題名：人生に美を添えて
著者：大村 智（おおむら・さとし）
出版：生活の友社
価格：2000円＋税（平成27年10月第２刷発行）
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2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智さんが美術について語られた本です。
８月に山梨県の韮崎大村美術館に行った時、美術館で販売していました。
この本を読むと、大村さんは病気の患者の心を癒すヒーリング・アートに若い頃から関心があったことが分かります。
大村さんの勤務されていた北里研究所が設立した、北里大学メディカルセンターのホールには絵が飾られているそうですが、その経緯を次のように書いています。
“埼玉県北本市にある北里大学メディカルセンターは、北里研究所創立75周年の節目の年でもある1989年にスタートしました。私の研究成果により得た特許料をもとに、事業を展開した病院です。
20世紀は科学技術が急速に進歩しましたが、心の問題が取り残されました。21世紀は心を大事にする病院が必要です。（略）
私はナチスドイツのアウシュビッツ収容所から奇跡的に生還したオーストリアの医師ヴィクトール・フランクル博士の、「芸術は人々の魂を救い、生きる力を与えてくれる」という言葉に深く共鳴しました。そこで病院のエントランスホールはコンサートを開けるように音響効果を考え設計し、グランドピアノも用意しました。
また、院内の壁には絵を飾れるようにしました。これからの病院は病気を診断し、治療するだけでなく、心を癒す機能があるべきだと考えたのです”（12p）
また、大村さん自身も美術好きが嵩じて、仕事で海外に行った時も、必ず美術館巡りをするそうです。
“こんな感じで、トータルすれば90数回、外国に行っているわけですけれど、現地に着くと一番先にやることは、まず日本食のレストラン、それから美術館の場所の確認です。
それからビジネス、学会なのです（笑）。よほど絵が好きなんだと自分でも思います”（61p）
美術館の通路にも、大村さんが今までにご覧になった美術展のカタログや画集がたくさんあり、「昔から絵をご覧になっていたんだ」と実感しました。
最後に、韮崎大村美術館の自慢を大村さんは次のように書いています。
“そしてこの美術館のもう一つの良さは、景色です。２階からの眺めが抜群にいいと言われています。実はそれは私が意識したことなんです。（略）
八ヶ岳連峰をはじめ、茅ヶ岳、奥秩父連山、そして富士山が一望できるところはそうはありません。しかも八ヶ岳の姿をシンメトリカルに裾野まで見えるなんていうところは、あの辺りだけなのです。
美術館建設の際、２階の高さをどうするかという時、業者に櫓を組ませて、私自身が上り、このレベルに床を貼る設計にするようにと指示しました。目線の高さが抜群なわけです”（122p）
仕事で大きな成果を上げ、私生活（余暇）も美術で充実…と、とても良い人生を歩まれてきた方だと羨ましくなりました。
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大村 智（おおむら・さとし）
山梨県生まれ（昭和10年）。東京理科大学大学院理学研究科修了（昭和38年）。
山梨大学文部教官助手（昭和38年）、社団法人北里研究所入所（昭和40年）、北里大学薬学部教授（昭和50年）、北里研究所理事・副所長（昭和59年）を経て同所長（平成2年〜20年）。
この間、北里大学北里生命科学研究所教授（平成13年〜19年）、大学院感染制御科学府教授（平成14年〜19年）、学校法人女子美術大学理事長（平成9年〜15年、同19年〜27年）を兼務。
現在、学校法人北里研究所顧問、北里大学特別栄誉教授、北里大学北里生命科学研究所天然物創薬推進プロジェクト・スペシャルコーディネーター、女子美術大学名誉理事長。
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