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2023年08月30日22:55

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ソグドからウイグルへ―シルクロード東部の民族と文化の交流汲古書院 – 2011/12/1 森安孝夫

https://photo.mixi.jp/view_album.pl?album_id=500000120847021&owner_id=5160461

p.8
しかし、我々が欧文で発表するのは研究成果全体のほんの一部であり、それは日本の研究の重要性を知ってもらい、本格的に日本語をマスターするように呼びかけるためのものである。もしドラヴェシエールがもっと多くの日本人による日本語の論著を活用していたならば、はるかにすごい書物になっていたであろう。
p.11
特に、玄奘の伝記である『大慈恩寺三蔵法師伝』に見える「殿中侍御史勸信」は、これまでずっと「殿中侍御史の勸信」と読まれ、高昌国に仕えた漢人官僚と解釈されてきたが、それを「殿中侍御の史勸信」と読みかえ、それが史国(ソグディアナのキッシュKish)出身のソグド人であることを発見したのは鮮やかである。
p.13
さらに同じテーマを扱い、より詳細な掘り下げを行なったものとして最近、曾布川 2006が発表された。…例えば影山 2004に論及していないだけでなく、史君墓の浮彫についてそこにマニ教の影響が見られると主張するドラヴェシエールDe la Vaissiereの大胆な新説"Mani en Chine au VIe siecle."(Journal Asiatique 293-1, 2005, pp.357-378)についてまったく論評がないなど、いまひとつ信頼感に欠けるのは遺憾である。
p.15
　★さらにソグド姓について従来の見方を根本的に覆したのが、斉藤(達) 2009である…後漢以来、康姓一姓であったソグド姓が北朝後期以降に他姓も加えて多様化したのは、ソグド人が中国内で、ソグド人同士の通婚と中国側の同姓不婚の習慣との両立を図るため、と推測した。真に斬新な論文である。
p.18
森部の諸論文ではしばしば「六州胡」ないし「ソグド系突厥」という術語がキーワードとなる。
p.19
彼は「ソグド系突厥」を、ソグド人の地を引き、北アジアで突厥やその他のトルコ系遊牧騎馬民族と相互に影響しあい、やがて遊牧文化を身につけ、騎射技術を獲得し、軍事的能力を潜在的に有するものであったとする。ただし私の見るところでは、これは「トルコ化したソグド人」と言い換えてもよかろう。全く同じではないが、ドラヴェシエールがTurco-sogdiensとかSogdo-turcsというところのものに近い。
　★後で言及する中田裕子説との混乱を避けるためには、むしろ「突厥系ソグド人」ないしは「トルコ化ソグド人」「トルコ系ソグド人」と言った方がよかったかもしれない。それならばフランス語のTurco-sogdiens、英語のTurco-Sogdian、中国語の「突厥化粟特人」ともよく対応するからである。しかし森部や私の使う「ソグド系突厥」や「ソグド系ウイグル」という術語には、「ソグド人の血を引く突厥国人」「ソグド人の血を引くウイグル国人」、つまり純粋のソグド人であれ、突厥人・ウイグル人などのトルコ人と混血した者であれ、当時の突厥国や東西ウイグル国の構成員となった人々を含意しているのである。
p.22
　★福島 2010は、2005年に西安で墓葬が発見された北周の罽賓人・李誕について考察したものであるが、ソグド商人の先駆者であったバクトリア商人の姿を浮かび上がらせる可能性を秘めている点で注目される。李誕の子・孫の「李陀及び妻安氏墓誌」・「李吁墓誌」の発見により、罽賓人とソグド人とが婚姻関係にあったことが判明したが、当時の国際情勢と墓誌中の人名の表記から李誕墓誌の罽賓とはカピシーを指し、彼らがイラン系バクトリア人であるとした。本論文により、バクトリア人とソグド人とのはるか東方中国における連携の様子が分かる兆しが見えたといえよう。
