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2017年08月16日09:50

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もう一度 倫敦巴里[読書日記639]

題名:もう一度 倫敦巴里
著者:和田 誠(わだ・まこと)
出版:ナナロク社
価格:2200円+税(2017年1月 初版第1刷)
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お盆休みなので、通勤電車で片手で読むのは大変なハードカバー本を選びました。
と言っても文芸大作ではなく、和田誠さんのイラスト集『もう一度倫敦巴里』。
1977年に「話の特集」から刊行された『倫敦巴里』に新たに何篇かを加えて再編集したものです。

イラスト集と書きましたが、具体的にはパロディイラスト集。
たとえば「ビートルズ・ギャラリー」という似顔絵コーナーでは、ジョージ・ハリスンをゴッホ風に描き、ポール・マッカートニーをロートレック風に、リンゴ・スターを写楽風、ジョン・レノンをシャガール風にと凝っています。

和田誠さん本人の解説を引用します。
“「モジリ」と言いますかね。替え歌というか、一種の遊びなんだけども、このテのものには「時代」がつきまとうんだな。
「時代」と言って大袈裟なら「時期」でいいや、それを発表した当時のハヤリみたいなものに関係してくるからね。
どうしても「時」がつきまとうわけ。だから、残念ながら時間がたつとちょっと古びちゃうんだよね”(32p)

「ビートルズ・ギャラリー」は純粋にイラスト(絵)で見せるコーナーですが、全26種の中には“イソップの「兎と亀」をテーマに世界の映画作家が映画を撮ったら、こうなるだろうという脚本が並んでいます。
(これなどは、和田誠さん自身の『お楽しみはこれからだ』のモジリですね)

ジョン・フォード風のところの出だしを引用します。
“ジョン・フォード
 亀(ジョン・ウェイン)が恋人(モーリン・オハラ)と手をつないで歩いている。陽の当たる野原である。
 森の中から兎(リー・マーヴィン)が走り出してくる。亀とぶつかりそうになる。
 二人、とっさにこぶしを固めて身構える。恋人が亀の腕をとって引きとめる”(33p)
ジョン・ウェインの映画を観た人しか、わからない面白さなのが残念です。

全26章は雑誌「話の特集」に掲載された順に載っていますが、26章中7章が川端康成の「雪国」のパロディです。
原作の出だしは“国境の長いトンネルを抜けると雪国であった”ですが、俵真智風パロディでは、こんな風に始まっています。
“雪国に向かう列車に乗ったから我は演歌のヒロインとなる”(163p)

この本に関する個人的なエピソードを紹介して締めくくります。

もともと、学生時代から和田誠さんの大ファンで『倫敦巴里』も買っていました。
社会人になってから、和田誠さんのファンという同僚の誕生日に、この本を贈ろうと思い、当時始まったばかりのインターネットで紀伊國屋の在庫を見たら、この本がありました。
しかし、新宿まで本を受け取りに行く余裕がなかった(当時はアマゾンで翌日配達などあり得ません)ので、自分の『倫敦巴里』(新品同然のきれいさでした)を友人にプレゼントし、三日後の週末に紀伊國屋に買いに行くことにしました。
買いに行く朝も紀伊國屋ホームページで在庫があることを確かめ、新宿紀伊國屋に着いたのですが、売り場の窓口で聞くと『倫敦巴里』は無く、とても落胆しました。
ホームページの在庫情報をきちんと更新していなかった訳です。
そんな訳で三十年ぶりくらいに『倫敦巴里』に再会でき、幸せです。

イラストの力が大きい本を文章だけで紹介するのは無理があるので、ぜひ、和田誠さんのファンに読んでもらいたいと思います。

ナナロク社HP:もう一度倫敦巴里
http://www.nanarokusha.com/book/2016/12/29/4096.html

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和田 誠(わだ・まこと)
1936年生まれ、グラフィックデザイナー、イラストレーター。
1959年多摩美術大学卒業、ライトパブリシティに入社、1968年よりフリー。
1965年雑誌「話の特集」にADとして参加。1968年から4ヵ数ヵ月「週刊サンケイ」の表紙に似顔絵を描く(AD田中一光)。
1977年より「週刊文春」の表紙(絵とデザイン)を担当し、現在に至る。出版した書籍は200冊を超える。
1974年講談社出版文化賞(ブックデザイン部門)、1993年講談社エッセイ賞、1994年菊池寛賞、1997年毎日デザイン賞など受賞多数。

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