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2018年11月13日17:13

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小説を作成しました!「雲泳ぐ有月(くも およぐ ゆうげつ)。」―中学生編B―

「雲泳ぐ有月。」―中学生編B―






※ 一人称小説ですが、良かったら是非、朗読の台本としてもお使いください。
金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※





※1 今作自体は小説という体裁で作られていますが、
声劇台本である「二方美人(にほうびじん)。」のシリーズ作です。
そちらを知らなくとも当小説単独でもお楽しみいただけますが、 同シリーズ作や派生作品も読んでいただければとても幸いです。

(以下リンク)

「二方美人。」(1:4)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653

「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみのまとめ
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653

小説「雲泳ぐ有月。」―中学生編A―
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969076964&owner_id=24167653



※2 こちらの小説、朗読の台本としてお使いいただく事も可能であるように作られていますので、もしよろしければそのようにもお使いください(ツイッターの相互フォロワーさん以外は許可を事前にお求めください。)。 

  その際の想定時間は30分程度です。




以下、本編



 福守(ふくもり)という元号。福を守ると書いて福守。漢字を見ただけで何を願って付けられた元号かが見て取れる。

 この元号になってから10年目の6月に生まれた俺は、香架 浦風(こうが うらかぜ)と名付けられた。この浦風という名前は、心の裏に暖かいそよ風が吹いているイメージらしい。福守という元号に似合う、平和で幸せな名前だ。

 にも関わらず、ざっと振り返ってみてもこの3〜4年くらいの間は実際の自分の心の裏にそんな暖かい風は全然吹いていなくて。少し後ろめたくなってしまう。

 何をしていても楽しくない。楽しまない自分が悪いとよく言われる。クールぶって格好付けてるとよく怒られる。けれど、とにかく、皆が楽しそうにしている事でも、なんだか全然楽しくない。

 こんな俺も、中学に入ったら何か変わるのだろうか。





―福守23年、4月―



 中学に入って少ししたが、別段面白い事はまだ無い。しいて言うなら、俺の一個後ろの席に座っている女子生徒が、光に絵画の画(が)で光画(こうが)という、珍しい上に俺と同じ読み方の苗字をしている事くらいだ。ただその女子生徒本人は、その苗字に合わないと感じる程に暗い。全てがつまらないとでも言いたげな表情だ。……そのどちらも、妙に親近感を覚える。

 たまに女子生徒に話しかけられているのも見るが、彼女の暗い雰囲気に相手は気まずそうにし、やがて話を短く切り上げて離れて行ってしまう。その様子を見ると、傍からすると俺もあんな感じなのかな、なんて思える。そりゃ友達もできずつまらないわけだ。



 先の事なんてまだ分かるわけもないけど、小学生の頃の色んな事を思い浮かべながら、“ま、どうせ俺自身がそんななんだから、この先も特に中学で楽しい事なんて起きないんだろう”なんて考え、今日もただただぼんやりと机に頬杖をつきながら、朝の会の先生の話を聞いていた。

 先生が「部活をどうするかを決めておくように」と言うので、少し考えてみる。体験入部した中ではテニス部が一番続きそうな気がする。他の部活は何となく、やたら友情がどうとか絆がどうとか、押しつけがましくて暑苦しい雰囲気を感じた。



 そんな事を考えている間に、もう先生の話はまた別のところへと移っていた。えっと、今度の生徒会選挙に……生徒会の話か。……立候補するのには推薦者が必要で……なるほど。……生徒会長に立候補したい光画 月夜(こうが つくよ)さんがそれで困っているので、もし良かったら誰か推薦者になって欲しい。

 耳を疑った。

 彼女には勝手に共感しているところがあった。苗字の件に加えて、その、全てがつまらないとでも言いたげな表情。だからこそ、彼女が生徒会選挙に出る。まして生徒会長に立候補する。全くもってイメージに合わなくて、信じられなかった。……あ、でも推薦者が居なくて困っているというところだけはいかにも彼女らしいな。



