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2021年08月12日13:20

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『 復讐者たち 』

イミク、mackさんの日記でこの映画のことを知り、劇場で観たいと思っていた『 復讐者たち 』(原題:Plan A)をようやく鑑賞した。mackさんが日記で映画評を書かれなければ観ることのない映画だったことを思うと、感謝にたえない。『 復讐者たち 』はイスラエル・ドイツ合作映画で、ユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)と、ドイツ人に対する復讐計画の顛末を描いたものである。

 第二次大戦が終わって、ユダヤ系ドイツ人のマックス(アウグスト・ディール)はユダヤ人強制収容所アウシュヴィッツから故郷に独り戻って来た。そして、マックスの家族を密告し、強制収容所送りのきっかけを作ったドイツ人の家に向かうと、自分の妻子が戻って来ていないかを尋ねた。強制収容所から町に戻って来た者がいないと聞かされると、マックスはドイツ人男性を詰問した。「 なぜ、我々を密告したんだ!」 ドイツ人男性はそれには答えず、持っていたライフルの銃床でマックスを殴りつけた。「 戦争が終わっても、お前たちユダヤ人の居場所はない。出ていけ! 今度、うちの敷地に入ったら殺す!」 彼は地面に倒れたままのマックスにそう告げると、家族の待つ家に戻って行った。

 人気のない夜の町。戦火で倒壊した家屋の壁の前に立つと、マックスは一心不乱に何かを描き始めた。それは生き別れになった妻子の肖像画だった。彼は画家だったのだ。それを後ろから見ていた老人アブラハムが声をかけた。「 戦争が終わっても、この国にユダヤ人の居場所はない。一緒にパレスチナを目指そう 」 二人は人目を避け、森の中を旅していると、アブラハムが食べ物の匂いに気づく。見れば、森の中の開けた草原で連合軍の一隊がトラックを停め、フットボールで遊んでいる。トラックの側で兵隊が肉を焼いている匂いがアブラハムとマックスの方にまで流れて来ていたのだ。空腹に耐えかねたアブラハムは、マックスが制止するのも聞かず、トラックの荷台に忍び込むと食料を盗み始めた。それを森の中の木陰から見つめるマックス。やがて、アブラハムは兵隊に発見され、食料を抱えたまま逃げ出すが、屈強な若者達に取り囲まれてしまう。あわてて逃げ出そうとするマックスの背後に銃を構えた兵士が立つ。彼は英陸軍ユダヤ旅団のミハイル伍長だった。ミハイルはアブラハムとマックスを保護すると、難民キャンプに護送し、安全なパレスチナに渡ることを勧めるのだったが・・・。

 【 この先、少しだけ物語を明かします 】

フォト


 難民キャンプに到着したマックスは行方不明の妻子の情報を求め、尋ね人の紙が貼られている特設の掲示板に妻子の肖像画を貼った。何日かして、マックスの元に見知らぬユダヤ人女性アンナが訪れ、マックスの妻子の行方を知っていると告げる。「 妻と息子はどこにいるのですか?」 アンナの出現に色めき立つマックス。彼女は静かに話し始めた。当初、アンナとマックスの妻子は他の多くのユダヤ人たちと市庁舎に閉じ込められていたが、やがて、森に移動させられ、そこに穴を掘るようドイツ軍に命じられた。穴を掘り終わると、ドイツ軍はユダヤ人たちを穴の縁に整列させると次々に射殺しはじめた。銃弾が尽きると、次はナイフで刺殺し、それに疲れると今度は生きたまま穴に放り込んで生き埋めにしてしまったのだという。「 奥さんは息子さんを守ろうとしましたが・・・ 」 アンナはそこで絶句した。妻子は死んでいた。マックスは深い悲しみに打ちひしがれ、やがて、それはドイツとドイツ人に対する激しい憎悪に変わって行った。

 マックスの心の動きに気づいたミハイルは、ある晩、マックスを呼び出し、ついてくるように言った。ミハイルが出かけたのはマックスを伴い向かったのは、とあるドイツ人の住む家だった。すでに他のユダヤ旅団の兵士が集まって、椅子に縛り付けたドイ人男性を拷問していた。男性は強制収容所に配属されていた元ドイツ兵で、ミハイル達ユダヤ旅団の兵士たちは彼から強制収容所に勤務していた親衛隊員の潜伏先情報を得ようとしていたのだった。元ドイツ兵は自分が情報を明かせば、かつての仲間達(上官や同僚)に危険が及び、自分も喋ったあとは用済みで殺されることを知っていたので、どれほど痛めつけられようと口を割らない。根負けしたミハイルは情報入手を諦め、元ドイツ兵を殺すよう命じたが、マックスはそれを止める。そして、マックスはミハイルに進言するのだった。「 家族の話を聞き出せ。情報を明かせば、家族のもとに帰してやると言え 」と。半信半疑のミハイルだったが、家族の話をふられると、元ドイツ兵は息子が二人、娘が一人いて、もう何年も会っていないと答えた。情報を渡せば、家族のもとに帰してやる、子ども達と会えるぞ、とミハイルに勧められ、元ドイツ兵は縄をほどいてくれ、と言うと、夜明けまでかかって、膨大な数の親衛隊員情報を紙に書き出した。これで家族のもとに帰れると安堵した元ドイツ兵から情報を受け取ると、ミハイルは「 殺せ 」と仲間たちに命じた。約束が違う、と暴れる男をユダヤ旅団の兵士たちは拘束すると、ロープで絞め殺すのだった。その様子を顔色も変えずに見守るマックスはミハイルに言う。「 人はわずかな希望を与えられれば、何でもする 」 それはマックスが強制収容所で学んだ哀しい教訓だった。ミハイル達は非公認のユダヤ組織ハガナーのメンバーで、ユダヤ旅団としての任務の裏で英軍に知られないように、強制収容所でのユダヤ人大量虐殺に加担した元ドイツ将兵を探し出しては処刑して回っているのだった。

