大腿骨頭。膝から足の付け根までを貫く大腿骨の上にあり、骨盤と組み合わさっている部分です。ここをやられると、人間は歩けなくなります。老人の寝たきり原因のトップ争いしている部分です。
ここが複雑骨折しました。
あと20年遅かったら、骨の再生能力アウトで寝たきり→衰弱死レッツゴーです。しかも折れた骨の下部分が上部分に突き刺さってるという、MRI画像を見て「ナニコレ」と絶句とするしかない、もの凄い大怪我でございました。
原因？道歩いててて・コケて・縁石に・患部に・全体重が当たった、それだけ。本っっ当――にそれだけ。
大腿頭部はとても折れやすく繋がりづらく、ただし普通なら骨の形のそのままでコツン、と折れる場所です（単純骨折）。それだと、まあ70歳くらいまでは「固定した手術の次の日からリハビリで歩かされる苦行が待っている」のが有名なんですが‥‥
私もその一種だろ？と軽く見てたらとんでもなかった。少しでも体重を掛けたらまた突き刺さる可能性があるので、１ヶ月近くも折った足を地面に付けるの禁止。
***
運よく血管と神経が骨折に巻き込まれずに綺麗に繋がっていたので（※）、主治医は最後まで迷ってましたが、上下の骨を強引に繋げるだけの手術で済みました。
なんでこんな大事に‥‥
原因は道でつまずいて転んだだけ。自損事故でここまでの大事になるなんて、誰が想像するよ。
こういう物理的な身体故障は、捻挫とか、最悪でも小骨にヒビとか、レントゲン撮って痛み止めもらって、自然に治るのお待ちなさいな的な経験しか無かったんですよね。それがこんな大怪我とか、さっぱり意味が分からない。
****
コケた理由は自分で分かってます。頻繁に色々な所で転んでは大痣や擦り傷や小さい骨のヒビを作ってたからね。
右足首の捻挫癖に加えて、一月から左足親指のウイルス性イボを治療で、液体窒素で焼いて激痛水疱あり。そして本人は健康なつもりで、週5日の立ちっぱなしフルタイム仕事をこなす日々。
なんかよく転ぶなあ、右足と左足で別な場所に痛いところがあるのが原因かなぁ？と首を傾げつつ、貴重な休日に、近所の席亭で落語を楽しんだ後。コケた。
つまりは右足も左足も、相棒の故障をカバーできるほどのキャパがなかった。
「転んだ拍子に」「全体重が」「縁石の角に」、大腿骨の一番折れやすい場所がヒット。大腿骨の形を画像検索で見てみて下さい。折るならココだ的な凄ぇ場所があるから。
さらに、まさか転んだくらいでボッキリ骨折とかナイナイという思い込みが邪魔をし（純粋に物理的な傷病には弱いです薬剤師。縁がない）、通行人の皆様に「大丈夫です！」と手を振って立ち上がろうとしたら。
あれ、立てない。
え？立てない？
立てないって何がどうなってるの？？
藻掻きながらポカン、としてたら、その路地は短い上にどん詰まりに交番がありまして。運よくお巡りさんが見ていて駆けつけてくれまして、事件性ゼロと判断しながら救急車を呼んでくれまして。
救急車キライなんだよ、どんなに苦しくても居たくても意識があると名前から職場の住所まで聞きやがるから。と思っている間に、理屈は分からないけどブラックアウト。
次に意識を取り戻した時には、区立総合病院の土曜日の宿直だった先生と対面でした。既にレントゲンやMRIの撮影済み、リュックのポケットの財布に入れていた保険証は提出済み、老々介護してる両親にここまで来させるのは無理だと説明済み、なによりも翌日から出勤できないと職場に連絡しなきゃいけないことを自力で伝達済み。
覚えてねえ‥‥‥
覚えてないんだが、その上で痛くなかった。ジョークを交えながら医師に仔細を話してた。これ、不思議に思っていた回答は、一ヶ月後の「救急搬送→そのまま入院→そのまま手術」を経ての『６月分医療明細書』で判明しました。
病院とか薬局で、領収書の他に明細書を貰いますでしょ？あれはどんな処置をどんな健康保険の基準に基づいて行ったかの説明書なんです。専門用語が多いので、どうせ渡しても理解できんべ？的な欺瞞を感じますが、こちとら同業者なんだよ。
畜生、救急搬送かけられた数時間後には部分麻酔を使われておった。下半身が痛くないだけで、それ以外は明瞭な感覚と考察が働いてる薬の組み合わせだよ。私はそれに踊らされて、ペラッペラ喋っちまってたんだよ。
あ――‥、スパイにはなれませんねこの身体。ははは。
****
別に国家秘密を抱えている訳ではないので、それは別にいいんですが。
問題は、かなり難儀な折れ方をした大腿骨頭でした。後に、「ここが折れやすいの、四つ足歩行だった頃の名残りなんだよねぇ。人間なかなか進化しない」とは理学療法士の先生のお言葉。