　★なお、21世紀に入って俄に学界をにぎわすようになった「ソグド系突厥」説の提唱者の一人である中田裕子が初めて独自の見解を打ち出したのが、中田(裕) 2009である。石刻史料はメインではないが、彼女によれば、ソグド系突厥とは「ソグド人と突厥の混血した者」を指し、しかも彼らは「ソグド人」ではなく、あくまで「突厥人」であるとする。森部や私も含め多くはむしろ「ソグド人」ないし「ソグド系住民」とみなしてきたので、この点は今後の議論となろう。…
…
　★これまでの研究を総括すれば、唐代の北中国における武人としての側面を強く持つソグド人集団の成立には2つの潮流があると言えよう。1つはソグド系トルコ人(ソグド系突厥、ソグド系ウイグル、他)であり、もう1つは唐以前に河西回廊に移住し、そこを本拠に中国本土へと進出していったソグド人たちである。まだ論証は不十分であるものの、私はこの2つの潮流が五代の沙陀王朝にまで続いていると考えている。
p.23
　百年の伝統を誇る日本のソグド学であるが、その中でも海外の学界に最も大きなインパクトを与える業績を残したのは、やはり吉田豊であろう。今や世界的に有名になったソグド文女奴隷売買契約文書の解読[吉田／森安ほか 1989]が特に印象的であろうが、突厥第一帝国・東ウイグル帝国・西ウイグル王国におけるソグド人の活躍を後づける碑文・銘文として極めて高い価値を持つブグトBugut碑文、昭蘇県石人銘文、カラバルガスンKarabalgasun碑文ソグド語面、セヴレイSevrey碑文ソグド語面、ベゼクリク出土マニ教徒書簡などの解読ないし再解読を次々に発表していることも忘れてはならない[吉田 1988; 吉田 1991a; 森安／オチル 1999所収論考; 吉田／森安 2000]。…
…
　★吉田 2007bは、7世紀のトゥルファン地方にあった唐朝の役所において行政ないし軍政に関わる公文書がソグド語で書かれていたという事実を明らかにした。唐においてソグド人が諸方面で活躍した様子は、この拙稿で力説しているように最近10年間で飛躍的に明らかになってきたのであるが、吉田 2007bによって紹介された漢字の朱印が押されたソグド語文書断片の存在意義は、今後ますます高まるに違いない。
p.24
吉田 2007aは、吉田豊のそれまでの文献学的な多数の業績を総括する側面を持つと同時に、ウイグル仏教との関連にまで論及し、かつての欧米学界を風靡した「ソグド仮説」(5)を補強するという歴史学的側面も持っている。なお日本のソグド研究には、百濟康義によるソグド仏典解読の業績もあるが、ほぼ仏教学的な内容なので本稿では紹介していない。…
…不空の仏教活動を支えたのは、安史の乱以前、彼が河西・隴右節度使の哥舒翰に招聘され、涼州で活動していた時からの支持者であるソグド系の武将たちであった。…中田は、何故ソグド人が宦官と結びつき、不空の支援者となったのかという問題については別稿を用意しているというので、今後のさらなる展開が期待される。
p.25
　唐代に「回鶻銭」と呼ばれる金融資本が存在したことを発見したのは日野開三郎の大きな功績であったが、残念ながら彼はそれを文字通りにウイグル商人が扱う資本とみなしてしまった。
p.26
それに対して森安 1997bは、この回鶻銭が文字通りのウイグル＝マネーではなく、実はウイグルの全面的庇護を受けたソグド商人の扱う資本、即ちソグド＝マネーであったことを詳しく論証した。…森安 1997bの結論を繰り返せば、古来遊牧を生業としてきたウイグル人が商業民族としての長い伝統を持つソグド人に取って代わったのではなく、事実はウイグル支配下に入ったソグド商人が第三者から見てウイグル商人と呼ばれるようになっただけなのである。…
…
　★前稿では見落としていたが、ソグド商人と山西商人との関係を予測させるユニークな概説論文が佐伯 1999である。
p.56
この烏駱子というのが、古トルコ語のulaγの漢字音写であったことは明らかで、天山東部地域のトルコ系遊牧部落民がこれを担ったものと考えられる[荒川 1994; 2010, pp.272-284]。
p.82
　ところで、ソグド文第7行に"sγwδyk-stn”(ソグドの国)という表現が見え、これを吉田氏は「ソグド本土」を指すと解されている(Yoshida, p.64, 並びに本稿附論)。
p.88
すると、ソグドにおける記録官といえば、われわれはアスターナ出土のソグド文「女奴隷売買文書」に見えるδp'yrptw(ダピールパトゥ＝書記の長)を想起するであろう。…
