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2015年01月02日04:31

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吉野屋の牛丼、ただいま380円(2)

さて、大学時代漫研の同級生に藤本くん(仮名)という、青森出身の経済学部生がいた。
なにしろ払い下げ「私立高校の校舎」に納まった小っちゃな「実験大学」なので、ほんと、ちょっとづつ「ひとくち御膳弁当」のように学生たちがおり、しかも「実験校」で学費がハンパじゃなく安いので、裏伊豆の漁村から、北海道の大平野から、
「ホントだったら大学進学は夢なんだけれど、学費安いので、とにかく来ました!働きながら勉強します!」
というメンツが集うのである。

藤本くん(仮)は青森で「喫茶店の雇われマスター」を1年やって学費を貯め、受験して上京した苦学生であった。
一応「経済学科」なのだが、「経済」にまるで興味ない。
で、貧乏アパートに暮らし、アルバイトに明け暮れ、ヒマがあると漫画を描いていた。
授業は最低必要源の単位を「経済」で取ったあとは、、「芸術」に出入りして油絵を描いていた。(実験校だから、こんなことも許されるのである。)

で、彼のバイトがアパートそばの「吉野屋」、真夜中の「店長代理」。
とにかく「雇われマスター」として、女の子の固定客がつくくらい客あしらいも店の管理も上手く、お店をまかされる才能があるのである。
今の「外食産業・店長代理残酷物語」と違って、当時の『店長代理』は「レジ預かり責任ぶん時給特別」のおいしい仕事であった。
ごはんは「店のモノ一膳、食べたいだけ」。
で、彼は貧乏なので、「大盛りの丼にご飯をギュウ詰めし、その上にこれ以上は盛れない、という高さまで牛煮をソフトクリーム状態にうずたかく盛り上げ、それを「1日2食」のうちの1食としてワッセワッセとかっこむのである。
小柄な、どちらかというと華奢な体格であったが、米どころ色白東北美青年は、スルッと胃に収めてしまうのだ。

あとの1食はバカ安い学食で、それでも「ご飯大盛り」以外は安い「A定食220円」や「B定食280円」で済ませているようだった。
女子校の1年先輩が「上智」に行ったので尋ねたら、学食ランチは600円からとのことで(30年以上前のことよ)驚いた覚えがある。
我が母校の学食はこの上なく貧乏学生に優しかった。

さて、藤本くん(仮)のバイトする「吉野屋」近くの安アパートに、最初はひとり、そして続々と漫研の連中が引っ越し始めた。
ひとりの先輩が週刊少年誌でプロデビューし、アシスタント学生、漫画家志望者が集結したのである。

夜食は当然藤本くん(仮)の「吉野屋」になる(徒歩3分だ)。
一番客の少ない時間帯、全員「並」で、藤本くん(仮)は他の客に背を向けるカウンターにみんなを座らせ…『夜の店長代理丼』を
「いーから、いーから♪」
とみんなに食べさせていたのである。
夜遅く、肉は程よく煮詰まっている。
(どうせ朝が来ればマニュアル通り「新しく飯を炊き、みそ汁を作り、新しい肉煮の袋の封を切る」のだ。)
そして、おしんことみそ汁を振舞い、エネルギー満タンにして、夜中の仕事場に送り返すのである。

「スタートしたばかりの『スタジオ・某』は真夜中の吉野屋スペシャル」に支えられていた。

藤本くん(仮)は、芸術学科のアトリエで何枚もの油絵を描きあげ、卒業論文だけ「経済」でデッチあげ(笑)「自己卒業制作」を抱えて青森に帰った。
お金を貯め、小さな喫茶店を開き、自分の絵を飾り、お客の女の子の失恋相談などに上手にのってあげる「優しいマスター」しているという。

吉野屋は青春の「ソウル・フード」である。

(最終回は「私と吉野屋」の予定)
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