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2015年12月27日00:46

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『射手と双子の嬉し恥ずかし思春期日記』第3話

『射手の双子の嬉し恥ずかし思春期日記』

第3話:エロ本を隠せ!

 その日、座学を終えたアイオロスは、皆と約束していた場所へと向かった。森の中にある、そこだけ木の生えていない小さな空間は、彼と彼の仲間にとっての秘密の隠れ場所だった。
「あ、アイオロス様が来た!」
 下生えの草むらに座り込み、何かを覗き込んでいた候補生たちが顔を上げた。
「悪い、遅れた?」
「おれたちも今、来たところですよ」
 集まっているのは、アイオロスがまだ候補生だったころに同じ教官に指導を受けていた先輩の聖闘士たちや、同門に当たる同じ年頃の候補生たちだった。
「それでは、今月発売の新刊だ!」
 そう言って一番年かさ(といってもまだ十八歳だが)の青銅聖闘士が持参したかばんから雑誌を数冊とりだした。
 裸の女性たちの写真が掲載されているそれは、いわゆる成人向け雑誌だった。
「うおお〜!」
「すげ〜!」
 少年たちが目を輝かせて広げられた雑誌を覗き込む。
「やっぱり外の女はいいよな〜。なんつーか、おしゃれ?聖域の女はごついし、日に焼けてるし、ださいしさぁ」
「女聖闘士は仮面だしな。ってか、怖くて近づけねーよ」
「なぁ、どの女がいいと思う。おれはこの金髪!」
「ばっか、こっちの栗毛だろ。やっぱ女は胸だ!」
「おれは尻!」
「おれは太ももかな〜」
 そう好き勝手に言い合いながら、少年たちはページをめくっている。実際のところ、女の良し悪しなど、彼らにはまだ分からない。ただなんとなく、背伸びをしてみたい年頃なのである。
「アイオロス様はどれが好みですか?」
 候補生の一人にそう尋ねられたアイオロスも、
「う〜ん、おれは彼女かな。色が白いし」
 と言って一人のモデルの写真を指差したが、本気で彼女に惹かれたわけではなかった。どの女性を見ても、
『…なんか、サガの方が綺麗だなぁ…』
 と思ってしまうのが今のアイオロスの本音である。
「色白が好きなんですか?」
「ってか、アイオロス様はあれでしょ?サガ様がいいんでしょ!」
 その言葉に、アイオロスの顔は耳まで赤くなった。
「え、図星ですか?」
「そりゃそうだよなー。サガ様って、そこらの女よりずっと綺麗だもん」
「髪もつやつやで長いし、色も白いし、肌もすべすべでそばかす一つないし…」
「アイオロス様、サガ様とずっと一緒にいるもんなぁ。あんな人が側に居たら、並の女なんか目に入らなくなるって」
 うんうんと皆がうなずいて言い合う。
「バ、バカを言うな!」
 赤面したまま、アイオロスは調子に乗って彼をからかい始めた候補生たちを怒鳴りつけた。
「サガは男じゃないか!」
 その言葉に、年かさの青銅聖闘士がにやにや笑ってアイオロスの肩を叩いた。
「知らないんですか、アイオロス様。男同士でも、愛し合えるんですぜ」
「…え?」
 思いがけない言葉にきょとんとなったアイオロスの耳元に、彼はささやいた。
「…こうして…あそこを使って…」
 ごにょごにょとアイオロスに内緒話をする。
「…それ、本当…?」
 驚いたアイオロスに、彼はうなずいた。
「聖域は女が少ないですからね。男同士でやってる奴ら、結構いますよ」
「…そうなんだ…」
 男同士でもできるのか…と、初めて知った事実に衝撃を受けてうなっているアイオロスを、年長者たちはそそのかした。
「だからアイオロス様も、サガ様が好きなら遠慮なくやっちゃえばいいんですよ。オリーブオイルはサガ様の家にあるだろうから、今夜にでも家に行っちゃえば?」
「避妊具があったほうがいいなら、おれのを譲りますよ」
「行っちゃえ、行っちゃえ!」
 調子に乗った候補生たちがはやし立てる。
「ち、違う!そんなんじゃないって!」
 アイオロスは手を振って必死にサガへの気持ちを否定した。
「サガはおれの大切な友人だ!そんなやらしい気持ちじゃない!」
「え〜、そうなんですか?」
「そうだよ!だいたい、サガにそんなことを言ってみろ!怒られるぞ!」
 その言葉に、ああ〜と周囲はため息混じりに納得した。
「サガ様…潔癖そうだもんな」
「清らかで、性欲なんかないって顔してるし…」
「ゲレツだ!とか言って怒りそう」
 候補生たちの言葉に、アイオロスも力強く同意を示した。
「そう!そうだよ!サガにそんなことをしたいって冗談でも言ってみろ。おれは絶交されちまう!お前らも、そんなことは絶対にあいつに言うなよ!」
 念押しするアイオロスに、候補生たちもうなずいた。
「言いませんよ、サガ様には」
「なんつーか、高嶺の花って感じだよな。おれたちには」
「優しい人なんだけどな。気さくさに欠けるっていうかさぁ…」
 サガは美しく、優しく、賢く、気高く、清らかで、汚い欲望や下品な欲求とは無縁の、神か天使の化身のような人だ、と、聖域の皆は思っており、アイオロスもそう思っていた。この頃は。
 その後も、グラビア写真を見たり、官能小説を読んだりして彼らは時間を過ごしていたのだが。
「…あ、やばい!誰か来る!」
 青銅聖闘士の一人が人の来る気配に気付き、急いで雑誌を集めてかばんに隠した。
 日の光が反射し、木立の中でできらりと金色がきらめいた。
「…アイオロス?」
 森の中からやって来たのは、サガだった。双子座の聖衣をまとっている。今日のサガは、慰問を行う教皇の護衛として聖域外に出ていた。
「サ、サガ!おかえり!」
 思いがけぬ友人の出現に、アイオロスは上ずった声を上げた。
「姿が見えないと思ったら…。どうしたのだ、こんなところで」
「い、いや!ちょっと昔の仲間が集まって話をしていただけですよ、サガ様」
「そうです!そうそう!」
「同窓会ってやつ?」
 青銅聖闘士や候補生たちが慌てて取り繕う。サガに何を見ていたかばれたら最後、雑誌は没収されてしまうし、上に報告が行ってきついお叱りを受けて今後の集まりが禁止されてしまう…と彼らは思った。
「じゃあ、アイオロス様、おれたちはこれで」
「また会いましょうね!」
 そう言って、三々五々、彼らは蜘蛛の子を散らすようにその場を離れた。
 その様子にサガが首をひねる。
「何かあったのかな…?」
「い、いや、何もないよ、サガ!」
「そうか?私…邪魔をしてしまったか?せっかく皆で集まっていたのに…」
「そんなことはないよ!サガは何か用?」
「ああ。アイオロス、教皇がお呼びだ。午後の執務を私とお前とで手伝ってほしいと」
「うん。分かった、行くよ」
 次代の教皇候補として、今から教皇の仕事に慣れさせておいたほうがいいということで、アイオロスとサガは執務を代理で行うこともある。そうして二人は連れだって森を抜け、十二宮を上がっていった。

