１１日（火）に一昨年２０２１年６月公開の外国映画「２ｇｅｔｈｅｒ ＴＨＥ ＭＯＶＩＥを観る。
「２ｇｅｔｈｅｒ ＴＨＥ ＭＯＶＩＥ」（ウィーラチット・トーンジラー，
ノッパナッ・チャウィモン，カニタ・クワンユー）
タイの連ドラで、Ｙｏｕ ｔｕｂｅにおいて８億２１００万回の視聴人気を勝ち得た青春コメディに、撮り下ろしを加えた劇場版だそうである。明るくキャンパスライフが繰り広げられるが、異色なのは（なんて思う私の感覚が古いのか）、芯になる主人公二人のツンデレロマンを含めて、男同士のカップルがダントツに多いことである。要するにボーイズラブ映画であり、ゲイピンクを始めとして、そのケの無い私にはこのテの物はどこか不快感があるのだが、それを全く思わせないタッチに、やや驚いた。タイというお国柄なのか、親世代も含めて同性カップルを全く自然体で受け入れている土壌のなせる技なのだろう。あるいは、創り手に特別な物を描いているとの意識がないから、「イヤらしさ」を発生させないのかもしれない。こういうドラマが大人気でまかり通る２１世紀に、後期高齢者の身は「時間という名の魔術師」をシミジミ感じ入った。（まあまあ）
２０２０年の私の外国映画ベストテンを変動させる傑作に遭遇した。ドイツ映画「コリーニ事件」である。
２０２０年は、今やかなり懐かしくなってきたコロナ元年である。キネ旬公式ＨＰ「封切映画一覧表」によれば、４月は日本映画２本で外国映画は７本、５月は日本１本・外国３本と、緊急事態宣言ピーク時の興行界自粛ぶりが如実に伺える。私はそれ程に自粛していた記憶も無く映画館を飛び回っていた積りだったが、やはり例年より自粛していたのかもしれない。続々と落穂ひろいでベストテン級の映画（特に外国映画）に遭遇するのは、その証左と言えよう。
ドイツの平凡な市民がベルリンの高級ホテルの一室で、大物実業家を残忍な方法で射殺し、逮捕後は完全黙秘を貫く。国選の新人弁護士が苦闘しつつ真相をこじ開けていく映画だ。
追求の果ての、背景に炙り出されてきたのは、眼を背けたくなるナチスの残虐な戦争犯罪であった。時代の闇を鋭く切り裂く鮮烈さだが、映画はそこだけで終わらない。裁判の行方は、被告の情状を巡り「一時不再理」「時効」と、法の大原則の議論の中で二転三転する。
我々は、法の原則をないがしろにして、国内にせよ国際社会にせよ秩序は維持できないと思っている。日本も戦争犯罪として、隣国の韓国に対して「従軍慰安婦」「徴用工」ｅｔｃの戦争犯罪を背負っているが、一応「日韓条約」で解決済みであり、「一時不再理」の原則に準じ、いつまでも蒸し返されては敵わんというのが本音だ。
しかし、ドイツ映画（原作もあるから文学も含めてドイツ人）の凄いのは、そこも簡単に割り切ることなく、原点に立ち戻って考え直そうという姿勢だ。「一時不再理」や「時効」というのは法の大原則だが、法制化にあたって政治や時代背景の影響を大なり小なり受けているということなのだ。日韓条約の背景に、当時の日韓の経済関係や、アメリカの国際的思惑があったのは事実だ。日本人は、決着したらチャラで、グダグダ言わず、原点に立ち戻って考え直すという姿勢は希薄だが、そこは考え直すところだろう。
でも、日本は過去の戦争責任に対して、ダメダメだなぁと変に自虐的・卑屈になることも無いとは思う。「水に流す」「遺恨を残さず忘れっぽい」との国民性は、他の部分で外交的にそれなりの良い結果ももたらしているのではないか。いや、そう思いたい。
話を「コリーニ事件」に戻す。加害者は法の裁きに委ねることなく、「報復と怨みは何も残さない」の考えに至り、自らで決着を付ける。被害者も自らの罪を自覚し悠揚として死に臨んでいたことが次第に明らかになっていく。奇麗ごとと言ってしまえばそれまでだが、単純に解決できない問題では、映画とはこのように後味良く収めるものだと私は思う。
２０２０年の外国映画は、私にとって裁判・法廷物が豊作な年だった。２位「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」、５位「リチャード・ジュエル」、６位「ジョーンの秘密」と３本に至るが、この中では法と政治というテーマに被る部分がある「ジョーンの秘密」より、多重的考察では上回ると思える「コリーニ事件」と差し替えることにしたい。ということで私の２０２０年の外国映画ベストテンは次のとおりとなる。
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��スター・ウォーズ／スカイウォーカーの夜明け
１５日（土）に昨年２０２２年１月公開の外国映画「レッド・ブレイク」を観る。
「レッド・ブレイク」（ジョン・キューズ）
