mixiユーザー(id:371669)

2022年12月07日20:31

134 view

瀬戸内寂聴のドキュメンタリーに生と死を想う。世評どおりの傑作「ドライブ・マイ・カー」。

 12月1日(木)に私にとってバリバリの新作、今年の令和4年公開「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」を観る。

「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」(中村裕)
17年間に亘って友人とも息子とも恋人ともいえる信頼関係にあった中村裕TVディレクターによる瀬戸内寂聴の、貴重な密着取材ドキュメンタリーだ。常にポジティブに何かを求めて生きてきた瀬戸内寂聴の姿は、見ていて元気づけられる。勿論、齢を重ねれば次第に知力・体力共に衰え時に弱気になり、死も意識の彼方に上ってくるが、それらも踏まえて勇気付けられるのは間違いない。私事になるが、私は脳梗塞で身障手帳交付の身になり、突然73歳で健康寿命が尽きたわけだが、健康であっても人は衰えながら死を意識するようになるのは、万人共通であることを実感した。最近のアントニオ猪木の末期の映像にも同様の感慨を抱かされたが、無論、寂聴とも猪木とも私の死生感は異なるけれど、一面で共感できたのは事実だ。瀬戸内寂聴に関して言えば、生の根底に恋愛を据えているあたりが、淡白(嘘言え!と笑わんでください)な私には全く理解不能で、私は恋愛がそれ程に人生の中核を占めるものとは思えないのである。(よかった)

 12月2日(金)に令和2年のキネ旬ベストテン日本映画第4位「アンダードッグ 前編 後編」をイッキ観する。これの何が特筆すべきかというと、これをもって、私は昭和35年(1960年)から令和2年(2020年)までの、日本映画・外国映画の全ベストテンを踏破したことである。

 映画を本格的に観だしてから、関東一円の映画館を飛び歩き、基本的にベストテン級作品は、年内にクリアしようと心掛けていた。2020年も外国映画はキネ旬テン全作品をクリアしていた。当然「アンダードッグ」にしてもチェックしていたが、封切が11月下旬と押し詰まっていたこと、前後編で5時間弱の大長編であることから、ま、年明けの落ち穂ひろいに回すかとなったのである。

 ところが、翌令和2年の早々に脳梗塞が発症し、長期入院からリハビリ自宅療養生活に至って、映画は自宅観賞中心にならざるを得なくなったのである。今回、日本映画専門チャンネルの放映があったので、やっとクリアできた次第だ。

 令和3年(2022年)以降のベストテン映画は、J:COM基本チャンネル録画を中心にした自宅観賞というあてがいぶち作品選定になるから、どこまで押さえられるかは不透明である。昭和34年(1959年)以前のベストテン作品についても8〜9割は観賞済であり、残りを国立映画アーカイブをメインにクリアするつもりだったが、それも不透明になった。

 別にベストテン映画だけにこだわっているわけではない。以前にも記したが、私は観賞作品を公開年月別に整理し、着々とそれを更新してきた。最近では「ザ・シネマ」のザ・シネマ メンバーズ セレクションで、ゴダールを特集したので、私が関心を失っていた商業映画復帰時代直後のゴダール映画「勝手に逃げろ/人生」「パッション」「右側に気をつけろ」をリストに追加できた。勿論このリストは、私が全ての公開映画を見切れるわけもないのだから、超極私的メモに過ぎず資料として何の価値もない。でも、この営為は死ぬまで続けていくような気がする。

 瀬戸内寂聴が「人を愛することを止めた」時、アントニオ猪木が「元気ですかぁ〜!と呼びかけられなくなった」時、死を迎えたような気がする。それがあの人達の生甲斐だったろうから…。私が極私的の観賞メモリストを更新する気が無くなった時、随分スケールダウンするが、それで私を死を迎えるような気がする。

 いや、そんな風に私にとっての周辺の話題だけに終始していては、「アンダードッグ」という作品に失礼だろう。作品そのものの感想を述べたい。はっきり言って、これはベストテン級の大傑作だった。

