公孫樹(いちょう)の葉が散る神社を見かけると、必ず思い出す。
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中学時代の国語の授業。
【俳句をつくる】 が、その日のテーマ。
全員の俳句を、多数決で残していって、最後に二句が残った。
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ひとつは、千葉ちゃんという背の高い女の子。
彼女がひそかに好きだった。このアイドルオタクが可愛いと思うのだから、容姿が知れよう。
彼女の句は、
境内に 銀杏拾える 老婆かな
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ひとつは、楡之家の凡句である。
満月も われといっしょに 散歩かな
酷い。俳句ではのうて、ポンチ絵である。
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このニレノヤ、昔から、いいものを見抜くセンスはあった、と自負している。
しかし、特に、【詩】 の涌き出る才能を持っていない。
夏井先生なら、15点をつけるだろう。
彼女の句の方が、圧倒的であることは、明々白々だった。
この才能の乏しいサリエリは、神に愛されたアマデウスに、内心、脱帽した。
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あろうことか、国語の女性の先生は、無情にも、最後の多数決をとった。
大衆の意見なんてのは、いつでも、どこでも、凡々庸々である。
アタシのポンチ絵が、賛成多数で勝った。
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なんだよ。
「先生は、銀杏の方が好きだけどな」
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