�シ椶留嵒臓Γ蛙佑竜區諭Ε屮蹈鵐好�ー来訪
ところでここはステクロフスクと呼ばれる小さな農村だ。もと長司祭の未亡人、
ドロズドワが泣きわめいていた。それというのも彼女が飼う二百五十羽の鶏のうち
今朝から数えて十七羽になるが、ひどい病気が起きたのだ。ついさっきまで平気で餌を
つついていたのが目を回し、ひっくり返って脚をピンと上げ、マストのように固まった。
ドロズドワのうちばかりではない。隣から隣、病はいちにちで広まって、
明くる日の昼には村中の鶏小屋という鶏小屋は死の静寂に包まれた…。
「号外！ 号外！ ブロンナヤ通りの殺人！ 未亡人ドロズドワの養鶏場で大量死！
ペルシコフ教授の生命光線！ 号外！ ごうがーい！」
うだる暑さの六月の夕暮れをよろよろペルシコフは、小さな家へと歩いていく。
街頭ニュースではブロンスキーの嘘八百の報道記事が、政府の肝いりで流れていた。
悪態つきつき帰りつくと、女中のマリアがメモひと束をどさりと博士に渡したものだ。
そのなかに、「在ソヴィエト共和国外国通商代表部全権委員」とだけ書いた
名前のないおかしな名刺。怪訝に思ったペルシコフは会ってみるかと思いたった。
ところが実はこの男（長くなるから省略するが）騾馬よりひどい食わせ者で、
要するにこたびの発見を外国に売らんかと持ちかけたのだ。五千ルーブルくらいなら
この場で用立ていたしますぜ？「出て行け！」と一括、博士は電光石火で受話器を取り
高等刑務所に通報した。ほどなく三人の客人が捜査のために訪れた。色々きいて連中は
「ルビンシュテインじゃなかろうか」「いやあいつにしちゃ言い値が高い」
「片眼が義眼じゃありませんでしたか」「そんなことわしに分かるものですか！」
相談の末さっき来たのは国家を騙る小者の詐欺師で、しかしソヴィエトの沽券に関わる、
ぜひとも口外しないでいただきたいと笑わぬ目をして客は引き取った。
「わしにはこんなことをして遊んどるような暇はない、国際謀略はよそでやれ！」
よどんだ空気を追い払おうと二階の窓を大きく開けた。すると眼下の通りの向こうで
こちらに手を振る者がある。ブロンスキーだ、また現れた。
「せんせーい！ ウラジミール・イパーチイチ！」
「こんどは何だね、もう用はなかろう！」
「それが先生、鶏についてどう思われます？」
鶏だって…？ なにを言ってるのだあの男は。わしは鳥類の専門じゃない。鳥のことなら
わしよりも…いや、まあいい、パンクラート！ ちょっと彼を入れてやりたまえ。
「それでは先生、鶏の病気についてお聞かせください」座らぬ先にブロンスキーが言う。
「わしは専門外なのでね、詳しくはポルトゥガーロフが権威だよ」
「先生のご意見でいいのです」
「さよう、条虫、吸虫類、疥癬性のダニ、皮膚病、鳥壁ジラミに鶏コレラ、クルップ・ジフテリア粘膜炎、肺炎、結核、毒草中毒、腫瘍、黄疸、寄生キノコ、それに…」
「では先生、このたびの惨事はそのどれでしょう」
「なんだねその惨事とやらは」
「先生は新聞を読まれませんか？ わがソヴィエト連邦は大変なことになってるのです」
「なんだって？」
�Ψ寨饒�動・その頃ペルシコフは
てんやわんやの七月だった。にわとりペストの情報はたちまち西側に洩れ出して
ドイツやイギリス、アメリカの新聞はここぞと書き立てたが、
ソヴィエト政府は少しも騒がず不眠不休で活動した。まず鶏の食用が禁止されて
肉や卵を売ろうものなら全財産を没収された。科学者たちは狩りだされ、
ペルシコフも結局のところポルトゥガーロフと共同で非常委員に加わった。
どの対策が効を得たのか確かなところは不明だが、とにかく打つ手を尽くしたところ
どうやら「進化の無方向性」に歯止めをかけるのに成功した。
アルハンゲリスクやヴェルホヤンスクではむろん疫病は進路を沮まれ、
それはナホトカでも同様で、海より先へは進めはしない。黒海地方のソチだとか
タガンログとかマハチカラ、それら酷暑の亜熱帯でも菌は元気を失ったし、
