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2015年12月26日00:15

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『射手と双子の嬉し恥ずかし思春期日記』第2話

『射手と双子の嬉し恥ずかし思春期日記』

第2話:精通の日まで一緒!?

 夜、自宅の寝室で寝ていたサガは、寝台に誰かがもぐりこんでくるのに気がついて目が覚めた。
「…カノン?」
「ああ、起きたのか、サガ」
 隣に潜り込んできたのは、双子の弟だった。
「今夜は…帰ってこないかと思った」
「そのつもりだったんだけど…あのケチ、終わったら追い出しやがってさぁ」
 ふああ〜と、カノンはあくびをした。
「カノン…」
「なに?」
「酒臭い…」
「ん〜、シャワーは浴びたんだけどな」
「カノン」 
 のんきに眠そうな声で答える弟に、サガは不安そうな声で言った。
「なぁ、お前、外で何をしているんだ?」
「ん?まあ、色々と」
「いつも酒やタバコや香水の匂いがして…。私は世間知らずだけど、子供がやってはいけないことをお前がしてるんだってことくらいは、分かる」
「仕方ないだろ、外の世界は何をするにも、金、金、金、なんだから」
 ばっとサガは起き上がり、横で寝転ぶ弟の姿を見降ろした。
「ねぇ、カノン、やっぱり教皇にお前のことを言おう!」
「サガ?」
「今日も教皇に尋ねられたんだ。サガ、お前に双子の弟か兄はいないのか、星見によれば双子座は双子のはずなのに…と。ちゃんとお前のことを教皇に打ち明けよう。そうしたら食べ物だって服だって住むところだって、聖域から支給が…」
「やめてくれよ。おれは聖闘士になんかなりたくないんだからな」
「でも…。星見によれば、私に何かあったらお前が双子座の聖闘士になれるはずで…」
「何かって、何だよ。お前が死ぬのかよ!?おれにお前に死んでくれって願えってか!?」
 不吉な想像に、カノンは声を荒げた。
 カノンは、うさんくさい聖域の正義など信じてはいなかったし、彼にとってはどうでもよい地上の平和だの、見たこともないアテナだのを守るために力を尽くす気などなかった。なりたくもない聖闘士になるために、なぜサガの死を望まなければいけないのか。それが自分に課せられた運命だというなら、カノンはそんなものをおとなしく受容するつもりはなかった。
 カノンは兄を愛していたのだ。この時は、まだ。
「私が死ぬとは…」
「おれは自分の力を自分のために使うって決めたんだ!絶対に、おれのことを教皇や聖域の連中にばらすなよ!ばらしたら、出て行ってやる!二度とこの家には帰らないからな!」
「カノン…」
 そうして自分に背を向けてしまった弟に、サガはため息をついて再び横になった。
『なんだか、カノン…、聖域に来てからお前がどんどん遠くなる…。昔はいつも一緒だったのに…』
 これが大人になるということなのだろうか、と、サガは寂しく思った。
『寂しいなぁ…。私が教皇になったら、カノンを双子座にしてやれるのかなぁ。そうしたらカノンとも、昔みたいになれるのかなぁ…』
 悶々と思い悩むサガは、ある女性のことを思いだした。
『寂しいと言えば…彼女も、私たちがいなくなって寂しがってるだろうなぁ…。きっと泣いてるだろうなぁ、キルケ…。ごめんね、黙って出ていっちゃって…』
 寂しさに包まれながら、サガは夢の中に入っていった。