…また、『周書』卷50、異域伝、波斯の条(p.919)に見える波斯国の大官の一つ「地卑勃」(文書及び衆務を掌る)は、中世ペルシア語にある同源語dpyrptの音写と解される(14)。
p.93
草書体ではあるが古風な特徴も残しており、通常の楷書体では区別が失われているβとyが、一貫して区別される。また、5行目のβγp'wrにおけるように、γは後の時代の書体のような先端が鋭角の形で書かれるときがあり、xとは区別される場合があったようで、その点では同時代の資料であるブグト碑文と共通している。どちらも縦書きで、6世紀の後半までにはソグド文字の縦書きが始まっていたことが判明する。もじpやwは通常のソグド文字では円弧によって特徴づけられるが、本碑文ではしばしば円弧が閉じず半円になっている。これは古い特徴というより、石板の上に文字を彫ることの難しさ(円にすると表面が剥落しやすくなる)から来ているのであろう。
p.97
彼はソグドの地では貴顕(?)で、ウィルカク(Wirkak)という名前である。(彼は)ワヌーク(Wanūk)の息子、ワヌークは薩保のラシュトヴァンダク(Rashtvandak)の息子(である)。
　夫人はセンペン(Senpen)生まれでウィヤーウシー(Wiyāusī)という名前である。…それから彼はここフムタン(Khumtan=長安)で豚年の5番目の月、7日に鬼籍に入った。…
…
　この石の墓室はヴレーシュマンヴァンダク(Vrēshmanvandak)、ジェーマトヴァンダク(Zhēmatvandak)、フロートヴァンダク(Frōtvandak)が作った。…
…
　1行目：t'y z'nw=大象 *d'âi ziang.(4)この漢語の年号のソグド文字による転写で注目される点は二つある。一つは濁音声母*z-が有声音のままである点である。
p.98
この声母は比較的に早い時期に無声化した。もう一つは、漢語の韻尾の-ngが単に-nで=されている点である。4世紀の初めの古代書簡では金城=kynzynが見られる。…トルファンで639年に書かれた契約文書でも、王=w''n、張=c'n、相=sy'nが見られた。(5)一方、663年の手紙では龍=rwnkが見られる。…これより後の時代には文字-nkで表記される。ただし唐の時代に書写された敦煌出土仏典Pelliot sogdien 8の奥書では、ソグド人の姓の康がx'nと表記されている。(6)これは早い時期に表記が定まったためであろう。姑臧を表すkc'nについては下記を参照せよ。
p.99
　現在までに知られているところでは、漢語の姓を表す表現は姓の漢字の発音とkwtrの複合表現を使う：''n-kwtr'k「安姓」(Or. 8212/191)、x'n-kwtr'y「康姓」(Pelliot sogdien 8)、c'n kwtr「張姓」(女奴隷売買契約)。この違いが何に由来するのか今のところ分からない。なお10世紀のいわゆるトルコ・ソグド文献では、tyn x'「田家」のように漢語の「家」の音写を用いる場合がある。…
…kc''nは古代書簡にも見られ、姑臧の音写に由来するが、ソグド語に定着した地名になった。本碑文でもkc'nc'n'kという派生形が見られる。
p.100
ソグド本土を表す名称である『後漢書』の「粟弋」も『北史』の「粟特」もどちらも原語はsuγδīkである。これはソグド語の国名表(Nāfnāmak)でも冒頭にあらわれる形式で、確かにソグド本土を指している。…さらにもしこの語が河西などのソグド人の入植地を表していれば、漢文版の「本居西域」に対応し、西方出身であることを表す表現がソグド語版にはなくなってしまうことになり、不合理であることも理由になるかもしれない。…
…一方で、frm'nδ'r(称号)や'xs'wnδ'r「支配者、王」のようなδ'rを後分とするような複合語は存在するので、この2語は'st'm-δ'rという複合語を形成していると考えられる。…当面は同源と考えられる梵語のsthāma「居場所、権力、権勢」を参考にして、「権力を持つもの、貴顕」と翻訳することにした。(11)
　wyrk'kは被葬者史君の名前である。wyrk-「オオカミ」から派生した形式に違いない。
　9行目：wn'wkは史君の父親の名前。wnw-「勝利した」から派生している。
　rštβntkは史君の祖父の名前。「(真理の神)rst神のしもべ」の意味。(12)…
