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2021年02月23日13:36

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チョイと1本のつもりで飲んで・・・「Swallow スワロウ」

昨年の個人的ベスト作品「異端の鳥」もそうでしたが、この作品もポスターのビジュアルが素晴らしいので、絶対に観たいと思っていました。
静岡ではやっと公開されたと思ったら、一週間限定という扱いで悲しいですが、どうにか観ることができました。
これは今年劇場で観た映画の、今のところベストです(まだ3本しか観ていませんが)!

ブログタイトルはクレイジーキャッツの曲の一節のパロディですが、この映画における1本はお酒ではなく、異物です。
主人公の女性が妊娠をきっかけに異食症という実際にある病気になって、次々と色々なものを飲み込んじゃうお話なのです。
最初はガラス玉ですが、その先は・・・。

僕は嘔吐(えず)きやすい性質で、朝なんかは歯を磨くのに「無理やり大量の水を飲まされる拷問を受けているのかな?」と思われるような声を出してしまうほどです。
そんな、オエッとなりやすい人間がこの映画を観ると、本当に身を捩りたくなるはずです。
口に入れた感触、飲み込む瞬間、それが食道を通過していく感覚を想像してしまうと、たまらない気持ちになってしまいます。
弱い人はゲロ袋を携帯願います。

しかし、主人公はこの行為に奇妙な達成感と、おそらく快楽に似たようなもの、そして当然痛みを感じる事で、中毒となってしまいます。
周りで常に誰かが見張っていないとすぐにゴックンしちゃうので、家族はもちろん、なにより観客が「おい危ないぞ、やめろ!」とヒヤヒヤしてしまうのです。
グロテスクなシーンはほとんど無いのですが、想像をさせる描写が非常に秀逸なので、かなりの緊張感と恐怖を味わえる、まさにサイコ・スリラーとして楽しめる(苦しめる)のです。

もちろん、これだけなら単なる変態スリラーですが、この先になぜ彼女がここまで精神的に追い詰められているかが明らかになっていきます。
序盤からその一部は描かれていますが、一番の要因は彼女の過去にあったという展開になります。
そして、思ってもいなかったクライマックスと結末に向かっていきます。

観た人なら誰もが思うはずですが、主演のヘイリー・ベネットが非常に素晴らしいです。
彼女のビジュアルと演技が、この映画の多くを占めていると言えるほどです。
無垢で柔らかい印象と、狂気的で破滅的な表情、そして滲み出るエロチックさ。
このすべてを見せるために、この話が採用されたと言われても納得するほどです。
実際彼女はプロデューサーの一人でもあり、この作品へは役者として以上の係わりとこだわりを持っていると思われます。

異食症というのは、変態行為ではありますが、いわゆる自傷行為の一つでもあると思います。
自己否定から自傷行為を行う人は多くいますが、この行為はリストカットだけではなく、あえて自分を危険だったり過酷だったりする状況へ追い込む事も含まれます。
映画「プライベート・ウォー」では、戦場を取材する女性ジャーナリストのメリー・コルヴィンにもそういう側面がある事を描かれていました。

「スワロウ」ではこうした行為に、まるでドラッグの様に依存していく様が描かれていますが、より過激で過酷なものを求めてしまうようなのです。
常人ではとても達成できない素晴らしい何かを成し遂げる人の中には、案外こういう人が少なくないのではないか、とも思いました。
自己破壊の末に達成される記録や、多くの人が救われる偉業もあるのでしょう。

この主人公が選ぶ、終盤のかなり突飛な行動とその先の結末は、映画としてはさほど無理なく受け入れられるし、解放感すら感じます。
しかし、この作品は別に「こうするべき」というメッセージを描いたわけではないと思います。
映画としての一応の決着を見せただけで、本当に描きたかったのは主人公の肉体的、精神的な苦しみそのものなのでしょう。
冷静になって考えれば、彼女のその後は果たして上向きになるのか?
新たな苦痛の種を宿したのではないか?という不安も捨てきれません。

監督のカーロ・ミラベラ=デイヴィス(2度と思い出せない名前!)は、本作が初監督とのことですが、才能のある人は最初からほとんど完璧な作品を作ってしまうものです。
こういう変態性や危うい倫理性を持った作品を、圧倒的な美しさやセンスのある映像で説得力ある話に仕上げる手腕は見事です。
挿入される音楽も非常に雰囲気を盛り上げており、マニアックな内容を多くの人に娯楽として楽しませる事に成功していると思いました。

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