 日本タイトルにあと一歩まで迫ったボクサー森山未来がギリギリの敗戦で挫折するが諦め悪く引退を拒否し、デリヘル嬢送迎のバイトを続けながら、かませ犬として敗戦を重ね続ける。その前に、生意気な若造であり、養護施設訪問で彼と出会ったある因縁を有する天才ボクサー北村匠海が立ちはだかるが、失明の危機を背負い最後と定めた試合として対決する。これに、ボクサーライセンスを得た半人前芸人の勝地涼が対戦を挑んでくる中間エピソードが挟まれる極めてシムプルな構成なのだが、これが何と2部作で約5時間である。でも、巧みに描かれたサブキャラが厚味を持って絡み、全く退屈させない。ベストテン級の巨大作であった。

 では、これを私はベストテン映画として推すかというと微妙なのだ。この作品は、映画公開と同時期に配信ドラマとして公開された。同じ年にTVドラマ・シリーズ再編集で4時間弱の「本気のしるし 劇場版」が、キネ旬ベストテン5位にランクインしたが、この2本に対し映画の魅惑と異なるんではないかとの違和感が消えないのである。別にこれら映画の映像がTV的だと貶める気は毛頭ない。いや、十二分に映画的な映像的魅惑は湛えていたと思う。ただ、私の求める映画的魅惑とは微妙に違うのだ。

 私には、映画は基本的に90分〜120分で纏められるべきとの偏見がある。3〜4時間に至る大長編は、「ベン・ハー」や「アラビアのロレンス」のような壮大な歴史劇、あるいは「七人の侍」の如く侍集めと野盗との戦闘や、「タイタニック」の如くラブロマンスとパニック沈没スペクタクルの如き、雄大な二部構成以外に必然性は感じられないのである。

「アンダードッグ」や「本気のしるし」のような世界は、それがどんなに映像的魅惑を湛えていても、配信ドラマあるいはTVミニシリーズとしか感じられない。勿論、これは私の偏見であるし、古い映画観に過ぎないと断じられればそれまでだ。こうして、映画の在り方は変容していき、私のような感覚は死に耐えて消えていくのかもしれない。

 12月3日(土)に令和3年8月公開のキネ旬ベストテン日本映画第1位「ドライブ・マイ・カー」を観る。

「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介)
チェーホフ「ワーニャ伯父さん」の戯曲演出を手掛ける演出家と、その専属女性ドライバーの会話を中心に、演劇の合せ鏡の如く映画は進められていく。残念なのは私がこの著名原作に無知で、映画化作品も過去に観てはいるのだが、全く記憶に無い。しかし、そうであってもこの映画は無類に面白い。約3時間の長尺にも関わらず、画面に釘付けにさせられる。今は亡き演出家の妻と、専属女性ドライバーの母の過去の話が、後半は多くを占めてくるのだが、回想シーンなどは排除し、それ以外の脇の人物も含めて、多国籍言語が入り乱れる舞台演出の進展と呼応し、人間のディスコミニュケーションの切なさが浮き彫りになりつつ、それでも生の愛おしさも浮かび上がってきて、一瞬も眼を離せない。奇を衒った箇所は皆無だが出演者は全て素晴らしい。理想的映画演出とはこういうのを言うのだろう。(過去に根岸吉太郎作品の何本かに同様の魅惑を感じた)随分あっさりとした讃辞だが、真に優れた映画は画面を見据えるだけで良く、言葉は不要になる。文句なしのベストワン作品と言いたいが、私は濱口竜介作品としては「PASSION」「ハッピーアワー」のような淡々と日常のみを描いた巧みな演出の方により魅惑を感じるので、「寝ても覚めても」の瓜二つの男とか、本映画の演劇との二重構造とかの仕掛けが無い方が好みであり、とりあえずワンは保留としたい。(よかった。ベストテン級)

