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2023年11月30日01:13

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『初めてのプレゼント』

 2023年のロス誕作品です。『聖闘士星矢』の二次創作でロスサガ風味。
 少年時代、アイオロスの誕生日に贈り物をするサガの話。二人とも初々しいのう。
 マイオリジナルの双子の子供時代設定に基づいています。その辺は『雪解け』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3484101『ハルモニアの首飾り』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3513947あたりを参照。少年時代のアイオロスとサガの話は『射手と双子の嬉し恥ずかし思春期日記』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6197855を参照。
 去年の話はこちら。『誕生日のご褒美』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18818737


『初めてのプレゼント』

 「それでは、今日で『ホメロス風諸神賛歌』の講義を終わります。次回よりカリマコスの『賛歌』を行います」
 学習館の講師がそう告げ、ノートや鉛筆を片付けたアイオロスとサガは、
「ありがとうございます」
 と礼を言って、その日の座学を終えた。
 自分たちの勉強道具を抱えてそれぞれの帰路についたアイオロスとサガは、二人で並んで歩いていた。
 神話の逸話への自分たちの感想や、普段の生活のあれこれなどを雑談していた二人だが、やがてアイオロスはこう切り出した。
「あの…サガ。サガはこの前の五月が誕生日だったって、言ってたよね?この前、十二歳になったって…」
「うん」
 アイオロスの問いにサガが答える。
 十二歳になった誕生日の日に、サガとカノンは養母の元から家出して聖域に逃げ込んだ。聖域外周の森の中に転移した二人は、人間たちの姿を探して森の中を歩いた。
 そしてサガが初めて会った人間が、射手座のアイオロスだった。カノンはアイオロスの気配を察するや、すぐに次元の境目に姿を隠して、相手に見つからないようにして様子を探っていたのだが、森の中を鍛錬で走っていたアイオロスはサガの姿を見つけるなり足を止め、顔を真っ赤にした。そしていきなりサガの両手をつかみ
「おれと結婚してください!」
 と叫んだのだった。
 それから、アイオロスが名乗って、サガも名乗り返して、相手が男だと知ってアイオロスが失恋して、サガが聖域の人々に紹介され、双子座の聖衣が反応して…と、色々あって、最終的にサガは双子座の黄金聖闘士として認知され、聖域の住民として自宅や物資の配給受け取り権などを付与されて、この地での生活が始まった。 
 そして悪戦苦闘しながらもサガが聖域の生活に馴染んできて、二人の出会いから半年たった今、アイオロスはサガに先程の問いをしてきたのだった。
 サガの返事にアイオロスは少し口ごもっていたが、思い切って言った。
「あの…、おれの誕生日、次の十一月三十日なんだ!」
「そ、そうなんだ。知らなくてごめん…」
 謝るサガに慌ててアイオロスが言った。
「あ、ううん、それはいいんだ!おれも今まで言わなかったし…。おれ、次で十二歳になるんだよね!へへへ…やっとサガと同い年だよ!」
 嬉しそうに、恥ずかしそうに、アイオロスがサガに告げる。
「あ、そうか。おめでとう」
「へへへ…」
 サガからの祝いの言葉に、アイオロスは嬉しそうに照れ笑いした。
 隣を歩くサガの整った白い横顔をちらちらと見ながら、アイオロスは
『綺麗だな〜』
 とサガに見惚れた。時々は、「キス、してみたいな…」などと思い、慌てて「バ、バカバカバカ!おれのバカ!サガは男だぞ!何を考えてるんだ!」とその度ごとに心の中で首を横に振るアイオロスなのであった。
「そ、それでね…。サガにお願いがあるんだけど…」
 どう言おうか恥ずかしそうにしていたアイオロスだったが、やはり思い切ってサガに告げることにした。
「サガ、あの、その誕生日の日…おれにサガから誕生日プレゼントをくれないかな!?」
 勇気を出して、アイオロスは自分の願いを口にした。若干、顔を赤らめながら。
「え…?」
 アイオロスの頼みに、サガは少し戸惑ったようだった。サガの表情の変化を見てとってアイオロスが慌てる。
「あ、ごめん!やっぱり迷惑だよね?変なことを言って…」
 慌てるアイオロスを、サガがこちらも慌てながらなだめる。
「あ、そんな、迷惑だなんて思わないよ!ただ、ちょっと予想外だったから…」
 戸惑ったようにしたサガだったが、すぐに答えは出た。
「もちろん、何か贈るよ!アイオロスは…私の友達だものね」
 「友達」という単語を、サガはとても嬉しそうに、そして少し照れ臭そうに口に出した。
「うん!ありがとう、サガ!」
「でも誕生日プレゼントかぁ…。アイオロス、何がいいかな?」
「何でも!サガがくれるなら、何でも嬉しいよ!」
 そしてアイオロスはそこで弾むような足取りで走り出し、サガを振り返った。
「じゃあ、サガ!おれ、隣のおばさんに預けてるアイオリアを迎えにいくから!また明日ね!」
「あ、うん。また明日」
 そう言ってサガは駆け出したアイオロスを見送り、自宅にと向かったのだった。

