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2021年11月09日16:02

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英語の出来ない僕の思ったこと…学術論文についての記事を読んで

 こちらの記事を読んで,英語の出来ない僕は色々なことを感じました。

 僕が大学院に入ったのは,大学卒業後かなり経ってからです。非常に驚いたのが,大学院では高い英語力を求められることでした。入学前の「自己紹介を英語で記載して研究室にメールすること」という指示にまず仰天させられ,和英辞典と首っ引きで怪しげな英文を書いて何とか期日までにメールを送ったのを覚えています。入学したらしたで英語の教科書を渡されて何十ページも読まされたり要約させられたり,ときにはゼミナールそのものが英語で行われたり,とにかく英語を大量に使う毎日でした。もともと高校時代から英語が大の苦手だった僕は「間違って英文科に入ってしまったのだろうか(;´・ω・)」などと感じながら,英語もろくに出来ないくせに大学院に進学しようなどと考えた自らの身の程知らずぶりを大いに嘆いたものです。
 もっとも,大学院進学者の全員が英語に堪能かと言えば必ずしもそうではないらしく,英会話や英作文のあまり得意ではない人向けの「英語」という授業も用意されてはいました。僕のことを見て「これはどうにもならない」と感じたらしい指導教授からその授業の履修を命じられた僕も行ってみたのですが,僕の「出来ない」というのは他の学生たちとレベルが全く違いました。他の受講生たちはというと日本人は皆米国などに語学留学の経験のある人々,その他にはパキスタンやベトナムからの留学生と言った人たちで「しばらく使っていなかった英語をブラッシュアップしたい」「英語に不自由はないが,作文はあまり得意ではない」という方たちばかりだったのですから。毎週「ネイティヴスピーカーの先生の講義を聴いてその後討論し,最後にはエッセイ(小論文)を書かされる」という授業が行われ,僕などは何をやっているのかすらろくに理解出来ませんでした(。ŏ﹏ŏ)
 そんな授業でも僕が単位を取得出来てしまったのは,単なる幸運の賜物です。たまたま先生が「伊勢物語に興味がある」と仰ったのに食らいついて「キャンパスのすぐ脇を通っている言問通り。あれは伊勢物語に由来する名前の道路です」と発言したところ,先生が「ほぉ!(。・о・。)!」と興味を持って下さったので「観世元雅の謡曲『隅田川』も伊勢物語を引用しています」「イギリスの大作曲家ベンジャミン・ブリテンはその『隅田川』に感銘を受けてオペラ『カーリュー・リヴァー』を作曲しました」などなど必死に話したところ,先生が「レポートを書いてきなさい。それで加点しよう」と言って下さいました。文学好きの僕はまたしても和英辞典と首っ引きで伊勢物語・謡曲「隅田川」などの話を延々と書き連ね,更に「現在は隅田川は東京都内を流れているが…」と埼玉県春日部市の古隅田川に話題を移し「当時の隅田川はこちらを流れていた。在原業平が歌を詠んだのも梅若丸が若い命を散らしたのも,或いは東京ではなく春日部だったのではあるまいか。今も春日部市には『業平橋』という橋が残り,梅若丸の墓も東京・鐘ヶ淵の木母寺と春日部・満蔵寺の双方に残る」と続けた上に,更に埼玉・栗橋と茨城・古河にまたがる静御前の最期を巡る伝説とJR栗橋駅前にある静御前の墓についても紹介し「ああ,武蔵野は何と悲しみに満ちた地なのだろうか」と思い入れたっぷりのレポートを書いて提出した結果,先生から「面白かったぞ♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪」と褒められて結構良い点数を頂けてしまいました。無事に単位を取得して帰って来た僕を見て「おお,あいつも英語が出来るようになったか」と一度は安心した指導教授に「やっぱり駄目だわ(。•́︿•̀。) それにしても,あいつは何でロクに英語も出来ないのに単位を取れちゃったんだろう(。´・ω・)?」と呆れ果てられ不思議にも思われたという後日談がつくのですが。まさかわざわざ大学院に入ってきた者が,研究テーマとまるで無関係な文学談義で単位を獲得してきたなどとは普通は想像もしないお話でしょうね。

