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2023年08月11日23:59
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関東大震災100年企画1 日米の防災意識について サンアンドレアス断層（前編）
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8月11日（金・山の日）
お盆休暇に入る人が多い中、日本列島の南の海上に発生した台風7号が、直撃する可能性が高まっている。予報円が大きく、正確にコースをつかめない段階だという。気象庁は、厳戒態勢を整えている。
＜関東大震災100年 企画1 サンアンドレアス断層（前編）＞
前回地震関連の日記 2023年5月13日付 相次ぐ地震 5月11日の千葉県北西部、北海道日高市でマグニチュード5の地震の詳細 5月6日石川県珠洲市の地震 過去の千葉県房総半島沖の地震について https:/
日本史上最も犠牲者を出した関東大震災から間もなく100年になる。各自治体では、震災から100年の節目に合わせて、専用のページを開設し、防災に関する啓発活動を行う。南関東地域の公共施設を中心に、防災に関するイベントに力を注ぐ。震災の被害が大きかった横浜市では、9月2日（土）と3日（日）に防災フェスタを開催する。一方同じ神奈川県内の秦野市では、9月2日に、震災に伴い、沢がせき止められたことにより形成された「震生湖誕生100周年記念式典」を行う。2021年に国登録記念物に指定され、釣り人やハイキング客が集う。湖畔沿いには、モミジが育ち、秋には紅葉の名所として定着した。
私自身は、今年の夏、シリーズ形式にて、日本と共にアメリカ合衆国で起こった過去の震災について考察する。
目次
� ‘�本とアメリカの防災意識の違い 2023年8月10日付け
�◆ 稈狼紊領鮖泡凜汽鵐▲鵐疋譽▲甲覗悄�
第1章 1906年サンフランシスコ大地震
第2章 地震が起こった都市を割りだすための炭素年代測定
� ‘�本とアメリカの防災意識の違い
2023年8月10日付け
2023年9月1日で、日本人の防災意識を大きく変えた関東大震災から100年を迎える。都市部の朝方を襲った震災において、家屋の下敷きや火災などに巻き込まれ、10万人の犠牲者を出した。地震の規模を示すマグニチュードは7,9、震源域は、三浦半島の延長線方向の相模トラフの走行に平行する右横ずれの低角逆断層と推定される。
写真 掲載元 非常食・防災コラムより https:/
地震の揺れを示す最大震度7を観測したのは、神奈川県小田原市一帯だった。海沿いの崖の麓を走る東海道線は、大きな被害にあう。地震に伴う土砂崩れが発生したことにより、小田原市根府川駅付近を走行した列車が巻き込まれ、駅プラットフォームと共に、海の中へと消えた。
詳細 乗り物ニュース 2021年9月1日付け https:/
とりわけ人的被害が大きかったのは、東京下町だった。震度は6強と推定される。震災による死者10万5000人のうち、推定9万2000人が、二次災害となる火災旋風に巻き込まれたといわれている。
日本の地震調査研究推進本部は、都市型震災において、火災旋風の危険性について、一般市民に説明する。冬場の乾燥した日、風速７mから８mの風が吹くと、火の手が見る見るのぼり、現在も残る下町の木密地域の路地裏にまで入り込む。道路が狭く、消防車や救急車が入れないことが想定される。日本では、関東大震災級の地震は、過去の歴史から200年に1度と推定される。その前に起こったのは、1703年の元禄型関東大震災、マグニチュードは8,1だった。次の関東大震災は、周期的に100年以上後と推定される。過去の記録を読みとくと、次の関東大震災が近づくにつれて、一回り規模が小さい内陸型の直下型地震が起こっていた。
写真 掲載元 日テレNEWS 2023年1月16日付け https:/
1923年の関東大震災の復興に向けた街づくりを行った当時の東京市の市長後藤信平に習い、道路の拡張工事、避難場所の公園を設けるなど、新たな都市づくりが必須である。既に品川区では、近代的な街づくりの一環として、防火対策に取り組んだ。木蜜地域を再開発し、タワーマンションを建設することにより、新たに道路を拡張し、公園を設けた。埼玉県南部の川口市も同様の計画が持ち上がっている。
日本では、新学期が始まる9月1日を「防災の日」と定め、小学校では保護者による引き取り訓練を行う。政府や自治体は、突如起こる震災に備え、10日分の食料の確保、懐中電灯を携帯するように呼びかけている。室内での対策として、本棚やテレビなどは固定し、安定したテーブルの下に避難することにより、身を守ることができる。日本では、政府や各自治体が、啓発活動を行う。東日本大震災から12年半、記憶が薄れつつある中でも、人々の防災意識は着実に高まっている。
写真 掲載元 防災グッズショップ ココハロ https:/
一方太平洋を挟んで反対側のアメリカ合衆国では、アラスカ州南部やカリフォルニア州では、過去に規模が大きい地震が起こっていた。太平洋プレートが、大陸側のプレートの下にもぐりこむことにより、境界域は不安定さを増す。プレートの境界に溜まった歪が、開放することにより、地震波が発生する仕組みだ。
日本の国土の1,1倍になるアメリカ西部カリフォルニア州では、ロサンゼルスとサンフランシスコを含め、大都市を抱える。過去に何度も地震に見舞われたとはいえ、住民の入れ替えが激しく、知識を共有できていないという。直近では、2019年7月に州南部のリッジクレストを震源域とする、マグニチュード6,4の前震に続く、翌日マグニチュード7,1の本震が起こった。インフラの破壊により、被害額は1億ドルと推定されるが、人的被害は最小限にとどまった。
