レナード・コーエンの「Thanks For The Dance」を聴いた。
レナード・コーエンとはカナダの詩人、小説家、そしてシンガー・ソング・ライターである。
この「Thanks For The Dance」は彼にとって15枚目のスタジオ録音作。
とはいっても残念ながらレナード自身は2016年11月7日に亡くなっている。
享年82歳。
亡くなる直前に14枚目のアルバム「You Want It Darker」をリリース。
そのアルバムのリリース直後に亡くなったことになるが、その「You Want It Darker」完成後にはすでに次のアルバムの構成を思い描いていたという。
そして簡単な演奏のみでレナードはヴォーカルだけを録音し、息子のアダム・コーエンに後を託した。
アダムは「父ならこうするだろう」という意思を継いでミュージシャンを集め、バックの演奏を完成させた。
演奏者にはダニエル・ラノアやベックの名前もある。
殆どの楽曲が「歌唱」というよりは、ドスの聴いた低音声による詩の朗読のような形になっている。
そういえば前作の「You Want It Darker」も似たような作りだった。
となると、中心になるのはやはりレナードの詩の内容になるのだけれど、ところどころに自分の死を覚悟していたと思われるフレーズが存在する。
「私は再び落下している でも私一人ではない 魂の収支決算がついに完了した 貸借表はゴミ箱へ」
「私は山頂までは行けない 世界の機構は壊れている 私が生きているのはクスリのおかげ そのことは神に感謝している」
「私はまったく躊躇しなかった 洪水が箱舟に勝つと賭けるのに だって、知っていたから 心に起こることの結末を」
等々。
勿論、そこのパートだけを書き出しただけで、前後の詩の内容を吟味すれば、また違った意味合いにはなると思うのだけれど、それでもこれらの詩は、レナード自身の低音による朗読と、暗く澄んだ川の流れのように静かに響く演奏と相まって、彼自身による彼自身の魂を鎮めるためのレクイエムのように聴こえてくる。
たった9曲、全部で30分にも満たないアルバムだし、限定盤でもあるため、多くの人の耳に届くこともないであろうアルバムでもある。
もっともレナード・コーヘンの日本での知名度を考えれば、元からセールスはあまり期待できないけれど。
それでも、このアルバムには一人の偉大なるアーティストの最期の想いが(未完ではあるけれど)いっぱい詰まった非常に重たいアルバムである。
今年の9月、カナダではレナード・コーエンの記念切手が3種類発行されたそうである。
Thanks for the Dance/Leonard Cohen
以下は本アルバム収録曲ではなく、彼の代表作を張り付けてあります。
Bird on the Wire/Leonard Cohen
Dance Me to the End of Love/Leonard Cohen
Hallelujah/Leonard Cohen
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