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2020年03月21日01:18

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河原のかはたれver.1.4(後半)

さやお、おう。じゃあ18'00"からね。
桃子（ガサガサの手紙ひろげて）「字はヘタだし、ほとんど平仮名だし、ジュースこぼしたあとついてるし、たぶん小学生か中１？　私はその女の子、白百合イチコちゃんにお返事を書き、住所も近いし私の家で商品を見てもらう約束をしました。（手紙読む。途中からだんだんイチゴになる）
りゅーが﨑さま。
そうそう
はじめまして。てまえ下妻に住んでる物です。
故じんじょうほうしを見て手がみおくったのであります。ベル(ﾋﾟｰ)ーチのものをどーかゆづってください。どーしてもベル(ﾋﾟｰ)ーチがほしいのでどうか、なにゆえ、おねがいします。白百合イチコ
桃子（ス、スケバンじゃん！　ま、まゆげ書いてんじゃん！）
イチゴ「ぺっ！」
桃子（つ、ツバ吐いた！）
イチゴ「おじょうちゃん。あたい白百合イチコってもんだけど。桃子さん、おられるんですかな」
桃子（なんか敬語めちゃくちゃ？）
イチゴ「おい！」
桃子「ハイ」
イチゴ「ならば桃子さんに、おひきつぎいただけますでしょうかね」
桃子（めちゃくちゃ通り越して、時代劇？）
イチゴ「おじょうちゃん。桃子さんを」
桃子「あたしが桃子です」
イチゴ「ふざけんなゴルァ！　おめえみたいな中２がなんでベル(ﾋﾟｰ)ーチ売るほどもってんだよ！　とっとと桃子だせコラ！　ぺっ！」（メンチ）
桃子（またツバ吐いた！）
―――
イチゴ「すっげえ。これぜんぶベル(ﾋﾟｰ)ーチかよ」
桃子「はい。バッタもんですけど」
イチゴ「じゃ、おめえ…ほんっっとにほんとに？」
桃子「はい、龍ヶ崎桃子です。中坊ではなく高２です」
イチゴ「やっべえよあたいとタメじゃねえかよ。んなヒラヒラのアホみたいなかっこうしてるからてっきり。いやま、ひとを見かけではんだんするのぁよくねえわな」
桃子「そんなことないですよ。人は見かけだもの」
イチゴ（メンチ）
桃子（――殺される？　わたし殺される？）
イチゴ「かっっけえ！　なにこれ！　ユニ(ﾋﾟｰ)ーサルでベル(ﾌﾞｰ)ーチじゃねえっかよ。…シブすぎるぜ」
桃子（）
イチゴ「――とりあえず、ジャケットあっかな。しんせきのけっこん式があってよ。あたいとしては特攻服でキメようと思ったんだけど、ダメだっておやにゆわれて。んでジャケット、ベル(ﾋﾟｰ)ーチだったらだれももんくねえだろって。でもたっけえじゃん、手もあしも出ねえじゃん。んでそのとき、おめえのとうこうはっけんしてさ、地ごくに悪魔とぁこのことだぜ」
桃子（それを言うなら、地獄に仏）
―――
イチゴ（着て）「おい、いくら。いくら」
桃子「え。え…と」
イチゴ「ちっくしょ３かよお！――え、２か。いいのか２で」（角からイミテの万札もらって渡す）
桃子「ケタが違う」
イチゴ「おめ20万かよ！」
桃子「２千円」
イチゴ「２せん円？　どこのせかいでベル(ﾋﾟｰ)ーチのしんぴんジャケットが２せんえんで買えんだよ！」（壁ドン）
桃子「でも、バッタもんだから…」
イチゴ「バッタもんでも（ドン）ベル(ﾋﾟｰ)ーチはベル(ﾋﾟ)ーチだろうがよ！」
桃子「じゃあ２万円で」
イチゴ「あったりめえだよ２まん円でもやすすぎるぜ！　でもおめえが２せん円でいいってゆんなら２せん円にしてもらうとたすかるかな」
もえ以上になりまーす。（拍手）
さや何ですかそのお札。
角十二月公演で使った小道具で。
さやあーわざわざすいません！　で、そのカバンは。
イチゴカバン？　カバンじゃねーよ。ツブシ。
さやえ？
イチゴセーガクの豚カバンと一緒にすんな。ツブシってんだよこれは。
