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2020年03月01日08:36

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河原のかはたれ ver.1.2

アンジー 以上、おしまい。
さや では、92'00"から。

籤を引き、冠氏の遺体の方に…、

ワイアット 「こうなればクラントンとの対決だ」
ドク 「遺恨は忘れろ。勝蔵の思うツボだぞ」
ワイアット 「君がお説教か」
ドク 「役人が町民をよそに殺し合いか」
ワイアット 「よせ。若太郎が、俺の弟が殺されたんだぞ」
さや 続いて98'00"から。物陰から呼び止められ、とっさに拳銃を構えるワイアット。暗がりから丸腰のビリー。
ビリー (由良氏をやってた方)「勝蔵の使いだ」
ワイアット (張り飛ばす)
ビリー 「あのことは知らない、信じてくれ」
ワイアット 「奴の弟と思うと」
ビリー 「あんたらきょうでえだけと勝負するそうだ」
ワイアット 「だろうな」
ビリー 「町民なしで」
ワイアット 「約束する。そっちの数は?」
ビリー 「6人。勝蔵、フィン。リンゴオとマクロワリ兄弟」
ワイアット 「場所と時間」
ビリー 「夜明けに庵原(いはら)川で」
ワイアット 「行くぞ。(ふと)――6人?」
ビリー 「僕も行く」
ワイアット 「よせ、ビリー。まともに生きるんだ」
ビリー 「考えた上だ。よく考えた。逃げられない。勝蔵もフィンも僕には兄だ。分かるだろ」
ワイアット 「分かる」
ビリー (去る)
さや 100'00"から。アープきょうでえの家。
ベティ 「何よ。よく平気でいられるわね。早くクラムたちの応援を頼んだらどうなの」
バージル 「町民は関係ない。勝蔵一家と我々の問題だ」
ベティ 「あなたたちは役人よ。3人とも。町の安全を無視するなんて。意地がそんなに大切なの? みんなバカよ。どうなの、よく考えてよ。モーガン、奥さんを一人残す気?」
バージル (制して)「もう寝ろ」
ベティ 「バージル。息子にキスを」(去る)
ワイアット 「では明朝」(去る)
さや 107'00"から。ホテルのワイアットの部屋。不意にドアが開くが、いたのはドク。
ドク 「2人が待ってる」
さや 以後無言。ふたり銃を用意して階下へ。保安官詰所前にいたバージル、モーガンと合流。四人並んで歩き出す。ウィルソン立ちふさがる。
ウィルソン 「勝蔵から話がある。丸腰だ」
ドク 「若太郎殺しの内幕はケートから聞いた。勝蔵一家に、ウィルソン、お前も一緒だ」
ウィルソン 「違う」
ワイアット 「帰ってろ」
ウィルソン 「俺は…」
ワイアット 「早く行け」
ウィルソン (去る)
アンジー なるほど! つまり、四人のBLなんだこれ。
三人 ええええ?
アンジー え、そうでしょ?
さや この映画をそう読んだ人はいないかなあ。
のあ BL大好きかよ。
さや まあね、翔んで埼玉だって唐突にBL出てきて違和感ないしね。
ナギ あるよっ。
のあ あれは埼玉ってより魔夜峰央。
アンジー BLってか、やおい?
ナギ いやありまくりでしょ、GACKTと伊勢谷友介のディープキスしか覚えてないわ!
さや しか。あの映画でそこ。
ナギ BLってきほん実写にしちゃいけないと思うのよね。絵か文章でないと。
のあ 語り出した。
アンジー ナギさんがBLを語り出した。
ナギ 控えます。
三人 控えるのかー。
ナギ かわいい女の子が好きです。
のあ 語り出した。
アンジー ナギさんが女の子を語り出した。
さや のあさんのどこがいいの。
のあ ちょ、
ナギ …迂闊なところが、
のあ そこ!
アンジー 三回デートして三回同じネタに引っかかるとか。
のあ 知ってんの!
アンジー 大根分けんのにヒザで折るとか。
のあ それ共犯じゃん!
さや リュックにみかん詰めすぎてスマホ出なくなるとか?
のあ いやあああ!
