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2018年07月01日21:56

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生きる場所のつくりかた[読書日記680]

題名:生きる場所のつくりかた 新得・共働学舎の挑戦
著者:島村 菜津(しまむら・なつ)
出版:家の光協会
価格:1400円+税(2013年5月 第1版発行)
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北海道の『新得・共働学舎』の成り立ちや活動を描いたレポートです。
著者の島村菜津さんはイタリア発祥の「スローフード」を紹介した方で、私も『スローフードな人生!』という本を手に取ったことがあります。

目次を紹介しましょう。
 序 章 自然の中でこそ、息を吹き返すものがある
 第一章 石川さんの数奇な人生
 第二章 心を身体をリセットする場
 第三章 みんな違ってみんないい社会をつくるには
 最終章 ここに世界を変えるヒントがある

序章に、共働学舎を興した宮嶋眞一郎さんの言葉が引用されています。
“1973年、小谷村での翌年の出発に際して、眞一郎さんがしたためた『共働学舎の構想』は感動的である。
 元熱血教師は、教育の荒廃を深く憂いていた。
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 教育の目的や体制がこの競争社会で有力に生きる人間を育てることに偏っているので、自分の名誉や利益を第一とし、
 資格や見栄を重んずる人間は多く生まれても、他を重んじ、他と協力して生きようとする人間はなかなか生まれてきません。
 しかもごく少数の高い能力を持つ人間を出すために教科課程にしばられている現在の学校教育では、人間性豊かな愛深い
 人間が育つ可能性は少ないでしょう”(13p)
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この宮嶋眞一郎さんが興した『共働学舎』を引き継ぎ、軌道に乗せたのが長男の望さんですが、それもすんなりと引き継げた訳ではないそうです。
また、『共働学舎』はふつうの農場ではありません。
“『共働学舎』は、ただのおいしいチーズを作る農場ではない。もちろん、チーズ作りを学びたいとやってくる研修生もいるが、心や身体に障がいを持つ人、不登校、引きこもり、前科のある人、いろんな人たちが、そこで自分のペースで働いている。
 望さんは、ある時、「基本的には、やってきた人たちは、断らないことにしているんだ」と私に語ってくれた。”(69p)

【第二章 心を身体をリセットする場】には、長男:望さんと父親との葛藤も描かれていますが、私が興味を持ったのは望さんの科学的アプローチでした。
“うつ病や心の不安定さというものを、望さんは、かなりの部分、生活する環境を整えてやることで改善に向かわせることができるのではないかと考えている。
「都会で暮らす子供の住環境も、食環境も、そして水環境も、どうもうつになるような条件がそろっているんだよ。おまけに電磁場の乱れたところが多い。
 そんな環境では、人間は、生命エネルギーそのものを奪われている。すると意欲もなくなるし、思考するゆとりが生まれない。情報処理や決断ができない」”(98p)

そんな理由から、共働学舎の農場を「生き物がすべからく心が落ち着く場」にするために、建物の内装を徹底して自然素材にするなどしているそうです。
中でも、地中に炭を埋める工夫については、驚きました。
その部分を引用します。
“望さんの炭へのこだわりは、今に始まったことではない。
 そもそもスイッチが入ったのは学生時代で、大槻虎男という微生物学者から、昔、岩手県平泉の中尊寺の藤原氏四代の墓には、五〜六トンの炭が埋めてあったと耳にしたのが最初だった。
 「ミイラの湿度調節と防腐剤だよね。古代から炭の効果はよく知られていて、俺の炭埋(たんまい)の師匠、伊藤孝三先生によれば、福井県勝山市遅羽町の三室遺跡の発掘からも大量の炭が見つかっているんだ。これは縄文遺跡だからね。
 これによって、日本では、縄文時代から炭を埋める技術があったことが明らかになった。」”(100p)

【第三章 みんな違ってみんないい社会をつくるには】では、心や身体に障がいを持つ人との接し方などが語られており、大変勉強になりました。
たくさんの知見があるのですが、ここでは自閉症についての言葉を引用します。
“「自閉症の子供は、相手には、ただの "言葉の通じない外国人のような存在" なんですよね。つまり、知っている、知らない、ではない。病気か、病気でないか、でもない。能力のあるなし、でもない。
 最終的に必要なものは信頼関係なのだと思うんです」”(151p)

ある障がい者の数奇な人生のこと(第一章)、共働学舎を運営する上での様々な工夫(第二章)、障がい者が働ける場のあり方(第三章)など、盛り沢山な内容で、やや消化不良な部分もありましたが、新しい視点から物事を考えることができました。

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島村 菜津(しまむら・なつ)
ノンフィクション作家。1963年長崎県生まれ、福岡県育ち。
東京藝術大学美術学部芸術学科卒業後、イタリア各地に滞在しながら、雑誌に寄稿。98年、ヴァチカンのエクソシストらに取材した『エクソシストとの対話』で21世紀国際ノンフィクション賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞受賞。
著書に『スローフードな人生!』『スローフードな日本!』(以上、新潮文庫)『バール、コーヒー、イタリア人』『スローシティ』(以上、光文社新書)、『スローな未来へ』(小学館)、『エクソシストとの対話』(講談社文庫)など。

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