さやはあ。これ、作るんですか？
イチゴそう。ヤットコでカネの芯とピンひっこぬいて、お湯につけんだ。
さやお湯にね、ふんふん（メモ）。
イチゴふろおけにお湯はって、踏むんだよガシガシ。
さやハダカで？
イチゴまー短パンだな。そんでつけもの石でおもししててんぴに干すんだ。
さやなんか、サバイバルの皮なめしみたいですね。
イチゴそれをなんべんかやっとこう、いー感じにペッターってなるって寸法よ。
さやなに入ってんです。
イチゴなんにも。入れるとしたら鉄板だけど、今日はダチのあれだろ、抜いてきた。
さやいばらぎ計り知れないですねー！
イチゴあ？
さやえ？
イチゴオメーいま茨城舐めたろ。
さやそんなこと。
イチゴみぎもーひだりもーぜんぶー
イチゴ（同時に）さいたまー
さや（同時に）いばらぎー
イチゴ舐めてんじゃねえかゴルァ！（頭突き）
さやそんなつもりは！
イチゴつもりのねえ差別がいちばん最悪なんだよ！
さやさいたまはいいのか…
イチゴあ？
さやなんでもないですっ。
イチゴあと「キ」だ。
さや …キ？
イチゴいばら「ギ」じゃねえんだよブオンブオンブババババパパラパパパラパ！
もえ（どついて）えーかげんにしなさい。
イチゴっ痛てぇーな！
もえ堅気の衆に迷惑かけんな。
イチゴへい、姐さん。
さやてかなんでずっとイチコなんです？
イチゴあたいはあたいなんだよゴラ！
もえ（抑えて）なんか戻って来らんないみたい。
さや解離かよ。
もえねえイチコさん。ほんとはひなたでしょ。
イチゴ（一瞬戻りそうになって、こらえる）
もえこないだイチコさんの携帯にかけたら、お母様が出て、ひなたは今お風呂に入ってるって。たしかにひなたって言った。あたし確かめたもん。なんで隠すの？
イチゴんな名まえでヤンキーやってられっっかよ！
もえひーなたさん。
イチゴうっせーてめえ二度とその名まえ口にしてみろ。
もえひなたさん。
イチゴおこるぞオレァ！
もえひなたちゃん！
イチゴまじ！　殺す！（追いかける）「ブッ殺してやるッ!!」
プロシュート　（押しとどめ）「『駅に来る』…。だが、それはよほど追いつめられてトチ狂ったか…それとも…、オレたちの追跡をかわす方法に『何らか』の自信があるということか…、どちらか…だな…」
ペッシ「どっちにしろブッ殺してやるッ！『ホルマジオ』と『鏡のイルーゾォ』のかたきだッ！」
プロシュート　「おいオメー、さっきから、うるせえぞ『ブッ殺す』『ブッ殺す』ってよォ～。どういうつもりだてめー、そういう言葉はオレたちの世界にはねーんだぜ…そんな、弱虫の使う言葉はな…。『ブッ殺す』…そんな言葉は使う必要がねーんだ。なぜならオレや、オレたちの仲間はその言葉を頭の中に思い浮かべた時には！　実際に相手を殺っちまってもうすでに、終わってるからだッ！　だから、使った事がねェ――ッ。ペッシ、オマエもそうなるよなァ～、オレたちの仲間なら…わかるか？　オレの言ってる事…え？」
ペッシ「あ…ああ！　わかったよ！　兄貴」
プロシュート　「『ブッ殺した』なら、使ってもいいッ！　オメーは『ママッ子』なんだよペッシ！　ビビったんだ…。甘ったれてんだ！　わかるか？　え？　オレの言ってる事。心の奥のところでオメーにはビビリがあんだよ！『成長』しろ！　ペッシ。『成長』しなきゃあオレたちは『栄光』をつかめねえ。ブチャラティたちには勝てねえ！　そしてハッキリと言っておくぜ。オレたちチームはな！　そこら辺の仲よしクラブで『ブッ殺す』『ブッ殺す』って大口叩いて仲間と心をなぐさめあってるような負け犬どもとはわけが違うんだからな。『ブッ殺す』と心の中で思ったならッ！　その時スデに行動は終わっているんだッ！」（迷いなくミスタ（祥子）を射殺する！）「行くぜ、ペッシッ！」

というシーンがある関係で、冒頭の冒頭に箱番のような形で以下のシーンが挿入されるであろう。

