mixiユーザー(id:24167653)

2021年09月30日23:39

247 view

「雲泳ぐ有月(くも およぐ ゆうげつ)。」―高校生編B後編―

「雲泳ぐ有月(くも およぐ ゆうげつ)。」―高校生編B後編―




※ 一人称小説ですが、良かったら是非、朗読の台本としてもお使いください。
金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※



※1 今作自体は小説という体裁で作られていますが、
声劇台本である「二方美人(にほうびじん)。」のシリーズ作です。
そちらを知らなくとも当小説単独でもお楽しみいただけますが、 同シリーズ作や派生作品も読んでいただければとても幸いです。

(以下リンク)

「二方美人。」(1:4)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653

「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみのまとめ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653

小説「雲泳ぐ有月。」ー中学生編Aー
https://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=24167653&id=1969076964
小説「雲泳ぐ有月。」―中学生編B―
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969157309&owner_id=24167653

小説「雲泳ぐ有月。」ー高校生編A−
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1980476466&owner_id=24167653
小説「雲泳ぐ有月。」ー高校生編B前編−
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1980476502&owner_id=24167653


※2 こちらの小説、朗読の台本としてお使いいただく事も可能であるように作られていますので、もしよろしければそのようにもお使いください(ツイッターの相互フォロワーさん以外は許可を事前にお求めください。)。 

  その際の想定時間は前後編合わせて45分程度です。









 以下、本編



 福守27年11月

 茂森(しげもり)はどうにか一命をとりとめ、10月の半ば頃から杖を突きながらも学校に再び通うようになった。入院中、一度彼に会い、話を聞く事があったが、やはり彼も俺と同じ考えだったらしい。ただ一点、俺は「仮に死んだとしてもそれはそれで良いか」などと考えていたのに対して彼は本当に死ぬ前提だったというところに大きな違いがある。

 死なずに済んだという事を除いたら彼の目論見は上手くいったようで、俺はあれ以来全く嫌がらせを受けなくなった。他の被害者達も同様なようだ。流石にあんな事があってなおも嫌がらせを続ける奴は居なかったらしい。止んだのは望ましい事ではあるが、胸糞悪い。良かったなどと言えるわけがない。あの三人も全然嬉しそうにしていない。むしろ居づらそうで、いつも辛気臭い顔をしている。

 辛気臭いのはなにもあの三人だけではない。そもそも夏休み、あの後も本来であれば二週間の補講が残っていたのだが、俺を含め大量の生徒達が登校できる状態でなくなり、補講最終日には出席者数は学年全体でたった12人だけだったと聞く。新学期に入ってもどのクラスもどんよりとした空気で、笑っている生徒は誰も居ない。そりゃそうだ。俺だってまともじゃ居られない。学校の中でも外でも、何回吐いたか分からない。それなのに学校側は表向き「事故」だと説明し、なるべくおおごとにならないようにと働きかけているのだから、心底軽蔑する。

 テニス部の練習もずっと休んでしまって、気まずくて夏休みが明ける前に退部してしまった。それで空いた時間を勉強に費やせたかと問われれば当然そんなわけもなく、俺は全ての義務をほったらかしにして、ただひたすらに世界中の胸糞悪い事件や事故の記事を読み漁った。なぜだかそうしていると少しだけ心が落ち着いたのを覚えている。

 そんな事情など一切知らないだろう月夜から進路についてのメッセージが届いていた。7月終わりに届いていたメッセージに気づいたのは8月の半ば。随分返事を待たせてしまっていた。

 正直受験なんてものを考える余裕も無かったが、待たせてしまっていたのだからとどうにか志望校を答えようと、まるで酔っぱらったような、まともに働いていない頭の中でどうにか返信をした。だからか、俺は本当は冬笠(とうがさ)大学を志望していた筈なのに、なぜか地元の夏宮(なつのみや)大学を志望すると送ってしまっていた。すると月夜から一緒に夏宮大学を目指そうとやたら元気の良い返信が送られてきて、今更冬笠大学を目指すと言いづらい雰囲気になってしまった。