ナギ ぜんっぜん飽きません。
アンジー 分かる。
のあ その節は失礼しました…。
アンジー 駅前でみかんの店ひろげすぎやろ。
ナギ で、ボケ担当かと思うと制作的なことはすごいしっかりしてたり。
のあ いやそんな。
アンジー そうなんよ。めっちゃ助かってます。
ナギ だいじなとこはちゃんと押さえてる。
アンジー そうなの! 実力あるの。
のあ ないから…、
ナギ 病んでるようで病んでないんですよね。
アンジー 病んでるようで病んでるあたしからしたら尊敬しかないわ。
ナギ キャラ作らないであの総合力。
アンジー たぶん野性的なんだよね。
ナギ 野性的! それ!
アンジー 野山を駈けてる感じ?
ナギ 巫女ですかね。日を追うて駈ける。
アンジー 足元とか泥ネギみたいにドロドロで。
ナギ プロフが「土」ですもんね。
アンジー よごし掛けてもけがれないやつ。
ナギ そんでいて地もかわいいとか。
アンジー 勝てんわ。
ナギ 勝てん。
さや あのすいません。
二人 え。
さや めっちゃキョドってます。
のあ (めっちゃキョドっている)
アンジー どした。
のあ 褒められ慣れてないから居場所がァ…。
さや 「かげのわづらひ」と謂つた離魂病なども、日かげを追うてあくがれ歩く女の生活の一面の長い観察をして来た社会で言ひ出した語ではないか。折口信夫「山越しの阿弥陀像の画因」。
三人 ほうき星 肉がうずく
素足の誓いが震う ぼろぉん
見通すは 野山練り歩く
あの なでしこの精さ
土と愛の よごれおどり
ぼろぉん
ナギ 伴奏、酒井さん。
酒井 プロ観客の酒井です。
ナギ いつもありがとうございます。なにかひとこと。
酒井 のあさんは素晴らしいよね。ジャンヌダルクとかこんなだったよねきっと。
ナギ あっ、なんか照れて死にそうみたいなのでこのへんで。ありがとうございました!
酒井 (去る)
アンジー ジャンヌダルクって?
さや 酒井さんの元ツイです。「栗栖のあを見ていると嗚呼ジャンヌ・ダルクとか絶対こんな感じでたまたま神の啓示を受けてしまったので泣いて笑って叫んで吠えてうたって踊ってたたかう田舎の野生児だったに違いないと思う」。
ナギ 田舎の野生児。
のあ 土気です…。
さや 土気ってどこ?
アンジー 千葉の長生村(そん)。
のあ 千葉市だよ! いちおう行政的には!
アンジー 長生村寄りの千葉市。ヌーの群れで列車が止まるとこ。
ナギ それは常磐線ですね。
さや は? そこに直れ。ヌーじゃなくて普通の乳牛だから。
三人 自虐かよ!
さや えーと、でね? 啓示つながりですけど、「骨の夢」の、
アンジー めっちゃ戻った。
さや 亡霊ですね、ディアミードとダヴォーギラの。それに対するイースター蜂起の弾圧から逃げてきた青年。こっちには啓示はあるのかと。
ナギ ん? どういうことですか。
さや つまりお能をベースに書いてるわけですよ骨の夢は。そしたらお能だったら、ワキは完全に人間かったらそうでもないじゃない?
ナギ ああ。
さや 蝉丸とか、ワキなのに面つけてますし。
ナギ 蝉丸って曲、蝉丸シテじゃないの?
さや 違うの。シテは蝉丸追ってくる姉なの。
ナギ へー!
さや てか、お能って元々は地謡だけがいて、やがてお囃子とかシテワキとかが派生したみたいです、エンタメ化して。だもんでここで青年が、たんに反政府運動の闘士だってだけだと、なんか空気感が足りないというか。
ナギ アイルランドですしね。
さや そう! いつも妖精や亡霊と一緒にいるのがアイルランドでしょ。
ナギ それで?