…
　10行目：kty''βrはここで初めて現れる語。文脈から史君の妻を表すことは明らかである。
p.101
14行目のkty''βr prypが、「娶る」意味する熟語動詞wδw prypと同じ構造をしていることからも注目される。筆者はムグ文書に見られるkty'βs'ywsに対応する女性の配偶者を意味する語だと考える。ただしkty'βš'ywsが現れる文脈からは、この語の正確な意味は分からない。(13)ただ原義が「家の主人」というほどであるから、単なる「夫」ではなく「家長」の意味で、kty'βrはその正妻というほどの意味であろうと推測する。この推測が正しければ、ムグ文書の結婚契約書に現れる「正妻、本妻」をあらわすx'n'kh p'txš'wnh wδwh「家の権威ある妻」と同義の表現であろう。(14)それにしてもkty''βr「(原義)家を持つ」が、なぜもっぱら女性を意味するのか分からない。あきらかにkt'yβryh「在家の、世間的な」および関連する語とは無関係である。…
…この碑文で史姓がkšy'n'k-kwtr'k「キッシュの姓(の)」で表現されていることを勘案すれば、康姓を意味する*sm'rknδc-kwtr'k「サマルカンドの姓(の)」ないしはx'n-kwtr'k「康姓(の)」という表現が期待されるからである。
p.102
　11行目：wy'wsyhは史君の妻の名前。wy'ws「夜明け」に由来すると考えられる。ムグ文書にはwy'wsという男性名が在証される。…男性名から女性名の派生の仕方はこの例からだけではよく分からない。
…
　16行目：βγrw'n 'krty「鬼籍に入った」。…妻のほうは19行目のβγrw'n 'krthのように、過去形の動詞が女性形('krth)になっている。βγrw'nの意味については議論があったが、この碑文によって、死亡したことを意味する語であることが確定した。おそらく「魂が神とともにある、魂が神になった」というのが原義であったろう。これはやはり「他界した」を意味する中世ペルシア語のanōšruwān「魂が不滅になった＞他界した」と比較できる。(17)
p.104
それに照らせば、'prthは前置詞cnnに支配された動名詞ないしは不定詞と理解される。考えられる動詞の候補としては、古代語の語根*par-「負債を負わす」あるいは*parH-「満たす」に関わる型式が考えられる。…
…zmn-「時間」との共起を考慮すれば、'nγwthはムグ文書に見られる'nγwty「期間」と同じ語で(cf. Livšic, op. cit., p.67)、全体は「期間」というほどの意味であろう。(21)…
…また最も遅い時期のソグド語であるキリスト教ソグド語の写本C5の言語では、形式上は内容節を導く接続詞のqtが、関係代名詞としても使われている。バクトリア語では同じ語源のakidoが、関係代名詞としても内容節を導く接続詞としても機能することも注目される、cf. I. Yakubovitch, Studia Iranica 34/2, 2005, pp.199-230。
p.105
三男のpr'wtβntkは、pr'wt神のしもべの意味だが、独立した神格としてのpr'wtは知られていない。インダス川上流の岸壁銘文資料に、'prwtβntkという人名が知られており、同じ神格が意図されていると考えらえる、cf. Sims-Williams, Upper Indus II, London, 1992, pp.39-40。
p.106
　32行目：m'δryh「母」。古典期のソグド語では「母」を表す語の語幹はm'tだけになったが、古代書簡ではこれと同じ形式の、属与格が用いられている、cf. Ancient Letter III, 22。
p.107
たとえば、阿奴伽wn'wk[wanūk]の場合は、初頭のw-を表記できていないが、当時の漢字音にはこの音で始まる感じは存在しなかったと考えられるので、漢字音のレパートリーに起因するある種の近似的な音写であったと推定される。
p.108
例えば漢訳マニ教文献では、パルティア後のrāŝtiftを阿羅所底弗哆と表記している(27)ソグドの人名でも、何阿陵遮(TCW 3. p.318; *â liɘng tšia)はrync'kk「小さい」に由来する人名であろう。(1)の場合「阿」が、初頭のrの前に聞かれる支えの母音を表記しようとした名残とも考えられるが、肝心の音節[ra]に対応する漢字が見あたらず、この解釈は決め手を欠く。(28)