 眩いばかりの金髪が震えていた。その持ち主である女性はうずくまり、泣いていた。
「キルケ、泣かないで」
 サガは声をかけ、金髪を引っ張った。
「ああ、サガ…」
 女性が顔を上げた。艶のある青い瞳が涙で濡れている。振り向いた彼女は、サガを胸の中に抱きしめた。
「会いたかったわ、サガ。戻ってきてくれたのね」
「ごめんね、キルケ」
 白い腕がサガを暖かく包み込む。豊満な胸の膨らみの中に、サガは顔をうずめた。
「ごめんね。キルケを泣かせないって約束したのに…」
「愛してるわ、サガ。私の愛しい息子…もうどこにも行かないで…」
「ごめんね。でも僕、外の世界に行きたくて…」
「いい子ね、サガ、愛してる…」
 珊瑚のような美しい唇がサガの額や頬に口づけられる。その唇は、やがてサガ自身の唇を包んだ。
「キルケ…」
「愛してるわ、サガ…」
 気がつくとキルケは裸になっていた。いつもサガが入浴時に見ていた、生まれたままの姿だ。
 柔らかい体がサガを包み込む。胸が顔に押し付けられ、滑らかな足が絡みつく。体の中心が熱を帯びるのをサガは感じた。
「熱い…熱いよ、キルケ…熱い…」
「愛してるわ、サガ…愛しい子…」
 熱を帯びた自分を、さらに熱く湿ったものが包み込む。そして。
「…うわっ!」
 隣でした悲鳴に、サガは目を覚ました。見ると、双子の弟が飛び起きて荒い息をしている。
「…カノン、どうしたの?」
「な、なんでもない、サガ!」
 慌てたようにカノンは取り繕ったが、やがて自分の下半身を見て呆然とした。
「…あ…」
 見ると、夜着が濡れていた。その時、サガ自身も自分の下半身の不快さに気がついた。布団を上げて見てみると、自分の夜着も汚れていた。
「や…やだ、漏らした?」
 こんな年齢になって…とサガは恥じらったが、カノンは濡れた夜着をぎゅっと握った。
「違う…」
 そして手についたものの匂いを嗅いでみる。
「サガ…これさ、精液じゃないか?」
「せ、精液?」
「要するに、男が作る子種だよ。知らないのかよ」
「そういえば、去年くらいに教官たちから座学で聞いたけど…」
 えっと…と、双子は寝台の上に座って顔を見合わせた。
「つまり…精通って奴?おれたち、精液が作れる体になった…一人前の男になったってことだよな」
「そ、そうなのか?」
 そうしてサガは改めて汚れた夜着を見た。
「…ああ、ということはこれからは子供ができないように気をつけないといけないのか…。面倒だな…。まあ、喜ばせる方法が増えたからいいのかな…」
 ぶつぶつとサガには意味の分からないことを呟いていたカノンだが、やがて意地悪そうに兄の顔をのぞきこんだ。
「で、さ、サガ、お前どんな夢を見た?」
「夢…って?」
「こういう時さ、なーんかやらしい夢を見て精液が出ちゃうことが多いんだって。何かやらしい夢を見たんだろ、サガ」
 その言葉に、サガは顔を赤らめた。
「そ、そんな夢、見てない!」
「正直に言えよ。あ、分かった、あの女の夢だろ。キルケだ。あの女とやる夢を見たんだろ」
「ち、違う!そんな夢じゃなかった!彼女とそんなこと、するわけない!」
 声を荒げたサガは、弟に食ってかかった。
「お前こそ、どんな夢を見たんだ、カノン!」
「さぁね、忘れた」
「……」
 その時、サガは気づいた。弟はなぜキルケの名前を出したのだろう、と。
「もしかして…カノンも私と同じ夢を見た…?」
 ぎくっとカノンの肩が動いた。
「そうだな。彼女の夢を見たんだ!お前こそ彼女と…」
「んなわけあるかっ!おれはお前と違って、あの女を恋しがったりしないからな!」
 憤然としながらカノンは寝台を下りた。
「とにかく、服を着替えて洗わないと。お前も早く脱げよ、サガ」
「うん…」
「…しかし、精通の日まで同じとか…。双子ってそこまで似るのかよ…」
 ぶつくさと言いながら、着替えた夜着を手に洗面所に向かうカノンだった。
 こうして双子は全く同じ夜に、全く同じタイミングで、全く同じ夢で、精通を迎えたのだった。
 ちなみに後に双子は声変わりも全く同じ日に迎えることになり、一晩明けたらひしゃげた響きになっていた互いの声に笑いあうことになる。

<第2話・完>  

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