例えば2021年時点で人口85万のサンフランシスコ市内でマグニチュード7クラスの地震が発生した場合、インフラと共に、人的被害は甚大なものになる。建造物は25％が破壊される可能性が高いという。
写真＝リッジクレストとロサンゼルスの位置関係 CNN.com 2019年7月6日付け
https:/
NY Times紙は、アメリカでの震災対策について専門家の意見を交えながら説明をしている。震災対策が進まない最大の理由は、高額な費用にある。カリフォルニア州のサンフランシスコやロサンゼルスは、資材の不足に伴い、年々住宅価格が高騰の一途を辿っている。（中央値：約130万ドル）、２つ目は、確率論である。日本と比べて大規模な地震が発生する頻度は10分の1以下にとどまり、切迫性は高まっていない。さらに3つ目は、住民たちの定住化率の低さにある。古文書から細かく震災の記録が残っている日本に対して、アメリカでは19世紀以前の記録は皆無だった。とりわけ中南米からの移民は、米国の災害史に関する教育はされていない。アメリカ人の間でも、転居をすることにより、西海岸から離れる可能性がある。地震よりも、身近な犯罪から身を守ることに重きを置く。
日本では、東日本大震災以降、国をあげて、防災・減災対策に勤めた。管理事務所が機能している集合住宅では、毎年決まった時期に避難訓練を行っている。物資の輸送網の寸断に備え、保存食が命綱になる。防災に関する幅広い商品を扱うSEIショップは、通称「サバイバルフーズ」をネットを通して発売している。賞味期限は最大25年、水分を98％除去し、脱酸素在を封入することにより、常温で長持ちする。密閉した状態で酸素を98％取り除き、乾燥化に成功した。
詳細 商品ページより https:/
2021年時点で日本では、防災関連商品の市場は6,4兆円（電通調べ）と試算されている。対照的にアメリカの防災関連市場は未知数である。
アメリカ地質研究所によると、2021年から30年の間にマグニチュード6.7以上の地震が発生する確率はロサンゼルスで60%、サンフランシスコで72%と公表した。マグニチュード7.5以上の地震が発生する確率はそれぞれ31％と20％である。アメリカ西海岸では、保存食の普及と共に、建物の耐震化が求められる。現在アメリカの住宅保険の多くは、地震による倒壊の査定は低く、保障額は少ないという。日本企業が、アメリカ西海岸で、防災関連の商品を売り込み、普及活動へ精を出している。アメリカ西海岸の住民に、防災・減災意識が高まるのか、依然として不透明な状況に変わりない。
詳細 アメリカの地震対策 グローバル マーケティング ラボ 2021年2月
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今回は、2009年にアメリカのテレビ局が製作した「地球の歴史♯サンアンドレアス断層」の内容を中心に、紹介する。
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21世紀、人類はテクノロジーの発達と共に、住みよい環境を作るため、森を切り開き、宅地に変え、ビルを建設した。毎朝、周辺の住宅から人々が、高層ビルが立ち並ぶ都市部へ通い、仕事に励んでいる。交通網が整備され、飛行機を通して大陸を横断し、外国の人々との交流が盛んになり、グローバル化と呼ばれる時代に突入した。地球環境を作り替えた人類は、地震や火山噴火など、自然災害とどう向き合うか、適応力が問われている。今回プレートテクトニス理論を産むきっかけとなったアメリカのカリフォルニア州を南北1300kmに連なるサンアンドレアス断層を紹介する。
写真＝カリゾ平野上空から見下ろしたサンアンドレアス断層 掲載元 ナショナルジオグラフィック 2008年7月31日付け https:/
第1章 1906年サンフランシスコ大地震
カリフォルニア州にあるサンアンドレアス断層は、世界で最も古い断層のひとつにあげられる。毎年少しずつ歪が溜まり、突然ずれると、巨大地震が発生する。記録上13回もの地震が、断層に沿うように発生し、都市文明に大きな被害をもたらした。断層の活動は2000万年間止むことなく続いている。2008年秋に、世界各国から地震と岩石の専門家300人が集まり、断層の活動周期やエネルギーを調べ、文明に与える影響を考察した。シェイクアウトと名付けられた報告書にまとめて、議会に提出し、地震対策を急速に進めている。
地震対策が練られたきっかけは、1906年までさかのぼる。4月18日の午前5時12分、カリフォルニア州の一大都市サンフランシスコにマグニチュード7,8を記録する大地震が襲った。レンガ造りの建物はたちまち倒壊し、少なくとも50箇所から火の手が上がった。
写真＝1906年のサンフランシスコ大震災の様子 掲載元 Rafu shimpo 2016年4月19日付け サンフランシスコ大地震から110年 追悼式典が行われる
地震の原因を究明するため、後に世界各国の専門家が現地を訪れた。20世紀初頭の段階では、地震発生のメカニズムは分からず、突如襲った大災害に、多くの人々が混乱に陥った。地震が起きたのは、水曜日の夜明け。45秒間地面が揺れ動き、レンガの壁は崩れ落ち、道路に立つ電線も倒れ、火事が発生し、消化活動に４日間を費やした。数日後には、空襲を受けた跡のように焼け野原になり、家を失った人々は、倒壊を免れた建物で避難生活を送った。全体の10分の１になる２万8000棟の建物が壊れ、人口の100分の１に達する3000人が死傷した。
