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2015年12月28日00:03

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『射手と双子の嬉し恥ずかし思春期日記』第4話

最終話です。

『射手と双子の嬉し恥ずかし思春期日記』

第4話:赤ちゃんはどこから来るの?

 サガがアイオリア・アイオロス兄弟と一緒に共同食堂で夕食を食べている時だった。
「あのね、兄ちゃん。今日、ステロペス先生の家に赤ちゃんが生まれたんだ」
 ミートボールのトマト煮を食べながら、アイオリアはその日一日にあったことを兄に話していた。
「ああ。あの学習館のステロペス先生な」
「うん。そう。それでみんなで赤ちゃんを見に行ったんだ。すっごいちっちゃくて、くしゃくしゃだった!」
 そしてアイオリアは幼い子供の無心さで、子供が一度は思うであろう疑問をサガに聞いた。
「ねえ、サガ。赤ちゃんってどこから来るの?」
 その途端、アイオロスの鉄拳がアイオリアの頭に落ちた。
「バカッ!アイオリア!サガになんてことを聞くんだ!」
「びえぇぇぇーん!兄ちゃんが殴ったぁぁぁっ!」
 スプーンを右手に持ったまま、アイオリアは涙を流して盛大に泣きだした。食事をしていた他の大人たちの目が泣きわめく子供に集中する。
「アイオロス、何も殴ることはないだろう」
「だけど、サガ。サガにそんな…、そんなこと…」
 そんないやらしいこと、と言いかけて、アイオロスは口をつぐんだ。「いやらしい」連想を自分がしたと、サガに知られたくなかったのだ。「いやらしい」ことをサガ相手に言葉にするのも、気が引けた。
「ほら、アイオリア、泣かないで」
 サガが優しくナプキンでアイオリアの涙をぬぐい、鼻水をふく。
「うう…えっぐ…」
 サガになだめられ、ぐずぐずとアイオリアが泣き止む。
「アイオリア、何でそんなことをサガに聞くんだ。兄ちゃんに聞けばいいだろ?」
「…だって、兄ちゃんよりサガの方が頭が良さそうなんだもん…」
 理不尽な兄の暴力に不機嫌そうな顔をしながらアイオリアが答える。素直すぎるその答えに、ぷっとサガが噴き出した。
「サガも知らないの?」
「いや。うーん、アイオリア…」
 と、しばらくサガは考えた。
「じゃあ明日、赤ちゃんができるところを見に行こうか」
「…え!?」
 サガの言葉に驚いたのはアイオロスだった。
「本当!?」
 アイオリアの方は好奇心で目をキラキラとさせて喜んでいる。
「本当だ。明日の昼頃、迎えに行くから」
「やったぁ!」
 無邪気に喜んでいる弟と友人を、アイオロスはかける言葉もなく呆然と眺めるのだった。

