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2015年05月13日06:39

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翻案 鷹の井戸 全

鷹の井戸





時 アイルランド英雄時代

場 アイルランド島北西部海岸地方

人 若武者
    老爺
  井戸守の娘
  風たち(コーラス)
  ハゼルの木たち(楽隊)





楽人たちの入場。コーラス、「虹」。

♪みずたまりの とぎれるころ
 とおくの山  ながめたら
 はちきれる  みどり透かせ
 虹の塔が   たった

 ゆめのそこで たしかきいた
 虹の根かた  たずねれば
 さいわいの  くにへゆける
 たどりついて ごらん

 (たぎる海峡に
  木の葉は呑まれ
  弓おれ 矢ははや尽き
  かのわる武者の
  おわりの景色)

 もとめるほど もとめるだけ
 こぶしかたく にぎるだけ
 さらさらと  虹はにげる
 たどりつけぬ 愛よ

鳴り物あって、いつか井戸の端にマントを纏った井戸守の娘がぼんやり現れて座す。浅い井戸。水は涸れている。海を見おろす山上らしく、木々は潮風に枯れている。やがて苛だたしげな漁師風の老爺、のしのし現れ、娘を見つけるなり――

老爺 (ひどくぞんざいに)また黙っていやがるな? あよ、ちっとはくっちゃべってみせたっていいじゃねえか。サア、お爺さま、柴刈りは大変でございましょう? 指が凍えて痛いでしょうにってよ。――へっ、無愛想な奴だぁ、おめえは。だんまりで一儲けでもするつもりかよ。昨日はまだしもだったっけが…ふたことみことはいったもんな。曰く、このまんまじゃ井戸が埋まっちゃあな、ハゼルの葉が積もってよ。また曰く、風が東へ吹くよう。また曰く、降りだしたらまた泥濘さなっちゃうっけ…。――けっ、くだらねえ、話し甲斐がねえや、おめえはバカだからな。まるでハァ、魚みてえにぼんやりしてんじゃねえか。(苛々して)まるで魚さ! イヤ、もっとタチが悪いや、だんまりのおまけにビチビチ跳ねさえしゃあがらねえ。(近づき、娘のアゴをグイと持ちあげ)おい、何なんだ、この目はよ? 俺を見てんのか、いってえ何を見てんだ? 風の連中もこんなのを井戸番に措くなんて、どうかしてらあ。はん、「ちゃんと掃いとけよ、余所者が来たら追っぱらうんだぞ」ってか。結構々々! そいで、ついでにちょっと完爾でもしてくれりゃあ文句もねえんだっけが…。(ぎくりとして離れ)やっぱり見てやがんな?――待てよ、前にもおめえ、そんな風に俺を見たっけな。いつだ――そうだ、あの時だ、この前のチャンスの前――。キショウめ、バ、バカにしやがって!(にわかに震え)お、俺もいいかげんおかしくなるぜ! ひがな、目に入るなぁ、ガリガリに割れた岩肌、よじくれた茨の藪ッ原、てめえの腑抜けたへちま面、そんで、独りごとさぁ吹きちぎって飛ばす風とくらあ!