 あの一件で頭がいっぱいで、結局夏休みにまともに勉強なんかできなかったからな。どっち道、もう今更冬笠大学なんて無理な話で。恐らくあの時の俺が夏宮大学を志望するなんて送ったのも、それを見越しての事だろう。

 なんてのはただの言い訳だ。学力の方じゃない。とにかくもう、俺は疲れたんだ。会いたい。月夜に会いたい。ほんと、馬鹿な事しようとした。死んだら二度と月夜に会えない。夏宮大学を志望するなんて言ったのも本当はきっと「ここなら地元だし、もしかしたら月夜も受けるって言うかもしれない」と思ったからだ。同じ高校を受けるのは俺が月夜に依存する事になってしまって良くない。そんな事を思っていた俺だけど、そんな拘りもうどうでも良いんだ。とにかく俺は月夜に会いたい。同じ大学に行きたい。

 茂森、あの馬鹿野郎。少し傷跡が残ったくらいで後遺症も無いだ?本当だろうな、嘘だったら許さねえぞあの野郎。そんなもん運が良かっただけなんだからな。四階からコンクリートに落ちるのは普通に死ぬ可能性の方が高いんだよ。あん時事前に調べてたから知ってんだよ。

 あの後、俺は被害者達とも特に話す事は無くなった。他の生徒から以前のように勉強やら人間関係やらで相談を持ち掛けられる事はたまにあったが、それどころではないと言って全て断っている。俺からしたら結局、誰が俺への嫌がらせをしていて、誰がしていなかったのかも分からない。人間不信になるなってのが無理な話だ。そうでなくても俺はもう、誰かのために何かするとか、そんなの御免だ。仕方ないだろ、そもそも俺はお前らの事なんて別に好きじゃないんだよ。何かしてもらいたいってんなら、まず助けたいって思われる言動をしろ。

 くそ、もう無理だ。何も考えたくない。もうなんでも良いから月夜に会いたい。一人でなんとかするとか、月夜に依存したくないとか、もうそんなのどうでも良い。とにかく月夜に会いたい。なのに、どんな顔して会ったら良いのかが分からない。どうしろってんだこんなもん。……ああ、だめだ。分かる。これ、また吐くやつだ。だめだ、ここで吐くな。ゆっくり、男子トイレまで。

 焦るな。少しずつで良い。昼休み明けの授業に間に合わなくなっても良いから、とにかくトイレまで……。



 福守28年5月

 今日は月夜の学校の文化祭らしい。俺の高校の文化祭は9月末に行われるが、5月の学校も多いそうだ。今日、俺は二年と二か月ぶりに月夜と会う事になっている。この前の月夜の誕生日に、いつも通りドアノブにかけておいたプレゼントについてのお礼のメッセージを受け取った後、そのままの流れで他愛のないやりとりをしていた時、ゴールデンウィーク明けの文化祭に来てほしいとのお誘いをもらった。

 ただ、去年のあの出来事をいつまでも引きずっている俺は、いまだに月夜にどんな顔をしたら良いか分からない。どうやらあの飛び降り事件は月夜の耳には入っていないようだから、後は俺がいつも通りに接していればそれで良いはずなのに。それができそうにない。

 「月夜。」

 校門の前に居た月夜に声をかけると、驚いた様子で振り返った。二年と二か月ぶりに会った月夜は、中学時代から変わらずかわいらしい雰囲気を纏っていたが、強いて変化を挙げるとするなら少し痩せたかもしれない。それもあってか、中学時代よりもさらに小さく感じた。

 大人になった、綺麗になった、そんな感じの気の利いた事は、実際そう思わなかったのだから仕方ない。

 一緒に歩いていると、月夜の言動一つ一つに中学時代を思い出すものがあって、油断すると涙が零れてしまいそうになる。ああ、ほんと、楽しい。やっぱり俺には月夜なしでもきちんと楽しく生きていくなんて無理だったのかもなぁ。やっぱり、月夜が居ると楽しくて楽しくて仕方ない。情けない。

