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2022年02月12日23:12

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西突厥史の研究内藤みどり早稲田大学出版部

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p.41
鼠尼施部は突陸部の1部で、亀茲Kucha北方のYulduz渓谷を居地としていた。鼠尼施部が崑陵都護彌射の部であることは当然であるが、孥失畢部の1部である抜塞幹部が彌射の配下に入っていたことに注目したい。…
…〈頡利〉(ilig、トルコ語で部族を集めるの意？)は不明であるから、〈千泉〉〈倶蘭〉のように、設置された地名を読みとることはできない。
p.42
　そして後、一部がTalasの東部に移住したと思われる抜塞幹Barskhan部が、まずはIssyk kul付近に居地を持っていたとすると、孥失畢部全体の配置は、一応、
　抜塞幹部　Issyk kul地方
　阿悉結部　砕葉 Sūyāb平野
　哥舒部　　呾羅斯Talas平野
として理解することができよう。
p.43
これによれば、哥舒翰の祖先は〈突騎施首領哥舒部落〉の出身であったのであり、哥舒部落が突騎施Türgiš時代、その首領であったという。…
…
(64)　このころ、翰の父道元は于闐の尉遅氏の娘を娶り、翰が生れたと思われる。
p.47
　ところで〈車鼻施〉について、陳氏は、天宝元年(742)に懐化王に封ぜられた石国王子〈那倶車鼻施〉、2年に入貢した解蘇国大首領〈車鼻施〉の例を挙げ、これを西突厥あるいは異姓突厥に常に見える官号で、監督官の意味を持つcapisとし、後、人名として用いられたものと解されている。(70)
p.49
　次に抜塞幹Barskhānの名を持つ地名が、イスラム地理志によればTalasの東とIssyk kulの南東辺に見え、また龍朔2年の亀茲の乱に、亀茲の北のYulduz渓谷を居地とする鼠尼施部とともに、抜塞幹部が崑陵都護阿史那彌射勢力として現れているので、本来の抜塞幹部の住地は、上Barskhānと呼ばれたIssyk kul東南岸で、そこに頡利都督府も設置されたと考える。
p.56
このうち〈姓〉は、中国的観念からつけ加えられたものであろうことは、同碑文中に、部族数と部族名が連記されているものが、中国史料中には〈(数)姓(名)〉(uc quriqan→三姓骨利幹)と記されることから明らかであるとすると、〈十姓部落〉の原形は〈十部落〉であろう。
p.57
〈on oq の子〉と並んで見えるtat人については、С.КляшторнЫй氏が、砕葉平野南辺のソグド植民市人であると解釈されているから、(4)碑文には、砕葉平野に牙庭を置いていた蘇祿の突騎施王国の衆と、その傍のソグド植民市人が並挙されているのである。…
…
(4)　С.КляшторнЫй, Древнетюркские рунические памятники
как источник по истории Средней Азии, 1964, ctp.122-123では、Mahmud al-Kashgariの辞典(1-454)に、〈Tat――あらゆるトルコ人のもとで、イラン語を話す人々〉と記されていることから、このトルコ人を〈十箭の子〉とし、イラン語系の移住民、すなわちソグド(植民地)人を、Tat人に比定されている。
p.58
ジェワロンマロェJe ba hdron ma lodはトゥルギシュカガンDru gyis kha ganに花嫁として送られたり。
p.67
さらに、〈匐延都督〉が処木昆部の長屈律啜külüg čurに与えられた名称であったことは、4節2「啜と突陸部」cで詳述しているが、〈匐延都督〉の名称は、高宗乾陵前の諸蕃臣像の銘中にも見える。…
…4節においては可汗家阿史那氏とその大臣家である処木昆屈律啜部との婚姻関係を想定しているのであるが、ここで、少なくとも阿史那都支が処木昆屈律啜で、唐朝によって〈匐延都督〉とされた背景が明らかとなった。
p.68