p.110
(11)　Sims-Williams教授は、私信のなかで'st'mは*'wst'mの書き損じで、その語自体はバクトリア語のōstamo「地所」からの借用語である可能性を示唆された。…
p.111
(21)　zmn-は女性名詞のように見える。古典期のソグド語ではžmn-は中性名詞であるが(cf. Sims-Williams, BSOAS 42/2, 1979. p.341, n.37)、本来は女性形だったのかもしれない。ちなみにコレズム語の同源語zm'nykは女性名詞である。
(26)　「妙尼」は古代書簡に見られる女性の名前であるmywn'yhに対応する男性の名前であろう。男性の名前と女性の名前が同じ形式になるセットに関しては、本文の注釈で議論したwy'wsとwy'wsyhのペアも参照せよ。
…
(28)　ちなみにソグド語のβntkを表す要素には従来3種類の音写が知られている。一つは吐魯番出土文書に見られる「畔陀」、二つめは本墓誌や敦煌の差科簿に見られる「盤陀」、三つめは玄奘の『慈恩伝』や固原の墓誌の「槃陀」である。どれも同じ発音である。この差異がなんに起因しているかは今後の研究によって明らかにされるだろう。
p.124
　各地のソグド人植民聚落にはゾロアスター教の神殿である「祆祠」が設置され、祆神を祀る職である「祆主」(ソグド語でβγnptwバギンパトゥ、「祠の主」)の存在したことがしられている[Henning 1948, pp. 602-603; 陳垣 1923, pp.36-39; 陳国燦 1988, pp.208-209; 吉田豊 1997, pp.228-229]。
p.134
つまり、「豪望」とは単なる有力者ではなく、その下に付き従う人々をもつ階層を指す。
p.167
したがって、安元寿の関わった冊封の記事が史書に記録されていない可能性を除けば、東羅可汗は乙毗沙鉢羅葉護可汗であると考えられ、安元寿は使者の張大師に同伴して西域に派遣されたと考えられる(10)。
p.176
稲葉穣[2001]は「安史の乱」時、唐朝側の軍にアラブ兵(ただしアッバース朝の正規兵ではなく、ghulātと呼ばれる中央アジアにいた反アッバース勢力)が参入していた事実を明らかにし、アッバース革命や安史の乱などを、8世紀のユーラシア全体で見られた変動・変革と関連させて捉え直す可能性を示唆する。
p.186
前嶋信次[1965, pp.419-421]は、諸説を紹介・検討した上で、「柘羯」はペルシア語のchakarに相当し、その原義は「奴僕であり、またしばしば私兵に用いられたもの」とみなす。…ここで問題となるのは、ソグディアナでchakar＝「赭羯」＝「柘羯」と呼ばれていた戦士が、安史軍中に存在していた事実であり、この「柘羯」がソグド系の軍人を指すことはほぼ間違いない。
p.192
　この碑文によれば、康阿義屈達干はもともと突厥に従属していた武人であり、その康阿義屈達干という名からソグド系突厥であるとみなすことができる。…
…ちなみにその子の没野波の夫人は阿史那氏であり、突厥に従属していたソグド人が突厥人と婚姻関係を結ぶという形態が垣間見えて興味深い。
p.198
曳落河に関する先行研究を整理・概観したものに森安孝夫[2006, p.129, n.19]があり、曳落河をソグド語のチャカルと同義語であるという前嶋信次[1965]らの説を補強・提示している。
p.269
この地域の降水量は標高に比例するため、南山山脈にはかなりの降水があり、高原には林と草原が、高地には氷河がある。河西回廊は乾燥した地域ではあるが、南山山脈から流れ出たいくつもの河川が北流し、麓には点々とオアシスが形成される。
　とくに甘州にはエチナ河が流れ、河水はオアシスを潤した後、流れを集めながら北に広がるゴビに達する。エチナ河は粛州方面から流れ来る北大河と合流し(5)、さらにゴビを北上して居延海にいたる。ここからモンゴル高原まではもう目と鼻の先である。一方、南の大斗抜谷を通り南山山脈を抜けると青海地方へと通じているので、甘州は東西のみならず南北交通の要衝でもあった(6)。
p.271