 たこ焼きをほおばる姿も、手を引いて我先にと歩いて案内しようとするのに時折道を間違えてあわてている姿も。嬉しい気持ちになりそうになる度に思い出す。俺はこんな大切な人を置いて死のうとしていたのだと。それも死にたいわけでもないのに死のうとしていたのだと。

 あの時の俺の気持ちをどうにか整理しようと考えると、あの四人の事が本当に大事で、あの四人を助けるためなら死んでも良い。そんな風に思っていたわけでは決してない。人に頼られて、それに報いる。そこで得られる充実感が欲しくて、月夜の居ない高校生活をどうにか楽しむ手段として、その充実感に縋っていて、それで……まあ、最後は、結局のところ「おかしくなってしまっていた」それに尽きる。

 月夜が大切だからこそ、月夜が居なくても楽しい高校生活を送りたかった。たとえ隣に居なくても、ふと思い出に浸ったり、今頃あいつも頑張ってるかななんて思ったり、それだけで力がもらえるような特別な関係になりたかった。夢見がちな奴だ俺ってのは。なのに飛び降りだなんて。こんなに愛しいはずの月夜を泣かすような事をしようとしていたんだ。ごめん。月夜、ごめん。

 ふと気づくと、月夜は俺の右腕を思い切り抱き寄せ、そこに自らの顔をうずめていた。月夜の温かい体温を感じる。そして、月夜が小刻みに震えているのも分かった。

 俺はきっと、自分で思っている以上に、普通にふるまえていなかったんだな。恐らく、俺が今落ち込んでしまっている事に気づいたのだろう。心配性な奴だ。本当に優しくて、良い奴だ。ここからは見えないが、腕に濡れる感覚がある。泣いているのだろう。なんで結局月夜が泣いているんだ。なんで俺のせいでこんな。本当に……なんでこんな現実なんだ。

 俺は多少無理のある体制になりつつも、左腕を回し、月夜の背中をなるべくゆっくりとさすり「ありがとう」と伝えた。どうせ今更取り繕っても、俺が落ち込んでいる事それ自体はごまかしようがない。だからせめて、あの凄惨な出来事については伏せて

「実はちょっと大変な事があってな。正直しんどくて、すべてを投げ出したいって気持ちにもなった。だが、お前との約束。一緒に夏宮(なつのみや)に受かろうって。あの約束のおかげでなんとか頑張れそうだ。だからありがとう。」

 背中をさすり続けながら言った。ゆっくりと、力が入りすぎないように。月夜が少しでも安心できるようにと願いを込めながら。



 その日の帰り、月夜は「いやあ、お前、卒業式の時もそうだったが背中さするの上手だな!きっと良い父親になれるぞ」と照れた様子で俺の顔も見ず、先を歩きながら言い放った。俺は「そいつは良かった」と、苦手なりに精いっぱい微笑んだ。



 福守28年10月

 受験まであと少し。俺は授業後、いつも通り教室に残って問題集を解き、一通り切りの良いところまで終えると綺麗に咲いている校庭の彼岸花を眺めるのを楽しみに、帰りの準備を始めた。

 すると、帰り支度の途中で幽谷先生が教室へと入ってきた。幽谷先生は三年生で再び俺の担任の先生となっていたため、戸締りのためにここへ来るのはごく当たり前の事だ。ただ俺はなんとなく、この先生を相手にするとばつが悪い。

 去年の嫌がらせ問題。あれについて、俺はこの先生には一言も何も相談しなかった。特に一年生の頃は自分の担任だったのに。それは他の先生の対応を見て、既に「先生」という概念そのものに対して失望していたからだったと思う。けれど、もしも。二十人がだめでも、二十一人目は真摯に対応してくれたかもしれない。