18世紀に西部開拓が始まる以前、カリフォルニア州には、アメリカ原住民の集落が散開し、度々起こる地震を、精霊の戦いと信じていた。過去の地震の記録はなく、人々は大災害に対する備えが弱く、被害が拡大したのである。白人入植後、地震に対する見方は着実に変っていた。あるスペイン人の伝道者は、地下の爆発によって、地面が揺れたと、ノートに書きとどめていた。サンフランシスコ大地震の発生を機に、カリフォルニア州政府は、地質学の権威アンドリュー・ローソン博士に調査を依頼する。地元のカリフォルニア州立大学に属する地質学の博士は、サンフランシスコ周辺の地域の被害状況を見て回った。列車のレールは捻じ曲がり、道路は陥没し、電信柱は倒れ、廃墟の街並みだった。博士は、北部に位置するマリン群のボリナス近郊にある真二つに別れたフェンスに注目した。損壊物を集めた結果、地面からの衝撃によって、フェンスが切り裂かれ、2,4mも開いたと報告書に記した。被害が激しい場所を地図帳に書き込むと、一本の線で結ばれることが判明した。海岸沿いでは北へ、内陸では南へ動いていることも明らかになった。
博士は、サンフランシスコの南部の湖、サンアンドレアスと名付けられた貯水池に走る亀裂に注目し、大地震と関連付けて考えるようになった。博士は、貯水池の裂け目を地質調査の過程で認識していながらも、地震と結びつかないと結論づけていた。彼は、新たに調査をした結果、この裂け目こそが、地震を引き起こした原因と発表し、貯水池の名前を取り、サンアンドレアス断層と名付けた。
<サンフランシスコ大地震の痕跡> <アンドリュー・ローソン＞
＜大地震で折れ曲がった道＞ <レールが捻じ曲がる>
現在のサンフランシスコは、大地震の後復興し、中心街には高層ビルが立ち並び、道路が縫うように走っている。隣町オークランドを結ぶベイブリッジは、観光名所となった。大地震から81年後に当る1989年10月17日に、サンフランシスコは、81年ぶりに地震に襲われた。マグニチュードは6,9、震源域はサンフランシスコから南へ80ｋｍ離れたサンノゼ市南部のロマ・プリーター山と特定できた。1908年の大地震と区別するため、比較的規模の小さいこの地震は、震源地の名前を取り「ロマ・プリーター地震」と名づけられた。高速道路が横転し、ゲートブリッジも損傷した。高速道路の下敷きになった41人の犠牲者を含む63人が命を落とし,負傷者は3757人になった。経済被害額は60億ドルから100億ドルといわれている。
ロマ・プリーター地震は、スポーツの面からでも大きな話題になった。地震で被害を受けたサンフランシスコと隣接するオークランドの間で米大リーグの王者を決めるワールドシリーズの開催期間だったのである。サンフランシスコに本拠地を置くジャイアンツと、オークランドに本拠地があるアスレチックスの第3戦が始まる直前の午後5時30分のことだった。試合会場となるサンフランシスコで急に大きな揺れが襲い、建物に亀裂が入り、古いビルが倒壊した。小規模な火災が発生し、消防車が出動して、消火活動に当った。倒壊した高速道路やビルには救急隊員が駆けつけ、瓦礫を取り除き、下敷きになった人々を救出した。シリーズのシンボルとなった「ゴールデンゲートブリッジ」は使用できず、交通網に大きな支障が出た。試合は中止となり、選手達も町から非難し、ゲームの再開のめどは立たなかった。アメリカ政府の協力を得て、復興への機運が高まり、10日後にシリーズが再開された。シリーズの通算成績は、オークランド・アスレチックスが、サンフランシスコ・ジャイアンツに4勝０敗で勝利し、優勝を飾った。両都市を結ぶベイブリッジは、わずか1ヵ月後の11月18日に復旧し、交通量を地震前に取り戻したという。
２つに引き裂かれたフェンス 地震の被害地図
現代の地質学者モンテレー湾海洋研究所に属するチャールズウォー氏は、今後断層が引き起こす地震の被害を検証するべく、周辺の地質を調べている。サンフランシスコ市から20km離れたマッスルロックにある崖地が、大地震の痕跡をとどめているという。彼は、海を望む崖の上で詳しく説明した。「ここの崖が、ここにあるのは、しかるべき理由があってのことです。1908年の地震で、海辺から800m位が崩落したのです。この下を覗くと、転がり落ちた岩が見えます。そこは、現在の海岸線のすぐそばまであり、サンアンドレアス断層が作ったくぼみなのです。断層は、ここから400m沖にありますが、実はそこが北アメリカ大陸の西側に沿う構造プレートの繋ぎ目なのです」
現在のコンピューターでは、地震波の広がりが検証出来て、震源地も正確に突き止められている。１世紀前の地震の震源地は、ブリッジから３km沖合にあった。断層を詳しく知るうえで、海の中を遠隔操作できる小型の潜水艇が必要になる。「測量をしてみると、微妙な変化が分かります。海底の地形は、どこか不自然なのです。海底に線があり、その片側は高く、その反対側は低いのです。そこで、様々な技術を駆使して、そこが断層か判断するわけです」
海底を南に向かって伸びる断層は、海から陸へ繋がっていた。博士が立つ崖は、まさに２枚の構造プレートの境目となる断層の上に当たる。
北アメリカ大陸は、海側の構造プレートの上にせり出すように並ぶ。崖の下を見ると、プレートの境目が顕著に分かる。低い位置にある黒岩に、赤色の堆積岩が覆いかぶさっていた。黒と赤の岩の境目が、断層を示す。
<マッスルロックの地図> ＜チャールズウォー博士が断層線を説明＞
＜ブリッジ＞＜北アメリカプレートが、太平洋プレートの上にせり出す＞
＜博士が示す赤い岩と黒い岩の境目＞ ＜断層線を示した図＞
