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2023年10月29日23:32

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恋の獣が世界を壊す 『アリスとテレスのまぼろし工場』

監督の岡田麿里が「自身の純度120%」と語る本作は、なるほど、むきだしかつ生々しい恋愛と登場人物の感情がぶつかりあうクセの強い作品だ。恋の名の獣が“本質” *1 そのまま、世界を壊し変革する。

巨大な製鉄所が建つ鉄鋼業の町・見伏(みふせ)。

あるとき、この製鉄所が爆発事故を起し、町の時間は停止する。住人は年を取らず外部にもでれない。以来、見伏の人々は、時の再来を信じ、「変化」を禁じ、製鉄所を神格化してすごしていた。

だが、菊入正宗と、佐上睦実の恋の衝動と、謎多き少女・五実(いつみ)の登場で世界はかわる。

本作はいわゆるセカイ系作品の典型だ。

正宗と睦実が織り成す恋の衝動が五実を巻き込み世界を壊す。監督は、その衝動と崩壊に注力して、理論や理屈はすてる。見伏の「内側」と「外側」の関係はなんとなく想像できるが、 *2 それらは重要ではない。

見伏は衝突する正宗の睦実の恋をはげしさをダイナミックな作画と美術で表現する“演出装置”だ。

その壮大さをMAPPAの力の入った作画や美術が担保する。

つきつめれば本作は、監督がキャリアと人生の中で追い求める、衝動や欲求が、閉塞を打破し、爆発する物語のバージョンアップだ。

だが、媒体関係なく創作の恋愛が「漂白されたように無機質で効率化された」ものになった現在、 *3 監督の生々しく一部で醜い姿は強く印象に残る。

最後に睦実が五実から恋を奪い取り、愛と共に送り出す姿を頂点に作品は突き進む。*4


※1 作中において正宗と睦実の恋が、まさしく世界をかえるように、恋愛感情とは制御がきかず、ときには暴走してしまうものだ。自身や他者の体験に関係なく、それは事実である。人間に最も強い感情を呼び起こす恋愛感情は、想い合う相手の世界の見方に強烈な変化をもたらす。それが片思いでも、両想いであろうとも――。

※2 正宗と睦実が暮す「静止した見伏」と、その「見伏の外側の見伏」は、並行世界で別々の「見伏」だ。だが、一部が重なり合った世界のために、行き来が可能で、その現象が最後の選択へとつながる。成長した五実が衰退した「見伏」を訪問する最後の場面は様々な解釈ができるだろう。「静止した見伏」の時が動き出し、「見伏の外の見伏」の時間へ合流するのか? それとも消滅するのか? それはわからない。ただ、確実にいえることは、五実は両方の「見伏」を体験を記憶しており、それを想い出し振り返る事ができる。五実の心の中には両方の「見伏」と人々が存在するのだ。

※3 「時代だな」と思う反面、「生々しくない恋愛って現実にも物語にもあるのか?」と思う次第。

※4 最後に睦実が選び取るむきだしの正宗への好意は、女の業に満ち、非常に岡田麿里らしいものだ。相手の年齢は関係ない。真剣に睦実は五実へ向き合う。
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