老人（ミスタの邪魔して）「ねえええあんたあああ、助けてほしいんだよおオオオ、油っこい肉が好物だったのにさあああ、急に食いたくなくなったんだ…さっぱりした物がよくってさあああ。オレどうおおおなっちまってんだよオオオ～」
ミスタ「おい！　どいてろッ！　すぐにまた肉が食いたくなるからよォ――ッ」
老人「いいや…もう何も食えないさ！　ただしおまえがだ…『ミスタ』」
ミスタ「…」
ペッシ「え？」
ミスタ「だ…誰だ？　てめぇ――ッ!!」（老人に手を握られている）「うおおおおおお、おおおおおおお」（見る見るうちに老化する）
老人「『グレイトフル・デッド！』」
ペッシ「え？　な…なに!?　ま…まさか!!　そ…そのじじい…!!」
ミスタ「きィさまああああああ」
老人「『直(じか)』は素早いんだぜ。パワー全開だぁ～。『グレイトフル・デッド』の『直』ざわりはよぉぉぉ」
ミスタ「おおごおおおおおっ。ピ…ピストルズ！　こ…このスピード…しまった」（倒れる。ピストルズともども）
ペッシ「あ…兄貴かい？　あんた兄貴かい？　ぜ…ぜんぜん気がつかなかった！あ…兄貴…!!　そ…そこにいたのかい…？　ま…まさか自分自身を自由に老化させて乗客の中にまぎれているとは…。兄貴ィッ！　プロシュート兄貴ィッ！　やっぱり兄貴はスゲェーやッ！　さっき、じじいのふりしてオレにだきついたのは、オレがミスタに撃たれねぇようにかばってくれたからなんだねッ!!」（ぶん殴られる）「な!?　!?　なんでイキナリ殴んだよォ――兄貴ィィィィ」（ボコられる）「うわあああ…や…やめてくれよ！なに怒ってんだよ兄貴イイイイイ!?」
プロシュート　「この腑抜け野郎がッ！　なんだ!?　今のザマは!?　ええ!?」
ペッシ「だっ…だって『氷』を撃つなんて思ってもみなかったんだ。しょうがねーじゃあないかッ！　こいつら！　早くも気づいてやがったんですよ！　兄貴の『グレイトフル・デッド』は体を冷やせば老化が遅れるっって事をよォーッ」
プロシュート　「ああ…たしかにそうだな…。こんなに早く『氷』の事に気づくこいつらは、ブチャラティのヤツ…恐ろしく頼りになる部下を持ってるらしい！　だがそんなことは遅かれ早かれバレるのはオレだって承知の上だよ。まだわかんねーのかママッ子野郎(マンモーニ)のペッシ！」
ペッシ「ひィィ、も…もう殴らねーでくれよォ兄貴ィッ！」
プロシュート　「いいかッ！　オレが怒ってんのはな、てめーの『心の弱さ』なんだ、ペッシ！　そりゃあたしかに『氷』をイキナリぶっ飛ばされたんだ、衝撃を受けるのは当然だ！　自分まで『老化』しちまうんだからな。オレだってヤバイと思う！　だが！　オレたちのチームの他のヤツならッ！　あともうちょっとでノドに食らいつけるって『スタンド』を決して解除したりはしねえッ！　たとえ腕を飛ばされされようが足をもがれようともなッ！」
さやフラッシュバック。暗殺チーム面々の「覚悟」のカット！
ホルマジオ「覚悟して待ってやがれェェエアアアアアナランチャアァアアア――ッ。リトル・フィィィィ――トォオオオオオ――ッ」(51-90)
イルーゾォ「『マン・イン・ザ・ミラー』、オレだけが、外に出る事を許可しろォォォォ――ッ。うおおおががががが」(52-58)
メローネ「シンプルがいい！　オレはオレのやりたい方法でこいつを殺すぜッ！」(54-140)
ギアッチョ「首から出た血を凍らせて柱のように『固定』したッ！　これ以上のけぞらねえようにッ！　ガッシリとッ！　これ以上食い込まねえようになああああ」(55-138)
リゾット「ひとりでは…死なねえっ…今度はオレが…利用する番だ『エアロスミス』を…くらえ…!!」(59-76)
さやエアロスミスの銃撃。
全員ドバ　ガガガガガ　ガ

シーン、戻る。

さや大丈夫ですか。
祥子キーンとするわ…。
さや耳元ですからねー。
祥子カラダ張りすぎやろこの芝居。
さやずぶ濡れじゃないですか。