 サガが与えられた自宅に帰ってみると、めったに聖域に居つかないカノンが在宅中だった。
 聖域に迎えられたサガと違い、カノンは「おれは聖闘士になる気なんかないし」と言って周囲の人々には姿を見せず、頻繁にアテネ市に出かけているようだった。カノンは聖域側に存在を認知されていないため、当然、彼のための食料や衣類の配給もなく、カノンはそれをほぼ独力でアテネ市で調達しているようだった。時々はサガの家にも帰ってくる…というか、姿を見せて、夜に寝ていくこともあるのだが、帰ってきたカノンからはいつも香水や煙草や酒の匂いがしていて、サガはアテネ市で双子の弟があまりろくでもないことをしていることを察知していた。かといってカノンに具体的に何をしているかを聞き出す勇気もなく、「教皇様にお前もいることをお知らせしたら、お前の生活だって…」「おれは聖闘士になる気はないって言ってるだろ!」との問答を繰り返すしかなかった。
 だがこの日、久々に帰って来ていた弟の姿を見ても、サガはどこか上の空だった。
「サガ、どうした?」
 いつもならカノンの顔を見ると大仰に弟を心配してくる兄が、いつもとは違ってろくに声もかけてこない様子に、カノンがいぶかしむ。
「あ、うん」
 と言い、サガは弟に説明を始めた。
「アイオロスに誕生日プレゼントを欲しいと言われて…」
 そしてサガは弟に尋ねた。
「カノン、誕生日プレゼントって…何が良いと思う?」
「いや、おれに聞くなよ…」
 心底呆れてカノンが返した。サガはしきりに首を傾げて、何をアイオロスに贈ればいいのか真剣に悩んでいるようだった。
「誕生日プレゼント…。何が良いんだろう?考えてみたら、今まで誰かに誕生日プレゼントをあげたことがなくて…。私たちは何をもらったかな?」
 服とか、菓子とか、本とか…と、サガは自分がこれまでにもらった贈り物を思い返していた。
「まあ、あいつら全員、誕生日っていつだ?って連中だったし…。確かにおれたちからあいつらに誕生日プレゼントを贈ったことはなかったな…」
 ぼそりとカノンが呟く。その間にも、サガは悩み続けていた。
「服は…作ったことがない…。菓子…作り方が分からないや…。本…アイオロスって、本をもらって喜ぶかなぁ…?」
 その後も、ああでもない、こうでもない、とサガは悩んでいた。
「…そもそも、お前、おれにも誕生日プレゼントをくれたこととか、なかったよな…」
 そのことに思い至ったカノンは、不機嫌になった。そして久々に無事を確認した双子の弟のことよりもアイオロスへの誕生日プレゼントについて考え続けるサガに苛立ち、同時に双子の兄の頭の中を一杯に占拠しているアイオロスという男のことも大嫌いになったのだった。

 そして十一月三十日のアイオロスの誕生日当日。訓練場でサガと顔を合わせたアイオロスは、明らかにそわそわと浮ついていて、「サガからもらえる誕生日プレゼント」への期待感を全身で表していた。
「あの、アイオロス…」
 アイオロスの態度に少し引きながら、サガは自分が用意した「誕生日プレゼント」をアイオロスに差し出した。
 それは手のひらに乗るくらいのサイズの白い布袋で、口の部分を青色の細いリボンでくくっていた。
「なに、これ?」
 サガから受け取った白い袋をアイオロスが眺め返す。
「香り袋を作ったんだ。乾燥させたラベンダーとか、カモミールとか、オレンジの皮とかを入れて…あまり大したものは作れなかったんだけど…」
 サガが説明する。しかしアイオロスが示していた期待感の大きさに、サガは「こんなもので良かったのか?」と自信を失くしかけていた。
「あの、良い匂いがするから、枕の中とかに入れたらいいと思うんだけど…。ご、ごめん、こんなもので…。あ…、香り袋なんて、女の子みたいで嫌かな?それなら…」
「嬉しい!」
 謝罪しかけたサガの言葉に、アイオロスの喜びの声が重なった。
「…え?」
「嬉しいよ、サガ!本当だ!すっごく良い匂い!」
 香り袋を自分の鼻に押し当てて、すーはーすーはーと匂いを嗅いだアイオロスは、サガの両手をぎゅっと握りしめて礼を言った。
「ありがとう、サガ!すっごく嬉しい!大切にするよ!」
「あ、うん、ありがとう…」
 これまた大仰に喜んでいるアイオロスに少し引きながら、サガも照れ笑いをして返事を返した。
「えへへ、サガからの初めてのプレゼントだ…」
 アイオロスは右手にサガからもらった香り袋を、左手にサガの手を握り、こう言った。
「サガ、おれたち、ずーっと友達でいようね!」
「…うん」
 サガも嬉しそうにアイオロスに答える。
 そうして二人は手を繋いだまま、ギリシャの冬には珍しく晴れた青空を見上げた。青く透き通った空のように、二人の未来は明るく澄んだものだと、アイオロスもサガもこの時は信じていた。

<FIN>

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