 一度はマックスにパレスチナへ帰って人生をやり直せ、と勧めたミハエルだったが、マックスはミハイル達と共に、ドイツ人に復讐をしたいと熱望していた。ついに、ミハイルはマックスに英陸軍憲兵将校の軍服を着させ、元ドイツ兵達の処刑に同行させることを許可する。復讐心に燃えるマックスは予想外の活躍を見せ、次第にハガナーの活動で重要なポジションを占めて行くのだった。ある日、元ドイツ兵の潜伏先を急襲すると、そこで樹に吊るされた男を発見する。両腕を背中の高い位置で縛って吊るす強制収容所で「 見せしめ 」のために行うスタイルだった。男の首からは「 NAKAM(ナカム) 」というカードが下げられており、それはヘブライ語で「復讐」を意味した。ナカムはハガナーとは異質のユダヤ人組織で、強制収容所でユダヤ人大量虐殺に関与した元ドイツ兵だけでなく、一般のドイツ市民までも報復のために殺害する無軌道なやり方をしていた。

 やがて、ミハイル達ハガナーの暗躍は英軍の知るところとなり、英軍はスキャンダルを恐れ、ユダヤ旅団そのものをドイツから移動させることに決定した。ミハイルはそれを機に除隊して、パレスチナのハガナー本部に戻ることになるのだが、マックスにはドイツに残って、新しい任務についてほしいのだと明かす。それは、ナカムがドイツ国内で一般市民の大量虐殺作戦「プランA」を計画しているとの情報があり、ナカムに潜入して、信頼を勝ち取り、計画の全貌をつかんでほしいという内容だった。「 アウシュビッツから生還した君なら、ナカムは必ず信用するだろう。ユダヤ人はパレスチナに建国しようとしているが、もし、ナカムがドイツ市民達の大量虐殺計画を実行すれば、建国にとって大きな障害になる。ナカムがどこで、どんな方法で大量虐殺を計画しているのか、突き止めてもらいたい 」 ミハイルの要請で、マックスはナカムの主要メンバーが集結しているニュールンベルグを目指す・・・。

 【 この先、ネタバレはありません 】

 実話を基にしたこの物語が興味深いのは、復讐とは何かということを考えさせられるからだ。この映画は何度も問いかける。あなたの子ども、配偶者、親、愛する人々が殺されたら、あなたならどうするか。自分自身をその立場に置いて考えない限り、復讐者の気持ちを察することはできないに違いない。確かに、その意味においてはこの映画の提言は正しいと思う。しかし、復讐とは、復讐する対象が正しく、明快でなければならない。ユダヤ人だからという理由で殺された同胞の復讐を、同じドイツ人だからという理由だけで殺害して良いはずがない。ナカムが計画する「 歯には歯を、600万人には600万人を 」と言うドイツ人大量虐殺計画を不気味に感じるのは「 復讐の対象 」を誤っているためだろう。同様に、ユダヤ旅団の軍服に身を包んだミハイル達ハガナーが「殺されたユダヤ人同胞のために」という使命感に駆られ、もと親衛隊所属の男女将兵を探し出しては殺害して歩くのもどこか釈然としないものを覚える。復讐は、愛するものを殺された者が、直接手を下した当事者(犯人)に向けて行われるものでない限り、正当とは呼べない気がするのだ。

 チャールズ・ブロンソン主演の『 狼よ、さらば 』は名作だが、私は結末にはどこかモヤモヤしたものを感じ、すっきりしない。彼が鉄槌を加えるのは妻子を殺傷した押し込み強盗犯ではなく、世の中にはびこる末端の犯罪者達だからだ。それに比べ、ブルース・ウィリス主演のリメイク『 デス・ウィッシュ 』は映画史には残らないかも知れないが、主人公が復讐する相手は正しく妻子を襲った犯人であり、結末には爽快感すら覚えた。

 私が好きなスパイ映画でジョン・サヴェージ主演『 ザ・アマチュア 』という作品がある。アメリカ大使館を占拠したテロリストグループに婚約者を殺害されたCIAの事務官チャールズ・ヘラーが、恋人の仇を討つために単身、テロリストが逃亡した東側に乗り込む物語だ。ヘラーは復讐計画を実行するか否かを迷い、恋人の父親に相談するのだが、父親は強制収容所から生還したユダヤ人だった。彼は戦後、強制収容所で妻子を殺したドイツ人医師を探し出し、復讐のため絞殺した過去を明かす。ヘラーは驚いて、父親に問う。復讐を果たしても奥さんとお嬢さんは生き返らないではありませんか、と。父親は驚いたように彼に応える。「 そうさ、妻と娘は生き返らない。生き返ったのは私なんだよ 」 復讐の本質とは、この父親の言葉に表れているのではないかと思う。
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