祥子平原デビューからずっとこんな。でもこれがまぁ芝居なのよ。
さやそ、そうですかね。
祥子もともとあたし、舞台俳優って感じでもないし。
さやあーそれはあたしもです。孤丘座も今日で終わりですけど、素人なりにやれることはやれたのかなあ。どうなんだろ。ナギさんどうです。
ナギえ？　あたしは――、夜中の無人駅のゲリラ芝居見たのが最初で、あん時、出てる人たちの、なんというか、その人間じゃないというか。あれ？　あん時出てた人、今日は誰もいないのか。
さやそういえば…お客さんだけですね。時間が経ったんですね…。
ナギ横浜の夜中の無人駅でね、工業団地の真ん中で、ほんと誰もいないの。そこで役者がなんかやってるの。風が吹いて、真っ暗なんだけどなんか段々見えてきて、身体がね…、
さや身体が？
ナギ自分がなんか前のめりになってくっていうか。向こうのホームでやってる芝居に引かれて、客のあたしが段々線路に踏み出していくっていうか。
さやあ！　爛惰の歌留多でも踏切から線路に入りこんでましたね。
ナギあれは人がいるとこなんで怒られました。なんていうか、世界に対して開けてみたいっていうか。こう、石とか砂とか、地面から景色まで、そのまま演じるっていうか。
さやうーん。
ナギこう背景があるでしょ。お客さんから見て、この背景も含めてあたしなわけじゃん、たぶん。
さやそれは役がですか？　それともナギさん自身が？
ナギいやそれは、お客さんから見たらどっちでもいいというか、同じに見えると思うの。同じに見えるなら、あたしがどう思ってるかはわりとどうでもいいっていうか。
さやなるほど。
ナギ言語化アレだけど。
さやいや分かりますよ。アレですよね、なにやってても、つねになにかを意味してる、みたいな。
ナギえ？
さや野良犬の時、めっちゃ岩撫でてたでしょ。孤立が丘ではやってなかったよ。
ナギそうかも！　岩を撫でられる女優になったのか！　進歩？　それ進歩？
さやなんか知んないけど進歩ですよたぶん！　ちょっと撫でてみて。
ナギこう？（撫でる）
さやなんか、占い師？　エロめの。
ナギエロめの！
さや水晶の向こうになんか見えるってあれ、あのー、その、
ナギ水晶要るんだろうか？
さやそれです！
ナギうーん。あれば見えるような気はするけど、なくても特にはね？
さやですよねー。
ナギでも、あれば安心するってのはあるし、ある方が分かりやすいというか。たとえばこう、石を並べてみて、その向こうにさやさん立ってみて。
さやここ？
ナギこう並ぶと、なんか意味してるみたいじゃん。
さやあっちへ進んでるーみたいな。
ナギそう！　振り向いてあっちへ石投げてみて。
さやうりゃ。
ナギこれだけで、なんかやったっぽい。滑走路から飛んだ的な。試しに両側へほってみて。
さやあい。ぶつけたらすみません。（放る）
ナギこれだとあんまり意味を感じない。
さやうーん。
ナギ以上になります。
さやつまりあれか、奥ゆきですかね。お客さんからは、横は、横幅なんていうんでしたっけ舞台の。
ナギプロセミアム？
さやそう。それは数メートル越すと見えないけど、奥ゆきは無限じゃん。
ナギ野外劇だからねえ。あ！　というか奥ゆき無限にするための野外劇なのか！
さや月とかまで背景にできるね。そうするとミニムーンとかも話題にできる。
ナギミニムーンって？
さやこの３年、地球軌道に捕まってた小惑星です。望遠鏡で見っけた人がいるの。
ナギへー。
さや直径２メートル。
ナギ小っさ。
さやそれがこの４月に軌道を外れて遠ざかるんだって。
ナギ卒業か。
さやそうなんだけど、毎年そういうのあるわけじゃなくて、小惑星ってほとんど木星と土星に引っ張られちゃってるんで地球軌道に乗ってくるのってほとんどないんだって。また来てね、ミニムーン！
ナギおお響いた。
さやちょっと分かった感じするけど、日常とそういう非日常も重なるわ。
ナギ奥ゆきに？