 俺は先生の話が終わり、一限目の前の小休憩に入るとすぐに後ろの席の彼女に声をかけた。

「どうして生徒会長になんてなりたいんだ?」

 すると彼女は、いつも通りのつまらなさそうな表情で「少しでも私の学校生活が楽しくなるかも知れないからです」と返した。

 勝手に共感していたからかも知れない。多分、クラスの明るい人気者が同じ事を言ったとしても、彼女が似合わない満面の笑みで同じ事を言ったとしても、こんな感情にはならなかったんだと思う。

 こんな、俺と同じでつまらなさそうにしてる癖して、それでも楽しい事を探して似合わない事を頑張ろうとしている。多分友達が少ないんだろう。それで推薦者に苦労しながらも、先生に頼んでまでその苦労を乗り越えようとしている。楽しい学校生活を手に入れるために頑張っている。

 いつからか“楽しい事”が起きてくれないかと思っているだけで自分から作ろうとしなくなっていた自分自身の事を、凄まじく馬鹿な奴に思えた。どうせ自分はこんなもの。自分自身がつまらない奴。そんな風に諦め切っていたのが恥ずかしく思えた。

 そして俺は、困惑する彼女に対し

「なら俺は副会長になりたい」

「ちょっと規約の紙を見せてくれ」

「立候補者と推薦者の立場が両立する事は禁止されていないな?」

「なら俺が副会長に立候補するから、月夜(つくよ)さんは俺の副会長への立候補の推薦者になってくれ。俺も月夜さんの生徒会長への立候補の推薦者になるから」

 と、次々にまくしたてていた。こんなに話すのはかなり久しぶりだ。自分でも驚くばかりだったが、不思議な程に次々と口から言葉が出て来て……ああ、多分、あれだ。俺は今、柄にもなくわくわくしているんだ。





―福守23年、9月―





 月夜さんと俺は無事選挙を勝ち抜き、先輩方を押しのけて生徒会長と副会長になる事ができた。選挙の後で聞いた話、お互いがお互いを推薦するというのが意外と受けたらしい。それももう懐かしい。そのせっかく入れた生徒会の仕事の中に何か楽しい事があったかと言われると特にそんなものは無いまま、もうすぐ後期生徒会選挙。俺達はその役を終えようとしている。

 とは言え、考えてみれば5月に生徒会室で月夜さんに数学の勉強を教えてくださいと声をかけて貰って、その日最終下校時刻まで勉強した後一緒に下校して。それが毎日のように月夜さんと一緒に下校するようになるきっかけだった気がする。

 それ以外にも、色々な校則についての妥当性を話し合ったり、一緒に先生に対し校則の改正案を打診したり、思い出せば楽しい事も少しはあったかな。

 どの思い出も生徒会が楽しかったというより、月夜さんと一緒に何かをするのが楽しかっただけだけども。



 そんな月夜さんが今、「疲れた休憩!」と言って俺の部屋のソファの上に寝転んでいる。



 目の前に居る人間が、あの常につまらなさそうな顔をしていた月夜さんと同一人物だと信じるのはかなり難しいだろう。双子の妹ですと言われた方がまだ信ぴょう性がある。

 彼女にとっては生徒会が楽しいのか、生徒会に入ってからというもの、彼女はどんどん明るくなっていた。今では彼女のつまらなさそうな顔なんて見る事はほとんど無く、楽しそうな顔をしている事の方が多くなっていた。

「月夜さんよ、人ん家(ち)で随分優雅にくつろぐんだな」

 俺がそう声をかけると、彼女は「この前初めて来てからもう4回目だからね。慣れた」と、ひじ掛けにさかさまの頭を乗せたまま返事をした。お前は会話のマナーというものを知らないのかとも思うが、そうまで気を楽にして貰えるのもそれはそれで嬉しいので、放っておく。他の所ではちゃんとマナーも守っているだろう。

 因みにこの前初めて月夜さんが家に来たのも、生徒会の延長だ。文化祭に関する予算の話が生徒会の中で全然進まなかった時に、とりあえずちゃんと話を聞くと言って家まで着いて来た。月夜さんの家より俺の家の方が中学から離れているとは言えさほど距離があるわけでもないのもあり、それ以来たまにこうして月夜さんは学校帰りや休日に俺の家に来て一緒に勉強するようになった。

