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2023年10月30日16:14

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『危険な火遊び』

 2023年のラダ誕作品です。『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定、ラダカノ前提。
 カノンがラダマンティスの不在をいいことにアイアコスを誘惑して、ミーノスに逆襲される話です。
 冥界三巨頭の神話時代の逸話はこちらを参照。『クレタから吹く風』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4144377
 昨年の話はこちら。『手作りの贈り物』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18627807
 表紙はかき様のこちらのものhttps://www.pixiv.net/artworks/102151566を利用させていただきました。

『危険な火遊び』

 10月30日は冥界三巨頭の一人である天猛星ワイバーンのラダマンティスの、今生での肉体が生誕した日である。そこで現在はこの日をラダマンティスの誕生日として同僚や部下たちが彼を祝ってくれていた。
 そしてラダマンティスの恋人であり、双子座の黄金聖闘士と筆頭海将軍・海龍の二足わらじを履いて海界で暮らしているカノンは、誕生日にラダマンティスと二人きりで過ごすのを恒例としていた。
 そんなわけで今年の10月30日もラダマンティスに会うために、カノンは冥界・カイーナにあるラダマンティスの居城を訪ねたのだった。
 だが当日、ラダマンティスは急な魔獣討伐の任務で出かけてしまっており、カノンは主人の不在を従者の雑兵スケルトンから告げられた。仕方なく、カノンは渋い顔で客間でコーヒーを飲みつつ、城の主の帰還を待つことになったのだった。
 そうして退屈そうにコーヒーをすすっていたカノンだが、そんな彼に退屈しのぎになる誘いをかけてくれた者がいた。ラダマンティスの同僚である天雄星ガルーダのアイアコスである。書類を持参ついでに同僚の顔を見に来た彼だったが、ラダマンティスが不在であり、人の出払ったカイーナでカノンがやることもなく一人でコーヒーをすすっているのを見ると、
「暇ならおれのところにくるか?」
 と、アイアコスはカノンに声をかけてくれたのだった。おれのところ、とは、アイアコスの居城であるアンティノーラである。そして暇つぶしの方法ができたとばかりに、カノンは喜んでアイアコスのもとに転がり込んだ。
 そして今、カノンはアイアコスが提供してくれたスコッチ・ウイスキーを水割りで昼間から図々しく飲み、つまみに出されたナッツ類やサラミも堂々とむさぼり、アンティノーラの客室で「ででーん」とソファを占拠してくつろいでいるのであった。
「しかし、カノン…」
 こちらはカノンの真昼間からの飲酒に付き合うことはせず、カノンとは向かい側のソファで真面目にチャイを飲んで雑談の相手をしていたアイアコスが言った。執務の休憩中ということになっているので、アイアコスは冥府の判官の正装として漆黒の法衣姿である。冥衣など日常的に纏うものではないのだ。
「改めて眺めると、お前…美形だな」
 ぶしつけともとれるアイアコスの感想に、カノンは
「当然だ」
 と、ぬけぬけと胸を張って答えたのだった。
 これはカノンが自信家だとかナルシストだとか、そういうことではない。
 カノンの思考としては、以下の通りである。
「自分とサガは一卵性双生児である」