西はポーランドとルーマニアとで検疫を突破できなかった。人民は勝利したのである。
七月も終わりともなれば街なかはイースターのごとき賑やかさ。
「非常委員会のメンバーは保健委員に農業委員、畜産部長ポロシューク、ペルシコフ並びにポルトゥガーロフ！」拡声器は暑苦しく叫び続けた。キーロフ劇場では
流行りに乗じて鳥ペストものが次々かかり、エレンブルグの「ディストラクションチキン」
では鳥の死骸のセットが崩れメイエルホリトが下敷きで死んだ。閑話休題。
さてそんななかペルシコフは、じつはそれほど熱心に防疫に尽くしていたわけではない。
それというのも言わずもがな、くだんの赤色光線だ。
非常時とやらに時間をとられ探究が滞りがちだった。それでもいいこともあるもので
にわとりペストの一件ですっかり国と人民に顔と恩を売った形となり、
滞りがちな各種手続きがあれよあれよと進みだした。カリーニングラードから空輸された
ツァイスの新しい磨きレンズで、イワノフは暗室ふた棟増築した。そこで作られた光線は
光源でも十センチ四方はあり、照射面では実にこれ三尺を越すという代物だった。
ペルシコフは大喜びで神秘めいた実験にとりかかる。光線の元では魚卵や蛙ランが
驚くべき速度で増殖した。そのめざましい成果物を手提げの檻にそっと入れ、
ある日ペルシーコフ大教授は研究者中央委員会の大講堂へ講演のため出かけていった。
それはこの変人学者の巨大な勝利を結果した。古い講堂には拍手がどよめき
天井からなにかパラパラと崩れて降ってきたほどだ。演壇の上のガラスケースには
猫ほどもある雨蛙がぶつぶつとあえぐ呼吸をしていたものだ。
夢のようだって？ まさしく夢だ！
さよう、ここらが我らがペルシーコフ、ウラジミール・イパーチイチの
研究の絶頂だったと、今から振りかえればそう思える、
運命の呼び鈴はもうすぐにも、鳴らされようとしていたのだ…。
�Д蹈奪�(@公文書)の来訪→ボックス装置の徴収
「先生、面会の方がおいでです」パンクラートがおずおずと言う。
「誰だね」
「それが妙なんで…お名前はそのう、宿命…運命…？ つまりロックさんという方で」
「名前が宿命、ふん面白い」
通せというとややあって、妙に堅苦しい男が入ってきた。そのくせどこか図々しそう。
「教授。クレムリンからの公式文書をお持ちしました。わたくしは模範ソフホーズ
『赤色光線』の所長としてこちらに参ったのでございます。ごらんください」
博士は文書を受け取り読む。読んだと思うとたちまちに電話機にむかって怒鳴りだした。
「わしには受け入れられません！ いったいどういうことなのです？ わしの助言や
そもそも許可のひとつもなく、私のいない研究所で勝手に実験を始めるなど！
わしは許可を与えませんよ。なぜかって？ なにが起きるか分からないのです！」
電話の向こうでは何かこう、赤児か何かをあやすような猫なで声が聞こえてきた。
教授はしばらく粘ったが、真っ赤になって受話器を置き
「こんなこととは絶対に手を切ってやる」と決めつけた。そうしてロックに向き直り
「こいつは誰の発案です」
「わたくしです」
「だろうと思った」
「つまり先生、現在われらの祖国にはひとつの鶏卵もない状態です。
疫病が去って平和が戻った今すべきことは明らかに、一刻も早い復興です。
もし先生の生命光線が魚や蛙と同じように鳥類にも作用するのなら、
失われた頭数の鶏などなんなく回復できるでしょう。どうか先生、ご協力を…」
「断るね。なぜといって、その実験はまだおこなっておらんからだ。考えてみたまえ、
どうして『君の』その実験は成功するといえるのですか。第一あなたは学者じゃない、
火種があれば薪は燃えるくらいに思っているのだろう。とんでもないよ…」
「とにかく、暗室はお借りします。これはクレムリンの決定です」
数時間後――、がらんとなった研究所で、博士は守衛にこうつぶやいた。