 そんなわけで英語は全く駄目なままでこの歳になってしまった僕は,いつも思っていました。「英語圏の人々は,学問をやる上であまりに有利過ぎるのではないか」と。僕ほど英語の出来ない人は珍しいにせよ,英語の得意な人であっても日本語の文献よりは読むのに苦労するというのは当然の話です。僕の研究分野は学位論文や投稿論文を日本語で書くことが認められているし事実そういう事例も多いのですが,先行研究の多くは英語で執筆されているので英語を読めないと研究の遂行にも重大な支障を来たします。それでも日本語で論文を書いても認められる僕の研究分野はまだマシというべきで,分野によっては論文は英語で書かれていなければ業績扱いしても貰えないようです。こういう状況が英語圏出身者とそれ以外とでどれほどのハンデになっているかはわざわざ指摘するまでも無いお話ですね。非英語圏出身者だけが足枷を嵌められた状態で競争を強いられているといえば,或いは妥当な表現でしょうか。
 とはいえ,これを是正するというのは非常に困難な事柄だと思われます。「英語ばかりを有利に扱うな」という訴え自体は大勢の人々の共感を得るかもしれませんが,では何語を使うのかという対策の部分で間違い無くこの訴えは瓦解するでしょう。実は近世までは学術論文は何処の国の言葉でもないラテン語で書かれるという時代が長く続きました。それ自体は英語偏重よりも公平かもしれませんが,今更ラテン語で論文を書けと言われたら多くの人々にとっては却って不都合な話でしょう。ラテン語を今から覚えなければならないのだから。そういう不平等を解消しようと平易な人工語を作った人々は過去にも存在し,その中でもルドヴィコ・ザメンホフ(1859〜1917)の作り上げたエスペラント語というのは比較的成功を収めた部類ですが,これに切り替えるというのも相当に困難の伴う話でしょう。また仮に切替に成功したとしても,既に存在する膨大な文献を読む為に英語の能力が必要なことは何も変わりません。
 そんなわけで現在では好むと好まざるとに関わらず,英語を知っていないと事実上学問は出来ないというのが現状ですね。僕に言わせれば非英語圏出身者に不当なハンデを負わせる甚だ面白くないお話ですし,それによって才能を持ちながら学問の道を閉ざされている人も居るのではないかと思いますが。各大学や研究所に英語を翻訳するスタッフを配置して日本語のみで学問を出来ればどれほど楽かと思いつつ,それは現状では見果てぬ夢であることを認めざるを得ません。将来の翻訳ソフトの更なる高度化に期待を掛けるしか無いでしょう。

 そんな思いを抱く中でこの記事を読みました。英語論文だけでは生物多様性保全に関して北米と欧州についての知見しか取得出来ないが,英語以外で描かれた論文にまで目を向けると取得地域が25%拡大し,しかもその25%の地域というのは生物多様性に富み保全が最も必要とされる東アジアや中南米だというお話です。「英語の論文にこだわり続けると、膨大な量の科学的知見を失うことになる」という警鐘に触れ,僕は正直,少々胸の空く思いを感じさせられました。先ほど「分野によっては論文は英語で書かれていなければ業績扱いしても貰えない」と申しましたが,そういう分野ばかりではないということでしょうか。またそもそも生物多様性について知識の深い専門家であっても必ずしも英語に長けているとは限らず,そういう専門家はたとえ業績としての扱いにどれほど不利があっても母国語や自分の使える言葉で発信するしかありません。或いは専門家自身は英語に長けていても,その情報を受け止めて生物や環境の保護にあたる為政者や市民が英語に不得手であれば,やはり現地の言葉で情報を発信するしかありませんね。
 生物多様性を専門とする研究者たちは「非英語の論文でしか得られない情報が少なくない」という事実を前に今後どのように行動していくのか,僕には大変興味があります。自ら東アジアや中南米に赴いて研究し,その成果を英語で発信するか。それとも東アジアや中南米に英語の堪能な専門家が登場するのを待つか。無論,そういった動きは生じるでしょうが,どちらもあまり効率的とはいえません。仮に自らが東アジアや中南米で研究をしてそれを発表しても,非英語でとはいえ既に別の人によって発表された論文がある以上は独自の研究成果にはなりません。また黙って待っていても東アジアや中南米に英語に堪能な専門家が登場する保証はありませんし,仮に登場してもそれまでの間に環境破壊が進んでしまっては研究の意義自体が疑われる話です。
 そう考えると,生物多様性を専門とする研究者たちは英語以外の言語で発表された論文を自ら読むしかないでしょう。専門のスタッフを雇用して翻訳させるというのは,先ほど申し上げたように現実的とは言えません。少なくとも当座は,自らが色々な言語を勉強して論文を読むことにならざるを得ないと思われます。それによって特に英語圏の人々が「学問をやるために語学の勉強が必要」ということの困難さを認識して頂けたら,或いは英語万能の現状に対する疑問を抱いてくれるのではないか。少なくとも非英語圏の研究者にも英語での情報発信を強いていることのアンフェアさを認識してもらえるのではないか。僕はそのように期待しています。更に希望を言えば,今後は非英語で執筆された論文であっても内容が有益なものであれば,英語論文と同様に業績としてきちんと認められるようになってもらいたい。そのように願っています。

 これは英語の出来ない者の,単なる戯言に過ぎない思いかもしれません。皆様はどのようにお考えになるか,よろしければご意見をお聴かせ頂けますか。



非英語の論文活用、生物多様性の知見が飛躍的に拡大 国際プロジェクトで判明
https://univ-journal.jp/123998/
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