「ゆえに自分はサガと同じ顔立ちをしている」

「サガは美しい!これは証明の必要もない事実!」

「だから自分も見た目は良いはずだ!」
 という、超ブラコンな確信ゆえに出てくる態度なのであった。
 自分の容姿を褒められて傲岸に胸を張っているカノンを、アイアコスはじーっと値踏みするように見つめていた。やがて、彼はこう聞いてきた。
「一度、おれと寝てみないか?」
 ぶーっ!と、カノンは口からウイスキーを勢いよく噴出した。
「な、な、な…」
 動揺しながら汚れた口元の汚れをぬぐっているカノンに、アイアコスは平然とした顔で言葉を続けた。
「いや、お前ほどの美形が相手なら、あのラダマンティスが骨抜きになるのも無理はないとも思ってな。よければおれも一度くらいは試してみたいなと…」
 酒のテイスティングでもするかのような気軽な口調でアイアコスが告げる。
「で、どうだ?」
 改めて問うたアイアコスを嫌そうな顔で見ていたカノンだが、一度視線をそらして何事かを考えた。そして再びアイアコスに視線を戻した時には、カノンの表情は一変していた。嫌悪の顔から人を誘惑する蠱惑的でなまめかしい表情に、だ。
「ふ…ん、アイアコス。よく見ると、お前もなかなか男前だな」
 目を細めて、カノンが意味深な視線をアイアコスに向ける。
「当然だ」
 と、これまたカノンに負けず劣らず堂々とアイアコスが胸を張った。カノンの周りくどいブラコン表現とは違い、冥界三巨頭の一角はごく自然に自信家なのであった。
「ふふん…」
 軽く笑ったカノンが、アイアコスに身を乗り出して接近する。
「ラダマンティスもいなくて暇だし、その暇つぶし程度なら、お前の相手をするのも悪くはないかもなぁ…?」
 カノンはアイアコスの横に席を移し、彼の首周りに腕を回して誘惑した。艶っぽい目線を向けてくるカノンに乗せられるように、アイアコスも彼の唇に自分の唇を寄せる。
 その時。
「いけませんよぉ、アイアコス。腹違いとはいえ、弟の嫁を寝取るなんて」
 突然、二人の背後から声がかかった。ぎょっとしたカノンが慌てて飛びのいて、アイアコスと距離を取る。二人が座るソファの後ろに、いつの間にか天貴星グリフォンのミーノスが立っていた。彼もまた冥府の判官としての法衣姿である。
「ミ、ミ、ミーノス…!お前、いつ…!?」
 亡霊でも見たかのように、カノンが震える声でミーノスに問う。いつミーノスがこの部屋に入り、いつミーノスが二人の背後に立ったのか、人の気配には敏感なカノンが全然気づかぬ神出鬼没ぶりであった。
 アイアコスはというと、同僚の神出鬼没ぶりにはすっかり慣れているのか、全く動じずにソファの背後に立っているミーノスと会話を始めたのだった。
「『腹違いの弟』?」
 アイアコスの問いにミーノスが説明する。
「ほら、私たちは三人とも大神ゼウスの息子でしょ?しかしアイアコス、あなたも父親の好色な面を受け継いでたんですねぇ。もっと堅い男だと思っていたのに…意外です」
 ミーノスの説明にアイアコスは呆れたような顔になった。
「ゼウスの息子とか…それは神話の時代の話だろうが。現代で何の意味がある?」
「そう言いましても、私たちは神話の時代の因縁で、いまだに冥界三巨頭なんてものをそろってやってるわけですし…。無関係とも言い切れないのでは?」
「だからといって、おれはお前を『弟」とは思えんぞ?」
「私だって、あなたを『兄』とは思えませんよ。でもラダマンティスは別です。今でもあれは同じ母から生まれた、可愛い可愛い私の『弟』ですからね」
「………」
 惚気るような口調でラダマンティスを語るミーノスの反応に困ったのか、アイアコスが沈黙した。ミーノスの意外に弟思いな一面に驚いたのかもしれない。カノンもまたミーノスの弟思いな一面、ないしはラダマンティスへの愛着を知って意外だと思ったが、それにほのぼのと驚いているのも「浮気現場」を目撃された身としては気まずいだけであり、カノンはこの隙にそーっと足音を忍ばせてアンティノーラの客室を後にしようとした。
 しかし。
「だめですよぉ、カノン、問題の当事者が一人で逃げようとするなんて」
 ミーノスが発動させたコズミックマリオネーションの糸に全身を絡めとられ、カノンは有無を言わさずに再びアイアコスと同じソファの上に強制移動させられた。