 逆に、この先生でだめなら諦めがつく。この先生は暗くて生気がなくて、良いところはどこかと問われたら「それでも仕事はちゃんとする」という一点に集約される。だからこそ、この先生でもだめだったらもう、あれは無理だったんだ。俺がおかしくなったのも仕方なかったんだ。そう思えるのかもしれない。

「幽谷先生、すみません。少し、聞いていただきたい話があるんです」

 幽谷先生は俺のその言葉に「ああ、そろそろ教室の鍵閉めようかと思ってきたんですが、それならお話聞いてからにしますね」と言い俺の机の前に来て、他の席から持ってきた椅子に腰かけた。

「……俺、二年の春から夏にかけて、結構ひどい嫌がらせ受けてたんです」

幽谷先生は
「それは…あの子達だけじゃなかったんですね…。」
と、神妙そうな面持ちだった。

「それは、他にも被害者が居て…元々俺、そいつらの事どうにか助けたくて色々してみたんですけど、上手くいかなくて。それで俺にも嫌がらせが伝播していった感じで。その……実はあの日、俺……茂森と同じ事しようと計画してたんです。実は自宅の机の中に今でも遺書が入ってて」

その言葉に幽谷先生は、あごに指をつけ、目線を下げてうなり声のようなものを上げ、しばらくしてからゆっくりと、切々と語った。

「ごめんなさい。全然気づかなくて。…たまにああいう嫌がらせは見た事があって、それはその時注意していたんですが、見ていたよりはるか多く、そういうのがあったんですよね。……茂森清土(しげもり しづち)君。彼が死なずに済んだのは運が良かったから、ただそれだけです。だからもし香架(こうが)君が落ちていたら、香架君は死んでいたかもしれない。…全然、力になれなくて…ごめんなさい。」

 俺はひねくれた奴なんだと自分で思う。なのだけども、たまに急に素直な気持ちになる時がある。それが今だ。

 真向(まっこう)から謝ってくれた。何も解決なんかしてないけど、今の俺にとっては謝ってくれた事そのものが大きな意味を持つものだった。何より、この、それこそ今日自殺してもおかしくなさそうなくらいに生気のないこの人が言うのだから。この人もきっと色んな悲しい事とかつらい事とかあったんだと思う。そして多分、それを上手く乗り越えたりできていないんだ。だから今でもこんなに暗くて、今にも崩れ落ちそうな姿でいる。だからだろう。この人の言葉は、同類と言おうか。俺にひねた考えを起こさせないでくれた。

「でも俺、落ちなくて本当に良かったって思うんです。他校に大切な人が居て。俺が死んだらその人が絶対泣くから……ああ、でも結局、この前心配かけて泣かせてしまったんですけど……俺がこんな、落ちこんだまま立ち直れないでいると、また次会った時、あいつを泣かせてしまう気がして。だから今すぐにでも立ち直りたいのに、そんなのすぐにできるわけがなくって……」

 俺が口に出したのは、まるで独り言のようだった。先生の言葉に何か応えるのではなく、ただただ俺の言いたい事を言っている、単なる独り言。そんな俺の言葉を聞いて、先生は俺と違って、俺の言葉に応えてくれた。

「もし香架君が落ちていたら…それでその人が泣いてしまったのなら、それは君のせいでその人を泣かせたって事になるでしょうけど、落ちないでくれましたから……それでも落ち込む君を見てその人が泣いたのは、君のせいで泣かせたんじゃなくて、その人が君のために泣いてくれたって事だと思いますよ……。だから、無理に立ち直らないとだめって事にはならないと思うんです。その人と一緒に、少しずつ立ち直れたらって……思うんです」

 ああ……確かにそうなのかもしれない。だって目の前のこの人だって、この人に何があったのかは知らないが、どう見ても立ち直れていない。傷ついたままでいる。でも、先生としての仕事をきちんと全うしようとしている。俺に一つ一つ応えようとしてくれている。