 意外と言えば意外な事に親と鉢合わせた時には礼儀正しく対応していて、親には気に入られた様子だ。



 元々、俺が生徒会に入ったのは俺と違って楽しい事のために頑張る月夜さんを近くで見習いたかったから。加えて、そんな彼女が報われて、楽しく笑っている姿を傍で見たいとも思っていたのだろう。

 そしてその“月夜さんが楽しそうに笑っている姿を傍で見たい”という気持ちは、一緒に居て実際にこの人の笑った顔を見る度に強くなり続けている。そのためならいくらでも頑張れる気がする。

 だからこそ、月夜さんが俺の目の前でくつろいでいるこの光景は、俺にとって幸せそのものだ。……今気づいたが、考え事をしている間に月夜さんは、くつろぐを通り越してそのまま寝てしまっていたようだ。休憩が思った以上に長くなってしまいそうではあるが、とりあえず布団でもかけて寝かせてあげよう。



 寝てしまった月夜さんをしばらくぼんやりと眺めていると、自然と余計な事を考え出してしまう。

 今がこんなに幸せだからこそ、終わりを怖がってしまう。こんな風に月夜さんと一緒に居るのは、生徒会の仕事がある今だけなんだろうか。今は生徒会のある日以外も一緒に帰っているが、生徒会役員でなくなった後は一体どうなるのだろうか。

 校則上、生徒会の任期の最中は部活に入れないが、任期の後は部活に入らなければならない。面倒な校則だ。俺は恐らくテニス部に入る事になるが、月夜さんはバスケ部に入ると言っている。そうなるとやっぱり、帰りに一緒に歩く事は難しくなるのだろうか。



 ……よそう。本当に余計な事だ。





―福守24年、4月―





 結論を言えば、生徒会が終わっても俺と月夜の関係は特に変わらなかった。無駄に怖がってしまっていたが、生徒会の任期を終えた後も当たり前のように一緒に居られた。お互い、部活が終わった後正門で待って合流して一緒に帰るという毎日を送っている。

 また、一年生の三学期からは休日に予定を合わせて一緒に勉強をする事が増えたくらいだ。場所は図書館と俺の自宅が半々程度であるが、最近では親が時折“月夜ちゃんが今度来た時にあげてね”などと言い、わざわざ高いお菓子を買ってくる事すらある。

 そんな日々が日常として当たり前のように流れている事は本当に嬉しくて、改めてこの時間を大事にしたいと思えた。

「ところで今日の英語の授業―――」

 そう何気なく俺が話しかけると月夜は俺の視界を隠すように右手を突き出し「やめるんだ浦風。私は今、その話は聞きたくないのだ。」と、演技がかった言い方で遮った。理由は分からないが一年生の三学期以降の月夜は、こんな妙に演技がかった喋り方を多用するようになった。

 そのまま黙っていると月夜は「今日は私のお誕生日だ。こんな日くらい勉強の話など……あ、そうだ浦風。お前のお誕生日はいつなんだ?」と続けた。6月だと教えると、今度は喜々として自分の方が年上だと語り出した。

 本当はあまりこういった事を思いたくはなかったが、一緒に居れば居る程思えてきてしまう。かわいい奴だ。

 今でもこいつの事は尊敬しているし、俺にとって一番笑っていて欲しいと思うのがこの月夜だ。そして、尊敬の念は尊敬の念としてある一方、かわいい奴だとも思う。一緒に居ると俺まで楽しくて、自然と笑えてくる。

 今なら親がつけたこの名前のイメージも、少しは叶えられているのかも知れない。こいつと一緒に居ると自分の気持ちがどんどん安らいでいくのを実感する。

 そして目の前には「どうした、お姉さんに甘えて来ても良いのだぞ」などと言い胸を張っている月夜。なんなんだろうな、こいつは。思えば女子生徒とこんなに仲良くなった事は小学生の頃ですら無かっただろう。