第2章 地震が起こった都市を割りだすための炭素年代測定
1906年の地震を契機に、断層が目に見える形で現れた。当時の技術では、なぜ２種類の岩がくっつき合うのか、説明ができなかった。大地震が経過して半世紀後に、プレートテクトニクス理論が誕生し、地震の発生源も詳しく究明できた。地球には、十数枚の構造プレートがあり、不規則な軌道を描きながら走っている。プレートの上に陸地があり、常に移動を続けている。カリフォルニア半島は、およそ２億年前に、太平洋プレートが、北アメリカプレートにぶつかった。軽い海側のプレートが、一億年かけて、陸側のプレートの下に沈みこみ、地殻が不安定になる。今から3000万年前、プレートに沿うように走った海溝までが消失してしまった。太平洋プレートが、北アメリカプレートと擦れて動きがすれ違い、北上した。サンアンドレアス断層のように2つのプレートの動きがすれ違う横ずれ断層のことをトランスフォーム断層と呼ぶ。横ずれ断層には、右と左の2種類がある。北部のポイントアリーナの沖合から南部のソルトン湖まで延びる全長1300ｋｍのサンアンドレアス断層は、右横ずれ断層に分類される。活動は２０００万年前から始まったと推定された。
研究者は、断層の成り立ちを解明した今、過去の地震被害を検証した。アメリカ地質調査所のケン・ハドナット博士の話によると、カリフォルニアの地層は調べるのが難しいという。西部開拓が進む以前、先住民インディアンは遊牧生活を営み、地震の被害が少なく、記録に残さなかった。最古の地震記録は、探検家が残した1800年代である。研究者は、白人が入植する前の出来事を知るため、断層の東側のリトルロックを訪れた。この剥き出しの岩棚が広がる土地は、過去の地震の痕跡を残している。断層を横切るように、川が流れていたことが分かる。地震が頻繁に起こって地殻が押し上がり、窪地の部分に小さなダムが出来たという。ハドナット博士は、ハンマーで岩を砕いて、泥の堆積物を採取した。彼は、岩に刻まれた亀裂を注意深く観察し、摩擦によってこすれた小石を発見した。断層の上に乗る岩が、激しい衝撃で２つに切り裂かれ、こぼれ落ちたのである。亀裂の近くには、木の燃えかすも残っている。
手掛かりとなる木の燃えかすを見つけたことで、放射性同位体として知られる炭素14の量を計り、年代測定を始めた。同位体とは、同じ原子の中で、原子の中で、中性子が異なる核種のことを差す。炭素の場合、Ｃ12、Ｃ13、Ｃ14の3種に分かれている。炭素12は、6個の陽子と６個の中性子、炭素13は、陽子６個は変らず、中性子の数が一つ増え７個になる。したがって炭素14は、炭素13と比較して、一つ中性子が多く含まれる。6個の陽子と8個の中性子から成り立っている。炭素14を作り出すのは、地球の外から降り注ぐ宇宙線である。宇宙線の元は、太陽からはるか遠くにある巨大恒星の超新星爆発による残骸であるといわれている。宇宙線が、地球の上層大気の分子に衝突し、原子核から陽子が残り、中性子が引き離されていく。中性子は、大気中のおよそ7割を占める窒素に吸収される。
写真 掲載元 放射線アカデミア https:/
窒素14は、中性子を熱吸収することにより、炭素14と呼ばれる物質に変換する。炭素14は、大気中の二酸化炭素と結びつき、放射線を受けると、破壊される。地球には途絶えることなく宇宙線が降り注ぎ、炭素14を生成しているため、大気中にほぼ一定の割合で存在する。炭素14は、5730年でベータ崩壊し、窒素14に変る性質を持つ。ベータ崩壊とは、原子核の陽子と中性子の変換が行われることの総称である。
つまり、炭素14は、他の同位体に比べて、安定感がなく、別の元素に変る可能性が高い。放射線年代測定では、植物に含まれる炭素14の量を図る。植物は、光合成の過程で、大気中の二酸化炭素に含まれる炭素14を取り込む。二酸化炭素を分解して、でん粉を作る過程で生じる副産物の酸素を吐き出す。植物に含まれる炭素14は、大気中で作られる二酸化炭素の量に匹敵する。動物や鳥などの生物も植物を食べることで、体内に炭素14が入っていく。川や海にも、二酸化炭素を吸収するため、炭素14は含まれている。植物は枯れると、光合成がストップし、炭素が供給されなくなる。炭素14の半減期となる5730年間は一定の速度で減少していく。つまり、化石になった植物に含まれた炭素14の割合を調べることで、枯れた時期が明らかになる。放射線年代測定により、炭素14が減った時期は3500年前と明らかになった。
博士は、ロサンゼルスから北へ2600km離れたカリゾ平原を訪れ、地震の被害を検証した。干上がった川が、大地を曲がりくねっている。他の川とぶつかって、進路が変化したようである。川がなぜ不規則な起動を描くのか、ハドナット博士を含む研究者はヘリコプラーから観測した。博士は「カリゾ平原を走るサンアンドレアス断層は、まるで傷跡のように見えます。過去繰り返し地震が起きたせいです」と話した。
カリゾ平原を走る断層 <リトルロックで説明するハドナット博士＞
丘に沿ってヘリコプターを飛ばすと、急激にカーブした川に注目した。場所によっては、垂直に曲がっている。断層を横切って真っ直ぐ流れていた川が、地震によって北へ少しずつ移動したのである。放射性年代測定をすると、地震によって3000万年もかけて、90mも川が動いたことが判明した。10年で約30cm、一年平均で3cmもずれたのである。実際は、周期的に起こる大規模によって、一気に動いたことが分かっている。
＜断層のずれ跡＞ <90度曲がった川＞
＜上空から見た川＞ ＜カリゾ平原の断層線＞
