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2020年02月27日23:29

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世界奇祭探訪「ミッドサマー」


前作「ヘレディタリー」は、本当にかなり前から楽しみにしていた映画でした。
本当に強烈で最悪、救いが無い。
こう聞くと、手の震えが止まらなくなるほど楽しみになってしまったのですが、実際に観終わった後は「ウ〜ン・・・」と考え込んでしまいました。
素晴らしい映像や音楽、ユニークな演出に十二分に楽しんだはずなのに、終盤に進むほど怖い感覚が無くなってしまったからです。
立ち上がれなくなるほどノックアウトされる事を期待していただけに、肩すかし感を感じてしまいました。

しばらく考えて、自分なりにこの映画はこういうことだったのではないか、とある程度納得してからは、やっぱり好きな映画だと認識できました。
それから間もなく、次回作「ミッドサマー」の予告を観る事が出来ました。
ドス黒い闇を感じる「ヘレディタリー」とは対照的に、やたら明るい太陽と花と白い衣装のイメージ、なのにヤバい映画になりそうな予感がビンビンで、これもまた早く観たいとずっと待っていたのです。

観終わった後の感覚は、前作同様でした。
感想が何も出てこない。
一体これは・・・何の映画?
受け入れるのにはやはり時間がかかったのです。

僕は、おそらく見た目は正反対であっても、内容は前作と同じ感じになるのではないかと予想していました。
半分は当たっていて、半分は違っていました。

前作「ヘレディタリー」は、頭を抱えるほどおぞましい最悪の出来事を超えた先の後半部分においては、オーソドックスなホラー演出が頻発する分かりやすいオカルトホラーとなっていました。
もちろんその演出においては、過去の影響を踏まえつつ自身のアイデアをふんだんに盛り込んでいて、ホラーを見慣れた人ほど感心する場面が多かったと思います。
誰が観てもハッキリとホラー映画と認識できる作品でした。

しかし、「ミッドサマー」では分かりやすい恐怖演出、特にビックリドッキリさせるような演出は極力排除されていて、淡々とした描写の中から嫌な予感と不吉なムードをゆっくりと盛り上げていきます。
青空、咲き乱れるきれいな花、真っ白い衣装、たくさんの笑顔。
恐怖とは縁遠いはずのものばかりが映し出されるのに、危険シグナルがずっと点滅しているのです。
おぞましいシーンはあるものの、分かりやすいスリルやサスペンスを提供するわけではない(基本的に祭りの様子が延々と映される)ので、これはホラーなの?と思う人も少なくないと思います。

また、観客を幻惑させるような映像演出があちこちにあって、別にその説明があるわけでも無いので、「自分のオツムがバーストしたのかな?」と不安にさせます。
1回観ただけだと見逃している演出もあると思います。
あちこちで売り切れているという凝ったパンフレットを読むと、自分も見逃したところがあるようで、すぐに観返したくなりました。

(以下の文章は、「ミッドサマー」「ヘレディタリー」の結末がジンワリ伝わる内容となっています。ご注意ください。)

見た目は大きく変わったものの、前作とまったく同じ部分もあります。
それは、全体の構成です。
前半で主人公にとんでもない悪夢的悲劇が起き、それに精神がズタボロになるものの、これまでの現実世界を超越する邪悪な何かに取り込まれていくうちに、当初のトラウマが消えていくという流れ。
これはどちらの作品も同じだったと思います。

前作でどうにもモヤモヤしたのは、前述したとおり途中までの嫌な感じ、耐えられない苦痛が消えてしまった事です。
お話自体はまったく救いの無い内容ではあるのに、邪悪な何かに完全に取り込まれた主人公は、何故かホッとした様子。
これは宗教による救いを描いているのと同じだと感じました。
「ミッドサマー」はこの点をさらにあからさまに描いています。
まさにそのままです。

これが、普通の信仰によって救われるなら普通ですが、どちらの作品も禍々しくおぞましい存在によって救われるので、観客は戸惑うのです。
通常のホラー映画であれば、そこから逃げ切る、もしくはそれが叶わないといった結末に向けて緊迫感が高まるのですが、2作とも主人公があえてそこに取り込まれてしまう。
一体この結末をどう捉えれば良いのか、毎回モヤモヤしてしまいます。
アリ・アスター監督はなぜこんな映画を毎回作ってしまうのでしょうか。

まずは、この人がものすごく意地の悪い監督だから、と考えられます。
こういう監督には、ミヒャエル・ハネケやラース・フォン・トリアー等の困った先輩がいます。
「ミッドサマー」は何故か女性の関心を引いたようですが、劇場ではケンカするカップルや、ショックシーンで耐えられずに退散した人が目撃され、ネット上では怒りと困惑に満ちた感想で溢れました。
監督は、さぞ痛快だったでしょうね!
「大・成・功!」と書いたプラカードを持って客席に向かい、「タノシンデクレタカナ?クルシンデクレタカナ?」と一人一人に話しかけたいほどじゃないでしょうか。

あるいは、監督のパーソナルな気持ちを素直に表現しただけなのかもしれません。
実生活で経験した、耐えられない様な辛さや苦しさを癒してくれたのは、いつも陰惨な映画だった。
無残なホラー映画を観ている時だけ、何もかも忘れられた。
そう考えると、監督にとってはどちらもシンプルなハッピーエンドなのだと言えるかもしれません。

狂った新興宗教に入信することが救いだって!と怒る人もいるでしょう。
しかし、普段の暮らしの中だって、政府や会社や親や友人による様々な支配によって閉塞感を感じている人は少なく無いでしょう。
どんなに異様で怪しい宗教であっても、今の場所から逃げ出すことが出来るならそれを選ぶ人もいるでしょうし、そこで初めて生きる意味を見出す人もいるのだと思います。
人の幸福は他人に決められるものでは無いのです。

でもまあ、今はハッピーでも、この先ろくな事にはならねえよな!という予感もビンビンなわけで、やっぱりこの監督が相当性格が悪いのは間違いないと思います!

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