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2020年10月25日16:43

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私の今年の外国映画ベストワン候補を揺るがせた8時間26分の巨篇「死霊魂」

10月17日(土)  Theater新宿スターフィールド
      里見瑤子×池島ゆたか 緊急特別公演 たった二人…、だけど二人

 題記イベントで里見瑤子主演作品の短編が5本上映された。私の初見は以下の2本である。

「あいのえいが」(宮野真一)
知る人ぞ知る里見コミュ「泥の中に蓮一輪」の主宰者の宮野監督作品、里見コンビとの第一弾だ。ファンとしての里見愛が全ての映画で、悪く言えば映画以前、良く言えば魅力的な女優、いや女性を映像に定着する喜びの、映画の原点と言える愛らしい小品だ。(まあまあ)

 コミュのサブタイトル「いつも心に里見瑤子」って、私は好きだったんだが、いつか消えてしまったのは、チト残念。

 大森一樹監督の「オレンジロード急行」を思い出した。自主映画出身でひょんなことからメジャー松竹デビューに至ることになり、クラシック映画愛にも溢れた大森監督が、嵐寛寿郎や岡田嘉子が撮れることの嬉しさ、それ以上にスター女優の中島ゆたかを撮れることの至福に、映像が満ちていた。「あいのえいが」には、それと同質の微笑ましさを感じた。

「コケティッシュ・アライブ!」(賀川貴之)
2005年「おかしな監督映画祭2」のグランプリ作品。二人の女が、男の恋心を弄ぶ当時の流行りのトレンディードラマ風味だが、結構に入り組んだドラマをスピーディーにコンパクトに、10分で纏め上げており才気を感じた。(よかった)


10月19日(月)  UPLINK吉祥寺

「死霊魂」(ワン・ビン)

 三部構成8時間26分の大長編ドキュメンタリー、中国の鬼才ワン・ビンの新作である。映画は長けりゃいいってもんではないが、この映画にはまちがいなくこの長尺は必要であった。

 自由な発言歓迎!1950年代後半に、中国共産党が「百家争鳴」キャンペーンを開始した。しかし、自由にモノを言った人間は「右派」と断罪され、「反右派闘争」として、「再教育収容所」に55万人が収監されてしまう。不明ながら私は、この中国の闇の歴史を、ほとんど知らなかった。

 1960年前後に、中国は4500万人の死者を出す大飢饉に襲われる。これは「再教育収容所」も直撃し、収容者生還率10%という大惨事に見舞われる。

 映画はナレーションなし、過去の記録映像なし、再現映像なしで、ひたすら生存者の聞き取りを中心に、現在のみを見詰め続ける。しかし、これをホロコーストを取り上げた8時間余のクロード・ランズマン「ショア」の二番煎じというのはあたらない。ワン・ビンは、すでに「再教育収容所」の実態を「無言歌」として劇映画化している。今回、「現在」の映像のみに拘ったのは、必然の流れであろう。

 ほとんど固定・長廻しで次々生存者の、かなり長い証言が、延々と羅列されていく第一部。1960年前後の「再教育収容所」の体験であるから、その人々は80歳前後のかなりの高齢者だ。今だからこそ、いや今でしか残すことはできない。この貴重さはかけがえがない。現に記録映像の後に、死亡日時のタイトルが続々と表示される。

 その中の高齢で亡くなった一人の葬儀が、ワンショットに近い形で、延々とドキュメントされ、息子の号泣が長々とカメラに納められていく。中国の慣習なのかどうか、その華々しい葬儀の中で、ひときわ強烈にそれは印象を残す。

 そして、カメラは続いて収容所跡に移動する。収容者の死者を埋葬した砂漠地帯。単に土(砂)をかけただけの埋葬。風で砂は洗われ、その地は遺骨がゴロゴロと剥き出しになっている。この誰の者とも判らぬ遺骨は、前に延々と描写された果てしない遺族の涙に洗われるべきものなのだ。胸がいっぱいになる。

 そして第二部、映画は収容所跡地を追い続ける。今はその土地は開墾地である。入植者は、その土地の過去を「歴史としては」知っており、何の思い入れもなく淡々と紹介していく。今は昔…。

 生存者の証言は、さらに積み重ねられていく。飢餓の極限は人肉食まで発生させた。もはや耳をふさぐしかない凄惨さ、「ショア」に通じる壮絶さ。吐きたいくらいの気持ち悪さに、我々は追い込まれる。

 そして第三部、当時の収容所管理者が登場する。あの状況で、収容者への同情もあったが、配給食料をピンハネした者も少なくなかったとの証言が出てくる。歴史の闇が、別の視点から炙り出される。

 さらに収容者が死亡した妻の証言が、延々ドキュメントされていく。彼女の深い深い悲しみ。時代の波に乗れる男と再婚しろとの夫の遺言。でも、彼女は収容所の生き残りの男と、あえて深い悲しみを踏まえて再婚する。しかし、新たな夫は、両夫との子供を残し、文化大革命の犠牲になっていく。

 中国の闇、歴史は繰り返すのか?この後、天安門事件、そして現在進行形の香港問題もある。最近のドイツ映画に散見するように、社会主義とナチズムは、意外と移行し易いものなのか?そういえばナチズムは国家「社会主義」であった。

 そして、映画は気が遠くなるような長廻しで、収容所跡の埋葬地、遺骨がゴロゴロと剥き出しになっている情景を追い続ける。死霊が漂っているかのような空気。もう勘弁してよと、叫びたくなる。彼等、死霊は何を訴えているのか…。(よかった。ベストワン候補!)