「アイオロスは私に何かを隠している」
 その夜、自宅に帰ってきたカノンにサガは深刻そうな顔で打ち明けた。
「はぁ?何かあったのか?」
「仲間たちと集まって、森で何かを話していた。私が来ると、まずいという感じで皆が逃げていったんだ」
「ああ…そりゃあ…」
 サガが教材として与えられた社会学の本を読んでいたカノンは、アイオロスの事情を正確に推察した。
「皆でエロ本でも見てたんだろ。お年頃だからな」
 その言葉に、サガはさっと頬を赤らませて弟を叱責した。
「バ、バカなことを言うな!アイオロスがそんなことをするわけがない!」
 アイオロスは公明正大で、明朗快活で、おおらかで、後ろ暗いところなど何一つない男だと、サガは思っていた。この頃は。
 要するにアイオロスもサガも、互いの姿に大いに幻想を抱いて、色眼鏡で見ていたのである…この頃は。
「何か秘密の計画があるのかもしれない。私と違ってアイオロスは聖域育ちだし、ここに知り合いが沢山いる。人脈では、私はアイオロスに不利だ。それがアイオロスが教皇になることに有利に働くようなことなら…」
『絶対、そんなことじゃないと思うけどなぁ』
 悶々と考える兄を見ながら、まあアイオロスとサガの距離が離れるならそれもいいか、と思うカノンはそれ以上のフォローをやめた。
『…ってか、こいつはエロ本を見たいとか、思わないのかなぁ。まあ、おれも見せる気はないけど』
 空とぼけた顔で、カノンは苦悩する兄の顔を肴にして紅茶をすするのだった。
 こうしてアイオロスがどんどん耳年増になっていく一方で、友人からも弟からも同年の聖闘士や候補生たちからも俗っぽい情報から一切遠ざけられた結果、サガは盛大に「世間知らず」になってしまったのだが、またそれは後の話である。

<第3話・完>

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