スーパーを襲撃され、監禁された様々な人間が醸し出すドラマ。よくあるシムプルな構成であるが、この種の映画に不可欠な登場人物が多彩に富んでいて、Ｂ級ならではであるが、なかなかの魅力に溢れている。黒人の主人公タイリース・ギブソンは元精鋭軍人であり、今は不幸な子供の保護司として地道に生活していたが、保護したメキシコ少年と娘と共々に人質となってしまい、アフガン戦場のＰＴＳＤで人を撃つことができなくなった男いうのが、サスペンスの重要な要素となる。武装集団に襲撃されたスーパーの経営者は、ギブソンの継父で下院議員でもあるエリート白人ジョン・マルコビッチで、具体的には描かれないが、ギブソンの母とマルコビッチとの再婚には、ギクシャクしたものがあったようで、また、ギブソンの妻は娘を置いて家出しており、全体に微妙な陰を与える。武装犯は、マルコビッチの旧悪を白日の下に晒すと、社会正義を訴える。これに、保護されたメキシコ少年はスペイン語しか話せず、通訳の女性保護司が彩りを添え、スリリングな展開はより増してくる。人質の中に、ＰＲ映画の制作者がいて、経営者マルコビッチに反感を抱いている者もおり、それぞれの立場で犯人に協力を始めたりもする。レズ夫婦もいるが、これが終盤に襲撃者の本来の目的が暴かれるドンデン返しに繋がり、また、生意気な万引き少女が、最終的にエンディングで画竜点晴のキックとなるなど、とにかく良く取り揃えてあった。昔はこういうＢ級テイスト映画はアクションの二・三本立て、後年はＴＶ洋画劇場の穴埋め的拾い物として存在したものだが、本作の公開は「未体験ゾーンの映画たち２０２２」の一本としてで、この種の映画の受け皿は今こんな所にあったとは！多分、映画館を飛び回っていた頃の私の落穂拾いでもこぼれたと思う。放映の「ムービープラス」に感謝である。（まあまあ）
１６日（日）に昨年２０２２年２月公開の外国映画「ゴヤの名画と優しい泥棒」を観る。
「ゴヤの名画と優しい泥棒」（ロジャー・ミッシェル）
労働者階級のタクシー運転手だが、本人は政治意識が高く戯曲を書く才能もあると信じているエセインテリの偏屈老人（１９６０年代の英国が舞台なので、２１世紀の現代では老人と呼び難いが）を、名優ジム・ブロードベントが快演する。目下の政治活動は公共放送ＢＢＣの高齢者受信料免除の運動だ。ＮＨＫ有料についての反感と同様の感情が、日本同様に英国でもあるあたりが興味深い。そして、普通選挙導入に反対したウェリントン公爵のゴヤの肖像画を、政府が大金で買い上げたことに反発し、絵を盗んで人質として「慈善よりアートを好む人」から、老人福祉に税金を廻すべく、交渉を開始する。身勝手で自己チューな論理だが、これを愛すべき人間として造形するブロードベントが素晴らしい。妻を演じているのがこれも名優のヘレン・ミレン、以前のエリザベス女王の気品を微塵も匂わせず、ド庶民の労働者階級の妻になりきっているのには舌を巻く。さり気ないしぐさの中に、何でこんな旦那に添い遂げているのかを納得させる演技は絶品だ。ここから先は、裁判の意外な決着、さらに裏に隠された驚愕の真相と、実話だそうだがその洒落っ気に舌を巻いた。この顛末には、階級制が現在よりも過酷だった庶民感情が背景にあったのではないかと類推する。娘の事故死から乖離していたブロードベントとヘレンの、夫婦愛が回復に至るエンディングも爽やかだった。ロジャー・ミッシェルは長編の遺作で良い仕事をした。（よかった）
２０日（木）に昨年２０２２年５月公開の外国映画「アンナの出会い」を観る。
「アンナの出会い」（シャンタル・アケルマン）
「ヨーロッパの都市を転々とする女流監督（中略）教師、母親、母親の友人と接触（中略）断片的な時間と空間を通して（中略）アイデンティティや幸福の本質を絶妙な構成で描き出す」とキネ旬ＷＥＢで紹介され、歴史的評価が定まっている１９７８年作品で、昨年の「シャンタル・アケルマン映画祭」にて日本初公開された。この時にアケルマン映画がまとめて公開されたようで、私もＣＳ「ザ・シネマ」で放映された物を何本か観賞したが、処女作の「私、あなた、彼、彼女」以外にピンと来るものはなかった。（マイミクのトムさんによれば、「ジャンヌ・ディエルマン」がダントツの大傑作なんだそうだが、それは今回放映される録画にて確認したいと思う）でも、そこまで世界的評価の高いアケルマンだから、私もここでもう一度考えてみたい。「アンナの出会い」でも、これまでの世評高きアケルマン映画同様に、長回しの特徴は変わらない。ただ本作は、タル・ベーラの長回しとは似て非なるあたりが興味深かった。タル・ベーラ映画は、どこまでワンカットを持続できるかの実験場の趣きがあり、可能な限りパン・移動をふんだんに活用するのに対し、アケルマンはひたすらフィックスに固執する。だから画面から人が切れてしまえば、そこでカット割りをせざるをえなくなるのだが、人が切れて意味が無くなってもギリギリの遠景あるいは無人風景を追い続けるのだ。でもその手法が、私には「幸福の本質」を「絶妙な構成」で的確に描いているとは思えなかった。タル・ベーラが醸し出すギリギリの緊迫感に比して、程遠いものにしか思えなかったのである。（あまりよくなかった）
前回日記から２０日（木）までの観賞映画は次の１８本。
「レモ／第１の挑戦」「旗本やくざ 五人のあばれ者」
「２ｇｅｔｈｅｒ ＴＨＥ ＭＯＶＩＥ」「青の稲妻」
「映画 おかあさんといっしょ はじめての大冒険」「ソルジャーズ・アイランド」
「映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ！」
「コリーニ事件」「世界」「マーキュリー・ライジング」「レッド・ブレイク」
「ゴヤの名画と優しい泥棒」
「それいけ！アンパンマン ブルブルの宝探し大冒険！」「狂っちゃいないぜ」
「コロニア」「セシボン」「アンナの出会い」「私を忘れないで」
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