「はあ、左様でした」
気のない感じでカノンは適当に相づちを打った。海界では古代ギリシャ・ローマの文化を基盤としており、キリスト教も入ってはいないため、当然ハロウィンを祝う風習もなく、カノンとしてはすっかり忘れていたのであった。
「私も詳しくは知らぬのだが、子供が仮装して、菓子をもらう祭りであるそうだな」
「はい。元はケルト人の信仰で、先祖の霊が帰ってくるとか、収穫祭だとかいう説があるそうですが…」
「人間の信仰のありようは時代によって変わっていくもの。ならば神である私も時代の変化を取り入れるべきではないかと思ってな。祝ってみることにしたのだ」
「ははぁ…」
改めて、カノンは上から下までポセイドンの姿を眺めた。確かに一般的にジュリアンが着るスーツとは違っており、何かの仮装ではあるようだ。
「そのご衣装はどうなさいました?」
「ジュリアンが用意していたものを拝借した。何でも今夜、ソロ家主催でチャリティーの仮装パーティーをするらしくてな。その時に着る予定の衣装だ。吸血鬼の仮装らしい」
「はぁ、そうでしたか」
「納得したか?では改めて、Trick or trick!」
「……」
ポセイドンの掛け声に、ごほん、とカノンは咳払いした。
「失礼ですが、ポセイドン様、それは間違いです。『Trick or treat!』、すなわち、菓子をくれないならイタズラするぞ、です」
「そんなことは分かっておる!」
「はて…では…?」
「シードラゴン、お前は菓子の用意などしておるまい。ゆえに、ここはイタズラ一択である!」
「……」
にやっとポセイドンが唇の端を歪め、瞳孔がきらりと金色に光った。不穏な気配にカノンが思わず身を引くと。
「イタズラするぞ、シードラゴン!」
がばっとポセイドンが椅子に座るカノンにのしかかった。
「ええええーっ!?」
「うむ、吸血鬼ゆえな。まずは首筋から血を吸うとしよう」
カノンの白い首筋に、ポセイドンがかぷりと噛みついた。
「いー、いーっ!?」
カノンの動揺も抵抗も何のその、ポセイドンの舌がぺろりとカノンの首筋を舐め、ちゅうちゅうと吸いついた。
「ポ、ポセイドン様、お戯れは…!」
ふうっと、ポセイドンがカノンの耳に息を吐きかける。ざわりとカノンの背筋に鳥肌が立った。その反応を知ってか知らずか、ポセイドンの「イタズラ」はさらに大胆になった。カノンの着ているチュニックの裾から手を入れ、大腿の弾力を確かめるかのように揉みしだく。
「だ、だめです、そこは…っ」
「なに?もっと奥を触って欲しいとな?」
「そ、そんなことは言って…」
「よしよし。ではこちらを…」
「ひええええーっ!」
ポセイドンの手がカノンの股間に伸びた時、カノンはとっさに執務机の一番上の引き出しを引いた。中に手を入れ、ある物をつかむ。
「ポ、ポセイドン様、これを…!」
「むぐっ」
カノンは取り出した「ある物」をポセイドンの口の中に押し込んだ。ポセイドンの口内に甘みが広がった。カノンが取り出してポセイドンに食べさせたのは、キャンディーだった。
「菓子です!これでイタズラはなしですよ!」
「……」
カノンにそう言われ、動きを止めて黙って口の中でキャンディーを舐めていたポセイドンは、やがて「がりっ!」と大きな音を立てて奥歯でキャンディーを噛み砕いた。
「なぜこんなものを用意している、シードラゴン?」
不機嫌そうにポセイドンが問う。
「いえ、その…いつもこういった小さな菓子を用意させておいて、執務の合間につまんでいるのです。甘味をとると疲れも取れますし…」
「……」
「と、とにかく、菓子を渡したのですから、イタズラはやめてください!」
「……」
不機嫌そうな表情のまま、それでもポセイドンはカノンの上からどいた。神というものは、人間以上に「約束事」に縛られるものなのだ。
「…つまらぬ。せっかくお前にイタズラできるかと思ったのに…」
まだぶつぶつと言っているポセイドンの右手に、カノンはさらにキャンディーを三つほど握らせた。
「ジュリアンとソレントへの土産に、どうぞ」
「…うむ。仕方ない。ではイタズラは来年の楽しみにとっておくとしよう」
不承不承ながら、ポセイドンはキャンディーを握ってカノンの執務室を去っていった。
来年のハロウィンには山ほどの菓子を用意しておこう、とカノンは思ったのだった。
その後、鏡を見て首筋にキスマークが残っていることに気付いたカノンは、補佐官たちが数え上げるのに苦労するほど多種多彩なポセイドンへの罵詈雑言をわめき散らしたのだった。
<FIN>
【小説一覧】
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1585571285&owner_id=4632969
ログインしてコメントを確認・投稿する