2つのプレートの動きがすれ違うサンアンドレアス断層は、普段は固着して全く動かない。境界線に歪が溜まり、一気にエネルギーを吐き出すことにより、断層線に沿って、地震波が発生する。次回は、周期的にゆっくりと動く「クリープ断層」と共に、最新の地震動向についても紹介する。
お盆休暇に入る人が多い中、日本列島の南の海上に発生した台風7号が、直撃する可能性が高まっている。予報円が大きく、正確にコースをつかめない段階だという。気象庁は、厳戒態勢を整えている。
＜関東大震災100年 企画1 サンアンドレアス断層（前編）＞
前回地震関連の日記 2023年5月13日付 相次ぐ地震 5月11日の千葉県北西部、北海道日高市でマグニチュード5の地震の詳細 5月6日石川県珠洲市の地震 過去の千葉県房総半島沖の地震について https:/
日本史上最も犠牲者を出した関東大震災から間もなく100年になる。各自治体では、震災から100年の節目に合わせて、専用のページを開設し、防災に関する啓発活動を行う。南関東地域の公共施設を中心に、防災に関するイベントに力を注ぐ。震災の被害が大きかった横浜市では、9月2日（土）と3日（日）に防災フェスタを開催する。一方同じ神奈川県内の秦野市では、9月2日に、震災に伴い、沢がせき止められたことにより形成された「震生湖誕生100周年記念式典」を行う。2021年に国登録記念物に指定され、釣り人やハイキング客が集う。湖畔沿いには、モミジが育ち、秋には紅葉の名所として定着した。
私自身は、今年の夏、シリーズ形式にて、日本と共にアメリカ合衆国で起こった過去の震災について考察する。
目次
� ‘�本とアメリカの防災意識の違い 2023年8月10日付け
�◆ 稈狼紊領鮖泡凜汽鵐▲鵐疋譽▲甲覗悄�
第1章 1906年サンフランシスコ大地震
第2章 地震が起こった都市を割りだすための炭素年代測定
� ‘�本とアメリカの防災意識の違い
2023年8月10日付け
2023年9月1日で、日本人の防災意識を大きく変えた関東大震災から100年を迎える。都市部の朝方を襲った震災において、家屋の下敷きや火災などに巻き込まれ、10万人の犠牲者を出した。地震の規模を示すマグニチュードは7,9、震源域は、三浦半島の延長線方向の相模トラフの走行に平行する右横ずれの低角逆断層と推定される。
写真 掲載元 非常食・防災コラムより https:/
地震の揺れを示す最大震度7を観測したのは、神奈川県小田原市一帯だった。海沿いの崖の麓を走る東海道線は、大きな被害にあう。地震に伴う土砂崩れが発生したことにより、小田原市根府川駅付近を走行した列車が巻き込まれ、駅プラットフォームと共に、海の中へと消えた。
詳細 乗り物ニュース 2021年9月1日付け https:/
とりわけ人的被害が大きかったのは、東京下町だった。震度は6強と推定される。震災による死者10万5000人のうち、推定9万2000人が、二次災害となる火災旋風に巻き込まれたといわれている。
日本の地震調査研究推進本部は、都市型震災において、火災旋風の危険性について、一般市民に説明する。冬場の乾燥した日、風速７mから８mの風が吹くと、火の手が見る見るのぼり、現在も残る下町の木密地域の路地裏にまで入り込む。道路が狭く、消防車や救急車が入れないことが想定される。日本では、関東大震災級の地震は、過去の歴史から200年に1度と推定される。その前に起こったのは、1703年の元禄型関東大震災、マグニチュードは8,1だった。次の関東大震災は、周期的に100年以上後と推定される。過去の記録を読みとくと、次の関東大震災が近づくにつれて、一回り規模が小さい内陸型の直下型地震が起こっていた。
写真 掲載元 日テレNEWS 2023年1月16日付け https:/
1923年の関東大震災の復興に向けた街づくりを行った当時の東京市の市長後藤信平に習い、道路の拡張工事、避難場所の公園を設けるなど、新たな都市づくりが必須である。既に品川区では、近代的な街づくりの一環として、防火対策に取り組んだ。木蜜地域を再開発し、タワーマンションを建設することにより、新たに道路を拡張し、公園を設けた。埼玉県南部の川口市も同様の計画が持ち上がっている。
日本では、新学期が始まる9月1日を「防災の日」と定め、小学校では保護者による引き取り訓練を行う。政府や自治体は、突如起こる震災に備え、10日分の食料の確保、懐中電灯を携帯するように呼びかけている。室内での対策として、本棚やテレビなどは固定し、安定したテーブルの下に避難することにより、身を守ることができる。日本では、政府や各自治体が、啓発活動を行う。東日本大震災から12年半、記憶が薄れつつある中でも、人々の防災意識は着実に高まっている。
写真 掲載元 防災グッズショップ ココハロ https:/
一方太平洋を挟んで反対側のアメリカ合衆国では、アラスカ州南部やカリフォルニア州では、過去に規模が大きい地震が起こっていた。太平洋プレートが、大陸側のプレートの下にもぐりこむことにより、境界域は不安定さを増す。プレートの境界に溜まった歪が、開放することにより、地震波が発生する仕組みだ。
日本の国土の1,1倍になるアメリカ西部カリフォルニア州では、ロサンゼルスとサンフランシスコを含め、大都市を抱える。過去に何度も地震に見舞われたとはいえ、住民の入れ替えが激しく、知識を共有できていないという。直近では、2019年7月に州南部のリッジクレストを震源域とする、マグニチュード6,4の前震に続く、翌日マグニチュード7,1の本震が起こった。インフラの破壊により、被害額は1億ドルと推定されるが、人的被害は最小限にとどまった。
例えば2021年時点で人口85万のサンフランシスコ市内でマグニチュード7クラスの地震が発生した場合、インフラと共に、人的被害は甚大なものになる。建造物は25％が破壊される可能性が高いという。