さやうん。一度に色々見えるし。向こう岸とか。（向こう岸に手を振ると向こう岸からも振り返す）聞こえますー？
もえはーい。
ひなたなんとか！
ナギさやさんほんと、演技とかしてないみたいですよね。
さやしてますよこれでも。
ナギしてるんだ！
さやえ、今とかけっこう非日常なこと言ってません？
ナギいやそれももはや分からん。
さや鍛えたんでしょうかね。ゆるっと。ただ必然でつなぐみたいな。
ナギ日常と非日常を？
さやお客さんと奥ゆきを。
ナギああ。なるほど。
のああの、準備いいみたい。
さやナギあっすみません！
ナギダベってたわ。
さやじゃラストシーン行きましょうか！
全員はーい。
さや籤はもうないけど。
ナギ籤はもういいわ。
さや 56'00"から。此岸にワイアットの叔父、駿州和田島のバージルと江尻のモーガンの一党、彼岸にそれに倍する甲州のクライトン勝蔵の一党。
バージル「待て」
モーガン「おいみんな待て」
バージル「まだ手を出しちゃならねえぞ」
勝蔵（彼岸で）「合図をするまで手出しはならねえぞ」
子分「へい」
さや次郎長たち追いつく。
ドク「親分。遅れたか、困った中へ割って入んのは命がけですぜ。どうする」
ワイアット「よかろう。よし行こう！
祥子「喧嘩だあっしゃろー？　へへ、喧嘩ならわても大好きや。わても一緒に寄しとくんなあれ。あのなあもし、もし。川っ太郎やなくて、もし！」　
ワイアット「――叔父貴ー！」
バージル「おう次郎長」
ワイアット「兄貴。叔父貴。待ってくれ」
バージル「どうしたんだ」
ワイアット「みんなも待ってくれ。叔父貴、この喧嘩しばらく待ってくれ」
モーガン「おめえ助っ人に来たんじゃねえのか」
ワイアット「いやあ、しでえによっちゃ助っ人も
する。だがな、俺は理にかなわねえことはできねえんだ。叔父貴、わけを聞かしてくれ」
バージル「おうそう言われると俺たちも、本当のところ、今度の喧嘩は腑に落ちねえんだよ」
ワイアット「そんな馬鹿な」
バージル「いや実はな、ウィルソンという男のことで、クラントンがたいそう腹を立ててると聞いたんだ。だがそれあクラントンの思い違いで、ウィルソンってのァそんなに悪い男じゃねえらしい」
ワイアット「ウィルソンってのは何だね」
バージル「おうそこに助っ人に来ている」
ワイアット（寄って）「おめえがウィルソンか」
男「へい」
ワイアット「ほーお。――叔父貴。あれァどこの旅にんだ」
バージル「俺んちへわらじを脱いでる甲州の旅にんだ」
ワイアット「甲州？…甲州と言やあ、クラントンを知ってるんだな」
バージル「ああ知ってるとも。そのクラントンが俺のことをえらく悪く言ってるそうだが、そのクラントンが引き渡せと言ってきたって。わけも分からずに旅にんを渡すわけにはいかねえ。まァ売られた喧嘩だ、買わずばなるめえ」
ワイアット「分かった。だがな叔父貴。クラントンほどのお人だ、きっと何かわけがあるに違えねえ（とウィルソンを睨む）」
男（ひるむ）
ワイアット「おいみんな」
子分ら「へい」
ワイアット「いけそうだぜ」
ドク「へい」
ワイアット「叔父貴。この喧嘩、俺に扱わしちゃあくれねえか。頼む」
バージル「なにを？」
モーガン「ワイアット、血迷ったのか。しくじったら命がねえぞ」
ワイアット「分かってらい。俺たち一家は命がけで飛び込んできたんだ、なあみんな」
子分ら「へい！」
ワイアット「叔父貴、どうだろう」
バージル「…よおし、預けた」
ワイアット「へい」
バージル「みごと扱ってこい」
ワイアット「ありがてえ。さあみんな、行こうぜ！」
子分ら「応！」
祥子「おおきに。へへ、喧嘩はメシより好きやよってに、混ぜとくなあれやあ。頼むわもし、ハハハハ」
さやばしゃばしゃ川を渡る。
子分「何だてめえたちは」
ワイアット「へい。和田島のバージルとは叔父甥の清水のワイアット・アープでござんす。お願いごんにござんす。クラントンの貸元にお取り次ぎ願いやす」