「は、はなせー!」
 糸でぐるぐる巻きにされて身動きできぬまま、ソファに強制着座させられたカノンが叫ぶ。
「あなたも浮気性な人ですねぇ。ラダマンティスだけではなく、アイアコスまでたぶらかす気ですか?」
「い、いや、別にそういうわけでは…!ちょっとした暇つぶしというか、遊びというか…おれが本気なのはラダマンティスだけで…!」
 浮気男のテンプレのようなカノンの言い訳をミーノスはまともに聞かず、また聞く気もなく、身動きが取れなくなっているカノンに自分の顔を寄せてきた。
「まあ、せっかくです。私とも暇つぶしついでに、一度寝てみませんか?」
「…え?」
 ミーノスの問いに衝撃で固まったカノンをソファに押し倒し、ソファの背面から身を乗り出してミーノスはカノンに馬乗りになった。そして固まったカノンの顔に自分の顔を寄せて軽いキスを彼の額や頬に繰り返した。
「私のトロメアに来れば、あーんな道具やこーんな薬もありますよ?ラダマンティスではしてくれないようなことも、色々としてさしあげますよ?」
「………」
 続けざまに問うてくるミーノスに、カノンは返事も出来ず沈黙して固まるだけだった。
「あなたは抱くのと、抱かれるのと、どちらが好みです?私はどちらでもいいですけど」
「………」
「もちろん、アイアコスも一緒に。二人であなたをたーっぷりと可愛がって差し上げます。三人で楽しみましょう」
「………」
 勝手にミーノスの乱交仲間に入れられていたアイアコスだが、彼は端然とソファに座したままチャイをすすって、ミーノスの言葉を右から左に聞き流していた。
「ミーノス、お前…。ゼウスの好色をおれが受け継いだとかどうとか言っていたが…、父親の性情を一番受け継いだのはお前ではないか…」
 自分のことを棚に上げて手が早いとミーノスに非難されたも同様なアイアコスが、ため息交じりに同僚の言動を愚痴る。なにせ当の同僚は、自分が座るソファの真横で情事に及びかねない勢いなのだった。
「そりゃあもう、神話の時代の私の妻も、私を父ゼウス譲りの多情と認めてましたからねぇ」
 アイアコスの指摘に動じることなく笑ったミーノスは、改めてカノンを抱きしめてキスをしたのだった。
「さ、それではカノン、私のトロメアに移動しましょうか」
「………」
 糸で絡められたままのカノンの体をひょいっとミーノスがテレキネシスで持ち上げた。その時。
「…ぎゃあああああーっ!」
 それまでのミーノスとアイアコスのやり取りに固まったまま沈黙していたカノンは、狼か熊が生きたまま引き裂かれたかのような絶叫を上げた。
「いーやーだー!たーすーけーてー!」
 必死に叫んで助けを求めたカノンだが、ミーノスが当然聞く耳を持つはずはなく、他に客室にいるアイアコスはといえば、平静な顔でチャイを飲むだけで動く気配はなかった。
「やだやだやだやだー!誰かーっ!助けてーっ!」
 叫ぶカノンを糸でぐるぐる巻きにしてテレキネシスで宙に浮かべながら、ミーノスが客室の扉を開いて廊下に出ようとした。
 そして扉を開くと、眼前にはラダマンティスが立っていたのだった。
 ラダマンティスは魔獣討伐からの戦場帰りのはずだが、しっかりシャワーを浴びて身支度を整えてからここに来たのか、身体にも髪にも血の臭いや泥の汚れなどはついておらず、身綺麗で真新しい漆黒の法衣に身を包んでいた。
「ラダマンティスぅぅぅ!助けてー!」
 ギャン泣き状態のカノンが目の前に現れた恋人に助けを求める。
 ラダマンティスは先程までのやりとりを扉の外で聞いていたのか、室内の状況を見ると大きなため息をついた。
「そのあたりで止めておけ、ミーノス」
 大きく肩を落とした同僚を見て、ミーノスは何も言わずに技を解除してカノンを解放した。
「うわぁぁぁぁーん!ラダマンティスー!ごわがっだよぉぉぉぉー!」
 泣きじゃくりながらカノンがラダマンティスの腕の中に飛び込む。ラダマンティスは幼い子供をあやすかのように、よしよし、と、カノンを抱きしめて背を撫でた。
「ミーノス、あまりカノンをからかわないでやってくれ。こう見えても、カノンは意外に純真なところがあるのだ」