 だからこそ、その言葉をまっすぐ受け止めようと思えた。俺が月夜を泣かせた、俺が情けない奴。俺ばかりを主体で考えるのをやめよう。月夜が俺のために泣いてくれた。月夜が俺を心配してくれて、月夜が俺に寄り添ってくれた。

 先生との話を終え、一人でぼんやりと校庭の彼岸花を眺めていると、自分が月夜に会いたい、一緒に居たい。それだけではなく、月夜との約束を守りたい。月夜の笑っていられる世界を作りたい。そのためにあと少しを頑張れるだけの力が湧いてくるような気がした。




 福守29年3月

 お互いに卒業式を終え、俺は月夜とともに自室のノートパソコンの前に居た。あと数分で、ホームページ上で合格発表が行われるからだ。二人とも合格の目が濃い事は事前に分かっていたし、周りからは絶対合格できてるよ、などとは言われている。だがやはり、実際に合格発表を見ないことには安心などできるわけがない。

 考えてみたら俺の高校生活は全くもって有意義なんかじゃなかったし、全然楽しくなんてなかった。結局、月夜が居なくても一人でなんとかするという目標は何一つとして達成できなかった。でも、俺なりに精一杯生きてきた。だから良いだろ、同じ大学に合格できるくらい。そこくらいは報われたって良いだろう。

 俺は俺で落ち着かない気持ちでいたものの、月夜が俺よりさらに落ち着かない様子で、明らかにまだ発表時刻になっていないのにホームページを何度も何度も再読み込みするものだから、なんだか俺は急に冷静になってしまった。

 そういえば昨日、月夜が久々にうちに来るからとあいつの好きそうなクッキーを買っておいたのを思い出した。奥の部屋からそれを持ってきて、とりあえず折り畳みのテーブルの上に広げてやると、月夜は大げさなくらいに喜んでほおばり始めた。その際、特に意味もなく「母さんが月夜に出してやれと買ってきた」などと嘘を吐いてしまった事に少し後悔した。なぜ俺はこんなどうでも良い嘘を吐いてしまったのか。

 そうこうしている間に発表の時間になったが、月夜はクッキーに夢中で気づいていない。それを後目(しりめ)に俺は合格者一覧を確認すると、無事、俺と月夜、二人の受験番号を発見する事ができた。

「月夜。」

 声をかけると、月夜はクッキーに伸ばした手を止めて、「む?」などと言いながら膨らませたほおをこちらに向けた。

「二人とも合格だ。見てみろ」

 さらに続けると、急いでほおの中のクッキーをかみ砕き、飲み込んだ。そして「なんだと!……本当だ、間違いない、私も……浦風も!ちゃんと合格と表示されてる!」と、相変わらずの演技がかった口調で叫んだ。

 あまりの大声に驚いたが、こんな大声を出すほどに嬉しかったのだろうと思うと、俺は自分のほおが緩んでいくのが分かった。

「そう言っただろ。おめでとう」

 合格の実感がじわじわとこみ上げてくると、俺自身意外と思うほどに、月夜と一緒に居られる事がただひたすらに嬉しい。その気持ちがとめどなく溢れていった。もし俺がこの先、また誰かのために力を尽くそう、誰かの助けを求める声に応えよう。そんな気持ちを抱く事があるとするなら、その気持ちは他の誰よりも、この月夜にこそ、一番多く注ぎたい。

 俺のために泣いてくれた月夜だから。俺は月夜と一緒に居たい。月夜が苦しむ事があった時には、そこには俺も居て、俺も一緒に乗り越えたい。

 やたらと大げさに喜び、興奮した様子の月夜の「これからいっぱい一緒に居られるぞ!どうだお前も嬉しいだろう!くくく、私は嬉しいぞ!やったな!どうだ追いついたぞ!もう負けっぱなしの私じゃないからな!これからはいくらでも頼らせてやる!」との言葉をご丁寧なことに最後まで黙って聞き終えると、俺の手は自然と月夜の頭に向かって伸びていた。



―以上―

0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する