さや ですんで、舞台を関東に書き換えることでもあるし、もうちょっとキャラを濃くしたいなと。
ナギ それはいいと思います。
さや そこでネタです。同じ月の十五日、雨かきくらし降るに、境を出でて、下総(しもつさ)の国のいかたといふ所に泊まりぬ。庵(いほ)なども浮きぬばかりに雨降りなどすれば、恐ろしくて寝(い)も寝られず。野中に丘だちたる所に、ただ木ぞ三つ立てる。その日は雨に濡れたる物ども干し、国に立ち遅れたる人々待つとて、そこに日を暮らしつ。
のあ めっちゃいい。
さや ですよねー。
のあ 「ただきぞみつたてる」。
さや そこ! 見えるよう。
のあ 誰ですか?
さや 菅原孝標女です。
のあ なるほど!
アンジー 分かってんの?
のあ ぜんぜん! 大学受験しなかったし。
さや 千葉の市原から京都まで、親について歩いていくわけ。平安時代に。十三歳の娘が。
ナギ かっこよ。
さや で、途中いろいろ飛ばしますが小田原まで来ましたー。
ナギ はい来ました。
さや したらな、今でも暗い箱根の登り、夕方に着いていやもうこれからよう登りひんと。
ナギ でしょうなー。
さや しゃあない今夜は麓で野営やゆうことになりますな。
ナギ そらそうでんなー。
さや とはいえや。まだお城も建たない昔の小田原。真っ暗で、聞こえるのは森のザワザワと遠い海鳴りばかり。狼か盗賊みたいなん出てきたらどないしょと気が気やあれへん。
ナギ せやな。
さや わしゃあ泥棒よりも狼よりもふるやのもりが一番こわい。
ナギ それ、ハナシがちゃう。
さや そこで、わっ!
ナギ わっ。びっくりした。
さや …ゼェゼェ、
ナギ どないしてん。
さや こわい話ダメなんです。
ナギ じゃ、すんなや!
さや 足柄山といふは、四五日かねておそろしげに暗がりわたれり。やうやう入り立つ麓のほどだに。空の景色、はかばかしくも見えず、えも言はれず茂りわたりて、いとおそろしげなり。麓に宿りたるに、月もなく暗き夜の、闇にまどふやうなるに、遊女三人、いづくよりともなく出で来たり。五十ばかりなる一人、二十ばかりなる、十四五なるとあり。庵の前にからかさをささせて据ゑたり。をのこども、火をともして見れば、昔、「こはた」と言ひけむが孫といふ、髪いと長く、額いとよくかかりて、色白くきたなげなくて、「さてもありぬべき下仕えなどにてもありぬべし」など、人々あはれがるに、声すべて似るものなく、空に澄みのぼりてめでたく歌をうたふ。


***


さや リオ・ガレゴス港、アルゼンチン南端、近未来。海鳴り――。
オリヴィア 網はあったの?
アンリ ああ、なにせ鼠がいないんでね、倉庫の奥で意外に無事だった。それより困ったのは帆だよ。――帆船の時代じゃなかったからな。
オリヴィア エンジンは大事にとっとくのね。
アンリ 南極の油田からいちいち運ぶのもたいがい難儀だろう? 夏までは、毎日のタンパク質はかったくりで揚げるしかない。いやあ、アルゼンチン隊に漁師出身者がいないと聞いた時にゃ頭を抱えたよ。
オリヴィア アフリカーナー様々だわ。
アンリ ケープとフエゴじゃ魚種も共通してるんだとさ。山ほど獲ってくらァって気勢を上げてたよ。
オリヴィア アンリ。…逞しくなったわね。(腕に触れる)
アンリ 親子ほども歳は違うがな。老兵も、いつまでも博士様てわけにゃいかん。いい女であれよ、オリヴィア…。(遠く)騒がしいな。大漁旗もまだ出来上がらないに、もう帰投かな、連中。
グリー (少年。駆け込んで)はかせ! 母ちゃん! 人が! 男の人!
アンリ ほうほぅ。なに、人だ?
グリー ぼろぼろの。杖ついて!
アンリ ――人間が生き残っていたと…?!(立つ)
グリー 日本人じゃないかって、みんなが。
オリヴィア (ふらりと立ち)――マサオ…(駆け出す)マサーオ…!!
