朝のおじいさん散歩。
この数日は、エルヴェ・ル・テリエ『異常(アノマリー』という本を読んでいる。
早川書房から出ている翻訳小説だ。
フランスでベストセラーになり、ゴンクール賞という名前くらいは聞いたことがある賞をとったそうな。知らないけど、漠然と考えるに日本でいう芥川賞とか直木賞のたぐいかな。
ハヤカワって、毎年夏とかに電子書籍のセールやってくれるんだよね。
それで過去、どれだけ電子書籍の積読を増やしたことか(苦笑)。
いずれ読むつもりはあるから、損とは思わないが、気がつくと通常で文庫価格になっていることも多々あるもの。
この『異常(アノマリー)』という作品が最初に気になったのは去年の夏だったかと思うんだけど、そのときは、いやいやまた積読を増やすだけだ、と見送った。
そして今年もまた、セールで見かけたんだよね。
一年くらいたって、また興味をそそるということは、まぁやっぱり読みたいということかな、とポチリ、はや三ヶ月か。
ということでようやく読み始めた。
群像劇とは聞いているが、それ以外はどんな話なのかよくわからない。
最初のエピソードは、どうやら殺し屋の話っぽいんだけど、その後、違う人のエピソードが次々と、という感じ。
たしかに群像劇か。
ところどころに別の話に出てきた人の名前が出てきたり、重なり合う部分も出てきて、おや?となる。
殺し屋の日常だったり、中年作家の切ない片想いだったり、ゲイであることを隠すポップスターだったり、それぞれのエピソードに気がつくと引き込まれている。
独立した短編小説みたいでね。
映像編集者で初老の恋人との関係に疲れて、交際が始まってから別れを決意するまでのエピソードが今のところ印象に残っている。
最初のうち、好ましく思えて交際が始まり、いっしょに旅行に行って盛り上がるんだけど、いつしか相手の態度が自分を所有しているように思えて、だんだん心が離れていく。
相手も別れが避けられないと焦りながら、自分の思いを伝えたい、と渡した薄い小説が、別のエピソードで主人公になっている人物の遺作だったり。
その話が終わって、別の人のエピソードが続き、油断していると、いつのまにか前のエピソードで振られた初老の男が、彼女との別れについて独白するエピソードになっていたりもする。
あぁ、彼の視点に立つと、こんな風にみえたのか。彼女から見たら、意外と若い男に思えたけど、実は彼のイメージではもはや老いを隠し切れなくて、そのこともあって焦った行動が、かえって彼女との距離を生んだのか、とか考え込む。
ふと我にかえり、結局、俺なんの本読んでたんだっけ?と不思議な気分になる。
全部ではないんだけど、いくつかのエピソードではそのエピソードの主人公のもとに、FBIだかCIAだか、領事館の職員だか、役人っぽい人が訪れ、話を聞きたいと言うというあたりで、エピソードが終わる。
そのあたりで、話がなにかつながっていくんだろうなぁとだんだん察しがついていくんだけどね。
第一部の最後で、あぁそういう方向にいくのかぁという展開。
こういうの、衝撃の展開とか大どんでん返しとかいわれると、構えちゃって興がそがれることがある。
知らないで読んでいて、「おぉ!」となると、いっきに本に引き込まれるからね。
といって、驚きがあるとか、なにか引きがないと、本を手に取るフックがない。
なかなか難しいね。
苦慮した挙句、「いいから読みなさい」なんて言い出す人もいるくらいだ。
Amazonのレビューをみると、好評、不評、いろいろだ。
たしかに翻訳小説、それもフランスの小説ということで、ハリウッド映画よりも入り組んだ人間像はあるかもしれない。でも小説とか好きな人なら、そこも含めて楽しいと思うんだけどね。
第二部に入り、物語に加速度がついてきた。
続きを愉しもう。
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