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2019年11月01日23:54

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爆弾に自ら点火する愚か者と点火した爆弾を見守り爆死する愚か者の世界 『ジョーカー』

爆弾へ自ら点火した愚者がこちらへ歩いてくる。
その爆弾の爆発を目の前の愚者らが白痴のように待ち続ける。

本作はそんな我々の物語だ。

DCコミック最大のヴィラン。
名前と容姿だけならだれもが知っているジョーカー。
本作は、そのジョーカー誕生を社会風刺を交え叩き付ける。

ジョーカー――ホアキン・フェニックスの怪演と、
受け手の心を削り取る爆発しそうな映画の空気がすさまじい。

本作はジョーカーを徹底して「弱者」に描く。
金、夢、友人、恋人なんにもない。
社会は彼を見捨て、精神も病む。世界が彼を拒絶する。*1

同時にジョーカーは「弱者」ゆえ「無敵」だ。

自身に残酷な世界などいらない。火を放ち、人を殺し、群衆を煽り、
その存在が暴力を呼ぶ。*2

映画はジョーカーに社会を“仮託”するのだ。

虐げられる者には冷酷な世界を打ち砕くヒーローに映り、
以外には社会を破壊するヴィランに映る。*3

すぐれた点は2つだろう。

1つめはジョーカーと世界のどちらも愚か物に描く部分。
ジョーカーは、結局、自分勝手に爆弾に火を点け、社会を破壊するルサンチマンだ。*4
ただ、一方でジョーカーを無視した社会も愚か物だ。
目の前の爆弾を解体せず、ただ眺めて死ぬのを待つ。*5

もう1つはこれだけ社会的テーマを重視しながら、
本作が「バットマンサーガ」の前日へ叶う部分だ。
ヒーローの“物語”が妄想の影から生まれ誕生する。*6
その社会風刺とコミックを抜群のバランス感覚で融合した力作だ。


※1 ゴッサムは財政負担の解消に精神疾患患者の福祉を打ち切る。アーサー = ジョーカーは精神の安定がむずかしくなり、この場面を境に急速に崩壊していく。

※2 自爆を決意しただれもが「ジョーカー」――物事を断つ「切り札」になれる。その「自爆」の決意を抱く者が1人で命を絶つことなどありえない。

※3 唯一確実な部分は1つ。本作が描くジョーカーは、だれもがなれ、実際、「現実」に顕現可能だ。だが、その顕現したヴィランをとめるスーパーヒーローは「現実」には存在しないということだ。

※4 アーサー = ジョーカーは勝手に壊れ、勝手に恨み、我慢せず不満を爆発させ社会の敵と化す。同情の余地などない。

※5 だが、そのアーサーの困窮を社会は放置し見捨てる。わかっていながら穴に蓋をして「見えないように」「触らないように」“ごまかす”。穴の中で火薬に匂いがし始めた。だが、彼の体へくくりつけられた爆弾を一緒に解体せず、ライターも取り上げず、かんがえすらもせず爆発を待つ。ならこちらもすべてに同情などできない。

※6 本作は解釈に様々な幅が存在する(同時にそれが作品の強度でもある)。そのままアーサー = ジョーカー誕生の継起を描く「現実」だという解釈。もう一方はなにからなにまでアーサーの語る妄想「虚構」だという解釈だ。ただ、どちらにせよジョーカーの存在によって、本作以後に「バットマンサーガ」――非現実的で御伽話的なコミックの“物語”が続いて行く。これ以上の落し所はちょっとないだろう。完璧に近い。
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