また阿史那都支が処木昆屈律啜として、唐朝の任じた〈匐延都督〉を称した時、処木昆部の安輯だけではなく、5咄陸部および咽麪部の安輯を託されたことは、処木昆部以外の他部には都督が設置されていなかったことを示している。しかし、阿史那都支が〈十姓可汗〉を称したことは、突陸部と咽麪部だけではなく、孥失畢部をも合せた、もとの〈十姓部落〉を再編し統合したことを物語るものであろう。
p.69
　突厥の官名である啜curは、東突厥の〈默啜可汗〉のように、可汗名として見える例もあるが、西突厥においては、知られている限りにおいて使用されていないから、〈車簿〉の名の下につく〈啜〉は官名そのものであるに違いない。
p.70
さらに、阿史那氏が〈胡祿屋闕啜家〉にも見えることを、第5章3節2の阿史那闕啜忠節の例で証明している。
p.71
そして同山が、元の耶律鑄の詩に見える〈弓月山〉であること、『新唐書』地理志原註に、
　渡石漆河、踰車嶺、至弓月城。
と見える〈車嶺〉がそれにあたり、〈金牙〉〈今牙〉〈弓月〉は、車の意味を持つKangliの音訳であり、〈車嶺〉はその意訳であると説かれている。…そこで、車簿が〈金牙山〉に拠地を持っていたか、〈金牙山〉を越えて〈弓月城〉を襲撃したとすれば、胡祿屋部の首長〈阿史那車簿啜〉であった可能性が高いように思われる。
p.72
松田氏は、文中の〈胡屋〉が〈胡祿屋〉であること、この乱の平定の結果内属した3万の帳落が〈砕葉以西〉ではなく〈砕葉以東〉の、胡祿屋部の属する咄陸部であったことを指摘され、さらに都擔の乱が開元2年(714)3月に鎮定され、6月にその首が長安に梟けられ、〈10月には、この亂を起こした都憺が本據にしたらしい胡祿屋部などの内屬があった〉とし、都憺の乱の鎮定者を磧西節度使阿史那獻とされた。
p.73
そこで、諸史料の拠ったに違いない、最も基本的な史料である『玄宗実録』と『唐暦』によって、開元2年3月己亥(12日)に、阿史那獻が磧西節度使として都憺を捕えて首をはね、その乱を鎮定した時以後を再構成してみると、
　　3月　西域2万余帳の内付
　　6月　都憺の首を梟す。その部落5万余帳を擒にする。
　　9月壬子(28日)　葛羅祿車鼻施失鉢蘿俟斤ら12人の涼州への内属。
　　9月乙卯(9月にはなく、10月1日となる)　胡祿屋闕啜ら首領など1,031人の来降。
　　10月庚辰(26日)　胡祿屋2万帳の北庭への内属。
となる。
p.74
それゆえに、松田氏は〈都憺が本拠にしたらしい胡祿屋部〉と考えられたのであったが、十姓部落の酋長であった都憺は、やはり胡祿屋部の酋長であったと考えるべきであろう。そして都憺は、胡祿屋部の長闕啜であったに違いなく、景雲2年(711)の東突厥の突騎施Türgiš征伐によって娑葛が殺され、混沌としていた西突厥部の中で、突騎施蘇禄と並んで、西突厥部を統合し回復しようとした勢力の一つであったと思われる。
p.91
　このように見るならば、『冊府元亀』巻967継襲篇が、天宝元年の条に、
　　詔立其酋長爲伊地米里骨咄毗伽可汗。
と記していたのは、天宝元年に、突騎施部が黒姓可汗である伊里底蜜施(伊地米里Iltirmiš)骨咄祿毗伽可汗(Qutluγ Bilgä qaγan)をすでに立てていたこと、天宝三載に、同可汗を唐朝が改めて可汗――〈十姓可汗〉――として冊立したことを、混同したものといえよう。
p.93
ただし、娑葛の突騎施王国を討滅した、景雲2年(711)の東突厥軍の攻撃に際して、<qara turgis budun黒突騎施〔の〕民〉が、3回も東突厥軍の敵として倒されたことが述べられている(IE 38,39,40)ことからすれば、黒姓は娑葛時代から有力な部として存在していたのであって、娑葛と蘇祿は、各々黄姓・黒姓部落を代表する英雄であったようである。蘇祿が黒姓可汗と呼ばれていたかどうかは不明である(35)が、蘇祿が殺害された後の突騎施において、その大首領都摩支が、蘇祿の子吐火仙を可汗として砕葉Suyab城におらせ、黒姓可汗爾微特勤を怛邏斯Talas城に呼び入れて、莫賀達干に敵対したことは有名である。この時、西突厥諸部族は黒姓可汗側に味方したと思われるが、それゆえに、唐朝は莫賀達干を助けて、強力な勢力を結集したに違いない黒姓可汗側を破るために、磧西節度使蓋嘉運を派遣したのであった。その結果、蓋嘉運は蘇祿の子吐火仙とその弟を捕らえたが、疏勒鎮守使夫蒙靈詧は怛邏斯城で、黒姓可汗とその弟を斬殺している。黒姓可汗爾微特勤が蘇祿の子であったとは記されていないが、蘇祿殺害直後の突騎施で黒姓可汗を称することができたのは、蘇祿直系の人物であったに違いないとすれば、あるいは蘇祿の弟かもしれない。
