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2024年02月04日10:44

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変態監督が描く18禁のおとぎ話!「哀れなるものたち」

1月は映画を一つしか劇場で観ませんでしたが、2月1日のサービスデーがたまたま休みだったのもあって、1日に2本観ました。
一つが「哀れなるものたち」、もう一つが「ノセボ」。
まあまあ面倒な映画っぽい2作ですが、どちらも案外そうでもなく、グッタリする事なく楽しめました。

今回は「哀れなるものたち」のレビューです。
すでに、映画マニア達の間で絶賛と批判の感想が溢れている話題作。
また、今年のアカデミー賞にも大きな期待が寄せられる作品でもあります。
R18の映画でありながら、ここまで話題になるのも珍しいですよね。

しかも、監督はあのヨルゴス・ランティモス監督。
「女王陛下のお気に入り」で一躍人気となった監督ですが、「籠の中の乙女」「ロブスター」「聖なる鹿殺し」といったウルトラ異常変態映画から知っている身としては、「大丈夫かなあ」という不安を拭い去る事が出来ません。
また何か、やってはいけない事をしているのではないか。
もちろん、そういうのを楽しみにしているわけですが。

本作も、公開前からとんでもない映画だと聞いてはいました。
主演のエマ・ストーンが、それはもう大変な事になっているとか。
成人女性の頭に赤ん坊の脳みそを移植する話とか。
倫理観が崩壊させられるとか。
それってこの監督の平常運転じゃないかとも思いますが、期待は高まります。

ところが、実際観てみると、監督の作品の中では断トツのエンターテイメント性のある作品でした。
胸糞もほぼ無いし。
前作の「女王陛下のお気に入り」を超えるシンプルに面白い内容に、拍子抜けした感じはあります。

おおまかなお話としては非常によくある、大衆好みの内容だと思います。
自殺した妊婦の、その赤ん坊の脳みそを母親に移植する。
これのどこがよくあるんだ!と思うかもしれません。
確かにあまりにもどうかしている(でも絶対監督好みの)設定ですが、この結果誕生した怪物的主人公が辿るサクセスストーリーなのです。

破天荒だったり、ルールを守れなかったり、空気を読めなかったりする不器用な主人公が、自分の特技を活かしたり、とにかく努力したりすることで馬鹿にしていた連中を見返し、大きな偉業を成し遂げる。
映画やドラマでは定番の筋書きです。
この映画でも、序盤では生活する事すら困難な主人公ですが、様々人々と出会い、様々な知識を吸収し、様々な経験をする事で、徐々に強く賢い人間となっていく様を描いています。

彼女の強さの元となっているのは、その世界における一般的な教育を受けていない事です。
この映画の世界は、現実世界とは微妙に異なる異世界ではありますが、まだ女性の活躍が歓迎されていなかったかつての時代が元になっているようです。
このような世界では、女性は子供の頃から「これはいけない」「これはできない」と様々な制限を教えられ、また必要な知識も与えられなかったりすることで、意図的に「無能人間」として製造させられてしまうわけです。

当たり前の好奇心や、本能的な快楽を去勢されていないという事が、彼女の一番の武器となって、成功していく(しかし、知識の無い事で失うこともある)という点が、この映画の痛快なポイントになっているのでしょう。
女性が主人公なのでフェミニズムの観点から語られ、そのために結末について批判をされている部分もありますが、これはもっと普遍的な物語だと思います。

例えば、日本では一部の学校で「カルト校則」と呼ばれる理不尽な校則を生徒に従わせ、どれだけ理屈が通らない無茶な決まりであっても、「上の人間には逆らってはいけない」という意識を植え付けています。
これにより、劣悪な環境での労働にも、誤った政治にも、批判できない人間を製造しているわけです。

実際は、こういったルールや常識にとらわれない人間でなければ何かで成功することは困難です。
ただの足枷なので。
そして、そうしたルールに従うのではなく、むしろ自分のために利用できる人間こそが、さらに上へとのし上がる事ができるのです。

そう考えれば、この映画の結末にも納得です。
純粋におとぎ話の結末として「めでたし、めでたし」で終わっても構わないと思います。
しかし、この映画に何かしらの現実社会へのフィードバックを求める人には「これでいいの?」という違和感が残るのでしょう。
でも、彼女はヒーローや政治家じゃありません。
ただ純粋に、自分が楽しく気持ちの良いものを求めただけなのです。
最初から一貫していたのです。

ちなみに、原作は読んではいないのですが、この原作自体も非常にユニークな作品のようです。
映画化されたのはその一部分のみであり、全体としては映画化された部分をひっくり返されるパートもあるのだとか。
複数の人物の視点によって語られる事自体が意味のある原作を、このようなストレートな物語にしてしまったという点に批判もあるでしょう。
逆に、映画に納得できなかった人は原作を読んでみると良いかもしれません。

監督が一番惹かれたのが、この荒唐無稽な物語の部分だったというのはよく分かります。
この映画、あらゆる美術が非常に凝っていて、それを見ているだけで楽しい。
また、主人公の自我が芽生えていない段階では映像もモノクロにする等、見せ方もいちいちこだわっています。

楽しく狂った、大人向けのおとぎ話。
そういうものとしてシンプルに楽しむべき作品なのでしょう。
様々なルールや配慮を無視するのって痛快だな!と思うくらいで良い。
勝手に「自分がどう見られているか」についてばかり考え、精神的に疲弊するよりも、心のままに生きよう!
興味のある事はどんどん知って、とにかくやってみよう!
観た人がそんな気持ちになったら良いな、というのが監督の純粋な気持ちなのでしょう。
なにより、監督自身がそれをこの映画でやってみたわけですから。

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