グリー (追う)
アンリ (ひとり)――幾度…、私たちは奇跡のように生き残ってきたことだろう。ホワイトハウスの自動核攻撃システムを破壊するために最後の原潜と何人かの決死隊を送り出さなければならなかった時、ワクチンの試作品はぎりぎり間に合わせたものの、私たちは早くも原罪を負ったことを思わずにはいられなかった。もう、ひとりの戦死者も出すまいと我々は誓ったばかりではなかったのか。全滅をまぬかれるために死者を選別するような世界は二度と作るまいと。しかも決死隊の任務は頓挫し、リチウム弾は世界中の空を飛び交った。超高速の中性子は全都市を照射し、死の都たちにとどめを刺した。マサオは爆心にはいなかったのだろう、命は取り止めたが、身体も頭脳も大きく損なわれていた。それなのに――いったい、どうやって! ワシントンからこのパタゴニア南端までの一万キロ余りを、六年かけて、徒歩で、彼はたどり着いたのだ。そんなことが可能なのか? だが事実として、彼は今、ここにいる…。
マサオ (両脇を支えられて来る。古い袈裟…)鼠なら、いたよ…。
アンリ そうかね…!
マサオ コウモリも…鳥もいる…。
オリヴィア (座らせながら)話さなくていいのよ。無理しないで。
マサオ 無理? 無理ならもう一生分したさ。君は…?
オリヴィア え…?
マサオ 分からないんだ。南に誰かが生き残ってることはなぜだか知ってた。それが誰なのか…。
アンリ いるとも。いるよ。このリオ・ガレゴスに三百人、そして南極本土に一万人。
マサオ (驚いて)そんなに…。じゃあ人類はやっていけますか。
アンリ ただ、女が二十人足らずでね。子どもはなるたけ産んでいるが、そのグリーがいちばん歳うえで、まだ六歳。
マサオ 君はグリーっていうの。ノルウェー?
グリー うん。
マサオ 「夜明け」か。いい名前だ。とてもいい…。
オリヴィア なにか食べる?
マサオ ありがとう。(見送り)親切な人だ…。
グリー 父ちゃんだよって言ってた。
マサオ 俺が…? ふふ…。
アンリ マサオ。私たちはみな、君を知っている。
マサオ そうですか。どうもボケて、申し訳ないです…。
アンリ そこで訊きたいことがある。私たちの調査で分かったことは僅かで、病原体はもはや存在しない、中性子線の照射で幸いにも滅んでくれたということだけなんだ。ねえ、君から見て、世界はどうだね。(間――)
マサオ ――世界は…、安泰ですね。
アンリ ほう?
マサオ 人はいません。犬も、リャマも、コンドルもペンギンもいません。でも世界は大丈夫です。
アンリ ふむ。
マサオ 僕の髪はしらみだらけです。しらみが動物につかなきゃ生きていけないのなら、こいつらはなぜ滅びてないんです。
アンリ ふむ。
マサオ 畑だったところには藷やトウモロコシが自生してます。魚は棍棒で獲れます。生き残りの命はみんな、なんとかうまくやってますよ。
アンリ ううむ…。
オリヴィア (焼き魚の皿(プレート)を運んで)召し上がれ。どうぞ。
マサオ あ…。(箸を掲げまじまじと見て)ああー、箸だ…。あまり久しぶりで…。いただきます。
オリヴィア あなたの箸よ…。
マサオ (聞いていない)
グリー (手持ちぶさたで、歌う)
見たものしか信じないといったんだ
甦った神の子にしっかと手を触れて
ああ やっぱりいらっしゃるといったんだ
マサオ …いつか、聞いたな…。
グリー インドの歌…。
マサオ ふうん…。――これは…(魚を持ちあげ)ヨロリですか。
グリー ヨロリ?
アンリ アフリカーンスでスヌーク(Snoek)というそうだ。バラクータかな。
マサオ 似てる…。網でこすれて肌が破れて、この袈裟みたいによれよれだ。――うん。そろそろ潮目かな。
オリヴィア え…?(かすかな不安…)
マサオ 皆さん。ご親切にありがとう。その…安心というもんがつくづく久しぶりでありまして、こうして馳走を賜りますと、にわかに目さえ霞みます。
オリヴィア どうしたの…。
マサオ 皆さんこれから北を目指すのでしょう?