「この通りだよ、パンクラート。奴らが何をしでかすか、わしにははなから見えるようだ。
なるほどあの暗室の光線は、鶏卵にうまく作用するかも知れん、
しかし仮にうまく孵せても、あさってには死んじまうかも知れん、
食用になるとも限らない。骨に欠陥が生じてしまえば、立って歩ける代物に
なるかどうかも覚束ない。第一、次世代を遺せるのかどうか？
図体ばかりは犬のようにでかいが待てど暮らせど卵は産まん、などなどだ。
もういい…もう行きなさいパンクラート」
教授のことを悪鬼のようにおそれているこの哀れな青年は、ほうほうの体で退散すると、
行きつけの呑み屋にとびこんだ。一杯ひっかけずにゃいられなかった。
それもそのはず彼は見た、見てしまったのだおそろしいものを、
老教授の頬に伝う、ひと筋の涙を見てしまったのだ…。
�┘愁侫曄璽垢稜西譴僕颪�届く→アナコンダが孵化
スモレンスク州のニコリスコエ村。ここはひどく美しい別荘地だ。
「ソフホーズ・赤色光線」の表札は、この片田舎に掲揚された。
六輪駆動の豚鼻トラックから三基の暗室が降ろされた。ロックはみずから指揮を執り
配線チェックまで自分でやった。翌日、同じトラックが駅から荷物を届けてきた。
三つの木箱に封がしてある。ドイツから来た虎の子の鶏卵、選りすぐりだ。
開封に加わったのはロックと妻、守衛の片眼、護衛兵、それに家政婦のドーニャである。
「おいおい丁寧に扱ってくれよ、『卵注意』って書いてあるだろう？」
こじり開けるとかんなくずのなかから大きな卵が現れた。外国産とはいえ大きいな、
それにどうしてこれっぽっちなんだろう。トラック満載で来ると思った。
とはいえまずは照射を始め、一同やれやれと休息した。うるわしい午後だ。
運転手と家政婦のドーニャはさっそく木陰にしけ込んだ。
妻のマーニャは水浴びに出かけ、ロック所長は帝政時代にやっていた
フルートをたずさえ妻を追う。ほどなくたおやかなスペードの女王が
村の明るい空気に流れた。「うまく吹きやがるなあ」と運転手が
ドーニャの肩を抱きながら言った。マーニャは調べを聞きながら桟橋からおみ足を垂らす。
「あなたもどう？ すずしいわよ！」と声かける。向こうの薮がかさかさ鳴った、夫が
こちらに向かってるらしい。湖水の夏はロマンチックだ。
じっさいロックは向かっていた。しかし、突然青ざめた。なにか、悲鳴か、
悲鳴にもならぬほんの一瞬の息を呑むようなひと声が聞こえてそれから静かになった。
「マーニャ？ ふざけるなよ。どこだいマーニャ？」
繁みがかさかさ鳴っているようだ。いや、確かに鳴っている。それだけでなく、
なにか重たい丸太か何かが草をこすって引かれるようなザラリザラリという音もする。
猪とは違う、熊でもない…締めつけられるような不安な音だ。ロックは薮に目をこらす。
すると、たしかに丸太が見えた。と、その丸太がゆっくりと立ち上がりだした。
丸太の先には、大きな頭、瞼のない目、冗談みたいに大きな口、そしてその口から
まだ半分はみだしている、見覚えのある人間の足…。
シュウッ！と機関車のような湯気を吐いて、おお蛇はゆっくりと振り返り、
おお鎌首を、マーニャともどもゆらりと揺すった。まばたきもせずこちらを見る。
（とんでもない…）八月がにわかに真冬のように思われた。
（俺を見るな…）まるで魔術師に魅入られているようだ。
（ここはインドじゃないぞ…）そう、インド？ これじゃ魔術対決だ。
丸太が大きく伸びあがった、優に電柱くらいある。マーニャの足が消えていった。
ひゅ、ひゅっ。思わずロックはいつか見た、コブラ使いの写真を思う。
ひゅ、ひゅっ。夢中でフルートを唇に当てた。そうして吹いた、わけも分からず、
チャイコフスキーのオネーギン、ゆったりとしたワルツだった。
ぐらりぐらり、音が揺れ、景色が回り、アナコンダは巨大な頭を揺らし続けた――。
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