鳴り物あって、若武者クフーリン、がっしりした足どりで登場。簡素ないくさ拵え。槍を持つ。

若武者 気みじかな老いぼれめ、それならば私が聴いてやろう。もっとも、こちらの方がまだせっかちかもしれんがな。崖をよじのぼって丸半日、無駄足を踏み回って、ようやく苛々してきたところだ。
老爺 (ぎょっとし)何だィあんたは、いきなり現れやがって。(気遣わしく、だが強気に)また亡者悪霊の類ならとっとと失しゃあれ! イヤ――うん?その金の輪と…魔除けの金物をぶら下げた、けったいな服…、ふん、どうやらあんたぁ、まだいっぺんもくたばったことのねえ野郎みてえだな。
若武者 足はあるとも。私こそはスアルタムの息子、クフーリン。
老爺 知らねえよう。
若武者 知らん? ではおぬしが知らんだけだ。(海を眺めやり)あの海の向こうでは、少しは名の通った家柄だがな。
老爺 (むっとし)はん! 家柄か! その名士さまがいってえ何の用ですね? 見当違いでさあ、あんた方ぁ物騒なものさ振りまわしたあげくが、しょせんは切ったの張ったの、惚れたの腫れたのしか能のねえうらなりじゃねえか、悪いけんど他所でやってくんなせえ。
若武者 (聞かず、ひとり、歌うように)
 夜の白むころ
 宴の終わりにひとつの噂を聞いて
 私はすぐさま座を立ったのだ
 その足で小舟を見つくろい
 帆を張って
 生きもののような風にあと押しされ
 惑わしの波を渡り
 この地に流れついたのだ。――
老爺 (苛々と)だからいってんでしょう! ご覧なせえ、この荒れた山をよ! あよ、そんな冒険なんざぁねえんでさ、ここには。かっさらうお宝もなけぁ震いつくような美人もねえ。
若武者 悪態ばかりだ、くたばり損ないめ。しかし妙に、この荒んだ景色にあっているな…。(ひとり)うむ、もしかするとこの者が、私の導きの徒かも知れん…。(老爺に)――なあ御老人、少しものを尋ねるが――ここら辺りで、井戸を知らんかね? 三本のハゼルの木に囲まれて、枯葉や実になかば埋もれた、灰色をした丸石の井戸だ。もやのかかった目をした娘が、ひとりその場を守ってもいる。もしその水を汲むならば――まるで昔話だが――老いることも死ぬこともないというのだ。
老爺 そんなこったろうと思った。石ッ欠けならそこにありまさあ。
若武者 何…?(初めて気づいた)
老爺 出来の悪い娘っこも、いまいましいハゼルの立ちんぼだって――見えねえんですかい?
若武者 ――だが、井戸はどこだ?
老爺 目ン玉ひんむいて探したらえがしょ。
若武者 サア、(戸惑って)――これが井戸か…? ただ、カサカサと枯葉が鳴るだけじゃないか…。

間。

老爺 (やにわに怒りだし)ふざけやァって、若造が! 舟を探して、帆を掛けた?ひがな半日歩きまわった、それも崖さよじ登ってな?――そんなことで、それしきなことであんた、宝が手にはいるもんかよ! 甘ぇんでえ! 表六玉の甘ちゃんでえ! 金輪際あんたのために水なんぞぁ湧きっこねえさ。何でかって? 決まってらあ――俺のためにも湧きゃしねぇかったからさ! いいかえ、五十年だ! 俺ぁここでもう五十年、待ち暮らしてんだよ。待ちに待ったさ。俺ぁ見てたんだ、井戸ぁ涸れっぱなしよお! 風だけが吹きッさらしやがる、しょっぺえ風がよ! それ、枯葉を吹き飛ばすだけの土地よお、ここはよ!
若武者 それならなぜ待つ。やはり水は湧くのだろう?
老爺 (グッと詰まるが)そりゃ…イヤ…そりゃぁ湧くことだってあるともさ。ただそれがいつになるかは、山の妖精どもだけがご存じってわけよ。俺らに分かることじゃぁねんだ。待つしかねえのさ、不意に湧いて出やがるからな、そんであっという間にまた退いちまうからな。
若武者 (落ちついて)では待とう。なに案ずることもあるまい。これまで私は強運でね、何人にもろくろく待たされたことがないのだ。そう、私はスアルタムの子、誉むべき星のもとに生きている。
老爺 (必死で)悪いことはいわねえ、帰えった方が身のためでさ! ここはおっかねえ所でさぁ、俺やあの娘っこはもう呪いをかけられてんでさ、奴らによ。おんなし目を見てえんですかい!
若武者 なぜ妖精を悪しざまにいう? 彼らの舞は素敵じゃないか。それとも(やや不安になり)――君、何かあったのか?
老爺 何か? あったともさ! 糞ッたれ、俺ァ奴らに溺れたんでえ!