 ベストワン候補!と言ってしまった。私の鉄壁のベストワン候補は「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」のはずだった。でも「死霊魂」が出てきた。前にも「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」は、実はベストワンでも良いかなと思っていた。ここは、「スター・ウォーズ」は別格末席10位として、そうなると「死霊魂」と「グレース・オブ・ゴッド」のどちらかを、ベストワンとして悩むという新たな楽しみも、発生してきた。ま、映画ファンのお遊びに過ぎないんですけどね。年末に向けて、今年の外国映画は、やっぱり豊作だ。

「死零魂」は8月の【シアター】イメージフォーラムのロードショー公開時に、なかなかチケットが買えないという話を耳にしていた。そこで10月UPLINK吉祥寺の公開時は、9月のうちに早々と前売りをゲットした。これが思わぬ幸運を呼び込んだ。

 劇場側も、それなりの盛況を想定していたのだろう。キャパの大きいシアター3であった。でも、蓋をあけたらそれ程でもなかったのだろう。10月19日(月)はキャパの小さいシアター2に振り替えになっていた。まあ、渋谷という土地柄と封切りということでイメージフォーラムは満席を繰り返したのであろう。8時間のドキュメンタリーにつきあう物好きは、そんなにはいないということだ。

 そこで座席指定の取り直しとなったわけだが、「申し訳ありません」と、招待券を1枚いただいた。思わぬ素晴らしいプレゼントである。さっそく翌日の無声映画鑑賞会前に、グザヴィエ・ドラン新作鑑賞に活用することとした。


10月20日(火)

UPLINK吉祥寺
「マティアス&マキシム」(グザヴィエ・ドラン)
友人グループの一人の妹から、幼馴染で今30歳の親友の二人が自主映画の出演を頼まれる。LGBTが素材で、キスシーンもある。たったそれだけのことだったが、二人の関係に微妙なさざなみが立ち始める。グザヴィエ・ドランの人間描写には絶妙なものがあるが、時に「わたしはロランス」の様に乗れない作品がある。私にとって、残念ながら今回はその一本であった。(あまりよくなかった)


深川江戸資料館小劇場  無声映画鑑賞会
         コロナに負けるな!病気に勝つ無声映画たち 澤登翠一門会
「地蔵教由来」(久米正雄)
遊び人の3人が、狂言でめくら・つんぼ・いざり(禁止用語オンパレードですね)を演じ、お人好しを巻き添えにして、地蔵の神様を演じさせ、一山を当てようと目論むがその顛末は…。他愛のないお話なのだが、昭和三年作品の素朴な楽しさはある。(まあまあ)

 ちなみに、この他の作品は既見の「チャップリンの霊泉」「弱虫天国」「モデルの生涯」の3本。何とか病気・健康にこじつけてはいるが、かなり無理もある。まあ、マツダ映画社の微笑ましい苦心のプログラムとは言えるでしょう。


10月22日(木)

立川シネマシティ
「望み」(堤幸彦)
犯人の家族へのマスコミやネットからのバッシングの理不尽さは、「誰も守ってくれない」をはじめとして特に目新しくはないが、高校生の息子が逃走中の加害者なのか、すでに殺害されている被害者なのか、判然としないところに独自のサスペンスがある。ベテラン堤幸彦は、終盤まで手慣れた演出でグイグイ引っ張っていく。ただ、終盤で真相が明かされるが、原作(未読)のせいなのかどうか、後味が良いとは言えない。しかも、それを無理無理ハッピーエンドに落とし込もうとしているから、前半の描写との整合性も疑問で、ひどく舌足らずな荒っぽさにもなっている。まるで一昔前の韓国映画だ。繊細さと荒っぽさの語り口の対比、今や日韓の映画では逆転の感がある。(まあまあ)

kino cinema 立川高島屋S.C.館
「博士と狂人」(P・R・ジェムラン)
辞典造りをハウトゥーものとしてエンタテインメントにした「舟を編む」という楽しい日本映画があった。今度はさらにスケールの大きい「オックスフォード英語大辞典」が題材だ。これに道筋をつけたのは、「異端の学者」と精神を病んで強制入院させられた「殺人犯」だった。史実だそうである。前者をメル・ギブソン、後者をショーン・ペンの名優競演で魅せる。ただ映画は、辞典編纂過程のハウトゥーものとしての興味は示さず、ひたすら二人の人間性に焦点を当てていく。何か、大事業を成し遂げるのは変人であるとの、平凡な内容に流れてしまった感もなくはない。名優二人の演技合戦が見所とは言える。(まあまあ)

 ここまでで、私の今年のスクリーン初鑑賞作品は146本。

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