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2006年01月18日00:05

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「耽奇館主人の日記」自選其の十四

2003年10月04日(土)
言葉の威力のこと。

昨晩は、夜遅く、紅蜘蛛お嬢様が来た。私は年一回の逢瀬で疲れていたが、勉強に対する必死ぶりを知っていたので、一肌脱ぐことにした。
私が教えるのは、英語がメインである。
英語の読解力と、作文力だ。
私は、今時の子と違って、中学生からスタートした、遅い世代だが、成績はあまりよくなかった。中学の英語を担当している先生が、独自の珍妙な発音をゴリ押しするタイプだったからだ。勉強は何でもそうだが、自分が興味を持って、楽しく知識を得るようにならなければ、成績が上がるわけがない。勉強が嫌いなら、しなければいいのだ。
そう、英語が嫌いなら、一生分からなくてもいい。
しかし、私は本を読むのが何よりも好きで、特に海外の怪談やミステリを読むのを至上の悦びとした。従って、そのうち、吹き替えなし、つまり翻訳されていない原書を読むのを渇望するようになった。
ここで、英語を自分の言葉のように理解出来る必要が出てくる。
だから、私は英語を勉強した。
中学の先生は頼りにならないから、当時親密な関係にあった美術の先生に頼んで、英語の家庭教師を紹介してもらうことにした。
早稲田大学に留学している、J・Wというアメリカ人女性だった。
初対面で、私がH・P・ラヴクラフトとE・A・ポオをよく読んでいますと話したら、「ワーオ!」と驚いていた。ほんとうに驚いたらしい。
彼女はまだ日本語が片言しか出来ないので、私の方からコミュニケーションを取るために、英語を実戦的に学ぶ必要があった。
耳が悪くても、何度も何度もヒアリングを重ねて、あらゆる物体に単語を書いたシールを貼りつけて、会話の力を徹底的に鍛えた。
私が読んできた本の中に、ロシア・アバンギャルドの英雄、マヤコフスキーの有名な言葉がある。即ち、「言葉は力だ」と。
聖書に言う、初めに言葉ありき、という意味合いではない。もっと現実的なもので、世界が言葉に満ち満ちているのなら、その言葉は使い方次第で力になる、という意味合いだ。従って、当然、政治家は誰よりも雄弁でなければならないのだ。
ある日、こんなことを学んだ。「Fuck you!」の発音のパターンである。向こうから日本語で言うとどんな言葉になるのか聞かれ、私は本に書いてあったいくつかのパターンを教えた。「クソッタレ!」などの言葉を口真似してみせながら、彼女は、ファックにも色々な意味合いがあるのだけど、日本語のそれと違って、綴りが同じでしょ。違いをどう表現するかというと、発音の仕方なのよと言ってきた。
甲高く叫ぶように言うと、「死ね!」という意味合い。
低く呟くように言うと、「このクソバカ」という意味合い。
柔らかく軽く言うと、「消えやがれ」という意味合い。
要するに、言葉に力を与えるのは、人間そのものなのだ。
そう言えば、魔術で使われる呪文は、元来、擬人化されることが多かった。魔術師の分身もしくは子供として。
言葉、書かれる文字、発音する言語に感情が込められていなければ、いったい、どれほど理解出来るだろう。
そういうこと。
私は紅蜘蛛お嬢様に、聖書の詩編の一節を英訳させた。
「あなたの御言葉はわが足の灯火、わが道の光です」
お嬢様は一時間も考え、悩んだ揚げ句、全然違う英文を書いてきた。
私は一語、一句、ていねいに説明しながら書いてみせた。

Thy word is a lamp unto my feet, a light upon my path.

私が聖書を教材に使用した理由は、別にキリスト教が好きなわけではない。世界で一番読まれている本というと、ハリー・ポッターなど足元にも及ばないくらいのレベルで、聖書そのものだからだ。
私見だが、聖書を英文で理解して、発音出来れば、英語は完全に自分のものになったと言えると考えている。
さらにメリットがある。
それは、海外旅行時にとても役に立つ。
サヴォイ・ホテル級の高級ホテルに泊まらず、現地の教会で素泊まりするために。実際、私はその手で宿泊費を浮かせて、大いに得をした。
そういうこと。
言葉は力なのである。力を自分のものにするためには、頑張って勉強しなければ。
今日はここまで。
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