 ……なんだ。今、何かが引っかかった。



 いや、そうか。

 分かった。当然知識としてはあるが、意識する事はほとんど無かった。月夜は女子生徒だ。つまり、異性。

 異性という事が、なぜか急に自分の中で重いもののように感じた。こうなる事が分かっていたから意識したくなかったのかも知れない。

「せっかくの誕生日で悪いが何も用意してないから、あそこの屋台でたこ焼きでも買おうか?」

 女子生徒……に、こういう事を言うのはどうなんだろう。今まで思ってもいなかった事を急に思い始めた。意識し始めると、それまで普通だった事が急に普通でなくなる。月夜が「んー……」と何か返事を考えている間、俺の頭には“嫌だったか?”“誕生日プレゼントなんて変だと思われたか?”等と悪い事ばかりが浮かんでいた。

 すると月夜はしばらくの後、「浦風、私は今、たこ焼きよりアイスの気分なのだ。あの屋台ではなく向こうのお店に寄り道しようではないか」と、俺の肩に手をやり、また芝居でもしているかのように大袈裟に目を閉じ首を振りながら切々と語った。肩に置いていない方の手を見ると、またしても芝居でもしているかのように親指を立てて握っている。



 俺の不安とは裏腹な、月夜のそのいつも通りのノリ。なんだ、馬鹿馬鹿しい。勝手に変に気を張ってしまっていた。

 よく考えたら今までも散々、お互いに相手が異性だなんて意識していたら普通はしないような言動をしてきた仲だ。今更何を急に考え込み出している。一番尊敬して、一番笑っていて欲しい相手が偶然異性だっただけ。関係ない。普通にしていれば良い。





―福守25年、6月―





 俺と月夜は、三年生になって初めてクラスが別々となった。しかしそれは特に関係なく、今でも部活の後正門で合流して、一緒に歩いて帰っている。

 今、まさに俺が先に部活が終わり、正門付近の塀に寄りかかり月夜を待っている真っ最中だ。最近は俺の方が先に終わって待っている事が多い。待つ間はもっぱら一人で教科書を眺めながら、段々日が暮れるのが遅くなっているのを楽しんでいる。

 また、俺と月夜はお互いが塾に通い出している事もあり休日に予定を合わせる事はかなり難しくなってしまったものの、それでもどうにかお互い時間を見つけて今でもたまに一緒に勉強している。

 なぜこんな事をしているのかと言えば当然、一緒に居たいからだ。……それを当然と思うと同時に、ある疑問も浮かんでいた。



 俺は、もし月夜と一緒に居られなくなったらどうなるのだろう。一緒に居られなくなったら、この仲も無くなってしまうのだろうか。



 中学三年生。お互いその話はしてこなかったが、進路というものがある。そして、きっと俺と月夜が行こうとしている高校は違うのだろう。俺が行きたい高校は―――いくら月夜の成績も大分上がったとは言え―――月夜が合格するのは厳しい難度だ。

 俺が月夜の志望校を聞いて、そこに合わせる事はできるだろう。余程遠いとか学費が高いとかそういった事が無ければ、それを実現させるのはさほど難しくない話だ。

 でも、それで良いのか?進路を、月夜と一緒に居たいからという理由で選ぶ。それはきっと、違うんじゃないのか?進路はもっと主体的に決めるべき事だ。月夜と一緒に居たいがために志望校を変えるなんていうのでは、依存してしまっている。俺と月夜の仲が依存なんてものであって良いわけがない。



 俺と月夜の仲は一緒に居られなくなっても、そんな事で簡単に切れたりしない。ずっと一緒に居る事だけが仲の良さじゃない。

 だから、月夜と離れ離れになっても、俺は自分が元々行きたかった高校に行く。



 すると、ようやく月夜がやって来た。疲れているだろうに、わざわざ走って。相変わらず律儀な奴だ。

「お疲れ」

 俺がそう言うと、月夜は「またせ…まかせ?またせたな」と呼吸も整わないままに返事をした。そして月夜はそのまま立ち止まり鞄の中に手を入れると、そこから何かを取り出し、俺に渡した。