写真＝リッジクレストとロサンゼルスの位置関係 CNN.com 2019年7月6日付け
https:/
NY Times紙は、アメリカでの震災対策について専門家の意見を交えながら説明をしている。震災対策が進まない最大の理由は、高額な費用にある。カリフォルニア州のサンフランシスコやロサンゼルスは、資材の不足に伴い、年々住宅価格が高騰の一途を辿っている。（中央値：約130万ドル）、２つ目は、確率論である。日本と比べて大規模な地震が発生する頻度は10分の1以下にとどまり、切迫性は高まっていない。さらに3つ目は、住民たちの定住化率の低さにある。古文書から細かく震災の記録が残っている日本に対して、アメリカでは19世紀以前の記録は皆無だった。とりわけ中南米からの移民は、米国の災害史に関する教育はされていない。アメリカ人の間でも、転居をすることにより、西海岸から離れる可能性がある。地震よりも、身近な犯罪から身を守ることに重きを置く。
日本では、東日本大震災以降、国をあげて、防災・減災対策に勤めた。管理事務所が機能している集合住宅では、毎年決まった時期に避難訓練を行っている。物資の輸送網の寸断に備え、保存食が命綱になる。防災に関する幅広い商品を扱うSEIショップは、通称「サバイバルフーズ」をネットを通して発売している。賞味期限は最大25年、水分を98％除去し、脱酸素在を封入することにより、常温で長持ちする。密閉した状態で酸素を98％取り除き、乾燥化に成功した。
詳細 商品ページより https:/
2021年時点で日本では、防災関連商品の市場は6,4兆円（電通調べ）と試算されている。対照的にアメリカの防災関連市場は未知数である。
アメリカ地質研究所によると、2021年から30年の間にマグニチュード6.7以上の地震が発生する確率はロサンゼルスで60%、サンフランシスコで72%と公表した。マグニチュード7.5以上の地震が発生する確率はそれぞれ31％と20％である。アメリカ西海岸では、保存食の普及と共に、建物の耐震化が求められる。現在アメリカの住宅保険の多くは、地震による倒壊の査定は低く、保障額は少ないという。日本企業が、アメリカ西海岸で、防災関連の商品を売り込み、普及活動へ精を出している。アメリカ西海岸の住民に、防災・減災意識が高まるのか、依然として不透明な状況に変わりない。
詳細 アメリカの地震対策 グローバル マーケティング ラボ 2021年2月
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今回は、2009年にアメリカのテレビ局が製作した「地球の歴史♯サンアンドレアス断層」の内容を中心に、紹介する。
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21世紀、人類はテクノロジーの発達と共に、住みよい環境を作るため、森を切り開き、宅地に変え、ビルを建設した。毎朝、周辺の住宅から人々が、高層ビルが立ち並ぶ都市部へ通い、仕事に励んでいる。交通網が整備され、飛行機を通して大陸を横断し、外国の人々との交流が盛んになり、グローバル化と呼ばれる時代に突入した。地球環境を作り替えた人類は、地震や火山噴火など、自然災害とどう向き合うか、適応力が問われている。今回プレートテクトニス理論を産むきっかけとなったアメリカのカリフォルニア州を南北1300kmに連なるサンアンドレアス断層を紹介する。
写真＝カリゾ平野上空から見下ろしたサンアンドレアス断層 掲載元 ナショナルジオグラフィック 2008年7月31日付け https:/
第1章 1906年サンフランシスコ大地震
カリフォルニア州にあるサンアンドレアス断層は、世界で最も古い断層のひとつにあげられる。毎年少しずつ歪が溜まり、突然ずれると、巨大地震が発生する。記録上13回もの地震が、断層に沿うように発生し、都市文明に大きな被害をもたらした。断層の活動は2000万年間止むことなく続いている。2008年秋に、世界各国から地震と岩石の専門家300人が集まり、断層の活動周期やエネルギーを調べ、文明に与える影響を考察した。シェイクアウトと名付けられた報告書にまとめて、議会に提出し、地震対策を急速に進めている。
地震対策が練られたきっかけは、1906年までさかのぼる。4月18日の午前5時12分、カリフォルニア州の一大都市サンフランシスコにマグニチュード7,8を記録する大地震が襲った。レンガ造りの建物はたちまち倒壊し、少なくとも50箇所から火の手が上がった。
写真＝1906年のサンフランシスコ大震災の様子 掲載元 Rafu shimpo 2016年4月19日付け サンフランシスコ大地震から110年 追悼式典が行われる
地震の原因を究明するため、後に世界各国の専門家が現地を訪れた。20世紀初頭の段階では、地震発生のメカニズムは分からず、突如襲った大災害に、多くの人々が混乱に陥った。地震が起きたのは、水曜日の夜明け。45秒間地面が揺れ動き、レンガの壁は崩れ落ち、道路に立つ電線も倒れ、火事が発生し、消化活動に４日間を費やした。数日後には、空襲を受けた跡のように焼け野原になり、家を失った人々は、倒壊を免れた建物で避難生活を送った。全体の10分の１になる２万8000棟の建物が壊れ、人口の100分の１に達する3000人が死傷した。