　さて、天宝元年(742)に、突騎施人によって立てられた黒姓伊里底蜜施骨咄禄毗伽可汗も、黒姓可汗である以上、4年前に亡くなった蘇祿との血縁関係が考えられる。
　ところで、この黒姓伊里底蜜施骨咄禄毗伽を、莫賀達干とともに蘇祿を殺したと伝えられ、後、莫賀達干に対して、黒姓可汗や吐火仙を擁して蓋嘉運に敗れた大首領都摩度(支)に比定されたのは、前嶋氏であった。
p.96
『冊府元亀』卷965封冊篇3は、天宝12載9月として、
　　又骨咄祿毗伽爲突騎施可汗。
とし、『資治通鑑』卷216唐紀32も、
　　(天寶十二載)九月甲辰、以突騎施黑姓可汗登里伊羅蜜施爲突騎施可汗。
と述べているから、黒姓部人によって推戴された登里伊羅蜜施は〈黒姓可汗〉であったが、唐朝は彼を〈突騎施可汗〉として冊立し、承認したのであった。…
…ただその多くの〈可汗〉の中で、乾元中(758～759)に、
　　黑姓可汗阿多裴羅猶能遣使者入朝。
と、『新唐書』が記すように、〈黒姓可汗〉であった阿多裴羅Ata Buylaの名が知られるだけである。
p.99
これは〈莫賀咄屈利俟毗可汗〉Baγatur külüg ybir qaγanであると思われ、『新唐書』西突厥伝も、
　　莫賀咄立。是爲屈利俟毗可汗。
としている。
p.100
ここに見えるのは〈西面都陸可汗〉で、この都陸可汗は、莫賀咄すなわち俟毗可汗を金山で殺害した咄陸可汗と同一人物に違いなく、これこそ啜利失可汗の兄泥孰設咄陸可汗である。…
…さらに、莫賀咄俟毗可汗の大可汗自称に対して、
　弩失畢部共推泥孰莫賀設爲可汗。泥孰不從。
と『旧唐書』西突厥伝に述べられているように、泥孰設咄陸を可汗に推戴しようとしたのが西部の弩失畢部であったこと、また〈(咥力特勤)亡在康居〉と見えるように、康居ソグディアナに莫賀咄俟毗可汗の乱を逃れていた統葉護の子咥力特勤を担ぎ出して、可汗位に即けようとしたのが、その泥孰設であった(39)ことも、泥孰設咄陸可汗が統葉護時代からの〈西面可汗〉であったことを証するであろう。
p.101
(41)　處羅可汗の系統については、『隋書』西突厥伝が次のように記している。
　大邏便爲處羅侯所執。其國鞅素特勤之子、是爲泥利可汗。卒。子達漫立、號泥撅處羅可汗。
最後に見える泥撅處羅可汗が問題の處羅可汗である。かつて東突厥から、〈西面可汗〉であった達頭可汗のもとに逃入しながら、達頭に代わって西突厥を支配した大邏便(阿波可汗)を執えた處羅侯は、東突厥の大可汗沙鉢略の弟で、別人である。…E.Chavannes氏は、鞅素特勤を達頭可汗の子であるとするが(Documents sur les Tou-Kiue(Turcs) occidentaux, St. Petersburg, 1903, 北京、民国29年影印版、p.3, n.2, p.14, n.4)、従えない。またこの意見を入れ、さらに鞅素特勤をNarshahiの『ブハラ史』に見えるShir-i-Keshvar, Tabari, Ta'rikh al-rusul wal-mulukに見えるトルコ大王Shabaに比定する説もあるが(Л. Н. Гумилев, Великая Распря в Порвом, 1961, xx, Каганате в свете Византийских Источников, Византийский временник, Москва, 1961, xx, ctp.81-89)不明である。内藤みどり「トルコ大王Shabaについて」『中国前近代史研究』雄山閣, 1980年, 270～272頁(または、本書の付論Ⅳ)を参照されたい。
p.103