鳴り物。次の語りのうちに、娘、次第に異常に震えだす…。

老爺 俺だっても若え時には、あんた同然、いい風にあと押しされたつもりで来たもんだ、この山へよ。井戸は涸れてやがったが、俺は平気で今とおんなしここ! そうだ、丁度ここんとこに座って待ったもんだ、水が湧くのをよ! へっ、ばかばかしいや、待って待って、何のこたあねえ、先に涸れちまったのは俺の方だったよ。(吐き捨てて)てんで下らねえ人生さ! 鳥さぁ殺して食ったさぁ、草ぁむしって食ったもんさ。水は雨を飲むしかねえ、そこに井戸があるってのによ。へっ、何てこった! そんで晴れても曇っても、ただもう、アノ、水音ってやつが聞きてえばっかりに、ここから離れなかったもんだ。だのに、あよ、あの連中は三度、三度もだ! 俺をだまくらかしゃぁった。いつの間にか眠らされたんだ。目が覚めたら――また、水ぁ涸れていやがったよ! 石だけが濡れててな、(無惨に笑う)――ハハハハハ!
若武者 (気にせず)だが私は強運だ、負けはせん。なるほど、舞い手がその石の上に現れるのか? 結構、そんなことで眠らされたりするものか。いざとなればこの槍は、むろん敵も突き通すが、眠気退治にわが足も突くぞ。
老爺 詰まんねえことは止めときなせえ、強い足ならとっとくのが身のためだぁ。それより、さ、その有難え舟で、尻尾を巻くのが利口ってもんでさ。この井戸はつまり、老いぼれの夢よ。残していってくだせぇ、このとおりでさあ。
若武者 (気にせず)いや…とどまるとしよう。
老爺 ――ちっとも聞いちゃあいねえ!

娘、奇声を発する。鷹の叫びのごとく、だが無表情のまま…。

若武者 (キッとして)また啼きおった! あの鳥だ!
老爺 鳥? 鳥じゃねえさ。
若武者 (気にせず、空をあおぎ)姿はないが、ではあの声は…? さっき見たんだ、灰色の素敵に巨きな鳥がこのあたりに降りた。私も鷹ならば相当なのを持ってはいるが…、イヤ、あれには到底敵うものではない。(昂奮して)奴め、人もあろうにこの私に襲いかかってきおった! 嘴は鋭くこの喉を狙い、翼はひるがえって、危うく目をやられるところだったぞ。俺は剣を打ちふるった。奴は飛びのいて、岩づたいに逃げた。つぶてを打ちながら俺は、そう、小半時ばかりも追いつづけたろうか。だが向こうの大岩を回ってここに来ると、鷹は不意に見えなくなった。――不思議なことがあるものだ。何か工夫はないだろうか? ぜひ奴を落として俺のものにしたい!
老爺 (どこか厳かに)鳥じゃねえ、そいつは風の魔物でさ。山住の魔女さ、荒れて鎮まらねえ、この世のかげさ。気をつけねえと魂、奪られまさあ。人の心をさらっていきゃあがるんでさあ。ここらあたりの山賊の女どもぁ、あの風に祈るんだっけが、奴が鳥になって出てきたとくりゃあ連中、供え物して一晩あげての賑やかし、そいでやおら出入りぶち壊しにとっかかるんでさあ。

娘、立ちかかる――。

老爺 (はげしく恐れて)――ああ、たまらねえ! いっとくぜ、奴の目を覗くなよあんた、あの穴メドみてえなやつに見据えられたらお終えだ、一生こっきり呪われるんだ。イヤ、早く逃げてくれ。今ならまだあんた、足も声もしっかりしてらあ。今のうちでさ、さぁ、手遅れにならねえうちに! 家柄がいいか運水がいいか知らねえが、いつかは手ひどくしくじるもんでさ。まして幸せってやつが欲しいんならよ、あよ、あの女に関わるのはヤバ過ぎるってもんだ。(自問して)――俺? 俺なんざぁもう、手遅れだ、ここから逃げる気せえとっ払われちまってるんだ。(必死で若武者に)だからヤバいもんとは関わんなって! 女に惚れられときながら、その女を殺しちまうかもしれねえぜ? でなきゃ憎みながら惚れ続ける呪いってのはどうでえ? さもなきゃ我が子を絞めちまう母ちゃんだ! 喉を食いちぎられてよ、血だるまの子どもをあんた、抱えることになるかもしれねえぜ! なあ! でなきゃ、あんたが自分でおかしくなって、自分で子どもさ踏みつぶすかもしれねえぜ! その手で、やっちまうんだよお!(と、ものすごく)
若武者 (さえぎり)ばかな。そうやって人を脅しては追いはらうのが君の役目か?そんな風にみずからを枯らすような真似は止すがいい、まるで、そこらの枯葉や枯れ枝とかわらないぞ。このままここで埃になって散らばる気かね。