 それは近所のお店に売っているアイスの引換券だった。

「これは?」

 聞くと、こいつは腰と胸に手を当て「お誕生日おめでとう!帰りにこれを駄菓子屋さんに持って行こうではないか!」と、理解に苦しむ程のしたり顔で言い放った。

 すっかり忘れていた。そうか、そう言えば今日が俺の誕生日か。去年もなんかくれたんだっけか。ああそうだ、去年はからあげの引換券を持ってきたんだ。そうか、そうか……ほんとにこいつは。

 お前はどんなに離れても俺の中から消えたりしないだろうよ。大きすぎるっての、こんな奴。どんな思い出でも上塗りできねえよ。





―福守26年、3月―





 どんなに離れても、なんて。俺も、違う高校に行くだけだというのにやたらと大袈裟な事を考えていたもんだ。引っ越しすらしないのだから家だって近所のままだってのに。

 ただ、もし本当に高校が違うくらいの事で二人の仲が切れたりしないと自信があったのなら、俺は月夜の志望校を聞いていた筈なんだ。本音を言えば、やはり聞くのが怖かった。知らなければ“万に一つ、もしかしたら同じ高校を志望しているのかも知れない”なんて思えたから。知ればその可能性がゼロになってしまうから。



 でも当然と言えば当然、実際に試験も受け終わり、卒業式を迎えた今となっては、聞かなくとも俺と月夜が4月から行く高校は別のものだと分かってしまっている。月夜が行く高校は、知ればなるほどと思える、それなりに近くにある公立校だ。



 いざ違う高校に行くと分かってからというもの、俺は卒業までの期間がまるで何かの刑罰が執行されるまでの期間かのような心持ちで過ごしていた。我ながらあさましい。こんなんじゃだめだ。もっとちゃんと、強く信じ抜かなければ。俺はどんな事があったって月夜を大事に思い続けたい。口だけではだめだ。

 俺がどんなに不安がっていようと、俺と月夜の仲は簡単に切れたりしない。まして高校が違うだけで切れるなんて事があるわけがない。生徒会が終わる時のだって無駄な心配だったじゃないか。



「何を大袈裟に泣いている」

 卒業式を終え、俺の前で卒業証書を持ち、目に涙を溜めている月夜にポケットから取り出したハンカチを差し出してやると、いつもの調子で月夜は「花粉症だ、このばか!」と言いながら涙をぬぐった。しかしその言葉とは裏腹に、ハンカチを目に当てたまま震えて中々顔を上げない。

 やめてくれ。何をそんなに泣く事がある。そんな大袈裟にされると、俺まで何か大袈裟な思いが湧いて来てしまう。……いや、違う。大丈夫だ。月夜が泣いているのは、月夜にとっては中学の卒業が感傷にひたる程に大きな事だっただけ。

 大体、電話も含めて連絡手段はいくらでもある。ちゃんと今日色々と交換しておいたのだから、これから先、取ろうと思えば連絡なんていつでもいくらでも取れる。だから、違う。俺と月夜の仲に関して言うなら、卒業なんて別に何も大した事じゃない。今こいつが泣いているのは全然俺とは関係の無い事についてか、そうでないなら大袈裟に感情が高ぶっての事なんだ。

 俺が自分にそう言い聞かせながら、無意識に月夜の頭を自分の胸に押し当て背中をさすっていると、しばらくして月夜は泣き止み顔を上げ、母親が待つので行かなければと言った。

 しかしそれを聞いても俺は背中に当てた手を中々放せず、月夜も中々離れようとしないでいた。

 またしばらくして、最後は月夜が「またな」と言ったのに対し俺は「ああ、またな」とだけ言い、ようやく手を放し、後ろ向きに手を振るその背を見送った。



 お互いのその、あたかも明日また会う予定があるかのような言い種に思わず笑みを浮かべたが、その笑みにどんな意味があったのかは、自分では分からなかった。



 

―中学生編B・完―
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