すなわち、統葉護可汗の殺害者莫賀咄屈利俟毗可汗に対して、弩失畢部が新〈可汗〉に推戴しようとしたのが泥熟莫賀設で、咥利失の兄であったが、彼はそれを受けず、かえって康居ソグディアナより統葉護可汗の子咥力特勤を迎えて、乙毗沙鉢羅肆葉護可汗として立てたのであった。
p.104
とすれば、泥孰莫賀設は、可汗に推戴されようとした時点では、すでに〈西面可汗〉であったのであり、阿史那家の中でも、決して〈大可汗〉に推戴されたとしてもおかしくない範疇内に位置していたのであった。ただし、西突厥の最盛期を現出した統葉護可汗の直系でなかったために、泥孰莫賀設西面咄陸可汗は、自らの大可汗就位を辞退して、直系の肆葉護可汗を大可汗に迎えたわけである。そして泥孰莫賀設が金山に莫賀咄可汗を撃って殺害したのは、もちろん莫賀咄可汗が統葉護可汗の殺害者であったからであるが、同時に、泥孰莫賀設が莫賀咄可汗直系ではないことを示し、その対立者であったことに関係があるかもしれない。
p.107
そこで唐朝は、早速、啜利失可汗を冊立するために使節を派遣したが、その使節は、兄奚利邲咄陸可汗冊立の使節でもあった劉善因であったと思われる。…
…さてここには、可汗浮図城に拠った阿史那社尒が、統葉護可汗の死後、奚利邲咄陸可汗兄弟の争国内乱のチャンスに勢力を西方へ伸張し、西突厥の半分と10万の衆を得たことが記述されている。この勢力のうち5万を率いて、社尒が旧敵である延陀への遠征を行っている間に、劉善因は啜利失可汗冊立のための旅中、たぶん、すでに伊州となっていた伊吾を経て、可汗浮図城に立ち寄ったのであった。
p.108
　そこで最後の、焉耆王突騎友すなわち突騎支が、咥利失可汗に冊立されたことについて考えてみよう。両者が同一人物でありえないことは、貞観13年(639)に咥利失可汗が抜汗那で亡くなり、その後の貞観16年(642)に、郭孝恪が焉耆征伐を行ってその王突騎支を捕虜とした(47)事実が、それを明確に証明している。しかし、それではなぜ、焉耆王を咥利失可汗とするような誤りを犯したのか。
p.109
焉耆と咄陸可汗兄弟との関係は、松崎氏が想像されているように、彼らの父莫賀設時代に遡りうるもの(48)であろう。
p.110
そしてもしそうだとすれば、この結果、咄陸可汗と弟達は、ともに焉耆に逃入したのであり、肆葉護可汗の意を受けて焉耆に対する攻撃が行われたことを含めて、貞観6年7月4日に焉耆王が唐朝に報告すると、太宗は桑孝彦と韋弘機を、おそらく同年中に西突厥勢力の衝突点であった焉耆に派遣して、両者を安撫しようとしたのではあるまいか。
…
　そこで、貞観6年8月以降の奚利邲咄陸可汗兄弟の敵対者を求めてみると、それは欲谷設、後の乙毘咄陸可汗以外には求められないであろう。乙毘咄陸可汗は、貞観12年(638)に弩失畢部に擁立されてから、啜利失可汗と激戦を繰り返し、ついに伊列河を境界として西突厥を分治し、最後に啜利失可汗を拔汗那に追放した、その人である。
p.112
　さて以上、啜利失可汗冊立の史料に見えた西突厥の内乱が、奚利邲咄陸可汗時代の内乱であったことを論証した。咄陸可汗は、肆葉護可汗の逃亡後、西突厥可汗となったが、欲谷設咄陸勢力の内乱に悩まされ、一方ではその西突厥勢力の相克の漁夫の利を得て、可汗浮図から西方に勢力を拡大した阿史那社尒の存在があり、当時の西突厥は決して統一された安定期ではなかったのである。
p.113
ここで見出される解答は唯一つ、唐朝への遣使は、唐朝との関係を密接に保つことによって、啜利失可汗の権威を高め、西突厥部衆を集めて石国の乱を鎮定することであったに違いない。そして唐朝への請婚は、咥利失の唐朝との関係をより一層深いものにして、あわよくば唐朝の援助をえようとしたのかもしれない。
p.114
すなわち、石国の乱とは、欲谷設乙毗咄陸勢力の乱だったのである。
　一方、貞観9年(635)には、欲谷設は、延陀に敗れた敗惨の阿史那社尒を可汗浮図に破り、可汗浮図城を獲得して、その葉護阿史那彌射を可汗浮図城に置いたと思われる。
…
　このように考えるならば、貞観9年における欲谷設の勢力は、すでに東西から啜利失可汗を包囲していたのである。
p.118
設sadとは、『周書』突厥伝に、
　大官有葉護、次設、次特勒〔勤〕、次俟利發、次吐屯發、及餘小官凡二十八等、皆世爲之。