娘、ふたたび鷹の叫び! 長く、幾度も続く。井戸を離れて歩む。

若武者 まただ! あ…!(やっと気づき)あ、あの娘か…! 鳥ではなかったか…。しかし、まるで鷹だ――いったい何の意味があるんだ?
老爺 (はげしく恐れて)来やがった! 声はあいつが出した、でももう、あいつはここにいねえ! あいつの中に魔物がいやがる――そ、そうか、今日はおかしいと思ってたんだ、あいつの目つき、重苦しい目――! 見ろ、震えてやがる! 血がよ、たぎりだしたんだぜ! 風の魔物の、血が駆けめぐってんだ! 取り憑かれたんだ! あいつぁ俺らを殺しにかかるかもしれねえ、でなきゃたぶらかしによ。そいでも、目さぁ醒ますと何にも覚えちゃいねえときやがる。あしたンなったら、いつもみてえに枯葉を掃くよ、するってえと葉っぱが何だか濡れてるってあんべえだ。井戸は湧いて、すぐまた退いちまうんだ! ああ、キショウ! 震えてやがる――始まるぞ!(取り乱し)あんた、あんた、帰えってくれ! もういつ湧きだすかも分からねえ、ああよ! あんた、哀れだと思ったら奪らねえでくれえ、なあ、水をよ? この老いぼれにゃあ後がねえんだ、俺ぁ一生、待ってたんだ! ひとすくいこっきりしか湧かねえかもしれねえじゃねえか! あよ!
若武者 (手を取り)ふたりで飲もう。どんなに少ししか湧かないとしても。たった数滴だけでも。
老爺 (振りはらい)ほぜえてんじゃねえっ、俺が先でえっ、信じられっか! てめえぁ勝つことぱっかしか考えてねえ、いんちき野郎だ、ぜんぶ飲んじまうに決まってらあ!
娘 (ひときわ鋭い叫び)
老爺 (慌てて)いや、待て、あいつを見るなったら!

娘、ふたりを鋭く見とおす。ふたり、にわかに立ち竦む。

老爺 見ていやがる…。
若武者 (固唾を飲んで)うむ…。
老爺 ほら、あれ、あれ、あれが人の目かよぉ、娘っ子のよ。おんでもねえ、あっち側の連中の目さ! 穴メドみてえだ、まばたきもしねえ――ああ! 止してくれ、見ねえでくれえ!(頭を抱えてうずくまる)

娘、マントを脱ぎ捨てる、と、鳥の装束が現れる。

若武者 (叫ぶように)
 その鷹の目は何のつもりだ
 女が鳥でも やさ 魔物でも
 俺はおまえなど恐れはしない!

若武者、井戸の縁に取りつき、

若武者 さあ、井戸はもう俺のものだ、どうするね?(異常に)ここで待てば不死の水が湧く。そうだ、そうだ、俺は諦めない、貴様とおなじ不死の体を手に入れるまではな、ハハハ! フシノカラダ――…、

そのまま不意に、魅入られる…。音楽。娘、劇しく舞う――。ひとしきり――。老爺はすでに眠り、地に崩れおちる。

風たち  もう神はない
 あいつの体をいま流れるは
 死を手放した 不死の命

娘、誘うように舞う――。

風たち  あいつは心も手放した
       いま歩むのはいったい誰か
       その歩みは 青ざめた頬は

若武者、槍にすがってやっと立ち、

若武者 (呆然と)どこへ行く…まあいい、好きにしろ。岩の色の鳥め、逃げてもいずれは私のものさ…。どんな女も、俺から逃れたことはない…。
風たち (鳴り物、変わって)
 何か音がする
 水だ! 水だ!
 ほとばしる! 岩の間に輝いている!
 だが あいつは見もしない
 いや 見た うつろな瞳で