アンリ ここを基地にして、できるだけ早く安住の地をとは思っている。
マサオ 生き残りがいるとしたら、アマゾネス…。
アンリ そう。
マサオ 赤道は疫病だらけですよ。
アンリ わしは医者でな。
マサオ カムチャツカ、シベリア、もしかしたらヒマラヤの奥地にも…。
アンリ せいぜい数百人ずつだろうがね。
マサオ まさにノル・ウェイか…。すべてを訪ねるつもりですか。
アンリ 何十年もかかると思う。君らモンゴロイドの来た道を逆戻りさ。だが、人類には、その――、
マサオ 希望が必要、ですね。さすが南極越冬隊だ…。
オリヴィア 思い出したの…?
マサオ その冒険に、私は邪魔になりましょう。
アンリ (不安に)なにを考えているのかね。このうえ君に働かせようとなどとは誰も思わないよ。君は、英雄だ。この世界が生きるに値するところであることを、君は証明してくれた。ゆっくり休んでくれ。ここでもいい、北に同行しても構わない。
マサオ できれば、小舟で海に出たい。(ぼそり 。間――)
オリヴィア (こらえて)なぜそんな――。
マサオ 私は――、クマノというところに育ったのでした。即身成仏という考えがありまして、フダラク…、いや、ええと…、そこでは、人は老いると小舟で沖に漕ぎ出しまして…、
オリヴィア やめて。
マサオ 体は帰らないのですが、ちょうどこういう、ヨロリというぼろぼろの魚になって、ひょっこり釣れたりするのです。ね、あなたがた。人は、奇跡のように生き残りました。象もライオンも、鷲も雷鳥も滅びたのに。でも、もっと大きな奇跡がありましょう。僕、思うんですが、世界は滅びません。まるでチェーホフのカモメです。私がここで木乃伊になっても、ならなくても、世界は続いていく。夜明けは、死の世界に訪れるわけじゃない、世界はまだまだ生きている。お分かりになりますか、そういう、いとおしさの在り方が――。
アンリ 我々は、君を守るよ。
グリー (マサオの手を取って頷く)
マサオ ありがとう。この地に、溶けるように、静かに生きて、死んでいこうと思います…。愛してる…。
オリヴィア マサーオ…。(泣く。海鳴り――)


***


さや 56'00"から。此岸にワイアットの叔父、駿州和田島のバージルと江尻のモーガンの一党、彼岸にそれに倍する甲州のクライトン勝蔵の一党。
バージル 「待て」
モーガン 「おいみんな待て」
バージル 「まだ手を出しちゃならねえぞ」
勝蔵 (彼岸で)「合図をするまで手出しはならねえぞ」
子分 「へい」
さや 次郎長たち追いつく。
ドク 「親分。遅れたか、困った中へ割って入んのは命がけですぜ。どうする」
ワイアット 「よかろう。よし行こう!――叔父貴ー!」
バージル 「おう次郎長」
ワイアット 「兄貴。叔父貴。待ってくれ」
バージル 「どうしたんだ」
ワイアット 「みんなも待ってくれ。叔父貴、この喧嘩しばらく待ってくれ」
モーガン 「おめえ助っ人に来たんじゃねえのか」
ワイアット 「いやあ、しでえによっちゃ助っ人もする。だがな、俺は理にかなわねえことはできねえんだ。叔父貴、わけを聞かしてくれ」
バージル 「おうそう言われると俺たちも、本当のところ、今度の喧嘩は腑に落ちねえんだよ」
ワイアット 「そんな馬鹿な」
バージル 「いや実はな、ウィルソンという男のことで、クラントンがたいそう腹を立ててると聞いたんだ。だがそれあクラントンの思い違いで、ウィルソンってのァそんなに悪い男じゃねえらしい」
ワイアット 「ウィルソンってのは何だね」
バージル 「おうそこに助っ人に来ている」
ワイアット (寄って)「おめえがウィルソンか」
男 「へい」
ワイアット 「ほーお。――叔父貴。あれァどこの旅にんだ」
バージル 「俺んちへわらじを脱いでる甲州の旅にんだ」
ワイアット 「甲州?…甲州と言やあ、クラントンを知ってるんだな」