として、大官中、葉護yabγuと特勤tiginの間に見えており、『通典』西突厥伝は、下段にも引用しているようにこの3官名を記して、
　常以可汗子弟及宗族爲之。
と、阿史那氏の中でも、特に可汗の子弟を含む可汗の近親者が、これらの官称を与えられたことを述べている。…
…護氏によれば、少なくとも東突厥における設sadは、阿史那氏であることを資格とし、地位的には可汗の下に位するが、可汗とは全く別の〈「封建的」領土・領民を持つ「封建的」諸侯〉(53)であるという。
p.119
〈信契とする〉とは、中国的表現であって、箭そのものは、可汗の権威、あるいはその統治権の象徴であったに違いない。
p.123
　第一段階との、もう一つの大きな違いは、10人の設sadの存在が消えて、代りに5咄陸部の5大啜curと、5弩失畢部の5大俟斤irkinが、各々かつて設に与えられていた箭を管理することになったことである…
…
　一方、tolisを鉄勒に比定されたV.Thomsen氏を受けて、F.Hirth氏はTardusを廷陀に比定し、薛廷陀をSir-Taγdusとされたが(V.Thomesen, Inscriptions de l'Orkhon dechiffrees (MSFO. V.), Helsingfors, 1896, p.146; F.Hirth, Nachworte zur Inschrift des Tonjukuk, in W. Radloff, op. cit., S. 129).
p.125
この後、4節2「啜と突陸部」で見るように、賀魯時の突陸部は、
　　処木昆部　　屈律啜
　　胡祿屋部　　闕啜
p.126
　　摂舎提部　　暾啜
　　突騎施部　　賀邏施啜
　　鼠尼施部　　處半啜
で、それぞれの首長が、可汗家である阿史那氏との婚姻関係を持っていたと思われ、東突厥可汗家阿史那氏の婚家阿史徳氏に相当するのが、西突厥では突陸部であったと考えている。…
…しかし、同じ4節3「俟斤と弩失畢部」でも見るように、弩失畢部には、賀魯時代の、
　　阿悉結部
　　哥舒部
　　抜塞幹部
の、3部が知られているに過ぎない。…後、阿史那賀魯時の弩失畢部として見える、
　　阿悉結闕俟斤部
　　哥舒闕俟斤部
　　抜塞幹暾沙鉢〔羅〕俟斤部
　　阿悉結泥熟俟斤部
　　哥舒處半俟斤部
という5部は、この時、咥利失可汗によっても弩失畢5部として認められた可能性はないわけではない。
p.130
　「鉄勒諸部におけるeltabar, irkin号の研究」をされた護氏によれば、これらは、東突厥第一帝国時代の鉄勒諸部において、〈可汗を出す部族以外の諸部の首長〉の称であり、〈比較的有力な部族の首長が俟利発を、比較的弱小な部族のそれが俟斤を〉称した、と結論されている。(58)
p.131
それは、〈俟利発(頡利発)eltabar〉については、(e)lt(a)b(a)r/(e)lt(a)β(a)r/elt(a)barはel-tabar、el-taβarの口蓋化したもので、elは〈国家・服属民〉を意味し、tabar、taβarは、〈所有する・支配する・……の持主である・……を自由にする〉を意味する動詞tab-、taβ-のaorist形であるから、eltabar>eltabar、eltaβar>eltaβarは〈一国または一民族を支配するもの〉の意である、という。(59)また〈俟斤irkin〉については、Mahmud al-Kashgariの辞典に、〈集める〉という動詞irk-から、〈すべて集められたものを、このように呼ぶ〉(I, 108)と述べられていることを指摘している。(60)…
…可汗qaγan、可賀敦qatun、直懃tiginなど、鮮卑系諸族の称号を、蠕蠕を経由して受け入れたと思われる突厥であるが、俟斤irkinもその一つであったと推察される。
p.132
この俟利発(頡利発)eltabar、iltabarの称を西域の国王に与える制度がさらに遡って求められることは、高昌王麴寶茂(555～560)が〈希利發〉iltabarを称していたことからも知られるが、また、高昌令戸の麴乾固には、〈鍮屯發〉(tudunbar?)の称も見出されるのである(62)。