「封建的」諸部族：Yaγlaqar(薬羅葛)〔と〕alpaγut、*Boqu(僕固)、*Bosqot(貊歌息訖)、Küräbir(掘羅勿)、そして*Qorbar(契苾)、これらはTölišである。「封建的」諸部族：*Siqar(思結)、Ttaugara(同羅)、*Ayabir(奚邪勿)、Čariq、そして*Yabutqar(薬勿葛)añaγ (a)lpaγut、これらはQara-taγ(黒山(16))に住んでいて、Tardušと呼ばれる。<Solmi)、Türk Bayarqu、Čuŋul【仲雲(17)】。 p.273 なぜならば、甘州ウイグル政権は、東ウイグル可汗国と同様に「九姓」(トクズ＝オグズ)を中心として構成されていたと考えられるからである(21)。… …この「突律似」はハミルトン氏によりテリスに比定されている(24)。 p.274 当時混乱していた甘州は、3つの勢力に分裂しており、それぞれ①イプキンターグ(Yipkin-taγ)とBedä-Darūkä、②カラターグ、③(甘州の)町の中に分かれていたという。 p.275 Türk Bayarquは9～10世紀の敦煌出土コータン語文書の中に頻出し、東ウイグル可汗国を形成していた「九姓」のひとつ抜曳固(Bayarqu/抜野古/バイルク)の別部と考えられている(34)。 p.281 　すなわち、「紫の山」もしくは「紅の山」と解せるイプキンターグは、燕脂の産地たる焉支山にふさわしい。… …山田信夫氏によると、テュルク語で「山」を表す語にはターグtaγとイッシュYïšとの２つがあり、このうち前者は、「現在ではその位置が特定できぬような小さいものと考えられる山々に用いられ」、後者は、金山、興安嶺、陰山のような「古今に名だたる山脈に用いられている」という(57)。 p.283 　実は、これについて、すで譚蝉雪氏が音韻的な一致やコータン語文書の検討から、問題のカラターグを甘州北西(高台県北方)にある合黎山に比定している(65)。 p.289 (33)　この語はコータン語のローマ字転写ではsūlyaと表記され、もともとソグド人に由来する。ただ、10世紀頃におけるsūlyaが、唐代以前と同じく、ソグディアナ出身のソグド人を意味するとは言い切れない。本来「商の国の人」を表していた漢語の「商人」が後に商業従事者全体を表すようになったのと同じく、「ソグド」もその意味が変質している可能性がある。

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1985830979&owner_id=5160461

■立正大がウズベキスタンの大学と交流協定　宗教ツーリズムを研究、観光に寄与
(OVO [オーヴォ] - 06月05日 11:41)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=201&from=diary&id=7438333

　立正大（東京都品川区）はこのほど、ウズベキスタンのタシケント国立東洋学大（タシケント市）と大学間交流協定を締結した。宗教ツーリズムに関する自然遺産調査の共同プロジェクトなどを展開する予定という。

　立正大とウズベキスタンの交流は、仏教・文・地球環境科学の3学部の教員を中心に2014年4月立ち上げた「立正大ウズベキスタン学術調査隊」が、ウズベキスタンのテルメズ市郊外のカラ・テペ仏教伽藍（がらん）址で行った発掘調査を機に始まった。交流はカラ・テペの調査報告書の出版や別のズルマラ仏塔遺跡の調査・保存活動などに広がっている。

　タシケント国立東洋学大で22年に開かれた「ウズベキスタンの仏教遺跡と宗教ツーリズムに関するオンライン国際会議」で、ウズベキスタン観光に寄与していくことが遺跡保存の観点からも重要との認識で両大学が一致。協定を結び、中央アジアでは未設定の世界ジオパークの共同調査や宗教ツーリズムを推進することを決めた。

　立正大は「仏教学部を有する日本の総合大学とイスラム圏の外国語総合大学の協力により、宗教ツーリズムの研究に新しい観点がもたらされる可能性がある。ウズベキスタンには世界遺産暫定リストに含まれる自然遺産が3カ所あるが本格的な調査も観光利用も限定的。学術調査は、地理学のみならず観光において重要な意義をもつ」としている。

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