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2020年07月12日11:49

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狂った映画に日本が追い付いた!「アングスト/不安」

今年の日本、狂ってるな〜と思ったベスト3は、「ミッドサマーのスマッシュヒット」「アングスト/不安の公開」「東京都知事選」でした。
日本国民がどんどん狂っているのは間違いありません。
沈没船に乗っているのに、満面の笑顔で手を振っている様に見えます。
傍から沈没を眺めるのは一興ですが、よく考えたら自分もその船に乗っているので困ったものです。

この「アングスト/不安」という映画は、実は最新の映画でもなんでもなく、1983年に公開された古い映画です。
公開当時は世界中から無視、あるいは発禁となっており、日本ではビデオで発売(タイトルは「鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜」)されたもののほとんど売れず、知られる事が無かったといういわくつきの作品なのです。

内容は、実際にあった異常者による一家皆殺し事件をほぼそのまま映画化したというもの。
パンフレット等で事件の内容が確認できますが、事実の方がもう少し酷い、というレベルでかなり忠実な事が分かります。
この事件のモデルとなった男ももちろん気が狂っていますが、一番狂っているのは監督です。
この映画を作るために全額を自分で負担し、前述の通りまともな利益は無かったために借金でその後数年間は大いに苦しみ、結局この処女作が唯一の監督作となったのでした。

一体、何が彼をそこまでしてこの映画を作らせたのか。
それは分かりませんが、この映画の主人公であるキチガイ君も、とにかく人を殺さないとならぬ、という使命感を持っているのです。
母親をメッタ刺しにして逮捕、死ななかったのですぐに出所すると今度は関係ない老婆を射殺、8年後に出所した瞬間に今度はこの事件です。
ちなみに、パンフレットでのストーリー説明は「刑務所を出所した狂人が、とたんに見境のない行動に出る。」のみで、素晴らしいと思います。

まるで何かの啓示を受けたかの様に映画を製作した監督ですが、ここにたまたま才能のあるスタッフが揃いました。
撮影・編集のリプチンスキ、音楽のクラウス・シュルツ、俳優のアーウィン・レダーです。
俳優以外は単に知り合いだったから、という理由ですが、彼らはそれぞれが全員素晴らしい仕事をしてしまいました。
誰か一人でも欠けたらこのような映画は出来なかったというのは、映画を観た人なら全員が納得すると思います。

今観ても新鮮な驚きとセンスに満ちたカメラワーク、映画よりも世間には広く認知された音楽、そして主人公のキチガイの実にノビノビとした元気な演技。
みんなが自由にやりたい事をやり切った感があります。
でも、まず何よりこんな映画を企画し、やりたいようにやらせた監督が凄いのです。

さて、今回の満を持しての日本公開ですが、配給側の頑張りも凄いです。
強烈な言葉で煽りに煽り、どれほど異常でおぞましくて惨たらしい映画なのかと思わせます。
特に公開館であるシネマート新宿の力の入れようは凄まじく、気持ち悪いポスターを隙間なく貼り、犯行現場を再現した写真スポットを作り、劇中で登場するフランクフルトを「不安クフルト」と名付けて販売したりと、やりたい放題。
お蔭で連日満員御礼だとかで、営業の努力とセンスって重要です。
あと、フランクフルトは間違いなく食べたくなるので、事前にお店を検索しておくと良いでしょう。

わが静岡で公開していないよな、思ったら、シネプラザサントムーンで上映中じゃないですか。
場所は・・・三島です。
車で2時間くらいかかりますが、行ってきました。
軽い気持ちで出かけましたが、途中で事故渋滞あり、豪雨ありと、なかなかの大冒険。
でも、静岡では営業努力が足りない様で、空いていましたね・・・。

ただ、過剰な宣伝が功を奏したのか、パリピ系のカップルが来ていました。
上映前からガサゴソと音を立て、上映中も頻繁に会話、スマホなんて開きっぱなし。
僕は、映画鑑賞は多人数の場なのだから色々な人がいても良い、それも含めた体験じゃないかと寛容で、以前見た上映中に携帯で会話をした老人に比べればなんでもないと思いましたが、きっと彼らは「こんな映画だと思わなかった」と失望したのじゃないかと、むしろ心配をしてしまいました。

怖い映画じゃないと思います。
グロい映画でもないです。
ただ、非常に生々しく臨場感のある作品です。
思い出したのは「悪魔のいけにえ」。
ザラザラしていて生々しくて異様で気持ち悪いムードが蔓延している感じ。
それと同時に、センスの良さや実験的・挑戦的な試みの面白さがあって、アート性も強く、物語にと言うよりこの映画そのものに引き込まれてしまう魅力があるのです。

そして、あまりこういう感想は見ませんが、これも「悪魔のいけにえ」同様、コメディ的な可笑しさも多分に含まれています。
前半は「何が起こるのか?」と緊張を強いられましたが、後半はずっとニヤニヤしてしまいました。
これは僕の頭がおかしいのではなく、間違いなく笑わせようとしているのです。
話題になっている犬の存在もそう。
実際の事件では、被害者の飼い猫は殺されている(殺人を目撃されたという理由で・・・)のですが、まあこの犬は殺せませんよね。
スタッフであるリプチンスキの飼い犬だそうだし。

殺人鬼を美化し、殺害場面を魅力的に描くエンターテイメントはたくさん存在しますが、この映画はいかに殺人という行為が無様で、面倒で、重労働であることをしつこいほどに描きます。
そんな事までいちいち見せるのかよ!とツッコミたくなるほど。

また、犯人が一体何をやりたいのかサッパリ分からないのです。
「孤独のグルメ」の様にずっと彼の心の声が流れるのですが、肝心の殺害場面で昔の思い出話をしたりして、「ちょっと集中できないので、しばらく黙っていてくれないかな?」と思わされます。
とにかく犯行もモタモタしていて、「そいつから目を離すな!今のうちに殺しておけ!」と、大声でアドバイスをしたくなるほど。
ところが被害者の方もモタモタしているので、まさにドロ試合。
この映画を観たら、「やっぱ人殺しは止めとくか!」という気持ちになる事間違いなしです。

この辺の間抜けさは、今年観た「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」を思わせましたが、この監督は「アングスト」を心の映画ベスト3に挙げており、ウッカリ観てしまった人には大きな影響を与えている様です。
ギャスパー・ノエ監督はこの映画を60回観たのだとか。
相当罪深い映画である事は間違いないでしょう。

好き嫌いは当然ありますが、映画ファンなら観ておくべき作品だと思います。
旧作としては、この映画が影響を与えた作品をあらためて理解するため。
新作としては、今観てもフレッシュな驚きを提供してくれる冒険作、アート作品として。
狂った作品ですが、狂っている事が日常となった今なら、冷静にその面白さを感じる事が出来ると思います。

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