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2016年12月03日10:53

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なぜ飼い犬に手をかまれるのか[読書日記604]

題名:なぜ飼い犬に手をかまれるのか 動物たちの言い分
編者:日高 敏隆(ひだか・としたか)
出版:PHPサイエンス・ワールド新書
価格:820円+税(2009年10月第1版第1刷発行)
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動物行動学者:日高敏隆さんのエッセイ集です。
本の前半「動物たち それぞれの世界」は中日新聞に掲載されていたコラムから。
後半の「動物の言い分、私の言い分」は京都新聞に掲載されていたものです。

日高さんの名前を初めて知ったのは、弟子の竹内久美子さんの本でした。
面白い本を書く竹内さんの師匠にふさわしく、虫たち、動物たちの生態を軽いタッチで紹介した内容です。
著者の視点が分かる文章を「まえがき」から引用します。
“動物のことを長年研究してきたぼくは、人間も動物のなかの一つの種と見ている。人も動物もあまり変わらない、よく似ている点が見えてしまう。人が動物と異なることのひとつは、ある「問題」行動をとった後で「屁理屈をこねて」自己を正当化してしまうことである。いわゆる「後知恵」である。
もっとすなおに「自分の誤り」を認めてしまったほうがどんなに楽かと思うのだが……おっと、ぼくも人の一員か”(5p)

さて、動物行動学者ならではの博識が分かる文章を3つ引用します。
1.
「冬の越しかた」から、真冬の雪上を歩く虫の話。
“虫たちの冬の越しかたに関心をそそられるようになってから、ぼくがいちばん驚いたのは、セッケイカワゲラという虫の生活であった。真夏の山の雪渓の上や、真冬の低い山の雪の上をちょこちょこ歩いている体調一センチぐらいの虫である”(18p)

セッケイカワゲラについては、「冬の寒さを意に介さない虫たち」(55p)でも紹介されていて、この虫が雪上を歩く理由を次のように説明しています。
“雪の日は雪の中にかくれ、晴れた日には太陽コンパスに導かれてひたすら沢の上流を目指して雪の上を歩く。
 それは幼虫の間に流されたぶんをとり戻して、できるだけ上流に卵を産むためである。小さな虫でも雪の上は歩きやすいのだ”(55p)

2.
また、誰もが知っているホタルについても、「ホタルといえば水」という考え方が間違っていることを指摘しています。
“そもそも「ホタルといえば水」というのは、日本独特の発想といってよい。世界には約二千種のホタルがいるとされているが、その大部分は幼虫が陸上にすんでいる。
 日本にいる四十五種ほどのホタルのうち、幼虫が水の中で育つのは、ゲンジボタルとヘイケボタルだけである。いや最近沖縄でもう一種みつかったというから、それを合わせて三種”(33p)

3.
「カラスは賢いか」を検証した文章も秀逸です。
実験で、同じタッパーを2つ用意し、両方にカラスの好きなドッグフードを入れます。
フタを開ければ、すぐ食べられる方に「〇」を付け、フタを開けても内ブタがあって食べられない方に「×」を付けて、実験は始まります。
カラスは二、三日で「〇」の方が食べられることを学習するそうですが、面白いのは、その続きです。
引用します。
“次に×を△に変え、△と○を区別できるかを見ると、カラスは三日目には△と○を区別できるようになる。
 そこで△を□に変え、さらに□を五角、六角と多角形に変えて、次第に○に近づけていく。するとカラスは、二十四角形という人間でも○と区別しにくい印でも、ちゃんと区別してしまうことがわかった”(103p)

そのほか、貧弱な垣根(シシガキ)でも、イノシシの被害を防げる理由(142p)や、熱帯マレーシアより日本の夏の方が暑い話(247p)など自分の知らない知識満載の興味深い内容でした。

虫好き、動物好きの私には、とても楽しく読めました。
日高さんは2009年に鬼籍に入られていますが、その学識や思想はお弟子さんたちに引き継がれているように思います。

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日高 敏隆(ひだか・としたか)
1930年東京生まれ。京都大学名誉教授。理学博士。東京大学理学部動物学科卒業。
東京農工大学教授、京都大学教授。82年に創設された日本動物行動学の初代会長。滋賀県立大学学長、総合地球環境学研究所所長を歴任。
著書に『チョウはなぜ飛ぶか』(岩波書店)、『春の数えかた』『セミたちと温暖化』(以上、新潮社)などがあり、訳書にドーキンス『利己的な遺伝子』(共訳、紀伊國屋書店)ローレンツ『ソロモンの指輪』などがある。


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