ただし、転んだ弾みにここを折って寝たきりになる老人はめっちゃ多いのですが、まだ中年なのに折った挙句に下部分が上部分に突っ込んで複雑骨折になっちゃったてのは流石に珍しいらしい。
ここで運命の分かれ道。
主治医になってくれた先生が、下の骨を引っ張り出して単純骨折と同じように金属ボルト固定するか、人工骨頭に入れ替えるか、もう悩む悩む。両方の手術同意書（人工骨頭ver.には輸血承諾書付き）にサインさせられたもん。
痛いし朦朧とするし、なすがまま〜な私ですが、ここで人工骨頭にされてたら、かなりの率で再起不能でした。人工骨頭の場合、骨頭下部の骨髄をぐりっとえぐって人工骨頭の下部をぷっこんで、上部は完全に本来の骨と入れ替える。もう今までのように歩くことは一生できません。
前もって知ってたら、「いっそ殺せ」とほざいたかもしれませんが、これがまた運よく、今回は上下の血管と神経が損傷なく繋がっていた。めり込んだ下の骨を引きずり出して上の骨ときっちり合体させれば、単純骨折と同じように金属ボルトで留めるだけで繋がる可能性がある。
老人なら諦めるがまだ中年だ→骨の再建もリハビリの耐性もそこそこ見込める→いっちょ再建方法でやってみよう。という理由で、ボルト方式に寸前で決定。
その為に使われた、下の骨と上の骨を正常位置の近くにまで嵌めるための牽引器具の苛烈さを‥‥いや、愚痴っちゃいけないな。固定具を付けたふくらはぎの皮は何ヶ所もズルズル剥けるわ膝の関節は抜けそうになるわ。見たかったらグロ写真上げるよ。
皮膚とゴム素材の摩擦力で骨を牽引しているこの器具は病院的にもあまり出番がないらしく、装着時には時間外労働の主治医と一緒に、深夜に8人くらいであーだこ―だしてました。『働き方改革』で医師と同じように残業を減らされた私は「先生残業ゴメン畜生痛いよゴメン」「看護師の方達は時間外だったらスマンしかし助けてくれ皮がズル剝けてるよ痛いスマン！」と内心で叫びながら必死で耐えてました。丸４日。
****
で、単純骨折なら部分麻酔で１時間で終わるところ、全身麻酔で4時間くらい掛かったOpe。
全身麻酔の特徴は、醒める直前に見た夢が恐ろしく現実に感じてしまう事なんだそうですね。
怪我の数週前に、職場の入っているビル全体がいきなりブレーカー劣化落ち停電になった地獄を見た私は、目覚めるなりいきなり「サーバー！非常電源！サーバー機生きてるよね！？」と叫んだそうで‥‥‥
正気に戻ったら、なんか麻酔医と看護師さんたちが、びみょーな顔で笑ってました。まだ夢と現実の区別が付いてない私は、夢の中の職場に存在する来局者の迷惑にならないかが気になりすぎて、痛いとか苦しいとか全然感じなかったです。
「患者さん」「停電が」「薬渡せない」と、酸素マスク越しに無意味な訴えを繰り返す患者の周りには、全麻に慣れた医療関係者ばっかり。カルテで私の職業を知っている皆様は、そりゃうもう笑うしかないでしょう。
麻酔医「いいから酸素吸いなさい」
久「あ‥‥このマスク、酸素吸入ですか？鼻に突っ込まれてないけど」
「そこまで酷い状態じゃないよ」
「バイタル見せて下さい。SPO2…96。マスクでいけますねハイ黙って呼吸します」
「やりづらいねぇ、同業者」
「お互い様ですよー。先生が私の薬局に処方箋持ってきたら、どんな不摂生してるか言い当てます」
「あ、俺、フェブリク飲んでる」
「尿酸値か。痛風発作はないですか？じゃあビールやめてハイボールにすりゃ、かなり改善しますよ」
「え、ホント！？」
看護師さんがまた笑ってる。
外から見える切られ口は、太腿外側に５�僂�らい。変なことが幸いして、もう何年も拒食症をやってるので、切り開かれるのは皮膚とちょっとした筋肉のみ。傷口の治りは速かったですねー。傷口だけはね。
上でも言いましたが、単純骨折だったら部分麻酔で翌日から歩行訓練が始まるような物理損傷なのに、あれこれの事情で患部に３週間の体重掛け一切禁止（まためり込むから）。
これが思いもかけない悲劇に繋がった‥‥
長いので分けます。
※アル中の人はこの部分の血管損傷や骨粗鬆症が多く、回復不可な粉砕骨折に至る可能性が高いというのを、後日知りました。
主治医の先生‥‥私のアル中を疑ってたんすね‥‥そこまでは吞んでません、つかγGTPの値それほどじゃないやん！
ただ、酔っぱらってまた転んで再骨折した場合は今度こそ案件なので、それは十分に気を付けます。マジで気を付けます。
ログインしてコメントを確認・投稿する