クローネンバーグの映画は、特に好きなわけではありません。
みんなにスゲェ、スゲェと言われているので以前「ビデオドローム」とか観てみましたが、全然意味が分からないし退屈な印象しかありませんでした(一部の特殊効果は素晴らしい)。
「ザ・フライ」はそれなりに面白かった気がします。
他にもいくつか観た気がしますが、すごく退屈か、あまり印象に残らない作品ばかりでした。
そうか、「スキャナーズ」も彼か。
頭バーンのシーンは最高ですが、他は割りと退屈でした。
なんか、躍動感が無いイメージです。
気持ち悪い見せ場はあるのですが、それ以外はなんかつまんないのです。
今回の映画は、設定とかあらすじとか読んだら、監督が誰であっても絶対観たいと思ったのですが、クローネンバーグか・・・。
どうだろうと思ったのです。
結果から言えば、前半は期待させますが、後半は結局そんな感じでした。
ただ、彼の作品の中ではかなり楽しめた方だと思います。
SF作品としては、こういうものがもっと作られるべきだと思います。
倫理的、人道的なセーフティーゾーンを軽々と越え、その先にしか見えないものを見せる。
これがSFの面白さの一つだと思うからです。
SF作品に詳しいわけではありませんが、学生の頃に読んだ「ドクターアダー」というSF小説なんかは、手術によってフリークスになった娼婦が大人気という世界観が好きでした。
内容は難解でしたが、最後まで頑張って読んだものです。
今だとアニメですが、「メイドインアビス」がこういう挑戦を果敢にしつつも娯楽的な面白さもきちんとあったりして、凄いなあと思っています。
上記2作のクリエイターに共通しているのは、明らかに自身が変態であるという事です。
まず、自分が描きたい変態描写がある。
それが可能な世界観を作る。
その上で、人間的なドラマや哲学を語る。
そういう順番で作られた作品は、やっぱりエネルギーに満ちているのです。
変態パワーのなせる技です。
本作の世界では、人類は痛みの感覚を失っています。
主人公のウィゴ・モーテンセンは新たな臓器を生み出せる特技があります。
そこで、臓器に体内でタトゥーを彫り、公開摘出手術をするという見世物をしています。
一方、最初に登場する少年は美味しそうにゴミ箱をバリバリ食べます。
不憫に思ったお母さんは速やかに殺し、別れた旦那に死体の処分を依頼します。
・・・そんなお話です。
大丈夫か、何か必要なものはないか。
そんな心配をしていただかなくて結構です。
観れば、実際そのままの内容だからです。
なにそれ、面白そう!
そんな風に思う人間もいるのです。
実際、劇場にこの映画を観に来た人はたくさんいました。
明るく元気な人は誰もいませんが、人間なのは間違いありません。
変態か、変態を見るのが好きな方々。
僕はキッパリ後者です。
本当に、前半は面白かったし期待させます。
異常なエロチックさもあるし、女性がなにしろエロい人ばかり出てきます。
これは、クライマックスには大変な事にあるぞ!
お祭り騒ぎを期待してしまいました。
これはクローネンバーグの映画でした。
そんな風な期待には、やっぱり応えてくれないのです。
クライマックスで行われるインモラルな行為。
それが分かってからも、なかなかそのシーンは始まりません。
会話、会話、会話。
ようやく始まっても、あんまり盛り上がらない。
エッという展開はありましたが、その後グズグズ、モヤモヤして終了。
ファンにはこの感じがたまらないのでしょうか。
お話自体は30分もあれば描ける内容です。
世界観や登場人物の説明部分は面白かったのに、肝心のドラマ部分があんまり無い。
連続ドラマの第一話だけ見せられた感じです。
ケミカルなものを取り込んで異常な進化をする人間というのは、サイバーパンクと言われるSFジャンルで昔から描かれてきたものですが、本作もその一つという事でしょう。
ただ、なんかみんなあんまり楽しそうじゃないのです。
いやらしい気持ちで変態行為を楽しんでいるのですよね?
じゃあもっとイキイキした描写がたっぷりあって良いのでは。
逆に、退屈な会話シーンはいらないのです。
そこを聞かせたい(読ませたい)のなら、本の方が良いです。
自分のペースで理解しながら読めるから。
別の監督だったら、この設定でもっと愉快な映画が出来たのではないかと思います。
「死霊のしたたり」や「バタリアンリターンズ」のブライアン・ユズナだとか。
彼なら、クライマックスは内臓&フリークスによるお祭りを見せてくれたのではないでしょうか。
まあしかし、クローネンバーグからの元気なお便りの様な映画ですから、ファンクラブの皆さんはホッと一安心したのでしょう。
健康の秘訣は、変態です!
ログインしてコメントを確認・投稿する