18世紀に西部開拓が始まる以前、カリフォルニア州には、アメリカ原住民の集落が散開し、度々起こる地震を、精霊の戦いと信じていた。過去の地震の記録はなく、人々は大災害に対する備えが弱く、被害が拡大したのである。白人入植後、地震に対する見方は着実に変っていた。あるスペイン人の伝道者は、地下の爆発によって、地面が揺れたと、ノートに書きとどめていた。サンフランシスコ大地震の発生を機に、カリフォルニア州政府は、地質学の権威アンドリュー・ローソン博士に調査を依頼する。地元のカリフォルニア州立大学に属する地質学の博士は、サンフランシスコ周辺の地域の被害状況を見て回った。列車のレールは捻じ曲がり、道路は陥没し、電信柱は倒れ、廃墟の街並みだった。博士は、北部に位置するマリン群のボリナス近郊にある真二つに別れたフェンスに注目した。損壊物を集めた結果、地面からの衝撃によって、フェンスが切り裂かれ、2,4mも開いたと報告書に記した。被害が激しい場所を地図帳に書き込むと、一本の線で結ばれることが判明した。海岸沿いでは北へ、内陸では南へ動いていることも明らかになった。
博士は、サンフランシスコの南部の湖、サンアンドレアスと名付けられた貯水池に走る亀裂に注目し、大地震と関連付けて考えるようになった。博士は、貯水池の裂け目を地質調査の過程で認識していながらも、地震と結びつかないと結論づけていた。彼は、新たに調査をした結果、この裂け目こそが、地震を引き起こした原因と発表し、貯水池の名前を取り、サンアンドレアス断層と名付けた。
<サンフランシスコ大地震の痕跡> <アンドリュー・ローソン＞
＜大地震で折れ曲がった道＞ <レールが捻じ曲がる>
現在のサンフランシスコは、大地震の後復興し、中心街には高層ビルが立ち並び、道路が縫うように走っている。隣町オークランドを結ぶベイブリッジは、観光名所となった。大地震から81年後に当る1989年10月17日に、サンフランシスコは、81年ぶりに地震に襲われた。マグニチュードは6,9、震源域はサンフランシスコから南へ80ｋｍ離れたサンノゼ市南部のロマ・プリーター山と特定できた。1908年の大地震と区別するため、比較的規模の小さいこの地震は、震源地の名前を取り「ロマ・プリーター地震」と名づけられた。高速道路が横転し、ゲートブリッジも損傷した。高速道路の下敷きになった41人の犠牲者を含む63人が命を落とし,負傷者は3757人になった。経済被害額は60億ドルから100億ドルといわれている。
ロマ・プリーター地震は、スポーツの面からでも大きな話題になった。地震で被害を受けたサンフランシスコと隣接するオークランドの間で米大リーグの王者を決めるワールドシリーズの開催期間だったのである。サンフランシスコに本拠地を置くジャイアンツと、オークランドに本拠地があるアスレチックスの第3戦が始まる直前の午後5時30分のことだった。試合会場となるサンフランシスコで急に大きな揺れが襲い、建物に亀裂が入り、古いビルが倒壊した。小規模な火災が発生し、消防車が出動して、消火活動に当った。倒壊した高速道路やビルには救急隊員が駆けつけ、瓦礫を取り除き、下敷きになった人々を救出した。シリーズのシンボルとなった「ゴールデンゲートブリッジ」は使用できず、交通網に大きな支障が出た。試合は中止となり、選手達も町から非難し、ゲームの再開のめどは立たなかった。アメリカ政府の協力を得て、復興への機運が高まり、10日後にシリーズが再開された。シリーズの通算成績は、オークランド・アスレチックスが、サンフランシスコ・ジャイアンツに4勝０敗で勝利し、優勝を飾った。両都市を結ぶベイブリッジは、わずか1ヵ月後の11月18日に復旧し、交通量を地震前に取り戻したという。
２つに引き裂かれたフェンス 地震の被害地図
現代の地質学者モンテレー湾海洋研究所に属するチャールズウォー氏は、今後断層が引き起こす地震の被害を検証するべく、周辺の地質を調べている。サンフランシスコ市から20km離れたマッスルロックにある崖地が、大地震の痕跡をとどめているという。彼は、海を望む崖の上で詳しく説明した。「ここの崖が、ここにあるのは、しかるべき理由があってのことです。1908年の地震で、海辺から800m位が崩落したのです。この下を覗くと、転がり落ちた岩が見えます。そこは、現在の海岸線のすぐそばまであり、サンアンドレアス断層が作ったくぼみなのです。断層は、ここから400m沖にありますが、実はそこが北アメリカ大陸の西側に沿う構造プレートの繋ぎ目なのです」
現在のコンピューターでは、地震波の広がりが検証出来て、震源地も正確に突き止められている。１世紀前の地震の震源地は、ブリッジから３km沖合にあった。断層を詳しく知るうえで、海の中を遠隔操作できる小型の潜水艇が必要になる。「測量をしてみると、微妙な変化が分かります。海底の地形は、どこか不自然なのです。海底に線があり、その片側は高く、その反対側は低いのです。そこで、様々な技術を駆使して、そこが断層か判断するわけです」
海底を南に向かって伸びる断層は、海から陸へ繋がっていた。博士が立つ崖は、まさに２枚の構造プレートの境目となる断層の上に当たる。
北アメリカ大陸は、海側の構造プレートの上にせり出すように並ぶ。崖の下を見ると、プレートの境目が顕著に分かる。低い位置にある黒岩に、赤色の堆積岩が覆いかぶさっていた。黒と赤の岩の境目が、断層を示す。
<マッスルロックの地図> ＜チャールズウォー博士が断層線を説明＞
＜ブリッジ＞＜北アメリカプレートが、太平洋プレートの上にせり出す＞
＜博士が示す赤い岩と黒い岩の境目＞ ＜断層線を示した図＞
第2章 地震が起こった都市を割りだすための炭素年代測定
