フランス最大のヒューマニスト、モンテーニュ(Michel de Montaigne,1535-1592)には、ストア的見解も懐疑主義的な態度も見えますが、かれの関心は何らかの哲学的立場を組織することではなく、「目を自分の内部にまげ、そこに目をすえ、目をとどめる」ことであり、こうして人間、とくにモンテーニュなる人間を吟味することでありました。
「一切の人間性はつねに誕生と死の中間にあり」不断の変化であり、不断の矛盾であります。「私は存在を描くのではない。推移を描く。年毎の推移ああるいは世人のいう七年毎の推移でなく、毎日、毎瞬の推移を描く」。したがって思考によって人間の存在をとらえようとすることは「水をつかもうとするのと、少しもかわらないであろう」。
しかしそれにもかかわらず、各々の人は「自己の形態」をもっています。「何人も、もし自分に耳を傾けるならば、教育や自己に反する諸情欲に対して抗争する自己の形態を、自分のうちに見出さないものはいない」。そしてこの自己の形態はまた「人間の性状の完全な形態」を宿しています。それゆえかれは自分自身を描きながら、人間を描いたのです。
参考文献
『エセー I 人間とはなにか』、『II 思考と表現』 、『III 社会と世界』
荒木昭太郎(編訳) 中公クラシックス
『モンテーニュ 随想録』上・下 松浪信三郎(訳) 河出書房新社
『モンテーニュ入門講義』 山上浩嗣(著) ちくま学芸文庫
『モンテーニュ 人と思想』 大久保康明(著) 清水書院（新書判)
『フランス絶対主義 歴史と史学史』
ファニー・コザンデ、ロベール・デシモン(著) フランス絶対主義研究会(訳)
岩波書店
『絶対主義国家と身分制社会』 成瀬治(著) 南陽堂書店
次回は「ジャンティヨム」
ログインしてコメントを確認・投稿する