会場が住宅街の中の小さなギャラリーだったからかもしれません。ただ、それであったとしても、ストーリーと役者さんの演技や息遣いの両方が相まって、久々に演者さんと観客の間での一体感に満ちた舞台だったと思うわけです
。
ということで、東西線はよーく使うものの、初めて降り立つ早稲田駅。
ここから夏目坂を上ることおよそ5分。
クリスマス前の週末。21日は土曜日のお昼は、まず丘の上の閑静な住宅街にたたずむギャラリーへ、こちらの舞台を観覧してきました。
「宇宙からの婚約者」。企画途中でお題が変わった結果のこのご案内。ネタの一部がフライヤー上にも出ていますが、「え、ウルトラマン
」。しかし、執筆された作家さんによる「こっちのほうが面白い
」とのコメントがついています。一体どうなることやら。。。
一方、これを演じるのは川口知夏(ちなつ)さんと菊池泰生(たいせい)さんの2人。「川口菊池の二人芝居」と銘打つ会話劇。お二人のうち、知夏さんは6月の「いざ、生徒総会」(新宿)で、LGBTの男の子の彼女を好演していた方。このときは、最初はやはり「えっ??」となりながらも、優しく受け入れていくクラスメートでもあり、彼女でもあったわけで。ご案内には、2人してピュアな意気込みが載せられています。この意外なお題にピュアな感性
。一体どうなることやら。。。
さて、会場のこのギャラリー。とりあえずトイレはあるにしても、それ以外に流しをはじめとする簡単な厨房なども初めから装備されています。舞台として作りこんだのは、客席側にせり出した、ラグ敷きスペースの上にちゃぶ台などがおいてある部分くらいだそう。もちろん、ちゃんと調べての結果だと思いますが、現実世界へのはめ込み方もしっかりとしています。客席は、このせり出した部分を囲むような形で三方に設置。筆者は舞台に向かって正面若干下手側に陣取ることにしました。ちゃぶ台以外には、女子もののトートバッグと、置時計&カレンダーが置いてある小さな棚くらい。あとは作り付けの壁に沿ったテーブルにパソコンや本が並んでいたりします。ビンテージかつシンプルなお部屋…。
土曜日の昼公演とあって、客席は満席の盛況。会場の大きさからすると実数は30人弱といったところですが、いずれにしても活気ある場内に、びしっとサラリーマンの姿をした泰生さんが、”前説”として登場…しますが、恥ずかしそうに婚約指輪についての説明をしているときは、もうすでにストーリーが始まっています
。
そこに、普段は先生の知夏さんが現れ、お部屋には二人きり…。そして、前説からの流れに乗っかって泰生さんから知夏さんにプロポーズを試みます
。
そして、意外なほどに早くに現れた、「わたし、ウルトラマンだから…」という知夏さんから切り出される別れの言葉。まだ始まって5分くらい。当然、泰生さんは驚き、観客も「は
」…ですよね。
そこから、マシンガントークのように繰り広げられる、大いなる矛盾…というか、あり得ないはずのシチュエーションをどうにかこうにか納得させる?ための壮絶な舌戦。いや、別れ話のはずですが、泰生さんが当然のごとく理解に苦しむ悩み顔
と、なかなか分かってもらえない知夏さんのいら立ち
を交えた恋愛会話劇として、熱量がひしひしと観客にも伝わってきます。ただし、結構な割合で観客からの笑いが入りますから、決して重すぎることはありません。
そして、知夏さんが実はウルトラマン…というだけでは終わらないのが、さらなる見どころを与えています。後半はなんと”攻守交代”
泰生さんも、ペロトン星人という宇宙人であることを白状します。いや、”ウルトラマン”である知夏さんがお別れのために部屋を出ようとしたところを、泰生さんが捕まえようとして流した”青い血”…。これでばれてしまいます。。。
ふるさとの”ペロトン星”がなくなってしまい、地球への移住を目指して送られてきた先遣隊…というのが泰生さんのお姿。宇宙船で漂流している本隊からの指示が出れば、地球に仲間を到着させねばなりません。。。
なきものにはできなくなった二人の恋愛感情と、それぞれの”宇宙人としての役割”との間で、これもまたどうにかして自分を、そして相手を納得させようとします。しかし、その間についにペロトン星人の本隊からの指令が。このときの2人のやるせなさ…に思いをはせつつ、本体との交信は”ペロトン語”。ポピッとかピポピポ
…とか、謎の言語はくすくす笑いを誘うわけで。あれっ?となりつつ笑っているという、結構面白いところもあるシチュエーションにも注目だったりします。
ここまで要所要所で笑いの要素も込めたストーリーですが、ラストシーンは、地球に”移住させなくてはいけない”ペロトン星人の泰生さんと、その泰生さんを”侵略宇宙人”として追い出さなければいけない、ウルトラマンの知夏さんとの、最初で最後の恋人同士の会話と仕草。泰生さんが婚約指輪を無事渡し終え、知夏さんがスーツを着せると、そのあとは残念ながら相反する使命を持った”敵”の関係になってしまいます…。自衛隊?の攻撃にさらされていると思われるペロトン星人の地球への到達を気にしつつ、ウルトラマンとしての知夏さんの「シュワッチ!」の掛け声で幕が閉じていきます。そのあとどうなるかは、観る者それぞれの想像の世界…。
約1時間という短めのステージに、舞台の熱量、コメディとしての明るさ、それにシリアスで繊細な感情とをぎゅっと詰め込んだ、引き締まった公演
。あーでもないこーでもないとネタを引っ張り続けているにも関わらず、この感覚。知夏さんがかわいい
だけでなく、泰生さんもイケメンというよりはどこかかわいらしさがあります
。真面目に本当の恋人同士…と紹介されても不思議ではないような組み合わせ。何から何までぴたっとはまった公演だったような気がします。
ちなみに、筆者の世代は、リアルタイムには”80”のあたりで、いわゆる”タロウ”や”レオ”あたりまでのシリーズが連続していたころに比べると、少々下火になっていた時期にあたりますが、お二人の年代になると、ウルトラマンそのものがパパっと出てこないひともいる世代(少なくとも知夏さんはご存じなかったようです)。手ほどきはあったのだと思いますが、どうかすると半世紀前のキャラクターをうまくはめ込んだセンスも、称賛に値するものだったと思います
。
なんだかこのお題だけでなく、もっと違った掛け合いも観てみたい、そう思わせるお二人でありました
。ありがとうございましたぁ
。
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