1906年の地震を契機に、断層が目に見える形で現れた。当時の技術では、なぜ２種類の岩がくっつき合うのか、説明ができなかった。大地震が経過して半世紀後に、プレートテクトニクス理論が誕生し、地震の発生源も詳しく究明できた。地球には、十数枚の構造プレートがあり、不規則な軌道を描きながら走っている。プレートの上に陸地があり、常に移動を続けている。カリフォルニア半島は、およそ２億年前に、太平洋プレートが、北アメリカプレートにぶつかった。軽い海側のプレートが、一億年かけて、陸側のプレートの下に沈みこみ、地殻が不安定になる。今から3000万年前、プレートに沿うように走った海溝までが消失してしまった。太平洋プレートが、北アメリカプレートと擦れて動きがすれ違い、北上した。サンアンドレアス断層のように2つのプレートの動きがすれ違う横ずれ断層のことをトランスフォーム断層と呼ぶ。横ずれ断層には、右と左の2種類がある。北部のポイントアリーナの沖合から南部のソルトン湖まで延びる全長1300ｋｍのサンアンドレアス断層は、右横ずれ断層に分類される。活動は２０００万年前から始まったと推定された。
研究者は、断層の成り立ちを解明した今、過去の地震被害を検証した。アメリカ地質調査所のケン・ハドナット博士の話によると、カリフォルニアの地層は調べるのが難しいという。西部開拓が進む以前、先住民インディアンは遊牧生活を営み、地震の被害が少なく、記録に残さなかった。最古の地震記録は、探検家が残した1800年代である。研究者は、白人が入植する前の出来事を知るため、断層の東側のリトルロックを訪れた。この剥き出しの岩棚が広がる土地は、過去の地震の痕跡を残している。断層を横切るように、川が流れていたことが分かる。地震が頻繁に起こって地殻が押し上がり、窪地の部分に小さなダムが出来たという。ハドナット博士は、ハンマーで岩を砕いて、泥の堆積物を採取した。彼は、岩に刻まれた亀裂を注意深く観察し、摩擦によってこすれた小石を発見した。断層の上に乗る岩が、激しい衝撃で２つに切り裂かれ、こぼれ落ちたのである。亀裂の近くには、木の燃えかすも残っている。
手掛かりとなる木の燃えかすを見つけたことで、放射性同位体として知られる炭素14の量を計り、年代測定を始めた。同位体とは、同じ原子の中で、原子の中で、中性子が異なる核種のことを差す。炭素の場合、Ｃ12、Ｃ13、Ｃ14の3種に分かれている。炭素12は、6個の陽子と６個の中性子、炭素13は、陽子６個は変らず、中性子の数が一つ増え７個になる。したがって炭素14は、炭素13と比較して、一つ中性子が多く含まれる。6個の陽子と8個の中性子から成り立っている。炭素14を作り出すのは、地球の外から降り注ぐ宇宙線である。宇宙線の元は、太陽からはるか遠くにある巨大恒星の超新星爆発による残骸であるといわれている。宇宙線が、地球の上層大気の分子に衝突し、原子核から陽子が残り、中性子が引き離されていく。中性子は、大気中のおよそ7割を占める窒素に吸収される。
写真 掲載元 放射線アカデミア https:/
窒素14は、中性子を熱吸収することにより、炭素14と呼ばれる物質に変換する。炭素14は、大気中の二酸化炭素と結びつき、放射線を受けると、破壊される。地球には途絶えることなく宇宙線が降り注ぎ、炭素14を生成しているため、大気中にほぼ一定の割合で存在する。炭素14は、5730年でベータ崩壊し、窒素14に変る性質を持つ。ベータ崩壊とは、原子核の陽子と中性子の変換が行われることの総称である。
つまり、炭素14は、他の同位体に比べて、安定感がなく、別の元素に変る可能性が高い。放射線年代測定では、植物に含まれる炭素14の量を図る。植物は、光合成の過程で、大気中の二酸化炭素に含まれる炭素14を取り込む。二酸化炭素を分解して、でん粉を作る過程で生じる副産物の酸素を吐き出す。植物に含まれる炭素14は、大気中で作られる二酸化炭素の量に匹敵する。動物や鳥などの生物も植物を食べることで、体内に炭素14が入っていく。川や海にも、二酸化炭素を吸収するため、炭素14は含まれている。植物は枯れると、光合成がストップし、炭素が供給されなくなる。炭素14の半減期となる5730年間は一定の速度で減少していく。つまり、化石になった植物に含まれた炭素14の割合を調べることで、枯れた時期が明らかになる。放射線年代測定により、炭素14が減った時期は3500年前と明らかになった。
博士は、ロサンゼルスから北へ2600km離れたカリゾ平原を訪れ、地震の被害を検証した。干上がった川が、大地を曲がりくねっている。他の川とぶつかって、進路が変化したようである。川がなぜ不規則な起動を描くのか、ハドナット博士を含む研究者はヘリコプラーから観測した。博士は「カリゾ平原を走るサンアンドレアス断層は、まるで傷跡のように見えます。過去繰り返し地震が起きたせいです」と話した。
カリゾ平原を走る断層 <リトルロックで説明するハドナット博士＞
丘に沿ってヘリコプターを飛ばすと、急激にカーブした川に注目した。場所によっては、垂直に曲がっている。断層を横切って真っ直ぐ流れていた川が、地震によって北へ少しずつ移動したのである。放射性年代測定をすると、地震によって3000万年もかけて、90mも川が動いたことが判明した。10年で約30cm、一年平均で3cmもずれたのである。実際は、周期的に起こる大規模によって、一気に動いたことが分かっている。
＜断層のずれ跡＞ <90度曲がった川＞
＜上空から見た川＞ ＜カリゾ平原の断層線＞
2つのプレートの動きがすれ違うサンアンドレアス断層は、普段は固着して全く動かない。境界線に歪が溜まり、一気にエネルギーを吐き出すことにより、断層線に沿って、地震波が発生する。次回は、周期的にゆっくりと動く「クリープ断層」と共に、最新の地震動向についても紹介する。
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