 その日の夜、アイオロスはまんじりともせず一晩を過ごした。
『赤ちゃんのできるところを見に行くって…。娼館にでも連れていくのか?いやいや、サガに限ってまさかそんな場所に…。だいたいアイオリアには早すぎるだろう!サガがそんなことするわけが…』
 とベッドの中で悶々と思い悩みながら夜を明かしたアイオロスは、次の日の午前中の執務を、ほとんど上の空で過ごした。
「アイオロス、アイオリアを迎えに行こう」
 昼休みになると、サガがアイオロスに声をかけた。
「えっ!?あ、あの…赤ちゃんができるところを見に行くって話…?」
「そうだ」
「ほ、本当に行くのか、サガ?」
「約束は守らないとな」
 と言って十二宮を下りたサガは、訓練場でアイオリアと合流した。
 どこに連れて行くつもりだろうと悩みながら、サガと彼と手をつないだアイオリアにアイオロスも同行した。
 そしてサガがアイオリアを連れて行ったのは、聖域にある家畜を飼育している牧場の一角だった。
「こんにちは」
 サガが牧人たちに挨拶をする。
「あ、こんにちは、サガ様」
「今日、牛の種付け作業をすると聞いたのだけれど、アイオリアに見学させていいかな」
「いいですよ。あっちの小屋でやってますから」
 ウモォ〜、モオ〜、と盛大な牛の声がする家畜小屋を牧人が指差した。
 中に入ると、薄暗い小屋の中に木柵で囲われた一角があり、そこに雌牛がつながれていた。ひときわ体の大きな雄牛が鼻に通された綱を引っ張られて連れてこられる。雌牛の背後に立った雄牛は、雌牛のお尻の匂いを嗅ぐと、がばっとその背の上にのしかかった。荒く熱い雄牛の鼻息と鳴き声が小屋の中に立ち込める。
「うわ〜」
 初めて目にする光景にアイオリアが目を見張った。
「雌牛の体の中には卵子、雄牛の体の中には精子という、赤ちゃんのもとになる細胞があるんだよ」
 眉一つ動かさず、サガがアイオリアに淡々と説明していく。
「それでこうして交尾させてね。卵子と精子が雌牛のお腹の中で出会って一緒になると、受精という現象を起こして、それが雌牛のお腹の中で赤ちゃんになるんだ」
「そうなんだ〜」
 アイオリアはサガの説明にしきりに感心しながら牛の交尾を見ていた。
「アイオリアも大人になったら、精子が作れる体になるよ。そうしたら、赤ちゃんを作れるようになる。でもそれは好きな女の人と、こっそりやるんだよ。人に言ったりしてもいけない」
「うん!」
 感心と納得で、サガを見上げるアイオリアが目を輝かせる。
 やがて交尾を終えた雄牛と雌牛が引き離され、牧人に引かれて雌牛が小屋から出ていった。
「これであの雌牛に赤ちゃんができたよ。十か月後くらいには仔牛が生まれるかな」
「サガ、仔牛が生まれたら、見に来ていい?」
「いいよ。また来ようね」
「うん!」
 やっぱりサガは優しくて頭が良くて大好きだ、と、アイオリアはにこにこしながら思った。ちなみにアイオリアはサガが綺麗なのも大好きで、やはりそこはアイオロスと似たもの兄弟であった。
 弟と手をつないで牧場を後にするサガの後ろ姿を、アイオロスは複雑そうな顔で眺めていた。
「どうした、アイオロス?ずっと変な顔をして」
 自分たちについてきたもののずっと無言だったアイオロスを振り返り、サガが不思議そうな顔をする。
「いや…その…なんというか…」
 自分の頬をかき、ごにょごにょとアイオロスが言う。連れて行かれた先が娼館でなかったのは良かったとして…。
「サガがあんなことを言うなんて…。なんか、すごく冷静だし…」
 アイオロスの言葉にサガが透明感のある笑顔を向けた。
「赤ちゃんはコウノトリが運んでくるとでも言うと思った?私だって、赤ちゃんの作り方くらいは知っているよ。それに去年、座学でやったじゃないか」
「…そうだけど…。なんていうかさぁ…」
 サガっておれが思ってたイメージとは違うかも…と戸惑うアイオロスだった。彼の想像するサガは、「子供の作り方」など尋ねられたら真っ赤になって恥じらって口ごもってしまうような、うぶで清純な少年だったのだ。
「種付け作業なんて、アイオリアに見せて良かったのかなぁ。まだ早くないか?」
「あんなもの、ここでは珍しくないだろう?牧場で働いている人たちの子供とか、もっと早くから見てるしね」
「すっごい楽しかった、サガ!」 
 アイオリアが明るい声でいう。サガが自分の疑問に真摯に向き合ってくれたことが嬉しいのだ。
「牛の赤ちゃんが生まれるの、楽しみだね!」
「そうだね。きっと可愛いだろうね」
 軽い足取りで帰っていく弟と、彼と手をつないだサガの後ろ姿を、複雑そうな眼差しで見ながらアイオロスは二人の後についていった。
「サガ…サガはさぁ…」
 少し足を速めてサガに追いついたアイオロスが彼に声をかける。
「なに?」
「…なんでもない」
 アイオロスは黙った。
 「赤ちゃんを作るようなこと、サガは女の人としたことはあるの?」とは、聞きたくても聞けなかった。
『そんなこと…サガがしてるわけない!今日のこれはただの知識だから!本で読むのと一緒だから!』
 そう自分に言い聞かせてみたものの、かつて仲間たちにからかわれた言葉がアイオロスの脳裏に浮かんだ。
『サガ様が好きなら、やっちゃえば?』
 その言葉を思い出し、かあっと頭に血の上ったアイオロスは首を勢いよく横に振った。
『だめだめ!そんなことを言ったら、サガに嫌われる!サガは、そんなことはしない!サガにそんなことをしちゃだめなんだ!』
 歩きながら赤い顔になってぶんぶんと頭を振っているアイオロスに、サガがいぶかしげな声になる。
「…どうした、アイオロス」
「え、いや、なんでもない!」
「そうか?顔も赤いし…」
「なんでもない!なんでもないから!」
 そうして自分を必死にクールダウンさせようとしながら、アイオロスは不思議そうな顔をするサガとはしゃぐアイオリアと一緒に帰っていくのだった。

<第4話・完>

終わり

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