娘、舞いつつ花道へ。若武者、槍を落とす――思わぬ大きな音――が、気にも止めず娘を追う。両名、思い入れあって、退場。
風たちの歌、「バーナムの妖精」。

風たち ♪おぼえていれば
 あかしはいらぬ、と
 ことばをすて呪われたは
 おろかなふたり

   森をぬければ
   ちかいはきえる、と
   母も叔父もなかまたちも
 あやぶんだもの

  ジンゴン 鐘なれ
  そのうつろな空に

  ディンドン 鐘なれ
  愛はとどくのか

(I call to the eye of the mind
A well long choked up and dry
And boughs long stripped by the wind
And I call to the mind's eye

Pallor of an ivory face
Its lofty dissolute air
A man climbing up to a place
The salt sea wind has swept bare)

  りんご あつめて
  さみしくうたう日々

  ディンドン 鐘なれ
        愛のおわるとき

 おぼえていれば
 おぼえていれば、と
 肩にふれてささやくのは
 たれのいたずら

やがて、無音。――老爺、がばと目覚める。見まわし、慌てて井戸にいざり寄る。

老爺 空っぽだ! ああ、まただまくらかしやがった! 石ばっかり濡れてやがる、あっという間に退きやがったんだ。あああ、いってえ何て人生だ! 俺の時間を、返せよう! 盗ッ人め! 巾着切りのクソ魔物めえ! 面白えのか、何様なんでえ、いってえよお!

若武者、帰ってくる。

若武者 不思議なこともあるものだ。あの娘、岩に溶けるようにかき消えてしまった…。
老爺 いわんこっちゃねえ! 見なせえ、こいつがコトの顛末でさあ。あんたがたぶらかされてる間に、湧いたんでさ、水がよ! ちょっ、もう一滴だって残っちゃいねえ!

銅鑼が鳴る。

風たち エイファ! エイファ!
若武者 (もう井戸には興味なく)遠くで何かいっているな…。(海と反対の方を見やり)あの尾根のあたりか…まるで鎧のがちゃつくような…それに、軍楽も聞こえる。
老爺 風の魔物がよ、例の山賊どもをそそのかしてあんたを殺そうってんでさ。エイファってのは女の首領でさあ。――いい気味だよ。
若武者 いい気味?
老爺 くたばるまで! あんたにぁもう、休める時はねえってわけさ!
若武者 (気にせず、かえって少し笑い)おう、またかち合わせている…。
老爺 (不安に)――行くんですかい?(にわかに慌てて)…い、行かねえでくれ。や、山にぁろくなことはねえよ。なあ、俺といてくれねえか、この老いぼれ――素寒貧の老いぼれと一緒に、どうぞせめて、いてくだせえ!(若武者、聞いていない)悪かった、お、俺が、俺の方が独り占めしようとしてたんだ! もう騙さねえ! だから、なっ、こんなとこに、こんなおっそろしいとこに、置いていかねえでくれ、くだせえ、後生だ、頼んます、ねえ、だ、檀那あ!
若武者 (気にせず)いや、行くとしよう。(槍を拾い)やあやあ、これはスアルタムの息子、クフーリンなるぞ! いざ、いざ一番、手合わせ願おう!

若武者、槍を構え、退場。風たち笑い、老爺、残されて呻く。風、枯葉を舞いあげる――








鷹の井戸 〔初演〕劇団AB―C△NT/二〇〇一年一〇月二六〜二八日/豊島区雑司ヶ谷鬼子母神堂/演出・貴之新/出演・宮澤真理、冨山高広、野村佳世、岡部孝行、岩井正宣、貴之新/演奏・大久保潤、遠藤明香、足立照世/〔再演〕劇団IAT/二〇〇二年九月六日〜八日/豊島区雑司ヶ谷鬼子母神堂/演出・貴之新/出演・宮澤真理、野村佳世、冨山高広、岩井正宣、後藤エリカ、大久保潤、赤井浩、有山めぐ美ほか










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