mixiユーザー(id:9051319)

2020年03月20日23:52

227 view

“異郷”の“常識”を受容する 『ミッドサマー』

白夜の“異郷”で彼女の“常識”は一変する。
前作で熱烈な支持を得たアリ・アスターの新作はやはりある変身/変心の物語だ。*1

一家を自殺で失い、心神喪失状態の主人公ダニー。
彼女は恋人のクリスチャンへ依存し、大学で彼が行う秘祭の民族採訪へ同行する。
その場所はスウェーデン奥地、独自の伝統を受け継ぐホルガだった。

ホルガの風習は豊穣と死が隣り合い輪廻転生を尊ぶ。
北欧原始宗教の観念が交り合う独自の祝祭は、海外で盛んに考察がおこなわれた。
実際、監督は考証に足る強度を用意している。*2

死を喜び、崖を飛び、生き残る者の頭を木槌で潰し、とどめをさす。
ダニーがホルガで体験する日常はたしかに異常だ。
だが、ホルガではそれが“絆”を強く結び付ける“常識”だ。*3

人間は共同体の社会性の中に最大の幸福を見出す。*4
ホルガも方法さえ違えども一緒。作品は、強い結び付きを求め、
ホルガで「変心」するダニーを通し“常識”をゆさぶる。

伝統に乗っ取り女王となったダニーは花の冠を戴冠して美しく「変身」する。
そのころから“異郷”の人々は色鮮やな衣装に着替え、画面は色付く。
「変身」から「変心」するダニーの変化のように――。

自身が強く求めた結び付きはもう満たした。
ならばそれを与えてくれないものなどいらない。*5
祝祭の最後、燃え盛る聖殿を見て笑う彼女の解釈は様々だ。

狂気か? あるいは狂喜か?
とにかく彼女は受け入れ「受容」したのだ。*6


※1 ただ自分は本作を、なにからなにまでベタぼめするわけではない。変身/変心のテーマの切り取り方は、前作(『ヘレディタリー/継承』)と一緒だし、“聖殿”といった舞台装置も似る。前作のセルフオマージュのようだ。いくぶん展開も冗長だ。

※2 公開以後、ネット/ウェブでは盛んに考察がおこなわれ、その海外の考察をまとめたものを日本語で紹介するページもある。アリ・アスターがオタク的気質――精密主義の設定狂喜なのは間違いなく、その部分は強烈に一部のホラーマニアを吸引する。

※3 “常識”は所々でかわる。我々が語る常識とは、一般性・多数性の中で最も万人が履行しやすく、かつ社会を維持可能な最大公約数的選択だ。たとえば日本と国外での生活がことなるように“常識”の変化は簡単におこる。

※4 「だれかに認められて」「共同の一員になることを」人間は求めて欲する。いわゆる承認欲求と一緒だ。だがそれに振り回されもする。

※5 いや正直にいうとダニー結構自分勝手でクソですよね。

※6 同時にそれはすべてを捨て去る事実と一緒だ。いってみればダニーは悪堕ちしたのだ。だが、その悪堕ちは我々の“常識”の見方で、物事は視点によって変わるのだ。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年03月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031