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2023年04月09日20:29

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小説を作成しました!「今、ここに居る」第六話

※ 一人称小説ですが、良かったら是非、朗読の台本としてもお使いください。
金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※

※1 今作自体は小説という体裁で作られていますが、
声劇台本である「二方美人(にほうびじん)。」の第二世代シリーズです。
「二方美人。」やそのシリーズを知らなくとも当小説単独でもお楽しみいただけますが、 同シリーズ作や派生作品も読んでいただければとても幸いです。

(以下リンク)

「二方美人。」(1:4)
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「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみのまとめ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653

※2 当作品及び今後制作予定の第二世代シリーズの、世界観や登場人物の説明まとめ。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984088366&owner_id=24167653

当作品の他の話へのリンク
第一話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984762689&owner_id=24167653
第二話
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第三話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984776631&owner_id=24167653
第四話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984783625&owner_id=24167653
第五話
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1984790862&owner_id=24167653
第六話
―――
第七話(最終回)
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「今、ここに居る」



 第六話


 それなりに楽しくもあり、暇でもあり、そして悩みにつぶされそうになりもした夏休みが終わり、二学期が始まった。不思議な事に夏休みの間は暇を持て余していたし、特に後半はそんなありがたがる気持ちも無かったのに、いざ終わってしまうとなんと寂しいものだろう。だがもう終わってしまったものは終わってしまったのだから、それはそれとして前向きに二学期を楽しんでいくほかに道は無い。

 友達や泡陽君と毎日会える事を楽しみにどうにか新しい学期を前向きに迎えようとした矢先、この学校の最悪な行事を思い出すはめになった。今日は帰りにクラス会が開かれ、クラス委員の三好(みよし)さんが教壇に立ち皆に報せを届けた。それは皆にとって聞きたくなかった報せ。この時が訪れるかもしれない事は最初から分かっていたけれど、結局杞憂に終わる事を皆が皆夢見ていた事だろう。

「来月に行われる地域交流徒競走ですが、二年生の代表生徒はこのクラスから選ばれる事になりました。誰かやってくれる方は居ますか?」

 居るわけがなかった。案の定誰も手を挙げない。毎年十月の第一週の土曜日にこの学校と町とが共同で開く徒競走。その距離五キロメートル。地域からの参加者達は年齢に応じて走る距離が調整されるけど、学校代表生徒は一律五キロメートルを走らされる。学年も関係なければ男女も関係なく、一律五キロメートル。明らかに男女平等をはき違えている。その二年生代表一人を、よりにもよってこのクラスの中から選ばなければならない。

 長引くクラス会。二年生を代表して、この中のたった一人だけが土曜日の朝にわざわざ学校に来て五キロメートルを走らされる。クラスの他の生徒達がお休みを満喫している中、たった一人で。ついでに言うとその五キロメートルはどこか外を走って風情を感じていくような感じでもなく、ただただこの学校の校庭をひたすら周回するだけ。一周四百メートルだからそこを十二周と半。そして完走しようと一位になろうと何ももらえない。内申点にも影響しない。何の得もないただのくたびれもうけ。誰がやりたいと言うのか。私のような足の速さにも体力にも自信のない生徒は勿論、それらに自信のある生徒だってそんな何の利もない事を自分からやるなどと言うわけがない。

 終わりの見えないクラス会に、皆の苛ついた空気を感じる。私はこの後特に予定も無いけど、半数以上の人達は部活動なり委員会なりに入っており、既にそれらへの遅刻が決まってしてしまっている。そうでなくてもさっさと……早く帰りたい事に改まった理由など必要ないだろう。皆の「この後の予定」が今この瞬間もどんどん浸食されていっている。その空気を「おっかないわね」とどこか他人事のように感じつつ、そんな中でもいつも通りのぽやぽやした雰囲気を醸し出している泡陽君を眺めて私は癒されていた。

「それでは光画(こうが)さん、やってもらえませんか?」

 彼を見て癒されていると、不意に話を振られた。何がそれではなのかは分からないが、私が?

「え、ちょっと体力に自信無いし土曜日にわざわざっていうのは……」

 やんわりと断ろうとするも、三好さんはなおも続けた。

「誰かがやるって言ってくれないといつまで経っても決まらないし、皆帰れないんですよ?」

 言いたい事は分かるが、私だってやりたくないものはやりたくない。誰だって、私だってその誰かになりたくないし、それを言うなら三好さんが自分でやれば良いでしょ。よっぽどそう言いたい気持ちだったが、流石にそこまでは言えない。そしてクラスの皆がこちらを見ている。悠乃と泡陽君は心配そうな目をしている。まずい。これはまずい流れだ。

 私がやんわりと嫌そうにして、三好さんが言い方を変えてまた私にやってくれないかと訊く。その繰り返しの時間が続いた。他の人達を当たっていってもどうせ無駄だと分かっているから、押しに弱そうだと判断した私に標的を絞ったのだろう。

 そして恐らく既に、ある人は強く、ある人は弱く、それぞれ私に「分かった、私がやるね」と言ってほしいと願っている事だろう。私がやると言えばこの問答は終わるし、言わなければ終わらない。そして長引けば長引くほど、なぜか私が我儘言って皆を困らせているような雰囲気になる。そういう流れだ。まじで……いけない。本当に?まさかこれ、本当に私がやらされる?嘘でしょ、絶対嫌。絶対やりたくない。大体、私が走ったってそんなの晒し者にしかならないでしょ。

「すみません、僕やります」

 その流れを打ち破ったのは、泡陽君だった。彼は皆の「良いの?」だとか「大丈夫?」だとかの「良いよ」「大丈夫だよ」と言われる事を前提とした白々しい心配したふりの決まり文句に対して、その決まり通り「うん、大丈夫。ありがと」と返した。

 助かった。助けられた。彼はきっと性根の優しい子なんだろう。だけどこうも分かりやすく庇われると、勘違いの一つもしたくなる。どういう勘違いだって、そんな事は恥ずかしくて口にできるわけもない。

 私が見ている事に気付いた彼はいつものように、少し顔を傾け軽く手を振り、かわいい笑顔を向けてきた。私は彼にどんな顔を向ければ良いのか分からなくなってしまった。


―――
第五話
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第七話(最終話)
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