p.133
彼は、啜利失可汗が十箭・十姓部落制を実施した時に、まず啜利失可汗を襲って、啜利失可汗に焉耆の確保をさせた人物として知られる。またこの統吐屯は、阿悉結闕俟斤とともに、欲谷設を大可汗に、啜利失可汗を小可汗にして、いわゆる小可汗制の回復を計った人物でもある。
p.134
また〈舎利𠮟利〉が〈吐屯〉を称していたことも知られていないし、〈舎利〉と〈社刊〉では単なる類似以下であろう。…
…そしてこれは、先述した、可汗庭における監察官としての吐屯と、部族長の称号としての俟利発とに、十分合致するものであり、大首領すなわち部族長俟利発が、可汗庭に入って監察官吐屯の職務を得たものが、〈吐屯俟利発〉であったと理解できよう。
p.135
しかし金山の北に勢力を立てた車鼻可汗は、
　　西有歌邏祿、北有結骨、皆附隷之。
と『旧唐書』同伝が記すように、金山西の歌羅祿を、抜塞匐、処木昆部などとともに付隷させていたのであって、これら諸部が、本来西突厥勢力であったことは明白である。
…
(67)　この歌邏祿の〈獲剌〉は、『新唐書』巻217下葛邏祿伝に見える3族のうちの、〈一謀落、或爲謀剌〉といわれるもの、あるいは『唐会要』卷100葛邏祿国伝の〈謀剌〉ではないかと推察される。これは、O. Pritsak, Von den Karluk zu den Karachaniden, Zeitschrift der Deutschen Gesellschaft 101, 1951, S. 271, n.3 und n.5において、Šaraf as Zāmin Tāhir Marwazīに見えるKarlukの9部族の1、Bulāqに比定されるものである。
p.136
真珠統俟斤は、統葉護直属の部族長であったように思われる。
…もちろん、処月部も賀魯の所部であり、預支俟斤はその首長でありながら、獲〔謀〕剌頡利発とともに賀魯に背反したのである。
…この牢山戦に先だって献計された駱弘義の案中に、〈願發射脾・處月・處蜜・契苾等兵……〉(『新唐書』西突厥伝)と見えるから、射脾部は処月・処蜜と並び称される天山近辺の部で、沙陀那速という名からすると、沙陀部の俟斤である。…この〈沙陀〉はまた〈朱耶〉ともいわれるが、
⑤　賀魯來降。……處月朱耶闕俟斤阿厥亦請内屬。(同前)
と、貞観22年(648)4月の賀魯の來降時に、ともに内属した朱耶闕俟斤阿厥も、処月の別部の首領であったと思われる。
p.137
この時賀魯とともに立った処月・処蜜軍の司令官は、処蜜部の時健俟斤合支賀であった。
…
　さて、咄陸部のうち、最も有力な処木昆部の首長屈律啜は、ここでは賀魯と行動を共にしているのであるが、その前に、少なくとも万余帳を擁する処木昆部の俟斤嬾獨祿の蘇定方軍への来降が記されていたのである。さらに前述の、貞観23年における処木昆莫賀咄俟斤の例⑧を加えると、処木昆部には、少なくとも屈律啜と莫賀咄俟斤、俟斤嬾獨祿の、3首長の存在が認められる。(68)

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何度でも生き返る兵士が死ぬ前の経験と知恵で名手に、ピッコマ新連載「四流武士」
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=86&from=diary&id=6587654

HWANG SUNGによる新連載「四流武士」が、本日7月11日にピッコマでスタートした。

「四流武士」の舞台は、突厥族（とっけつぞく）が北方を脅かしている戦国時代。主人公・清風は、軍役を代行させる戦闘用の奴隷・軍奴として戦場の最前列に立たされていた。敵軍との戦闘の中で、槍に突き刺され死んでしまう清風。しかし、彼が目を覚ますと戦場に赴く前の状態で生き返っていた。何度死んでも生き返る清風は、死ぬ前の経験と、蘇るたびに伝授される武当派の師父からの知恵と技によって、武林の名手になっていくのだった。連載は今後、毎週日曜日に2話ずつ更新される。

(c)HWANG SUNG

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