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2011年10月19日17:49

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「ピンチ」 と 「ピーンチ」 と 「ピイーンチ」。

  







湯のみ TV のナレーションなんぞを聞いていると、わりと、

   ピーンチ

というコトバが出てくる。オモシロ声のナレーションだと、アクセントが2種類ある。

   ピーンチ ●○○○ 高低低低
   ピイーンチ ○●○○○ 低高低低低

湯のみ 「ピーンチ」 というのは、ロケゲストが、何やら窮地におちいったときの普通のナレーションだが、それに、ちょっとフザケタ感じが入ると、

   ピーンチ

になる。

   …………………………

湯のみ 東京方言のアクセントには、いくつかのシバリがある。

   (a) 頭高(あたまだか)か、中高(なかだか)か。

湯のみ これは東京式アクセントの単純さを象徴する現象だ。英語などの強弱アクセント、あるいは、古代のギリシャ語・ラテン語などの高低アクセントと同じく、「アクセントの位置を1ヶ所示せば事足りる」 のである。

湯のみ 5拍の語で、実例を見てみやしょ。


   【1拍目】 「イヤリング」 íyaringu
   ●○○○○ 高低低低低

   【2拍目】 「オカーサン」 okáasan
   ○●○○○ 低高低低低

   【3拍目】 「ホトトギス」 hototógisu
   ○●●○○ 低高高低低

   【4拍目】 「シホンシュギ」 shihonshúgi
   ○●●●○ 低高高高低

   【5拍目】 「ナミノハナ」 naminohaná
   ○●●●● 低高高高高

   【無限後退アクセント】 「ドラエモン」 doraemon-gá
   ○●●●●-● 低高高高高-高 


湯のみ 西欧諸語と違って見えるのは、

   東京式アクセントが、つねに、2拍目から高くなってしまう

という性格を持っているからだが、これは本質的なものではない。実際、名古屋など、東京式のアクセントでも、「遅上がり」 と言って、2拍目から高くならない方言がある。つまり、

   単語のアクセントは、高く発音される最後の音節は、何番目か

を問うものなのであるね。だから、ローマ字の上にアクセント記号を付ければ記述できるわけだ。

湯のみ こんな基本を説明したのは、この先のハナシの、どこが面白いのか理解してもらうため。

   …………………………

湯のみ 日本人が、「ピーンチ!」 と “ー” (のばし棒) を入れて発音するのは、いずれ、おどけているときだ。こういう場合、アクセントを後ろのほうに持っていったほうが、オモシロミが増す。第1拍を高く発音すると、「簡潔に言い切る感じ」 になってしまうからだ。つまり、

   ピーンチ ●○○○ 高低低低

じゃないほうがいい。

湯のみ ところが、ここで問題が生じる。

   (b) 東京方言のアクセントは “ッ”、“ン”、“ー” には落ちえない。

湯のみ こうした音節は、それじたいで1音の単語を構成しえない 「自立性のない音」 である。この3つを発音しろ、と言われても不可能だ。こうした音は、

   日本語としては1拍とみなすが、
   音声学的には、「先行する拍と融合して1音節」 とみなす

というような特殊な音なのである。


   【ダンゴ】
   日本語の捉え方 「ダ・ン・ゴ」 3拍
   物理的な音声  / daɴ - ɡo /  2音節

   【キップ】
   「キ・ッ・プ」 3拍
    / kip - pu /  2音節

   【トーリ】 (通り)
   「ト・オ・リ」 3拍
    / to: - ri /  2音節


湯のみ ここで、「ピーンチ」 というコトバに戻る。アクセントを2拍目以降に移動できるだろうか?

   pi-í-n-chi ○●○○ 低高低低 …… ×
   pi-i-ń-chi ○●●○ 低高高低 …… ×

湯のみ つまり、2拍目=“ー”、3拍目=“ン” なので、どちらも東京方言のアクセントとしては成り立たない。ならば、

   pi-i-n-chí ○●●● 低高高高

は可能か、というと、そうは問屋がおろさない。

   現代語で、3拍語までは、最後の拍が高い単語が、見られるが、
   4拍語以上では、実質的に存在しない

と言っていいのだナ。もし、存在したら、それは 「合成語」 だ。


   ナミノハナ
     ナミノ ハナ ○●○-○● → ○●●●●

   ジュウニガツ
     ジュウ ニ ガツ ●○-●-?? → ○●●●●

   ハツデンショ
     ハツデン ショ ○●●●-? → ○●●●●


湯のみ つまり、4拍以上の語で、最後の拍にアクセントがある語というのは、

   現代日本語では “生産性がない”

のである。言語において 「生産性がない」 というのは、化石のように残っている例はあるが、そういう言語形式は、現代の生きた言語活動からは生まれない、という意味だ。

   …………………………

湯のみ 「ピーンチ」 のアクセント1つとっても、学術的に説明すると、これだけメンドクサクなる。つまり、

   “のばし棒” だの “ン” だのを続けて持つ
   「ピーンチ」 という語形じたいが、日本語的ではない

のであるナ。だから、1拍目以外にアクセントを置くことができないわけだ。

   しかし、ドーシテモ、アクセントを後ろにずらしたい

という 「本能」 から、

   ピイーンチ

という語形が生まれてくるわけだ。

   アクセントをアタマに置かないために、
   2拍目に余計な 「イ」 を入れる

という策を、日本語ジンは、本能的にヒネリ出すのであるナ。よって、

   ピイーンチ ○●○○○

というふうに5拍に発音するのだ。これで聞くヒトの笑いも誘うことができる。

湯のみ 「ピイーンチ」 という語形を生み出したナレーターは、上記のような分析をおこなったわけではない。これがネイティヴの持つチカラなのであるよ。

湯のみ とは言え、本能的にやっていることだから、外国人に、

   「なぜ、PINCH を、わざわざ、ピイーンチと発音しますか?」

と訊かれると、説明はできないのだ。
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