 真面目な顔で言ったラダマンティスのその台詞に、「ぶっ…!」とアイアコスがチャイを噴き出した。気管に入ったのか、アイアコスはそのままむせている。
「カ、カ、カノンが『純真』…!ぶっ…くくく…ぶふっ…」
 むせていたアイアコスが、やがて腹を抱えて笑い出した。
「ぶわははははは…!カノンのことをそう表現するのは、世界でもお前くらいだ、ラダマンティス…!」
 よほど笑いのツボに入ったのか、アイアコスはソファの上で無遠慮に笑い続けていた。ミーノスも呆れたように語る。
「いやぁ…恋は盲目とは言いますが…、ラダマンティス、あなた、カノンの閻魔帳を見たことがあります?何なら、カノンがこれまで関係を持った異性と同性の名前を一覧にしてあげましょうか?」
 冥府の書庫に収納されている膨大な数の閻魔帳には、全人類の全人生が記録されている。その中にはカノンのものも含まれていた。もちろんカノンはまだ生きているので、閻魔帳の記録は中途ではあるが。
「プ、プ、プライバシーの侵害だーっ!」
 カノンがミーノスの台詞に叫んだ。しかしよほどミーノスが怖いのか、カノンはその抗議すらラダマンティスの背中の後ろに隠れた状態で叫んでいるのであった。
 ラダマンティスは自分の広い背でカノンをかばったまま、変わらぬ真面目な顔でミーノスに答えるのだった。
「閻魔帳を死後の審判以外に利用するのは禁止されている。無論、おれもカノンの閻魔帳を見たことなどない」
 そしてさらにラダマンティスは続けた。
「それにおれはカノンがどんな過去を持とうとも、全てを受け入れるつもりでこいつと付き合っている」
 「神をもたぶらかした大罪人」。その悪名を承知の上で、ラダマンティスはカノンを愛した。過去のカノンの男性遍歴、女性遍歴くらいで動揺するタマではないのだった。
「ラダマンティス…」
 ラダマンティスの返答に、カノンは涙目をうるうるとさせて感動しているようだった。ラダマンティスが自分の全てを受容してくれる、そういう相手だからこそ、カノンもラダマンティスに堕ちたのだ。
「あなたも真面目ですねぇ」
 ミーノスが呆れたように肩をすくめて見せた。そんな彼を、カノンはぐるぐると喉で唸るような声を漏らしながら睨み付けていた。とはいえラダマンティスの背中の後ろに隠れながらなので、何とも格好のつかない威嚇だったが。
「ほら、カノン。カイーナに帰るぞ」
「お、おお」
 ラダマンティスがカノンの肩を抱いて自分の居城への帰還を促す。カノンもミーノスにこれ以上は付き合いたくなかったので、素直に恋人の勧めに従った。
「カノン、ラダマンティスに飽きたら、いつでも歓迎しますよ」
 怪しい笑みを浮かべながら、ミーノスがカノンに手を振った。
「ぜーったい、行くかーっ!」
 カノンが振り返りながらミーノスに吠えた。そんな彼をなだめて相手をしないように促しながら、ラダマンティスはカノンを連れて行った。
「まあ、あれはあれで幸せなのかねぇ…」
 ラダマンティスとカノンを見送ったアイアコスが、ぽつりとこぼした。
「幸せなんじゃないですかねぇ?まあ、過去だけでなく現在進行形でカノンには色々とあるのですが…でもラダマンティスが気にしないなら、いいんでしょう」
 納得したような台詞を吐きながら、しかしミーノスは不穏な笑みを漏らすのだった。
「きっと今夜は二人で熱く愛し合うんでしょうねぇ。愛し合うついでにカノンを責めて、色々と吐かせちゃったらいいと思うんですけどねぇ。あのこととか、あのこととか、他にもあの件とか…」
 ラダマンティスにベッドの上で責められて息も絶え絶えに自分の「罪」を白状させられているカノンの様を想像したのか、ふふふ…とミーノスは妖しい笑声をこぼしていた。
「…ミーノス、さすがに今夜は二人に乱入してやるなよ」
 ラダマンティスに同情したのか、アイアコスが釘を刺した。
「しませんよぉ。それにカノンを可愛がるなら、色々と準備をしておいた上で、たっぷりと可愛がってあげたいですからねぇ…」
 そして不気味な忍び笑いを続ける同僚を横目で眺めて、アイアコスは自分の分のお替りと、ミーノスの分と、二人分のチャイを運んでくるように従者に命じたのだった。

<FIN>

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