 12月5日(月)にピンク映画「白衣いんらん日記 濡れたまま二度、三度」を観る。

「白衣いんらん日記 濡れたまま二度、三度」(女池充)
後に「ピンク映画七福神」としてブレークする女池充のデビュー作、脚本も鬼才・小林政広と期待は膨らむ。父親に犯されかかり、階段から転落して歩行障害となった看護師がヒロイン。男性恐怖症になるが、病院の医師のワイセツ行為をきっかけにSEXの意識に目覚め、近所のピンク音響担当スタッフの若者に欲望を感じるが、ひょんなことからワイセツ医師の愛人殺害の死体遺棄に巻き込まれた後、突然関係してしまう。結局その医師の変態行為を拒否し、はずみで殺害。死体を始末した後、ピンク映画スタッフの若者とラブラブになり、ピンク女優としてデビューする。公開当時は高評価だったそうだが、私には判じ物にしか観えなかった。一時のピンクにこんなのがやたら多いが、ピンクでゲージュツ(断じて芸術ではない)やっちゃダメだよなというのが、私の実感である。(あまりよくなかった)

 12月6日(火)に令和3年10月公開の日本映画「劇場版 ルパンの娘」を観る。

「劇場版 ルパンの娘」(武内英樹)
「劇場版」なるしろものは、「ルーキーズ−卒業−」で典型的に見られるように、TVドラマ版に馴染みの無い者には舌足らずで、一見さんお断りにしか見えないことが多い。今回も冒頭はキャラの関係がよく判らずに、その撤を踏んでしまったように見えたが、次第にストーリーの進展にキャラ説明をダイジェスト的に絡ませて、少なくとも一見さん以外にも理解可能な範疇に納めている。とんでもないタイムパラドックス物で、こういうのは余程うまくやらないと、突っ込みどころ満載でグチヤグチャになることが多く、かなり危惧させられたが、そこは「テルマエ・ロマエ」の武内英樹の腕の見せ所、ナンセンスで派手に楽しく、矛盾なく納めてみせた。ただ、そのいずれもが各キャラの設定に密接に関係しており、ダイジェスト的説明では、ストーリー的には理解できても、映画的面白さに到達するまでにはいかなかったと思う。(まあまあ)

 続けて12月6日(火)に2021年8月公開の外国映画「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」を観る。

「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」(ミカエル・マルシメーン)
コメディ調の邦題であるが、実際はサスペンスフルでコンパクトな航空アクションの佳作である。内容はタイトルどおり小型飛行機で元カレと二人だけの離島への乗客になったが、パイロットが心臓麻痺で急死、見習い程度の操縦経験しかないヒロインが、元カレと協力して悪戦苦闘する破目になる。そこまでのいきさつはサラリと流し、開幕30分弱で一気に離陸する構成が見事だ。(黒澤明が自作脚本「暴走機関車」の別監督映画化に際し、こういう映画は機関車がすぐ走りださなきゃ駄目だよと、批判していたがそのとおりだ)そこは満潮で岩場に取り残され、鮫に囲まれたサスペンス映画「ロスト・バケーション」の製作者であるからぬかりが無い。ほとんどが飛行機内のヒロインと元カレだけの芝居になり知恵のある見せ方で、たまに空の外景、時に燃料パイプ修理などで機外に乗り出す部分もあるが、意外と低予算なのではないか。危機また危機の連発の後、無事に生還できるのは定番どおりだが、元カレのスキューバダイミングの救命具、目的地の結婚式に運ぶラム酒、重量軽減ための荷物投棄などが、巧みな伏線となっているのもお見事の一語。これでシムプルでコンパクトな92分!こういう知恵で魅せる映画は、ベストテンの末席あたりに置きたくなる。(よかった。ベストテン級)

 前回日記から12月に入って観た自宅観賞映画は次の9本。

「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」「アンダードッグ 前編 後編」
「THE QUAKE ザ・クエイク」「ドライブ・マイ・カー」
「レッド・ホークス」「ラストコップ THE MOVIE」
「白衣いんらん日記 濡れたまま二度、三度」「劇場版 ルパンの娘」
「元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件」

2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年12月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031