バージル 「ああ知ってるとも。そのクラントンが俺のことをえらく悪く言ってるそうだが、そのクラントンが引き渡せと言ってきたって。わけも分からずに旅にんを渡すわけにはいかねえ。まァ売られた喧嘩だ、買わずばなるめえ」
ワイアット 「分かった。だがな叔父貴。クラントンほどのお人だ、きっと何かわけがあるに違えねえ(とウィルソンを睨む)」
男 (ひるむ)
ワイアット 「おいみんな」
子分ら 「へい」
ワイアット 「いけそうだぜ」
ドク 「へい」
ワイアット 「叔父貴。この喧嘩、俺に扱わしちゃあくれねえか。頼む」
バージル 「なにを?」
モーガン 「ワイアット、血迷ったのか。しくじったら命がねえぞ」
ワイアット 「分かってらい。俺たち一家は命がけで飛び込んできたんだ、なあみんな」
子分ら 「へい!」
ワイアット 「叔父貴、どうだろう」
バージル 「…よおし、預けた」
ワイアット 「へい」
バージル 「みごと扱ってこい」
ワイアット 「ありがてえ。さあみんな、行こうぜ!」
子分ら 「応!」
さや ばしゃばしゃ川を渡る。
子分 「何だてめえたちは」
ワイアット 「へい。和田島のバージルとは叔父甥の清水のワイアット・アープでござんす。お願いごんにござんす。クラントンの貸元にお取り次ぎ願いやす」
勝蔵 「よおし、その野郎たちこっちィ連れて来い」
ワイアット 「ありがとうござんす。お初にお目にかかりやす。てまえ清水の長五郎ことワイアットと申し、渡世昨今駆け出しもんにござんす」
勝蔵 (床几に腰おろし)「何の用でえ」
ワイアット 「へえ。今夜の出入りの起こりをうかがいたく存じてめえりやした」
勝蔵 「馬鹿野郎。喧嘩のしでえはバージルが知ってら向こうに聞け!」
ワイアット 「ウィルソンとかいう旅にんのことだそうで」
勝蔵 「そうだ。ウィルソンぁな、いぜん俺んところへわらじを脱いでた男だ。それがバージルんところへわらじを脱いだ。ウィルソンがな、バージルがあんまり俺のことを悪しざまに言うんでバージルのところにいたたまれなくなって俺んところへけえろうとしたんだ。そうと知ったバージルはウィルソンを人質にしてどうしても俺んとこへけえさねえ。腕づくでもけえさねえってんでえ!」
ワイアット 「クラントンの貸元」
勝蔵 「なんでえ」
ワイアット 「失礼さんにござんすが、おめえさんなんか勘違いしていなさるよ」
勝蔵 「なんだと?」
ワイアット 「勘違いでなきゃあ、いってえそんな話どこで聞きなすった」
勝蔵 「ウィルソンが手紙で知らしてきたのよ」
ワイアット 「冗談じゃねえ。ウィルソンぁ、クラントンの貸元に恨みがあると言って、向こうの助っ人で押し出してきていますぜ」
勝蔵 (立ち上がり)「な、なんだと?」
ワイアット (寄って)「貸元。あっしが思うにウィルソンって野郎は、あちこちの親分衆に仲違いをさせ、勝った方へついて回りてめえを売り出そうっていうケチな野郎だ。そんな安物の筋書きに乗っちゃいけませんぜ」
勝蔵 「なぁにぃ?」
ワイアット 「ウィルソンの野郎をここへ連れてめえりやす。しばらくお待ちなすって」
勝蔵 「よおし分かった」
ワイアット 「おいみんな! 行こう!」
子分ら 「応!」
勝蔵 「おおい待て」
ワイアット 「へい」
勝蔵 「ワイアットとかいったな。この喧嘩ァおめえに預けた」
ワイアット 「ありがとうござんす」
さや ばしゃばしゃ川を渡る。
ワイアット 「叔父貴! おさめてきたぜ」
バージル 「おうそうかいそれァありがてえ。どうしたそいで」
ワイアット 「任せてくれ。行け」
さや 子分らウィルソンを取り込める。担ぎ上げる。
子分ら 「ホラわーっしょい、わーっしょい、わーっしょい、連れてけ、わーっしょい、わーっしょい、わーっしょい――」
さや ばしゃばしゃ川を渡る。

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