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2020年10月26日21:52

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東出昌大が怖い!蒼井優はもっと怖い!黒沢清の恐怖ワールド最前線「スパイの妻」

「スパイの妻」というタイトルから、スパイの夫を持った妻の献身的な愛と試練!みたいな内容と思っている人が多いのではないでしょうか。
実際、僕もそんな話だと思っていました。
全然違いました!
意外な展開に最後まで翻弄されるミステリーであり、なにより黒沢清監督の最新恐怖映画でもあったのです。

黒沢清監督の映画は観ていない作品も多いですが、決して一般向けの映画で無い事は間違いありません。
テンポは速くないし、意味が分からないし、とにかく不吉なムードが満点で、最後まで救われない話が多いからです。
ただ、少し前の「クリーピー」や「散歩する侵略者」はかなりエンターテイメント寄りの作品で、当然好みは別れるものの、一般的な観客が普通に楽しめる作品になっていたと思います。

この「スパイの妻」は、そのエンターテイメント路線では一番分かりやすく、シンプルに「面白い」と言える作品になっていたと思います。
前半は舞台となる時代の状況や、夫婦の関係等をじっくりと描きます。
実は観終わるまで知らなかったのですが、この映画は元々NHKのドラマとして作られた作品なのだそうですが、なるほど、前半についてはそんな雰囲気が感じられなくもありません。

ところが、妻が夫に対して生じた疑惑が深まるにつれ、このドラマは一気に不穏で不吉なムード溢れる、黒沢清ワールドという名の魔空空間に引きずりこまれるのです。
まず、嫌な感じなのが東出昌大です。
実は最近、以前に録画してあった「予兆」という「散歩する侵略者」の前日譚を描いたドラマを観ていたのですが、彼はその中で宇宙人を演じていました。

これはハッキリと断言しても良いと思いますが、東出昌大は宇宙人です。
彼に対して得体のしれないものを感じている人は少なく無いと思いますが、宇宙人だと考えれば全てがすんなりと腑に落ちるのです。
彼に人間としての常識や倫理を期待しても無駄なのはそういう事です。
彼と関係を持った女性には、気を付けなければなりません。
専用のサングラスで覗いてみなさい。
彼らの侵略はもう随分進行してしまっているのです。

彼の宇宙人ならではの演技は今回も活かされており、笑顔になればなるほど怖いという得難い個性を存分に発揮しています。
戦時下において、元気なのはサイコパスばかり。
そんな時代を満喫している異常者は、いつもの彼、そのまんまなのです。

コイツが怖い映画か、と思っていると、蒼井優が急速に怖くなってきます。
彼女は、申し訳ないですが女性としては特段何とも思わないのですが、映画で役を演じている時はいつも本当に素晴らしい魅力を感じさせられます。
この映画も例外ではありません。
「蒼井優」という女優の持つ、バラエティ豊かなあらゆる攻撃を惜しみなく使い、観客を圧倒してきます。
「主人公はこの人だし、この人を応援すれば良いのだな」と前半で思っていた観客は、奈落に落とされるはずです。

東出昌大が怖い。
蒼井優が怖い。
彼女の旦那役の高橋一生も、最初からずっと気味が悪い。
誰も信用できないし、この話がどこに辿り着くかも分からない。

そして遂に終盤、「そうか、この映画のタイトルはスパイの妻だったな!」と思わせる、ハッとする展開があります。
なんだよ、スパイ映画じゃないのかよ!と思っていた方は、最後まで我慢していただきたい。
お見事!と言いたくなるはずです。

エンターテイメントとしての要点は押さえつつ、一体これはどういう話だったのか?という点については、観た人がそれぞれ考えられるようになっている終わり方も良かったと思います。
僕は最後のテロップを読んで、どういうわけだかやたら感動して泣けてしまいました。
その理由について説明する事は出来なくもありませんが、その時なぜそう感じたのかは今でもよく分かりません。
人によっては落ち込んだり、ゾッとする人もいるかもしれません。
ハッピーエンドを夢想する事だって可能でしょう。

とにかく、僕はとても悲しく感じてしまったのです。

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