mixiユーザー(id:9051319)

2019年12月27日23:53

204 view

原作と映画ことなる物語の融合。だがそれでも不足する説明 『ドクター・スリープ』

結末の違うふたつの『シャイニング』を監督は上手く乗り越え融合する。
だがそれでも説明不足は多い。

原作と映画、前作はどちらもホラーの金字塔だ。
だが同時に作品の内容をめぐり作家と監督は対立した。*1
『ドクター・スリープ』の映画化とはまずその「困難」に立ち向う意味でもある。

成長はしたがいまだに“かがやき”を宿す中年ダニーが、
強力な“かがやき”を宿す少女アブラと出会う。
ヴァンパイアに似た“信の絆”(真結族)から彼女を守る物語だ。*2

大筋は原作と一緒。だがテイストはことなる。
原作が超能力のより派手な対決を重視した一方、*3
映画は抑制的/地味的だ。
監督の取捨選択だが、結果、前作(映画)から地続きの“空気”を継承した。

最大の原作と映画の融合は、展望ホテルの一幕だ。
そもそも双方は展望ホテルが「ある」と「ない」でまったくちがう。
監督はホテルを「あって」「なくし」
原作と映画、双方の『シャイニング』を引き取った。*4

ただ、だ――。
以上の絶賛は自分が生粋のキングファンだからだろう。

映画が原作を省略するのはしかたがない。
でも、父親と同様アルコール依存症のダニーが、
長年の苦闘で酒を断つ人生をまるまる省略してしまう。*5

「カ(輪廻)」や「かがやき」「想念」が説明不足など、
全体が「ぼんやり」してメリハリ不足はいなめない。

ダニーとアブラの「重要な関係」を削除したのもその影響だと思うが、
読後の余韻は原作の方が上だ。*6


※1 キングは「超常現象が人間の精神を変容する過程を構造的に描き」、キューブリックはホラーの文法通りに構造を説明せず「閉鎖環境で人間が精神を壊し変容していく姿を描く」。どちらも甲乙はつけがたい。

※2 ちなみに真結族の描き方も映画の方が上だ。野球少年を集団で殺害する様子は陰惨でゴア描写に満ち、一族の不気味さを上手く表現している。

※3 原作のテイストはホラーよりもファンタジーバトルの要素が色濃い。まあそれでそれで見たかったけれど。

※4 原作と映画なにが違うかはWikipidiaの『シャイニング』等で解説している。 すくなくともこのエンディングは、原作を重視する観客を満足させ、同時に『シャイニング』の映画だけしか見ていない観客も満足させるものだ。また、本作の結末をもって監督のマイク・フラナガンは「作者が原作で描く結末」に、前作もふくめ映画を帰結させたことになる。見事な手並だ

※5 歴史は繰り返す。ダニー(ダン)は父親のジャック同様に酒に溺れひどい癇癪で問題を起す。ホテルでダニーがジャックと再会したよう、この物語はダニーが過去と向き合いトラウマを解消する物語でもある。

※6 以下は原作のネタバレだ。ダニーとアブラは実は叔父と姪の関係だ。理由は原作の後半であかされる。映画は2人の関係を省略したのだ。ただ、アブラをよく観察すると彼女はダニーと同じ癖を持ち、真結族たちにそうしたよう、簡単に頭に血が上る。このあたりの描写の挿入は監督のサービスかもしれない。
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2019年12月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031