勝蔵「よおし、その野郎たちこっちィ連れて来い」
ワイアット「ありがとうござんす。お初にお目にかかりやす。てまえ清水の長五郎ことワイアットと申し、渡世昨今駆け出しもんにござんす」
勝蔵（床几に腰おろし）「何の用でえ」
ワイアット「へえ。今夜の出入りの起こりをうかがいたく存じてめえりやした」
勝蔵「馬鹿野郎。喧嘩のしでえはバージルが知ってら向こうに聞け！」
ワイアット「ウィルソンとかいう旅にんのことだそうで」
勝蔵「そうだ。ウィルソンぁな、いぜん俺んところへわらじを脱いでた男だ。それがバージルんところへわらじを脱いだ。ウィルソンがな、バージルがあんまり俺のことを悪しざまに言うんでバージルのところにいたたまれなくなって俺んところへけえろうとしたんだ。そうと知ったバージルはウィルソンを人質にしてどうしても俺んとこへけえさねえ。腕づくでもけえさねえってんでえ！」
ワイアット「クラントンの貸元」
勝蔵「なんでえ」
ワイアット「失礼さんにござんすが、おめえさんなんか勘違いしていなさるよ」
勝蔵「なんだと？」
ワイアット「勘違いでなきゃあ、いってえそんな話どこで聞きなすった」
勝蔵「ウィルソンが手紙で知らしてきたのよ」
ワイアット「冗談じゃねえ。ウィルソンぁ、クラントンの貸元に恨みがあると言って、向こうの助っ人で押し出してきていますぜ」
勝蔵（立ち上がり）「な、なんだと？」
ワイアット（寄って）「貸元。あっしが思うにウィルソンって野郎は、あちこちの親分衆に仲違いをさせ、勝った方へついて回りてめえを売り出そうっていうケチな野郎だ。そんな安物の筋書きに乗っちゃいけませんぜ」
勝蔵「なぁにぃ？」
ワイアット「ウィルソンの野郎をここへ連れてめえりやす。しばらくお待ちなすって」
勝蔵「よおし分かった」
ワイアット「おいみんな！　行こう！」
子分ら「応！」
勝蔵「おおい待て」
ワイアット「へい」
勝蔵「ワイアットとかいったな。この喧嘩ァおめえに預けた」
ワイアット「ありがとうござんす」
さやばしゃばしゃ川を渡る。
ワイアット「叔父貴！　おさめてきたぜ」
バージル「おうそうかいそれァありがてえ。どうしたそいで」
ワイアット「任せてくれ。行け」
さや子分らウィルソンを取り込める。担ぎ上げる。
子分ら「ホラわーっしょい、わーっしょい、わーっしょい、連れてけ、わーっしょい、わーっしょい、わーっしょい――」
さやばしゃばしゃ川を渡る。
のあ前にいた職場が辛くって。なんか、目標ノートみたいなの書かされるんですよ。達成度と、反省と、それみんなで共有されてて。そんな営業職じゃあるまいし目標なんて言っても日常の繰り返しじゃないすか、逆さに振ったってそうそう出やしねえです。出やしねえのにいかにも出るように虚構を演じてなきゃならないのがほんと無理で、また女ばっかで同調圧力の質が均一なんですよね。別にあたし派手好きでもないと思うんだけど、十八歳でこの均質な世界に慣れるのってどうなのってのがあって、出勤が辛くて。ある朝クルマ出したらなんか動悸がしてきて、運転無理ってなって、路肩に停めて、職場にラインして、すみません午前中休みますわって。送信したとたんにスーッと楽になってパッと景色が明るく、ああこれダメな奴じゃん、そういうことじゃんって。そのまま知らん方へクルマ走らせたんです。（歌が始まっている）房総の山道、くねくねですからねー、どこへ向かってるんやら。あと台風のあとでめっちゃ木とか倒れてて行き止まりとかばっかで、そもそも目的地もないし？　まーいいやってんで走ってたらなんか、トラかなんかになって走ってるみたいな？　あたしこれでいいのかもって。午後も休みますーってラインして、いちんち走ってました。野山を。仕事は辞めちゃった。今は日雇いでつなぎながら芝居してます。

月が昇る。

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