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2022年03月22日17:24

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3月14日 ’’擬古典落語"の夕べ ナツノカモ江戸噺

●都内で一番早い時間に始まる落語会だったのじゃないか? 矢来町の土曜早朝寄席が3月で終わるとのこと●当方田舎者なので、開演の10時に間に合うには自宅を8時には出なくてはならず、それでも20回くらいは足を運んだか。朝が早いから三席聞いても終演は正午前後。落語を見てからも余裕を持って都内で用を済ませることが出来て、有難い会でもあった。●昨年11月にかしめ、2月に一花を聞いたが、一花はほぼネタおろしの「鰍沢」。力が入りすぎて全身が筋肉痛になるような稽古だったそうで、直前に見た小辰のそれともまた違う、若干の余裕の無さと手探りな感じがそれはそれで息詰まる、実況感が面白い「鰍沢」だった●最寄り駅が神楽坂なので、終演後は会場ビル前のチャーハンで名高い「龍朋」に客が列をなしていたが、老身にはカロリーが高すぎるので、東西線で中野に出て、ブロードウェイ地下にある「ジブリのうどんや」、こと「大門」でつやつやした讃岐うどんをすするのが楽しみだった。もうわざわざ足を運ぶこともないだろうから、こちらも食べおさめとなってしまったのが寂しい●

 「擬古典落語」というのは、古典落語の設定や時代背景を借りて作られた新作落語、という解釈でよろしいのか。夢枕獏がSWAで喬太郎に書いた「鬼背参り」、先代小さんが演じた山田洋次の創作落語、さん喬がたまに演じる「干しガキ」など、古典改作とは別物の、あえて「擬似古典落語」と意識したことはなかったが、新作落語としては結構多く作られているジャンルのように思う。
 元落語家の作家、ナツノカモが、この「擬古典」にジャンルを絞って書いた落語台本を、五人の若手落語家がそれぞれのテイストを加えて演じるという、ちょっと実験的な落語会が月島の社会教育会館で催された。

●前座 美馬「平林」
 普通に古典をやっているだけなのだが、小動物的な愛らしさが良い。新作落語お正月寄席の前座でも感じたが、構えていない一所懸命さがあり、妙に肩入れしてしまう。この新人感でどこまで行けるかはわからないけれど。

●り助「右差しの侍」
 ここから擬古典。一番手で登場したので、あれ、もう二つ目なのかと勘違い。もうすぐ昇進だが、この時点ではまだ前座。右差し、つまり左ぎっちょの侍が子供たちの間で大人気になり…という噺だが、メインになるのは「桃太郎」のごとき父と息子のやり取りで、あくまでも言葉遊び。り助はおそらく自分のテイストを加えるというよりも、ナツノカモが書いた言葉遊びを諳んじる方に四苦八苦したのでは。

●好二郎「不当易者」
 易者は当たりすぎてはいけない。さじ加減で少し外しておかないと…という、考えようによってはなかなか深い噺。易者を訪ねてくる客については、どんなキャラがくるかは演者に任せるという自由度の高さだが、万事器用な好二郎が演じるので、その辺りは如才ない。

●小もん「頬苺」
 人情噺なのだろうか? 元芸者だった妻を亡くし、飲めない酒をあおる男を訪ねた友人たちが見た少し不思議な物語。長屋を覆うほど草が延びる件、血が通っていたころの妻の頬を想起させるへび苺の実など、ファンタジーな道具立てが多すぎて、ボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」みたい。

<仲入り>

●花金「貧乏神の良心」
 ナツノカモとは大学の落研時代からの付き合いで、今日の出演者の中では一番長いのではないかと自己紹介。ひとところに居つくと、宿主(?)を貧乏のどん底へ陥れるまで離れない貧乏神。身分違いの恋に悩む大店のお嬢さんに招かれて家に入ると、そこには福の神がいて…という、今日の五作品の中では一番古典落語らしい噺で、オチもきれいに決まった。

●小辰「お初政五郎」
 タイトルからすると若い男女の噺かと思ってしまうが、お月様の声が聞こえるという幼い女の子と、彼女に失せ物の行方を訊ねる殿様の物語。秋には真打昇進の小辰。香盤で決めたのか知らないが自分がトリで、楽屋は若手二つ目ばかり。自分が袖に入るとほかのメンバーが楽屋へ行ってしまい、楽屋にいると袖に行ってしまう…という疎外感をあじわっているそうな。


 吉笑がよく春にかける「桜の男の子」という噺がある。桜の木の下で泣いている男の子をめぐり、入れ子構造で登場人物が見た夢がつながっていくという、思い返してみてもうまく説明できない噺で、面白いのか面白くないのか…ナツノカモことかつての春吾の作品だった。
 これが作家としてのナツノカモの持ち味だとするなら、結構理屈っぽい。そこに体を使った「話芸」の演じ手が絡んで、いつかは頭と体がつながって思うように動く、創作落語の名作が出来上がる。擬古典であろうが、現代風俗を取り入れた新作落語(変な言い方ですが)だろうが、創作落語はその関係性が醸成されるまでの時間がどうしても少ないので、演じながらギャップを埋めていくしかない。演じ続けた後に作品がどう変わっていくのか。古典落語メインの人には難しいだろうが、新作を育てる作業は続けてることに意義がある。
 今回は自分にとっては二つ目ショーケースという意味合いでも面白かった。好二郎は白浪や彦三との会で見ていたので、師匠譲りというか、天性の器用さは知っていたが、小辰を除く他の3人はほぼ初見。ルート9に参加している花金は、若手らしからぬ落ち着きが感じられ、そもそもこんな企画に参加しようとするところからして小もん、り助も含めて今後が楽しみ。芸協は成金メンバーが全員真打になり、楽協も秋の真打昇進披露目が終わったら、ある意味重石(悪い意味ではなく)が取れて、新しい流れがまた生まれてくるような気がする。
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